『分かれの時』 ルゥたちと分かれた直後、未夢はやはり泣いていた。 ほぼ一晩中彷徨が慰めていた。 彷徨は男だが、悲しい事があったら泣きたい。 でもそこは我慢して、未夢の気持ちを組んであげたのである。 そして疲れて翌日の朝がやってくる・・・。 いつもの慌しい朝はない。 学校ももう休みに入っている。 ルゥたちはいない。 主役のトラブルメーカーが居ない西園寺は、正にお寺とも言わんばかりの感じで 静けさが静けさを呼んでいるような気がした。 「彷徨・・・?起きてる・・・?」 未夢が寂しさのあまり彷徨を訪ねてきた。 「ああ・・・今なんとなく目が覚めたところ。」 「一緒に、ご飯、食べよ・・・?」 「ん?・・・あぁ・・・。」 静かなテーブルで二人だけの朝食。 まだ肌寒い風が体の横を通り抜ける。 ちょっと寒いなぁ・・・。 そう思ってると、彷徨が話し掛けてきた。 「寒いだろ?こっちに来いよ。」 「・・・うん・・・。」 それとなく普通に彷徨の横まで移動する未夢。 いつもなら顔を真っ赤にして、そんなことっ、と言う感じだった。 しかし今はひたすら助けを求めているような、そんな感じ。 今日は、彷徨と西園寺で過ごす最後の日なのだ。 夕方頃、彷徨の父・宝晶と、未夢のパパ、ママの光月優、未来が帰ってくる。 そう、未夢はかつての家に戻るのだ。 今が最後の二人きりである。 彷徨の横に居るだけで、バリアが張られたように、暖かい。 何が暖かいって、何だろう、『気』かな・・・心が暖まるんだ。 安心できるの。 愛しい人を隣にして朝食を食べる。 ん〜、寝起きはやっぱ肌寒いや。 未夢は箸を置いて腕をさすっている。 すると、彷徨が未夢の箸を使って食べ物を未夢の口まで持ってきた。 「一人で食べれないんなら、食わせてやるぞ?」 「なっ!食べられるわよ!子供じゃないんだから!」 「・・・ったく・・・もうちょっと素直になれよな・・・。」 そう言うと、話を無理やり持っていって未夢の口に食べ物を持っていく。 すると未夢は口をあげてもぐもぐ食べ始めた。 彷徨の方がずっと素直じゃなかったくせに・・・。 未夢はそう思いながら、心を虚ろにして彷徨がくれる食べ物を頬張っていた。 朝食を食べ終えると、彷徨は後片付けを始めた。 「おまえはそこで座ってろよ。」 彷徨が台所に行こうとすると、未夢も台所にきた。 「ううん、じっとしてると寒いし、彷徨の隣の方が暖かい。」 「・・・ありがとな。」 ふっ、と思って視線を台所の皿に移す彷徨。 二人で皿を洗うが、水は冷たい。 お湯を出してまた洗い始める。 それとなく雑談も出てきた。 少し緊張が解れたのだろうか。 皿洗いを終えた二人は、再び居間に座り込んだ。 「お前のかーさん、夜に来るんだっけ?」 「ううん、夕方・・・。早くて三時くらいには着くって行ってたけど・・・。」 「そっか。じゃあこれで最後だな。」 「・・・!」 改めて聞くと、名残惜しい。わかってはいるのに、現実を認めたくない。 最初ここに来たとき、なんでこうなっちゃうんだーっ、って思ったけど。 改めてそう思う。せっかく幸せで平和だったのに。 未夢は今すごく不安だった。 「大丈夫だ。もう絶対会えない事なんて、有り得ないじゃないか。」 彷徨が優しく微笑みかけて言ってきた。 「うん・・・そうだね・・・。」 少し安心したのか、未夢は落ち着きを取り戻し始めた。 昼少し前までテレビを見ながら雑談したりした。 「もう11時か・・・腹減ったな・・・昼の買出しに行こうぜ。」 「えっ?う、うん・・・。」 近くの店に着いて、そこで彷徨に聞く。 「ねぇっ、何がいーい?」 「別に・・・何でもいいよ。」 「それならカレーとか・・・。」 「いいよ。」 「スパゲッティとか・・・。」 「それでもいいよ。」 ポカっ。 「いってーなっ、何するんだよっ。」 「ぷっ・・・あははははっ・・・。」 なんか前とおんなじだ。 「ホントは、かぼちゃがいいんだよねっ?」 未夢にそう言われて、彷徨は顔を真っ赤にした。 相手が未夢だと言うこともあるが、内容もそれ相応。 「ばっ!でかい声で言うな!」 「やーい彷徨さんはかぼちゃが大好き〜っ!」 「お前・・・。」 手をぷるぷる震わせて我慢、耐えている彷徨。 「今度こそちゃんと作るよ!」 笑顔で振り向く未夢に、愛しさ一杯を感じる彷徨。 「食えるもの作れよ。」 家に着き、かぼちゃ料理を始める未夢。 「よーし!今度こそ彷徨をギャフン!と言わせてやるんだから〜っ!」 