かれんだー0表示(即更新なし) 1秒待ち クロスフェード更新 カレンダー28日目表示 クロスフェード通常 CG消去 1秒ウェイト ====================================== ====================================== 翌日。朝起きた。学校へ行く。 何も考えられなかった。 いや、考えることに意味があるのだろうか? 彷徨「おはよう」 未夢「…おはよう」 いやいや、考えることに意味はあると信じるんだ。 その行為自体が、様子が、彼の負担を和らげるものになるのだと。 どうすればいいかもわからないのに? 気休めでしかないのに? その気休めが重要なんだ。 自分を肯定、否定する考えがめまぐるしく浮かんでは消えていった。 ぽん。 頭に手を置かれた。 彷徨「あまり思い詰めるな」 彷徨なりの思いやりだ。 彷徨「ま、でも、他人事を自分のことのように真剣に考えるお前は、俺は好きだよ」 未夢「…うん。ありがとう…。でも違うの。どうしてあげたらいいかわからないの」 未夢「彷徨っ、何かいい方法がっ…」 彷徨は黙って首を横に振った。 彷徨「悪いけど、俺もわからない…相談に乗ってやれなくてすまない」 彷徨「けど、未夢のその真剣な姿を見たら、あいつもきっと気持ちがほぐれるよ」 未夢「…そうだと…いいな」 悩んでる姿を見せてるだけといえば、そうなってしまうだろう。 結果は出せていないにしても、本気なのは変わらない。 いつだってそうなのだ。気持ちが、成果に結びつかない。 人生って、そうなんだって思った。 どこか他人事のように。 彷徨「俺のことは気にするな。今は、あいつらのことを考えてやってくれ」 彷徨は目をつむって言った。 いっぱいいっぱいで気付かなかったけど、彷徨もホントはわたしにかまってほしいだろう。 なのに他人を優先させて。 彷徨ってば、ちょっとカッコいいぞ。 いつしか問題が解けたら、思いっきり構ってあげよう。からかわれてあげよう……。 ---------------------------------------------------------------------------------------------- 教室についた。 未夢「…おはよう」 烈「おはよう、未夢さん」 いつもどおり…に見える。 烈「いつものことだから、仕方ないよ」 こちらが思いそうなことを想像したのだろうか。 未夢「うん…」 生返事しかできなかった。 未夢「わたしにできることがあったら、言ってね」 烈くんは困ったように微笑み返しただけだった。 しかし…。 昨日のおじさんの言葉を思い出す。 おじさん自身、決して烈くんのことが嫌いなわけではないようだ。 ただ、不器用なのだろう。 烈くんへの想いのかけ間違い? 少なくとも、烈くんはそれで喜んでない。 おじさんの想いをどうやって烈くんに伝えるか? いや、そういうことじゃない気もする。 そんなことしても、余計袋小路に追い詰め、責めるようなことになるのだ。 どうしたら…。 そのうち、何を悩んでいるのかもわからなくなってきた。 考えなおす。 烈くんが、おじさんと仲直り? それを望んでいたとしても、目前の目標としたら逆効果だ。 一旦、そのことから離れるべきでは? そうすれば、やがて感謝の心を取り戻すだろう。 …わたしがこんなこと考えてても、やっぱり仕方ないのかもしれない。 とりあえず伝えるだけ伝えてみよう。 でも、離れると言っても、どこに? わたしんちとか、西遠寺とか。 未夢「あ、あのね、烈く…」 教師「紅瀬、ちょっと…」 見ると、担任が廊下から手招きしていた。 なんだろう? 何とは無しに、烈くんについていく。 担任「紅瀬、今から職員室に来れるか…」 やたら暗く、厳しい表情で言っていた。 烈「え、私、何かやっちゃいました?」 