『平和な西園寺』 最後、誕生日、分かれ、離れ―――・・・ 「未夢さん、彷徨さん、昨日の夜、最後通信が来ました・・・。」 次の日の土曜日の朝。ワンニャーは朝早く起きてきた。 学校は休みで、未夢と彷徨はリビングのテーブルで朝食を頬張っていた。 「そうか・・・。」 「・・・。」 「明後日の夜、第3惑星郡に着くそうです・・・。」 「それで、どうやってルゥたちはその宇宙船に乗るんだ?」 「はい。救助隊の宇宙船がオット星の科学力で、西園寺の真上にワープします。」 「そんな事したら周りの住民に大騒ぎされるんじゃないかっ?」 「大丈夫です、西園寺の真下に居る者にしか見えないようにできるんです。 言わば特定透明化です。」 「そんな事できるのっ?」 「はい。ですから、その時お分かれという事になります・・・。」 「・・・っ!」 「だぁ?」 深刻な話の中、ルゥが無邪気に発声する。 「よしよし、ルゥもお腹空いたか〜っ。」 彷徨は、この4人にしか見せないような笑顔をする。 ペポ、ルゥ、ワンニャー、そして未夢。 もう、こんな生活も明日で終わりなんだね・・・。 未夢は不安を隠しきれない。 「・・・。」 彷徨は、ルゥにミルクを飲ませながら未夢を静かに覗く。 「・・・。」 彷徨も、何を語ればいいのかわからない。 気安く、言葉を投げかけられるはずもない。 雰囲気が、そうさせている。 「・・・別に喧嘩して分かれるわけじゃないし。最後ぐらいみんなで楽しく過ごそうぜ?」 彷徨が家の大黒柱のように指揮して皆に言う。 「・・・そうですねっ!いつかはこうならなきゃいけないことはわかっていたんですしっ、 楽しみましょう!ルゥちゃま〜やっとお家に帰れるんですよ〜っ♪」 「だぁ〜!」 「ペポぉ?」 「・・・。」 みんな、どうかしてるよ・・・お分かれなんだよ? どうしてそんなに明るく振舞えるの?わからないよ・・・ ・・・彷徨・・・。 未夢だけはどうしても元気になれない。 「未夢。お前が笑ってないと、西園寺は灯火が消えたようだよ。」 「そうですよ!未夢さんは笑顔が似合ってます!そんなんじゃらしくないです〜っ。」 「マンマー!」 「ペポぉ〜♪」 「・・・あ・・・あははっ・・・。」 なんだか、妙におかしいな・・・皆よくわからないけど笑ってる・・・ 私まで笑えてきちゃうよ・・・。 「そうだね。悲しい顔してたらルゥくんつまらないよね。 じゃあ皆で遊ぼう!楽しく!」 「おーっ!」 「だーあ☆」 「・・・でも何すればいいんだろう・・・。」 ・・・。 再び沈黙。う〜ん・・・みんな考えている。 「モモンランドはこの前行ったしな・・・それに花小町とか居そうだし、 またあんなことになっちゃたまらないからな・・・。」 「じゃあ、どこ行くの?」 「行くっつってもな〜・・・みんなに会わないようなところがいいか?」 「海でも行く?」 「バカっ。今3月だぞっ。まだ寒いじゃねえか。ルゥが風邪引いちまう。」 「バカはないでしょバカは!じゃあどこ行けばいいのよ!」 「だから今考えてんだろ!お前も考えろ!」 「私だって考えてるわよ!」 「最後の最後まで喧嘩なさるんですか・・・もうちょっと素直になったらどうです?」 何か話がいつもの方向に。 「はぁ・・・喧嘩すると疲れる〜。でも、いつもどおりの方がドタバタするより疲れないし、 安心するし、楽しいんだけどねっ。」 未夢は楽しそうに笑顔で言う。それを見て彷徨も安らぐ。 結局、今日はどこにも行かないことを決めた。 