『彷徨の嫉妬 ―前編―』 「おーいワンニャー!おれの靴下どこやったーっ!?」 「ここです彷徨さんー!廊下に落ちてましたー!」 「ワンニャー!私の体操服どこーっ!?」 「外に干してありますよーっ!」 「だぁーい☆」 「ペポペポーっ☆」 未夢と彷徨は、日常茶飯事に朝は大忙し。 以前の西園寺では考えられない出来事。 前より落ち着きがなくなったと言うか、賑やかになったと言うか、 騒がしくなったと言うような感じ。 だが、彼らはこの雰囲気を決して嫌ってはいなかった。 普通に口から出てしまう、イジワルな冗談・・・。 それさえも楽しみとしてしまう家族。 今日も、ドタバタな一日になりそう・・・。 しかし、今回の冗談が、 素直じゃない気持ちが深刻な問題となるとは誰も思わなかった事だろう・・・。 「未夢ーっ!準備できたかー!?行くぞーっ!」 「あっ!ちょっと!待ちなさいよー!」 「行ってらっしゃいませ〜・・・。」 「だぁーい!」 「ペッポペッポー♪」 「何で、こうして未夢さんと彷徨さんは毎日ギリギリの行動なんでしょうね〜・・・。」 未夢と彷徨は西園寺の階段を駆け下り、全速力で学校まで走った。 彷徨の方が足が速く、未夢は追いつけないが必死についていく。 「ちょっとっ・・・!何であんたそんなに足が速いのよー!」 「とろとろしてると置いて行くぞ!」 「むっ・・・!行ったわねー!どおりゃあー!」 未夢は全力で走る走る。 「おっ、中々やるな!」 彷徨も力の限り走る。 やがて学校に着いて教室のドアをガララッと開けて入る。 「はぁー、はぁー、せ、セーフ。」 「足がくたくた・・・もう学校に来るだけで疲れちゃったよ〜・・・。」 「み、未夢、すごい形相だねぇ〜・・・毎日彼氏とお疲れさん♪」 「王子様とおっかけっこ・・・この微妙な出来事をまたネタにしよう〜っ。」 未夢が教室ドア付近でぐったりしていると、ななみと綾が近寄ってきてそう言った。 「ななみちゃん、そんなんじゃないってっ・・・ 綾ちゃんも、そんなのネタにしないでよぉ〜・・・。」 「こんなやつとのエピソードをネタにされるなんておれはごめんだねっ・・・。」 二人とも息切れしながら言うが、彷徨の言葉に対し未夢は 「あ〜あ〜そ〜ですか!私だってごめんだわよ!」 と怒鳴って席の方へ行った。この時だけはどうも未夢は元気になる。 「未夢って、彷徨くんが絡むとすぐ元気になるよねぇ〜。」 「癒しの王子様・・・☆」 「綾、それはもういいって。」 「未夢ちゃんと彷徨くん、いつも二人で頑張って学校に走ってきて・・・ 『よし、未夢、今日はどっちが学校まで早く行けるか競争だ!』 『愛の競争ね!彷徨、私負けないわよ!』  そお〜んな事を言いながら未〜夢ちゃんと彷〜徨くんは暴走しまくっちゃうの ネェ〜!!!」 クリスがまた怪しい妄想をしていると、ななみが抑えに突っ込む。 「暴走してるのはクリスちゃんの方だってばさ。」 「あら?わたくし何をしていたのかしら・・・。」 「おいおい・・・。」 「今日も色々ネタになることがたくさんだよね〜☆ななみちゃん!」 「私は疲れるよ・・・。」 一段落したかと思いきや、また騒ぎの元となりそうな者がやってきた。 「ハァーイ!美しいるぇでぃーたちよ、今日もその元気な素顔を見せておくれ〜♪」 なんて言いながら、肩のオカメインコにバラを教室じゅうにバラまかせた。 