担任「いや、そうじゃない…とにかく来てくれ。ああ、闇無も一緒がいいか」 零「…?」 最初は担任に近づかなかったが、徐々に近づいていたタイミングでいわれた。 何か心配だ。胸騒ぎがする。 未夢「あのっ。わたしもついて行っていいですかっ」 わたし、部外者っぽいけど。これじゃ野次馬かも。 担任「えっ、う〜ん…紅瀬、いいのか?」 烈「えっ、と言っても内容まだわかんないし、光月さんなら別に…」 担任「そうか。仲が良いんだな。とにかく来てくれ」 言葉は皮肉るようだったけど、雰囲気は全くそうではなかった。 一体、何事なんだろう。 教室を出る際、振り返り彷徨を見た。 真面目な顔で目は合ったけど、何とも言えない顔をしていた。 職員室。 担任「驚くと思うが、冷静に聞いてくれ…」 なんだというのだろう。 担任「お前の父親さんが、倒れられた」 担任「母親さんから電話があってな…」 担任「血を吐いて、倒れられたと」 担任「救急車で運ばれて、今は大病院にいるそうだ」 担任「何やらもう永くないそうなんだが…紅瀬、お前、何か聞いていなかったか?」 烈「―――」 なんともいえない状態だった。 吃驚するでも、冷静でもない。 何か一大決心をしたかのように、その話を聞いていた。 それが事実か嘘かも確認しようともせず、でもわかっていたかのような…。 でも、今までそんな話は聞いていなかった。 つい昨日、ピンピンしていたのに。 烈くんも、おそらく把握してなかっただろう。 担任「紅瀬、先生にはよくわからん。そういう報告も受けてない。ただ、かなり厳しいそうだ」 担任「紅瀬、どうする?病院に行くか?出席は、公欠状態にしておいてやるから」 未夢「烈くん…」 右手は震えていた。それを、左手で抑えようと、右手に触れたところだった。 烈「未夢さん。できたら今から一緒に来てほしい。父親と話をする」 烈「傍に誰かいないと錯乱してしまうから、そうならないよう見守っててほしい」 未夢「そ、それなら、お母さんや零くんの方が適任じゃ…」 傍に居た零くんが黙って首を横に振った。 零「俺たちじゃ烈にとって抑止役にならない」 烈「身内じゃない人に最悪の迷惑をかけられない、っていう理性を残したいんだ」 烈「ごめんね。この時点で最悪の迷惑だと思うんだけど。もしダメならダメでも構わない」 烈「私を、救ってくれませんか」 そんなこと言われたら断れない。 他の人なら、普通に断るのかもしれなかった。 こんなわたしでも、今何かの役に立てるのなら…。 未夢「わかった」 烈「ありがとう」 担任「病院への地図を渡すよ。まぁ、最近のケータイならナビとかもあるんだよな?」 担任「今から渡すのと照らし合わせながら向かってくれ」 …さっきは、おじさんと離れたら、と提案するところだった。 考えたくないけど、雰囲気的に最悪の想像だった。 もしそれが当たっていたなら、永遠の離れとなるのだ。 それは、本当に烈くんが望んでいたことだったろうか? ---------------------------------------------------------------------------------------------- 烈「…」 道中、烈くんはいつもと違って言葉少なだった。 というか、何も話せなかった。 病院につき、病室に着いた。 雪「…」 悲しげな雪さんが、無言で振り返った。 白いうさぎのような色の喪服だった。 病院だから白衣を着させられているわけでもない。 現代の喪服は黒いけど、古来の喪服は白だったという。 横たわるおじさんの顔には、布はかけられていない。 ほっとした。雰囲気的に紛らわしい。 けど、猶予はない状態なのだろう。 烈「何…これどういうことなの、お母さん!」 烈くんが叫ぶように問いかけた。 雪さんは深呼吸をするように、ゆっくり重い口を開いた。 