今日、お客さんが来る。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐               『雪の記憶』 私、水瀬名雪。5歳。 今日お母さんのお姉さんが来るみたい。 ちゃんとお行儀よくするのよ、名雪、とお母さんに説明された。 だから、行儀良くしようと思うんだ。 やがて、伯母さんが来た。 その手には小さな一人の男の子の手を握って。 家に上がってもらって、私は伯母さんに挨拶した。 すると、行儀が良いって褒めてくれた。 そのまま奥に入って行ったけど、そこに一人の男の子が残されていた。 ・・・。 最初はすごく緊張した。どうすればいいのかわからなかったのだ。 僕、相沢祐一って言うんだっ。 でもそれはほとんどその時だけで、その後はすごく打ち解けた。 下の名前で呼び合うのが全然気にならないくらいに。 そして、二人で雪を使った遊びは何でもした。 庭を、大好きなうさぎさんだらけにした。 雪を使って作ったうさぎ、雪うさぎ。 その後、お母さんに怒られちゃった。 ちょっとだけ悲しかったかも。 それからと言うものの、その「いとこ」は毎年冬休みになると私の家に遊びに来てくれた。 冬休みの始めがちょうど私の誕生日だったこともあり、誕生会が始まりの最高の冬休みだった。 天皇誕生日と同じ日だったので、祐一が冗談を言ったりする。 そして始まる大好きな雪の冬休み。 祐一が私のお小遣いを持って行っちゃって、お金返ってこなくなったり。 子狐さん拾って帰ってきたり。 大好きなイチゴのショートケーキ買ってきてくれたり。 楽しかった。私は幸せだった。 そう、 あの日が、訪れるまでは・・・。 いつしか、私は祐一が好きになっていた。 ドキドキする。 祐一が帰ってしまう前に言わなくちゃ。 自分の口から伝えるんだ。 じゃないと伝わらない。 祐一が帰ってしまう前日に、私は告白する事にする。 そして、その日。 祐一はどこかへ出かけているみたい。 今のうちに、想いを込めたものを作ろう。 この雪うさぎさんをプレゼントするんだ。 彼を探していると、夕暮れの時刻、彼は駅前のベンチに居た。 私は、彼の冷たき瞳に気付く事無く。 そして、 また、会えるよね・・・?大好きだから・・・。 かかげた雪うさぎを祐一の前に出した時、何が起こったかわからなかった。 気付いたら、私が、霜焼けになるほど手を真っ赤にして作った雪うさぎが、 無残にも地面に叩きつけたれていた。 私、祐一の気の障る事しちゃったのかな・・・。 ごめんね祐一・・・。 悲しくて悲しくてどうしようもなくて、後が続かなかった。 最後にもう一度だけ・・・伝えたいから今の言葉・・・会いたいから・・・ お願い・・・明日、もう一度だけこの駅前で待ってて・・・    お願い・・・ しかし、その願いは叶えられることなく。 彼は来なかった。 変わった彼。 いつまでも、雪の中ベンチに座り続けて、現れる事のない人を待つ私。 その時は、時間が永遠のように感じた。 待ち続ける私。 何もないのに。 でも、 彼が私の事をどう思おうと、私は彼が好きだった。 その後日のいつの日か、手紙を書いて送ってみた。 多分と思ったけど、やはり返事はなかった。 その時こう思った。 私はあの時、何か障ってはいけない祐一の傷に触れてしまったんだと・・・。 そして今もあの時を思い出しながら、 もう来るはずのない人を、待ち続けている。