光ヶ丘望の登場である。 そのバラは、もちろん未夢が座っている席にも届いた。 「このバラ見てると、心が和むよね〜っ。」 未夢はバラを見ながら走った疲れを癒していた。 その嬉しそうな未夢の顔を、彷徨は教室のドアによりかかりながら見ていた。 「おー彷徨ー。そんなところでヤンキーみたいに座ってないでこっちこいよー。」 呼んだのは三太。今まで親友として付き合ってきたが、 そのひょうきんな顔は今でも一体何を考えているのかさっぱりわからない。 「あ、ああ・・・。」 「げんきんなやつらだよなー。いつもは『西園寺くーん♪』とか言ってくるのに、 バラで向こういっちまうなんてよー。」 「いいじゃん。静かで。」 「かーなーたっ。」 未夢がバラを持って近づいてきた。 「やっぱり光ヶ丘くんはやさしーよねー。いつも綺麗なバラくれるし〜♪」 「バラには刺があるだろ。お前と同じだな。」 「せっかくのいい気分なのに、何て事言うのよ〜!」 「何だよ〜。」 未夢と彷徨はむむむと睨めっこ。 先に手を出したのは未夢だった。ハンマーで彷徨の頭をドガン。 すると光ヶ丘に群がっていた女子が一斉に彷徨の元へやってきた。 「西園寺くーん!大丈夫ー!?」 「・・・。」 一瞬にして光ヶ丘の側は寂しくなった。 「彷徨くんは、永遠の貴公子ですわ!」 クリスが西園寺の元へ行けず、もじもじしながら光ヶ丘の近くで叫んだ。 「くそ〜。西園寺くんには負けないぞ!」 「お〜い未夢っ。」 ぷーい。 未夢は朝から彷徨にヒドイ事言われまくっていたのでまだご機嫌斜めみたい。 しかし彷徨は続ける。 「今日おれ委員会で買い物当番行けなくなった。お前代わりに買ってきてくれ。」 「ちょ、なんで私がっ!」 「買った後こけたりすんなよ。」 「ちょ・・・もうー!」 「何よ彷徨のやつ、何が『おれ今日委員会だー』よ。だったら、遅くなるからごめんとか 言ってくれてもいいじゃない。ぜんっぜんやさしくないんだから・・・ 光ヶ丘くんを少しでも見習っ・・・きゃっ?」 未夢がスーパーたらふくから買ってきた品物をビニール袋に入れて持って帰ろうとしながら 彷徨への愚痴を言っていると、突然オカメインコが頭の上に乗ってきた。 「オカメちゃんっ?って事は光ヶ丘くん?」 「・・・ちゃーんっ、あ、未夢っち。ぼくのためにオカメちゃんを探していてくれたん だね〜♪」 「違うと思います。」 「ああ、ぼくは何て罪な男なんだー。」 「この姿見ればわかるでしょっ。」 未夢は両手いっぱいに荷物を持っている。 「あっ、買い物だったんだね。オカメちゃんを探してくれてありがとう。 お礼に荷物持ってあげるよ。」 「うん、ありがとう。」 (ほーら、光ヶ丘くんすごくやさしいじゃない。彷徨なんかとは雲泥の差よっ。) 未夢は肩の荷物が楽になった。それよりも、光ヶ丘の手助けが素直に嬉しかった。 やがて西園寺の階段の下までついた。 「光ヶ丘くん、どうもありがと。助かったよ〜。」 「ぼくは未夢っちのためならどこにでも飛んでいくさぁー♪」 「未夢っちじゃないって・・・それじゃーまた明日学校でね。」 「あ、僕暇だからちょっと上がっちゃっても大丈夫かな?西園寺くんは許してくれる?」 「え・・・って、でも、家の中散らかってるしっ・・・!」 (ルゥくんとワンニャーが出迎えに出てきたら明らかにまずいしっ!) 「大丈夫だよ。