雪「お父さんは、末期癌だったのよ」 烈「……なんだよそれ」 烈「聞いてないぞっ」 雪さんは黙って首を横に振った。 雪「私もわからなかったわ。ただ、その予感はしていた…」 雪「病院で過ごして死ぬくらいなら、烈を見ていたいって」 烈「…なんだそれ」 烈くんは苦笑して言った。 烈「それじゃ、治るものも治らないじゃないかよっ!」 武亘「ん…」 くぐもった声が聞こえた。おじさんが起きたようだ。 武亘「…そうか…俺は…とうとう…」 雪「お父さんっ」 烈「…!」 武亘「おお、烈か…学校はどうした」 烈「なんで黙ってたんだよ」 武亘「早く来ても仕方なかったよ」 その口調は、あの日らのような叱咤ではなかった。 強かった者が、弱々しく語る様。 烈「それじゃ、治るものも治らないだろっ!」 武亘「どの道こうなる予感はしてた」 烈「そりゃそうだよ!病院行かなかったら!」 烈「死ぬのか…?」 烈「私たちを置いて、無責任にあっさり死ぬのか?」 武亘「烈よ、親は遅かれ早かれ死ぬのだ」 武亘「子より先に旅立てるのであれば、これほど良いことはない」 烈「全然良くねえよっ!」 枕の横の布団を叩いた。 烈「何簡単に諦めてんだ!」 烈「少しは抵抗しろよ!」 烈「おれは!お前が大嫌いで!」 烈「お父さんが大好きだったよ!!」 烈「勝手にこんな身体にされて…!」 烈「わけもわからず怒鳴ってくるし!」 烈「でも、小さい頃から色んなとこに連れてってくれた」 烈「色んなおもちゃも買ってくれたし、おいしいものも食べさせてくれた!」 烈「感謝したいんだ!!」 烈「なのに、お父さんはいつも酷いことを言う!」 烈「私の大好きな母さんを、泣かすんだ!」 烈「私のことで怒るなら、私を直接怒れよ!」 烈「好きなものを傷つけられるのは、自分が直接傷つくより痛むんだ」 烈「色々ありすぎて、感謝できなくなった」 烈「帰りたい家に帰りたくなくなった、それでも帰らなきゃいけないんだ」 烈「お父さんのいる家へ…」 烈「お前は私がいつか必ず殺すんだ」 烈「だから、生きてろよ!」 烈「死なれると困るんだよ!」 烈「この怒りの向けどころがなくなるんだよ!」 烈「怒りをぶつけた後は、許したいんだ」 烈「死なれると、許せなくなるだろ!」 烈「私に殺され、許されるために生きろよ!」 武亘「…はっは…そんなに想われて、幸か不幸か…」 武亘「それも面白そうだが、残念ながら叶えられそうにない…」 武亘「おれのことが嫌いなら、そのままでいい」 武亘「嫌いになって、おれに頼らず、生きていけ」 武亘「その方が、父さん安心だ…」 烈「何がだよ!勝手なことばかり言いやがって!」 烈「お父さんは、全然おれのことなんか考えてくれてない!!」 武亘「……そうだったかもな…お前のことを考えているようで、できてなかったかもしれん」 烈「違う!」 烈「こんなこと言いたいんじゃない!」 烈「もっと…他に…言いたいことがたくさんあったはずなのに…」 烈「出てこないよ…急に…」 武亘「はっは…そうだな…」 烈「お母さん、お父さん治らないの?」 雪さんは首を横に振った。 雪「全身に転移してて…」 烈「お父さん、苦しい?」 武亘「そんなことはないよ、急にくらっとくる程度だ」 武亘「でも、次寝たら、父さんもう起きないかもな」 武亘「でも、それでいいんだ」 武亘「長く闘病し、苦しんで死ぬよりも…」 武亘「老衰みたいに、いつの間にかあっという間に死ぬ方が楽だ」 武亘「雪、悪いが烈のこと、あとは頼んだ」 武亘「あの子のことも…」 武亘「烈、母さんを任せたぞ」 烈「お前が言うなっ!」 武亘「はっは…俺はいいんだよ…ゴホッ、ゴーホゴホっ!」 烈「お父さんっ!?」 武亘「横になったまましゃべってるから、むせただけだよ」 武亘「最期に話せて良かった」 武亘「おれは…幸せだったかな?」 武亘「父さんは…良い父さんだったか?」 烈「最悪で、最高だよ!」 