エプロンをかけ、気合たくさんで台所に挑む未夢。 「えっとぉ〜、まずこれをこうやって、あっちをあっちにやって・・・ おおっとこれはソースじゃなくてしょうゆだったっけ。」 なんだか危なっかしい声が台所から聞こえる。 黙って見守っていた彷徨も何だか怖くなってきた。 それでも今回は信じて待つことにする。 「あーっ!塩がこんなに入っちゃった!」 ・・・一体何を作っているんだろう?? やっぱり気になって気になってしょうがない彷徨は我慢しきれずに台所の未夢の様子を 見に行く。 するとやはり困っている未夢を見つけた。 「お前何やってんの・・・?」 「え、えへへ・・・ち、ちょっとわからなくてさ〜・・・恥ずかしい・・・。」 「はぁ〜・・・。お、でも前回よりはいけてるじゃん。」 味見をしてみて満足そうに言う彷徨。未夢も誉められて喜んでいる。 だが最後まで一人でいけなかったのが残念で。 「最後の調理実習だ。お題は『かぼちゃ』だな。二人で作ろうぜ。」 彷徨が未夢に優しく語り掛ける。今までを考えたらこんなの嘘みたいだ。 主に未夢に働かせ、自分はもっぱらアドバイス。未夢にやらせたかったからだ。 サボるとかそんなんじゃなくって。 出来上がった料理は実に平凡な和食と言う感じだが、これ以上愛情がこもっているものは ないだろう。 そう思わされるほど、不思議な感じの出来上がった料理。 「未夢、ありがたく頂きます。」 「どーぞ!びっくりするよぉ〜!」 箸を持ち、最初にかぼちゃを口に含んでみる・・・。 「・・・。」   ・・・無言だ。もしかして失敗? 「え、ま、不味いの・・・?」 心配そうに未夢が聞く。 「とっても美味いよ・・・。よく出来たな。」 「ほ、ホントに?」 「疑ってんのか〜。」 「や、やったぁ!とうとう魔王・彷徨を倒したよ〜!」 「誰が魔王だ・・・。」 「ほらほら!彷徨、参ったって言って!」 「わぁ〜ったよ・・・この通り参りました!」 「あははっ!」 楽しい・・・。 「ホントお前よく出来たな〜。」 「でも、彷徨が手伝ってくれたおかげだよ!!」 「おれは何もしてないぞ。」 「またまた謙遜しちゃって!」 「事実だからな。」 笑顔溢れる会話に、平凡だけど、彷徨にとっては極上の豪華な和食。 幸せが溢れるようだ。 食べ終えた後は、後片付けをして、縁側で休もうとした・・・。 二人して縁側で寄り合い、今までの出来事を改めて思った。 「ねぇね、最初わたしの事どー思った?」 「ウゼぇ。」 「うっ・・・。」 「でも今は・・・。」 「えっ?」 「でも今は、愛しくて、離れようとしても離したくない存在・・・だ・・・。」 「彷徨・・・。」 一瞬、時が止まったように静かになる。 「じゃあ、未夢は最初おれのことどー思ってたんだよ?」 「ん〜・・・ぜんっぜんデリカシーがないなって思ってた。」 「一年の頃から女子に騒がれて、それでもデリカシーとかなんかわかるかっつーのっ。」 「でも、でも今は・・・とっても優しいよ、彷徨・・・。」 そう言われると彷徨は、未夢にしか見せない優しい眼をして微笑んだ。 「もっとこっち来いって。」 「もう・・・。昼間っから恥ずかしいよ・・・。」 そう言うと彷徨は未夢の頭を自分の肩に抱き寄せた。 未夢は安心して目を瞑る。 このまま、ずっと一緒に居たい・・・。 もし、居る場所が離れても、心はずっと一緒に居ようね―――・・・? このまま、ずっと時が止まれば良いのにな・・・。 英語で習ったこの言葉・・・。 「Let's be forever with you in mind・・・.」 「え?何か言った?」 「・・・何でもねぇよっ・・・!」 「もう〜!何か言ったんでしょ!はっきり言いなさい!?」 「ばぁ〜か。」 「む〜!私の悪口ね!彷徨なんかこうだっ! 「いって〜いてててて!わぁったわぁった降参降参!」 未夢は彷徨のほっぺを、千切れるんじゃないかと思うほど引っ張った。 「よ〜しそれでこそ彷徨!何言ったの!?」 「いいか〜最後にもう一度言うから、耳かっぽじってよぉ〜っく聞けよ〜。」 「はいはい。」 「Let's be forever with you in mind・・・.」 「・・・?」 「・・・お前もしかしてわかんない?この前習った英語・・・。」 「えっ、あっ!英語だったのかぁ〜何宇宙語しゃべってるのかと思ったよぉ〜。」 「・・・ずっと一緒に居よう、って意味なんだぞ?」 「あ・・・。」 ―――彷徨と、同じ事考えてたんだ・・・。 