このバラに比べれば、未夢さんの美しさなんて天下一だから、 側はすぐ綺麗になるよ・・・。」 「ちらかってるけど、良かったらどうぞ。」 未夢はお世辞みたいな台詞とバラの花に酔いしれて、さっきの決意を簡単に変えてしまった。 「ちょ、ちょっと待っててね。」 未夢は先に玄関の中に入って、家の中を見てみる。静かだ。ルゥくんとワンニャーの部屋に 入ってみると二人とも寝ていた。 毛布をかけてあげて、パタンと戸を閉めた。 「お待たせしましたー。」 とりあえず二人ともお茶の間の机の側に座った。 しかし、テレビもつけずし〜んとしたまま。 (どうしよう・・・何話そう・・・何だか恥ずかしいな・・・。) 未夢がそう思案していたが、先に沈黙を破ったのは光ヶ丘の方だった。 「未夢っちっていつもこんな感じで西園寺くんと暮らしてるのかい?」 「えっ、そ、そんなことないよぉ〜。だってあいつ、いつもめちゃうるさいしっ!」 「へ〜、そうなんだ〜。」 光ヶ丘はにっこりしてそう言った。しかし未夢は自分の言った事にハッとした。 「あ、ごめん、ちょっとトイレ借りるね。」 「あ、どーぞ。そこの角を曲がって・・・。」 パタン。 光ヶ丘が部屋から出て行った。 (何で私、むきになって言ったんだろう・・・それに光ヶ丘くん何であんな事 聞いたんだろ・・・。) 未夢は何となく緊張していた。 その頃光ヶ丘は・・・ 「卑怯だぞ西園寺くん、毎日美しいるぇでぃーしかも未夢っちと毎日過ごせるなんて。 この僕の美貌のどこが西園寺くんに劣るというんだ・・・。」 鏡で自分の顔を見ながらうっとりの光ヶ丘。正にナルシストだ。 そして未夢と彷徨が同居しているのを、まるで彷徨の美貌が理由なのかのように捉えていた。 すると誰かがトイレに入ってきた。 「あっ、間違えましたすみません・・・。」 しかし光ヶ丘は自分の顔に夢中。 トイレから出て行ったのはワンニャーだった。なんて軽率な。 一人で光ヶ丘を茶の間で待っていた未夢。緊張しながら座っていると、 光ヶ丘が戻ってきた。 「ねえ未夢っち。」 「はいっ!・・・って未夢っちじゃないって。どうしたの?」 「西園寺くんって毎日何してるの?」 「へ?彷徨?部屋で寝っ転がって漫画でも読んでるんじゃないのかな。」 「誰が漫画だって?」 「わっ!」 彷徨が家に帰ってきた。 「何で光ヶ丘が居るんだ?」 彷徨いきなり質問。でも当たり前かも。 「あっ、買い物の荷物家まで運ぶの手伝ってくれたのよ。」 「暇だったからお邪魔したんだけど、もうこんな時間だ帰らなきゃー。 それでは未夢っち、また学校で・・・。」 そう言うと光ヶ丘はどこからともなくバラを大量に取り出し、その腕いっぱいの量のバラを 未夢に差し出して去っていった。 「・・・もう、部屋に入るときぐらいノックぐらいしてよねっ!」 未夢は彷徨に当たった。 「自分の家に入るのに何でノックするんだよ・・・!」 「そ、それはっ・・・う〜!」 未夢はうなって黙り込んでしまった。 彷徨は、何となく苛立ちを隠せなかった。勝手にお客様を家に上がらせたことなのか、 そんな事よりも腹の立つものが・・・ 何だったのだろうか。 「また校内美少年コンテストやるの〜?」 次の日、学校についてみると学校新聞にそう広告があった。周りには女子が群がって新聞が 見えない。 しかし女子の声で内容はわかった。 「おれはもううんざりだ。」 