そう、いつもの、いつもの日のように楽しく過ごせればそれで幸せ。 それ以上は何も望まない。 って言ったらウソになっちゃうかもしれないけど、今はこれで幸せ。 「ルゥ、今日はたくさん遊んであげるぞ。」 「パンパァ〜♪」 「ルゥくん!今日はバテるまで遊ぶよ〜っ!」 「マンマッ☆」 「わ、わたしも仲間に入れてくださいっ!」 「ワンニャーはいつも通り家事全般な。」 「ガーン!!!」 「あっははっ!ホントいつもどおりだね。」 彷徨はルゥにボールを転がしてやったり、 未夢はぬいぐるみでルゥをあやしたり、 ワンニャーはいつも通り家事だったり、 ペポはルゥと一緒に笑ったり、 ルゥも楽しんでいた。 昼は、未夢、彷徨、ワンニャーの3人で作った。 未夢はご飯やかぼちゃ等を、彷徨はみたらし団子に工夫を、 ワンニャーは焼きプリンを作った。 ルゥはまだ離乳食。ペポは・・・ルゥに抱かれてる。 「何か組み合わせめちゃくちゃだな・・・。」 出来上がった料理を見て彷徨はちょっと苦笑い。 「まあいいじゃん!食べよう!」 未夢は料理を作り終えたことを満足しているようだ。そのせいかちょっと興奮気味。 「今回は結構上手くできたから味も美味しいと思うよ〜!」 「そういえば何か今回は見栄えも綺麗ですね♪」 「何かって何よ失礼な・・・。」 「ほんじゃ早く食べようぜ。かぼちゃだし。」 「理由がそれなの彷徨・・・いただきま〜す!」 「だ〜あ!」 「ペポペポ〜☆」 まずかぼちゃをぱくっ。 ・・・実は微妙だったり。 「未夢・・・何入れた・・・?」 「えっ!さっ、さあ何だろうっ!」 「綺麗な薔薇には刺があるって感じだな・・・ソースの味が・・・普通醤油じゃないか?」 「あっ・・・あはは〜そうかも〜!」 未夢、誤魔化そうとかなり必死。 「でも、何故か不味くないですよこれ!」 「そ、そうそう!食べれれば何でもいいじゃん〜!」 「まあ出来た物はしょうがないか・・・ 今度スパルタ的に教えてやるから覚悟しとけよ未夢。」 「良かったですね未夢さん☆」 「ひぇ〜!」 「ペポペポ〜!」 「だぁ!だぁ!」 ペポはいつも通りパクパク食べている。味なんか関係ないのだろうか。 「・・・でも、味噌汁は何かおれのよりお前の方が美味いんだよな・・・。」 「そうですね〜未夢さんお味噌汁だけ極上です〜っ。」 「それも何か微妙ね・・・バカにしてるのか誉めてるのか・・・。」 「素直じゃねーな。誉めてるんだよ。ありがたく照れとけ。」 「あっははっ。何それっ。」 彷徨はいつになく未夢を誉めた。 今までじゃ考えられないな。 「そう言えばワンニャー、焼きプリン作ってくれたんだよねっ?」 「はい〜。未夢さんプリンが好きだっておっしゃってましたから〜っ。」 「よく覚えててくれたね〜っ。彷徨は覚えてたっ?」 「あ〜なんかそんな事言ってたっけ。」 「む〜。」 「あっ・・・だぁっ・・・。」 「ルゥくん?プリン食べたいの?じゃあ食べさせてあげるね、ほら、あーんして〜っ。」 「あ〜・・・だぁっ☆」 ルゥは美味しそうにもぐもぐ食べている。 その様子を、彷徨は何だか楽しそうに見ている。 「な、何よっ。」 「何でもねぇよっ。ほら、ルゥが欲しがってるぞ?」 「あ〜もしかして私にあーんさせてもらいたいんでしょー?」 「んなバカな事考えるか!!」 「彷徨さん、もうちょっと素直になってもいいんじゃないですか〜っ。」 「何がだよ。おれはじゅーぶん素直だっ。」 「ホントですか〜?」 「な、何だよ。」 