「Let's talk forever together in the heart...☆でも、いいよね・・・?」 「お前・・・。」 ―――信じたかった事が確信できたような、そう思った。 ガララッ! 玄関から戸の開く音が聞こえた。 「ただいまぁー!」 ・・・親父だ。 「あ、彷徨のおじさん、帰ってきたみたいだね。」 「ああ〜・・・。」 ったく、と言いながら腰をあげ、彷徨は玄関まで出向いた。 「おお、彷徨!元気そうで何よりじゃ。未夢さんも元気じゃったかの?」 「あ、はい。」 「おやぁ?もののけどもが居らんようじゃが・・・?」 「・・・。」 「・・・。」 「そのセリフを聞いて二人とも黙ってしまう。 「そうか〜・・・来るものは拒まず、去るものは追わずじゃな。」 家に上がると、また今度はインターホンが聞こえた。 ピンポーン――― ごめんくださーい 来た。パパだ! 「はーい!」 ガララッ! するとそこには未夢のママ、未来も居た。 「未ー夢〜!!元気だった!?長く空けてごめんね。」 「未夢!パパは寂しかったよ!」 優は泣いて未夢に飛びつく。 「ちょっと、パパ!」 「まぁまぁ。実は私もさっき帰ってきたところなんですよ。 積もる話もありましょうがまずはお上がりなされ・・・。」 宝晶が未来と優を居間へと案内する。 「・・・色々と大変でしたなあ、ハッハ・・・。」 宝晶が未来たちと話している。 「あっ、未夢、もう仕度は済んでる?」 「うん。」 「じゃあもうそろそろ行こっか?」 「えっ!ええっと、あの〜、ちょっと・・・。」 「そっかぁ〜彷徨くんと離れるのが嫌なのよねぇ〜♪」 「ママ!!」 「ええっ!彷徨くん!!それ本当なのかい!!」 優が泣きながら彷徨に聞く。 「え、えぇっと〜・・・。」 彷徨が言葉に詰まっていると、未来が言う。 「パァーパ〜?いつかは未夢も私達から離れて独立するのよ〜?」 「そんなの嫌だぁ〜っ!」 ママがパパを説得して慰めてるよ。 「それじゃあ宝晶さん、今まで本当に未夢がお世話になりました。」 「お世話になりました・・・。」 未来が未夢と一緒に頭を下げる。 「いやぁ、わしは何もしとらんよ。」 「そうだよなぁ〜。ぜんっぜん何もしてないよなぁ〜・・・!」 「えっ、いやっ・・・。」 彷徨が笑いながら宝晶を睨んでいる。宝晶は実に気まずそうに後ずさりをしている。 「彷徨くん、今まで未夢をありがとうね。 それから、これからも機会があったらよろしくね。」 「あ、はい。もちろんです。」 「彷徨、今まで迷惑かけてごめんね。ありがと・・・。」 「未夢・・・。」 「未夢、私たちは先に下に言ってるから、あ、荷物持っていくね。 それじゃ宝晶さん・・・。」 「未来さん、お達者で。」 「宝晶さん、ありがとうございました。」 「優さん、申し訳ありませんな。不自由な思いをさせてしまったようで・・・。」 「そんな事ないです!」 未夢が思いっきり否定した。 「そっか。未夢も成長したね。じゃあパパもママと下で待ってるから。」 「それじゃあわしは明日からの仕事の準備と夕食の仕度をするか〜・・・。」 ・・・。 ――― 彷徨 お分かれだね ――― ――― 行くなよ おれから 離れるなよ ――― ――― 大丈夫だよ また 会えるよね? ――― ――― ああ 絶対 ――― ――― それじゃ 約束して? ――― ――― ん? ――― ――― はい 小指出して ――― ――― えっ ――― ――― 出してよ〜 ――― ――― わかったよ・・・ ――― ――― ゆ〜びき〜りげ〜んま〜ん う〜そつ〜いた〜らは〜りせ〜んぼ〜ん の〜ます、ゆびきったっ!! ――― ――― あっははっ・・・ ――― 「あ、ちょっと待ってろ。」 彷徨は家の中に入っていき、何かを持ってすぐ出てきた。 「これ、母さんからもらったお守り。母さんが未夢を守ってくれるよ。」 「え!でもそれじゃあ彷徨が・・・!」 彷徨は黙って首を横に振った。 「いいんだ。未夢だから。母さんも、許してくれると思う。」 「彷徨・・・。」 手渡しでぎゅっとそのお守りを握らせると、 彼らはそっと口付けをした。 「バイバイ、彷徨。またね・・・。」 未夢は、西園寺を後にしたのであった。 また、会えることを信じて――――― Fin... ===================================================================== written in 2003.10.17