武亘「なんだそれ、最悪なのが最高なのか、父さんわからんぞ…」 おじさんは、烈くんの頭を撫でた。 武亘「父さんは、不器用だったよ」 武亘「もっと、色々してやりたかった…」 瞳から、一雫涙が流れた。 烈「やめろよ!普段泣いたことないくせに、こんな時に!」 武亘「ああ、なんか、急に過去のことが思い出される」 武亘「走馬灯というやつだろうか」 武亘「思えばお前とはいさかいばかりだった…」 武亘「すまなかった…」 烈「違うっ!」 烈「そんなこと聞きたかったんじゃない!」 烈「おれは…おれは…」 烈「…ただ、お父さんにやさしくされたかったんだ…」 烈「他の何も要らない」 烈「ただそれだけ…」 武亘「はっは…」 【武亘が烈の頭に手を添えるCG】 武亘「そんな甘えん坊じゃ、父さん心配だ…」 烈「いいんだよ…親子ってそういうものだろ…」 武亘「父さん安心して逝けないぞ…」 烈「いいんだよ、結局心配に当たる状態だよ」 烈「そんな状態でも、認められたかったんだよ」 烈「例え世間に拒絶されても、家族にだけは…」 烈「だから生きてろよ…元気になって全力でぶん殴らせろ」 武亘「はっは…そうだな…」 武亘「…こんな体にさせてしまって済まなかったな…」 烈「いいんだよ、それはもう…」 武亘「ああ…少し疲れた」 武亘「少し休ませてくれ…」 烈「…!?寝たら、二度起きないんじゃないだろなっ!?」 武亘「はっは…大丈夫だよ…」 武亘「大丈夫…」 武亘「……」 雪「…烈、お父さんは少し疲れたのよ。休ませてあげなさい」 烈「もう目覚めないんじゃないだろうなっ」 雪「大丈夫よ」 烈「…」 未夢「烈くん、あの…」 烈「ごめんね。なんか、色々迷惑かけてばかりで」 未夢「…」 それに怒るとかじゃない。 かける言葉が見つからなかった。 言葉を伝えるための、音として振動させるための空気が、わたしの周りからなくなったのだ。 烈「よくわからないんだ。何かのギャグだと思ってる」 烈「けどここは病院。景色が、雰囲気が意識を現実に引き戻すんだ」 未夢「…」 わたし、何か言えっ! けど、選択肢がなかった。 何を言うのか。 脳から辞書だけが抜き取られたかのような錯覚だった。 烈くんの右手の手袋は、つけられていなかった。 その手をぎゅっと握った。 烈くん「!」 固くて、そしてとても冷たかった。 血の通わない、モノ。 未夢「…きっと、大丈夫だよ」 目の端に、わずかな水が溜まった。 なんて無責任なのだろう。 振り絞って出した言葉は、他愛のないものだった。 烈「…ありがとう」 行先を語るでもなく歩き出した。 学校は事実上のサボりだ。それ以下でも以上でもない。 烈「…」 未夢「…」 かける言葉もないとはまさにこの事。 どうしたらいいのかわからない。 これ以外のことに、この言葉を使ってはいけないとすら思えるのだ。 大抵のことは、何とかなりそうな気がする。 けど、これこそどうにもならない。 烈「家に、帰るよ…」 未夢「な、ならわたしもついていくよ」 烈「ごめん、今は一人になりたいんだ…」 烈「ホントにごめんね、ついてこいって言ったり、来るなって言ったり」 未夢「…」 そうなのかもしれないけど、ここで黙ってたら誤解される。 けど、なんて返したら良いかわからなかった。 経験のないことなのだ。 きっと、経験してない方が良い。 傍にいてあげた方がと思う傍ら、今は思い通りにそっとしてあげた方が良いとも思えた。 烈「急に色々ありすぎて、疲れたんだ…」 未夢「…わかった。でも、後でまた行くね」 烈「…」 心地よい返事は、得られなかった。 烈「とりあえず、未夢さんは学校に行きなよ…授業、サボりになっちゃうでしょ?」 先生には公欠にしてもらっているし、今は昼過ぎだ。 今更どうでも良かったけど、他に方法もなかった。 未夢「…うん。じゃあ、また後でね」 惠「お、未夢。なんだったんだ?」 