ワンニャーは妙なニヤニヤしながら彷徨を見ている。 「今回はこのぐらいで勘弁してあげますっ。」 「何の話なんだよ・・・。」 「あっははっ。あっははっ。」 未夢はすごく楽しそうだ。 何か、せっかく彷徨と両想いになれたのに実感がないって言うか、 いつもどおり平和って言うか。 こうやっていつまでも毎日皆と仲良く過ごしていければいいのにな・・・。 「そう言えば彷徨はみたらし団子作ったんだっけ?」 「作ったって言うか、ちょっと細工をな。ほら。」 すると彷徨は綺麗なみたらし団子を取り出した。 「うわー♪おいしそうですー☆」 ワンニャーが飛び出しそうなほど身を乗り出した。 「桃色の草をふりかけのようにしてかけたんだ。」 「へ〜・・・さすが彷徨だね。」 「・・・。」 彷徨は何となくちょっと照れてしまった。 「早速頂いてもいいでふか〜!?」 「・・・ワンニャー。よだれ拭いてから食べろ。」 「すっ、すみません。それでは頂きますぅ〜っ!!」 ぱくっ!ぱくっ!ぱくっ! おおっ。一気に三つも。 「お・・・おいしいです〜っ♪」 何かすごく幸せそうなワンニャー。 「そんなにおいしいの?ワンニャーったら。私も食べていい?彷徨。」 「ああ。未夢も食べろよ。おれも食べるかな。」 「だーぁ!」 「ペポ〜。」 ・・・ルゥとペポの分までない。 「しょうがないな・・・ほら、ルウとペポ、仲良く分けるんだぞ。」 そう言って彷徨はみたらし団子を差し出した。 「じゃあ、私のやつ彷徨にあげるよ。」 「え?いいよ。お前食べろよ。」 「じゃあ先に彷徨毒味して!」 「毒なんか入ってない・・・ん、どうしたルゥ・・・。」 ルゥを見返ると、ペポと一緒に団子を一つ差し出してくれている。 「くれるのか?ルゥ。ありがとな。」 彷徨はルゥが持っているみたらし団子を食べた。 「我ながら味付けはまあまあかな。」 「それじゃわからないな・・・じゃあ一つ・・・。」 未夢もその団子を口に含んでみる。 「・・・あっ、何か、とろ〜りと甘いような、でもさっぱりしてておいしいね!」 「し〜あ〜わ〜せ〜で〜す〜♪」 ワンニャーは泣きながら食べている。 こうして西園寺の昼は過ぎていく。 何の変哲もない、ただの光景のよう。 ただ、彼らにとってはこの普通がとても幸せだった。 昼も未夢彷徨ワンニャーはルゥペポと一緒に遊び ペポルゥワンニャーが遊び疲れて眠りにつくころ、 日は暮れて時はいつしか夕刻へと近づいていく・・・。 段々と近づいてくる分かれ・・・。 ルゥたちがこの家に飛び込んできたのがつい昨日今日だったかのよう。 「もう6時か・・・。」 彷徨が時計を見た。おじいさんの古時計・・・なのかどうかは定かではない。 「もうこんな時間なんだ・・・でも今日明日はゆっくりできるよね〜。」 久しぶりにのんびりとした雰囲気で、未夢と彷徨はくつろいでいた。 「何か今までこんな普通に家で過ごしたことなかったような気がするな。」 「あははっ。そうだね。綾ちゃんたちと買い物行ってたり、家事やってたり、 宿題慌ててやったり、みかんさんに掛け回されたりっ。」 「どっか出かけるとクリスが居たりな・・・そう言う時は本当びびった。 色んな事があったよな。」 部屋から廊下へ、そして縁側にゆっくり座りながら月を見て言う彷徨。 未夢から見たその後姿は、何だかとても切なさそう。 「彷徨・・・隣・・・いい?」 「・・・ああ・・・。」 未夢もゆっくり彼の隣に座る。 安心できる場所。それは彷徨の隣。 