彷徨はそう言うとさっさと教室へ向かった。」 「あ、彷徨っ。ちょっと・・・。」 彷徨を追いかける未夢。そして思案。昨日光が丘くんにあんなにバラもらっちゃったから お礼言わないといけないよね。会ったらあいさつとお礼言おう。 ガララっ。 教室のドアを開けると教室中一面バラ、バラ、バラ。そして新聞委員がカメラを持ってやって きていた。 「キャー!光ヶ丘くんいいよー!」 光ヶ丘がカメラの子に写真を取ってもらっていた。そんな光ヶ丘に未夢は挨拶をしようと 近づいた。 「光ヶ丘くん、昨日はバラありが・・・ぶっ!」 未夢はカメラを持っていた子がはしゃいでいて手がぶんぶん振られていたのに顔が当たって しまった。 「あ、ごめーん未夢ちゃん!大丈夫!?」 「あ、うん、だいじょう・・・えっ・・・?」 未夢が何とか無事をアピールしようとしたその時、上から何か降ってきた。 小さな手紙だ。開けると 『どういたしまして』 と書いてあった。光ヶ丘、もしかして昨日の返事がくることを計算していた? そして軽くウィンク。 未夢は手紙のコンタクトとそのやさしさに嬉しくなった。 彷徨は、とても苦い顔をして、怒ったように自分の部屋に座った。 この日は彷徨は委員会がなかったため、早く帰った。一人で。 未夢は光ヶ丘にバラを貰っていた、と言うより無理やり貰われていたので、 帰りが遅くなった。 「ただいまー。」 「あっ!未夢さん帰ってきましたよ〜っルゥちゃまっ。」 「あーい!マンマー!」 「・・・。」 彷徨は、茶の間で寝ながら小説を読んでいた。向いていた方向が玄関の方向だったが、 未夢が帰ってきて向きを変えた。 「って、未夢さん、どーしたんですかそのバラはっ。また光ヶ丘さんに貰ったんですかっ?」 キラキラキラ〜☆ 「未夢さ〜んっ?」 未夢はぼ〜っとしている。ワンニャーが見えていない。よほど嬉しかったらしい。 「そいつ、バラでず〜っとぼ〜っとしてんだよ、バカみたいに。」 ぱちっ! 彷徨の台詞で目が覚めた未夢。 「失礼ね!バカは余分よ!女の子は誰だってやさしくされたら嬉しいんだからね!」 未夢は怒り心頭で彷徨にぶち当たった。 「でも、そんなんで嬉しくなるのは、単純な証拠だよなあ未夢?」 いつも自分と暮らしているのに、バラで気持ちが揺られたのが気に入らないのか、 意地悪そうな顔で彷徨は言う。 「ど〜ゆ〜意味よ〜!?」 「まんまだ。」 未夢と彷徨がにらみ合っていると、ルゥは未夢が持っていたバラを二本取り出し超能力を 使った。 「だ〜ぁ☆」 ぷすっ。ぷすっ。ぷらーんぷらーん。 未夢と彷徨の頭にさして、横ブランコ。 「る、ルゥちゃまっ・・・ぷっ・・・。」 ワンニャーは面白そうに笑いを堪えている。 「ルゥくん!」 「ルゥ!」 「うっ・・・ビェェェェーーーンン!!!」 「あールゥちゃまっ!」 ワンニャーがルゥを抱いてあやして落ち着かせると、不安そうに言った。 「どうしたんでしょう未夢さんと彷徨さん。いつもと違うみたいです・・・。」 その後の夕食も、未夢と彷徨は一切口を聞かず黙って食べ、終えた時の 「ごちそうさま!」 と怒りを込めていった時以外はしゃべらなかった。 ワンニャーは不安そうに二人を見つめていた。 ルゥは悲しそうに眠りについた。 未夢も彷徨も、さすがにお互いに腹が立ってルゥの事に頭が周らなかったのだろうか。 二人の間に霧がかかった関係が続く・・・。