教室に戻ったら、いつものように惠ちゃんが来ていた。隣に可菜ちゃんもいる。 あたりの様子だけ、彷徨や零くんに聞いたんだと思う。 未夢「…」 他人様の事情なので、躊躇われたというのもあった。 けど、それ以上に、何をどう表現すればいいかわからなかった。 惠「あいや、言いたくないならいいけどさ」 未夢「そういうわけじゃないけど…とてもデリケートなことだから」 零「烈はどうした?」 零くんが聞いてきた。 未夢「一人になりたいから、家に帰るって…」 惠「おま、そりゃ傍にいるべきだったんじゃないのか?」 惠「のこのこついてって何一人で戻ってきてるんだよ」 やはり、そうなのだろうか…? 可菜「まぁまぁ」 未夢「わたし、授業終わったらもっかい烈くんのとこ行くよ」 惠「あたしが言っといてだけど、あんまり構いすぎるなよ。色々と誤解されるぞ」 未夢「…?」 誰に? 彷徨「…そんなツラで一緒に居られても、つまらないからな」 惠「おっとこれは」 未夢「彷徨…」 彷徨「お前は、お前がやれることをやってくればいいよ」 彷徨「色々落ち着いたら、その時に遊べばいいから」 惠「さすが旦那様。かっこいい」 零「すまない…西遠寺」 彷徨「…」 未夢「ごめんね、彷徨…」 可菜「未夢ちゃん、そこは、ありがとう、よ」 彷徨「…」 はっ…。 未夢「…うん、そうだね。ありがとう、彷徨。わたし、できることをするよ」 教師「ほらー鐘鳴るぞー席につけー」 惠「まだ鳴ってないのに…じゃあ、またな、未夢」 振り向き様に、手を振って行った。 可菜ちゃんも、無言だったけど手を振ってくれた。 その日最後の授業となった内容は、頭に入らなかった。 その時空だけ、切り取られたかのようだった。真空の時間だった。 放課後。 未夢「じゃあわたし、烈くんの様子を見に行くよ。気になるから」 分かれ際、良い返事はもらえなかったけど、行くことにした。 厚かましいから、拒絶されるかな?その時は、引くか…。 やれることをやらずに後悔するより、どうせ後悔するなら、やってからの方が良いと思うのだ。 やらない方が、上手く行ったかもしれなくても…自分に後悔したくない。 自分勝手だろうか。 でも、自分にできることをやる。 特に、何ができるというわけでもないけど。 『傍に誰かいないと錯乱してしまうから』 烈くんが、そう言っていた。 それは、一種の信号なのだ。 助けて、という。 だから、するのだ。せめて、傍にいること。 零くんがいれば良いような気もしたけど、さっき代わりについていったぐらいだ。 責任とかではなく、これはわたしがやらなきゃいけないこと、わたしなりの使命なのだ。 彷徨「わかった」 零「…」 零くんがすっと横に来た。 あっ、そっか、行き先同じだっけ。 というか多分、正確にはわたしが零くんについていくことになるんだけど。 未夢「じゃあ彷徨、また明日ね」 手を振って分かれた。 また明日。 明日が来ないかもしれない人がいる。 それが身近な、大切な人だとしたら? 想像できなかった。 零「…」 未夢「…」 話すことがなかった。これではまるで一人でいるかのようだ。 未夢「…そういえば、おじさんは零くんにとってのお父さんじゃないの?」 零「…俺は母さんに拾われた。俺にとっての親は母さんだけで、あの人は他人のようなものだ」 未夢「そ、そうなんだ…」 零「…」 未夢「…」 き、気まずい。話の選択を間違えた。 零「だけど…全く恩がないわけじゃない」 零「おれが今ここに居られるのは、一応あの人のおかげでもある」 零「烈とはいざこざが絶えない人だが、彼が元気になることで烈が元気になるのなら」 零「あの人には、生きていてほしい」 未夢「…零くんも、おじさんとは仲悪いの?」 零「…快くは、思っていないな」 未夢「…」 おじさんは、みんなに嫌われて、そして…。 それで、本当に幸せなのだろうか? 