何だかとても落ち着く。 会話はなくても気まずくない不思議な雰囲気。 何故なんだろう・・・ 出会いは西園寺。でも遠い昔どこかでもう会ってたような気がする。 私のちょっとした意地悪にはにかむあなたの笑顔を見ているうちに 段々、何時の間にか、そして急にときめくようになったの。 とても切なくて愛しくて苦しくて、好きだから愛したい。 そう思っていると、彷徨が未夢の手を持って近づけた。 「・・・さすが夜になると冷えて寒いな。」 「って、ちょっと・・・。」 彷徨は手を回して未夢の肩にかけた。 さりげないようだけど、十分気持ちが伝わってくるような気がする。 二人はしばらくの間、物思いに深けた。 するとワンニャーが起きてくる。 廊下の縁側で未夢と彷徨がすごく良い雰囲気な感じで月を見ている。 風邪を引きますよと毛布を持って行ってあげたいところだが、 お互いが毛布となるだろう。そう思ってワンニャーは 寝ているルウとペポを寝室に運び、自分は台所で料理を始めた。 「・・・っくしゅんっ。」 長い間縁側に居た未夢両手で口を抑えてくしゃみをした。 「あ・・・悪ぃ、大丈夫か?」 「う・・・うん、ちょっと寒くなっちゃった・・・中入ろ?」 「ああそうだな・・・うん?何かいい匂いがするな・・・。」 そう言って二人で居間の方へ行くとワンニャーが料理を作っていた。 「ルゥたちは・・・?」 「はい、寝室の方で寝かせました。」 「ワンニャー、もしかして私たちの事見ててた!?」 「はい?何のことですか?」 ワンニャーはとぼけた。実は知っていたのだが、 二人きりの間の事はそっとしておいてあげよう、 からかうのは止めておいたのである。 「はい、出来上がりましたよ。 ルゥちゃまとペポを起こしてきますから、少し待ってて下さいね。」 ワンニャーはポムポムと歩く音を立てて居間を出て行く。 未夢は彷徨を見た。すると彷徨も未夢を見る。 「何?」 「何だよ。」 何故か視線が合ったのを、ふふっと笑う二人。 「何でもないよ、彷徨。」 そう言ってちょっと下を向く。 愛しい人の名前を呼んで恥ずかしかったようだ。 「訳わかんねえよ。」 彷徨は首を傾げて疑問に思っていた。 「あーい☆」 「ペポ〜♪」 ワンニャーが来るより早く、ルゥとペポが飛んできた。 起きるなりいきなり元気な二人は、食欲旺盛のような予感。 「はい、みんなで頂きましょうね。」 「いただきま〜す!」 西園寺の夕食。 内容は至って普通の和食。 「・・・そう言えば明日は未夢の誕生日だったな。」 「そう言えばそうでしたね〜っ。」 「あ、そっかぁ明日私の誕生日か・・・すっかり忘れてた。」 「自分で誕生日がこの日だとか言っておいて忘れるなよ・・・。」 「だって、今まで誕生日でもママとかはいつも通り仕事で遅く帰ってきてたし、 あんまり実感なくて。」 「そうなのか。プレゼントとか貰ったか?」 「一応〜。ぬいぐるみとか〜。」 「猿の着ぐるみか?」 「違うわよ!何?彷徨明日プレゼントくれるの〜?なんてねっ。あははっ。 期待してないよ〜。」 いたずらな未夢の口調に彷徨は少し口篭もってしまう。 「わたしからみたらしあげます☆」 「もう今日食べたって。」 そんな会話をしながら時はもう夜。 静かな西園寺に一日の眠りを告げる時だった。 ===================================================================== written in 2003.09.19