『あの子のことも…』 おじさんはそう言っていた。 想ってはいるけど、本人には届いていなさそう。 不器用なのだろう。 みんな、不器用なのだ。 上手く、いかない。 零「…」 未夢「…」 大して良い話もできないまま、もうすぐ烈くんの家だ。 今のこの状況で、なかなか明るい話はできないけど。 零「烈は自分の部屋にいると思う。慰め、励ましてやってくれ」 零「…本当なら俺の役目のはずだが、すまない…」 未夢「ううん、大丈夫。だからわたしが来たんだよ」 零「…フッ、言ってくれるぜ」 そう言って、零くんは奥の部屋に行った。 雪さんは病院で看病してるのか、戻ってきていないんだろうか。 前に案内された居間に行ってみた。 誰もいないし、何もなかった。 未夢「…」 座って待ってみるが、当然、何もない。 わたしは何をやっているんだ…。 他人様の家の中を周るのは気が引けたが、烈くんを探すことにした。 少し広い家だ。前も思ったけど、彷徨の家より少し狭いくらい? それはそうだ。寺ではないし。 それでも、普通の家よりかは広い。 廊下に隣接する障子に通りかかる。 烈くん、ここかな…? コンコン。 未夢「烈くん?入るよ…」 すっ。 誰もいなかった。わたしが居た居間のような部屋だ。 そうやっていくつかの部屋を通り過ぎた奥に、横開きではなさそうなドアがあった。 コンコン。 烈「烈くん…?」 ガチャ… 未夢「烈くん!」 見ると、烈くんが仰向け様に横を向いて倒れていた。 未夢「烈く…」 横たわる彼の傍に駆けつけ、座ったところでわかったけど、眠っていただけだった。 未夢「そこにベッドあるのに、紛らわしいよ、もう…」 真冬なのに床で布団も被らずに寝ていたら風邪を引いてしまう。 せめて布団まで運んであげよう。 未夢「おもっ…」 お姫様抱っこの要領で持ち上げようとしたが、案外持ち上がらなかった。 未夢「わたしと同じくらいの背と体型なのにっ…!」 わたしが非力なだけだと思うけど。 どうにかベッドに運び、掛け布団をかけてあげた。 ベッドに腰掛ける。勝手に座っちゃっていいのかな。 寝顔を覗き込んだ。 よほど熟睡しているのか、起きなかった。 表情は、悩み、悲しみ、苦しみ、疲れたような顔だった。 怒りや憎しみ、感謝などの板挟みで疲れ果てたのだろう。 今までの彼の表情を思い出していた。 無邪気な笑い顔。 普段の他愛ない話の時の元気そうな顔。 惠ちゃんに責められた時の泣き顔。 零くんに文句言われて怒った顔。 同じ笑い顔や泣き顔でも、色んな表情を見た気がする。 最近の彼は、暗い顔しか見てなかった気がする。 悩み、イライラして、怒った顔。 悲しそうな表情。 何が、友達だ。 友達一人の表情さえ、明るくさせられない。 友達は、遊び友達でしかないんだろうか。 困った時に、助けてあげられないのだろうか。 わたしは無力だ。 彼が一人悲しみ眠るのを目の当たりにし、そう思った。 今までわたしが彷徨と楽しく帰っていた裏で、烈くんは何かに悲しんでいたかもしれない。 それこそどうしようもない、仕方のないことだ。 でも、それに気づいてしまった。 気づかなかった方が良かっただろうか。 そんなことはない。 気づいて、こうして傍にいてあげられることしかできないけど。 人として、足がある。思考がある。 そうして、傍にいてあげられる、それが、わたしの今の力だ。 烈「う…ん…」 未夢「烈くん、起きた?」 烈「あれ、私、布団に登ったっけ…?」 未夢「わたしが持ち上げたんだよ。床で寝てたら、風邪引くよ」 烈「おわ!未夢さん!どうしてここに?」 未夢「言ったでしょ、また来るって」 烈「…でもまさか、起きたら美少女様が居るとか、びっくりだよ」 未夢「やだなあ、美少女なんて」 烈「あっはは…」 いつもの勢いも、絞り出したような空笑いに終わってしまった。 烈「…考えても仕方ないことだけど、考えちゃうんだよ。仕方ないよね」 ぽつぽつと語り出した烈くん。 烈「本当は仲良くしたかったんだ」 烈「でも、下らないことで本当に嫌なことがあったのも事実」 烈「だから、もう無理なんだ。相反する、矛盾する思いが同梱してる」 未夢「烈くんが本当に仲直りしたいなら、きっとできるよ」 烈「無理だよ、だって、もうすぐ死んじゃうんだよ?」 何気無く出た言葉。およそ日常に出ないはずのもの。 未夢「そんなことないよ…まだ決まってないし…」 烈「予測だよ。対策のしようもない。きっとそうなる」 烈「それに、ならなかったとしても、もう生理的な嫌悪感さえあるんだ、無理だよ」 烈「喧嘩という経験や記憶がなかったら、また違っただろうね」 烈「仲直り、したかったな」 未夢「そんな、まだ終わってないよ…」 烈「やめよう。嫌なやつのことで、未夢さんと喧嘩したくない」 未夢「烈くん…」 声「ぴー…」 がちゃ… タミちゃんが入ってきた。 烈「おー、そういやお前居たな。ご飯大丈夫か?すっかり忘れててごめんな」 タミ「ぴー」 烈くんはタミちゃんを抱きかかえた。抱き枕のように見える。 烈「…お前がいなかったら、私は手足ないまま今までどうしてただろうな」 烈「お前がいたから、今まで平気で来れた」 烈「あの時、諦めていた、手足の感覚」 烈「でも、突如現れたお前に、何でも話しかけてたなぁ」 烈「お前、ぴーとしか返してくれなかったけど」 ははっと彼は力なく笑う。 烈「でも、その中で、無意識的に思ってたのかもな」 烈「手足が欲しいって」 烈「そしたら、お前が作ってくれた」 烈「お前、もしかして私の願い、叶えてくれるやつか?」 烈「なら…」 烈「お父さんの病気、治してよ…!」 烈「また、やり直したい…!」 烈「…まぁ、今更無理だよな…ははっ…」 そこまで言い終えて、タミちゃんの体が輝き出した。 烈「これは…!?」 ものすごい眩しいほどだ。 そしれ、タミちゃんの体が透明になっていく… キィーーーーン…… 耳鳴りがしたかと思えば、タミちゃんの姿はもうそこにはなく消えていた。 未夢「なに?今の…」 烈「タミはどこ行った!?」 先ほどまで烈くんの手の中にいたはずなのに、いなかった。 烈「なんで…お前まで居なくなるというのか…」 烈「ずっと一緒に過ごしてきたのに…なんで突然急に…」 烈「もう無理だ…無理だよ…」 普通にあるものがなくなる。 それを喪失する気持は、知っていた。 わたしはタミちゃんとは関わりがほとんどなかった。 烈くんが、タミちゃんとどんな関わり合いをしてきたかも知らない。 けどその気持ちは、痛いほどわかったのだ。 烈「う…う…わああぁぁぁぁーーー!!」 蹲り、泣き叫ぶことで自身を守る事しかできない姿を、見ることしかできなかった。 それを目にして、それを救えない自分の無力感にも、悲しさを覚えた。 烈「う…なんで未夢さんが泣くの…?」 いつの間にか、泣いていた。 烈「あっはは…変なの…未夢さんがもらい泣きすることないのに」 烈「いいんだよ、未夢さん、なんにも悪くないし」 未夢「ううん、わたしも、気持ちわかるから」 誰かが見てたら、傷の舐め合いと思われるかな。 それでも、同じもの同士助け合えればいいなと思ってる。 未夢「うん、今回は思いっきり泣きなよ」 未夢「せめてわたしが傍に居るよ」 烈「うん…ありがとう」 悲しみに悲しみを重ねられて耐えられないのだ。 大声で泣き叫ぶのは、そうすることで、現実から逃げる効果があるのだと聞いたことがある。 今ぐらいは、逃げてもいいと思う。 そうしないと、悲しみに押しつぶされるのだから。 未夢「でも、タミちゃんが消えただけで、いなくなったとは限らないよ」 未夢「いつかまたひょっこり、現れてくれたらいいね」 烈「…」 くすんと泣き笑いするだけだった。 確かに、居なくなったという根拠はないけど、根拠がないのに、確信してるような感じだった。