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翌日。朝起きた。学校へ行く。
何も考えられなかった。
いや、考えることに意味があるのだろうか?


彷徨「おはよう」

未夢「…おはよう」
いやいや、考えることに意味はあると信じるんだ。
その行為自体が、様子が、彼の負担を和らげるものになるのだと。
どうすればいいかもわからないのに?
気休めでしかないのに?
その気休めが重要なんだ。
自分を肯定、否定する考えがめまぐるしく浮かんでは消えていった。
ぽん。
頭に手を置かれた。

彷徨「あまり思い詰めるな」

彷徨なりの思いやりだ。

彷徨「ま、でも、他人事を自分のことのように真剣に考えるお前は、俺は好きだよ」

未夢「…うん。ありがとう…。でも違うの。どうしてあげたらいいかわからないの」

未夢「彷徨っ、何かいい方法がっ…」

彷徨は黙って首を横に振った。

彷徨「悪いけど、俺もわからない…相談に乗ってやれなくてすまない」

彷徨「けど、未夢のその真剣な姿を見たら、あいつもきっと気持ちがほぐれるよ」

未夢「…そうだと…いいな」

悩んでる姿を見せてるだけといえば、そうなってしまうだろう。
結果は出せていないにしても、本気なのは変わらない。
いつだってそうなのだ。気持ちが、成果に結びつかない。
人生って、そうなんだって思った。
どこか他人事のように。

彷徨「俺のことは気にするな。今は、あいつらのことを考えてやってくれ」

彷徨は目をつむって言った。
いっぱいいっぱいで気付かなかったけど、彷徨もホントはわたしにかまってほしいだろう。
なのに他人を優先させて。
彷徨ってば、ちょっとカッコいいぞ。
いつしか問題が解けたら、思いっきり構ってあげよう。からかわれてあげよう……。

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教室についた。
未夢「…おはよう」
烈「おはよう、未夢さん」
いつもどおり…に見える。
烈「いつものことだから、仕方ないよ」
こちらが思いそうなことを想像したのだろうか。
未夢「うん…」
生返事しかできなかった。
未夢「わたしにできることがあったら、言ってね」
烈くんは困ったように微笑み返しただけだった。

しかし…。
昨日のおじさんの言葉を思い出す。
おじさん自身、決して烈くんのことが嫌いなわけではないようだ。
ただ、不器用なのだろう。
烈くんへの想いのかけ間違い?
少なくとも、烈くんはそれで喜んでない。
おじさんの想いをどうやって烈くんに伝えるか?
いや、そういうことじゃない気もする。
そんなことしても、余計袋小路に追い詰め、責めるようなことになるのだ。
どうしたら…。
そのうち、何を悩んでいるのかもわからなくなってきた。
考えなおす。
烈くんが、おじさんと仲直り?
それを望んでいたとしても、目前の目標としたら逆効果だ。
一旦、そのことから離れるべきでは?
そうすれば、やがて感謝の心を取り戻すだろう。
…わたしがこんなこと考えてても、やっぱり仕方ないのかもしれない。
とりあえず伝えるだけ伝えてみよう。
でも、離れると言っても、どこに?
わたしんちとか、西遠寺とか。
未夢「あ、あのね、烈く…」
教師「紅瀬、ちょっと…」
見ると、担任が廊下から手招きしていた。
なんだろう?
何とは無しに、烈くんについていく。
担任「紅瀬、今から職員室に来れるか…」
やたら暗く、厳しい表情で言っていた。
烈「え、私、何かやっちゃいました?」
担任「いや、そうじゃない…とにかく来てくれ。ああ、闇無も一緒がいいか」
零「…?」
最初は担任に近づかなかったが、徐々に近づいていたタイミングでいわれた。
何か心配だ。胸騒ぎがする。
未夢「あのっ。わたしもついて行っていいですかっ」
わたし、部外者っぽいけど。これじゃ野次馬かも。
担任「えっ、う〜ん…紅瀬、いいのか?」
烈「えっ、と言っても内容まだわかんないし、光月さんなら別に…」
担任「そうか。仲が良いんだな。とにかく来てくれ」
言葉は皮肉るようだったけど、雰囲気は全くそうではなかった。
一体、何事なんだろう。
教室を出る際、振り返り彷徨を見た。
真面目な顔で目は合ったけど、何とも言えない顔をしていた。

職員室。
担任「驚くと思うが、冷静に聞いてくれ…」
なんだというのだろう。

担任「お前の父親さんが、倒れられた」
担任「母親さんから電話があってな…」
担任「血を吐いて、倒れられたと」
担任「救急車で運ばれて、今は大病院にいるそうだ」
担任「何やらもう永くないそうなんだが…紅瀬、お前、何か聞いていなかったか?」
烈「―――」
なんともいえない状態だった。
吃驚するでも、冷静でもない。
何か一大決心をしたかのように、その話を聞いていた。
それが事実か嘘かも確認しようともせず、でもわかっていたかのような…。
でも、今までそんな話は聞いていなかった。
つい昨日、ピンピンしていたのに。
烈くんも、おそらく把握してなかっただろう。
担任「紅瀬、先生にはよくわからん。そういう報告も受けてない。ただ、かなり厳しいそうだ」
担任「紅瀬、どうする?病院に行くか?出席は、公欠状態にしておいてやるから」
未夢「烈くん…」
右手は震えていた。それを、左手で抑えようと、右手に触れたところだった。

烈「未夢さん。できたら今から一緒に来てほしい。父親と話をする」
烈「傍に誰かいないと錯乱してしまうから、そうならないよう見守っててほしい」

未夢「そ、それなら、お母さんや零くんの方が適任じゃ…」

傍に居た零くんが黙って首を横に振った。

零「俺たちじゃ烈にとって抑止役にならない」
烈「身内じゃない人に最悪の迷惑をかけられない、っていう理性を残したいんだ」
烈「ごめんね。この時点で最悪の迷惑だと思うんだけど。もしダメならダメでも構わない」
烈「私を、救ってくれませんか」
そんなこと言われたら断れない。
他の人なら、普通に断るのかもしれなかった。
こんなわたしでも、今何かの役に立てるのなら…。
未夢「わかった」
烈「ありがとう」
担任「病院への地図を渡すよ。まぁ、最近のケータイならナビとかもあるんだよな?」
担任「今から渡すのと照らし合わせながら向かってくれ」
…さっきは、おじさんと離れたら、と提案するところだった。
考えたくないけど、雰囲気的に最悪の想像だった。
もしそれが当たっていたなら、永遠の離れとなるのだ。
それは、本当に烈くんが望んでいたことだったろうか?


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烈「…」
道中、烈くんはいつもと違って言葉少なだった。
というか、何も話せなかった。

病院につき、病室に着いた。
雪「…」
悲しげな雪さんが、無言で振り返った。

白いうさぎのような色の喪服だった。
病院だから白衣を着させられているわけでもない。
現代の喪服は黒いけど、古来の喪服は白だったという。
横たわるおじさんの顔には、布はかけられていない。
ほっとした。雰囲気的に紛らわしい。
けど、猶予はない状態なのだろう。
烈「何…これどういうことなの、お母さん!」
烈くんが叫ぶように問いかけた。
雪さんは深呼吸をするように、ゆっくり重い口を開いた。
雪「お父さんは、末期癌だったのよ」

烈「……なんだよそれ」
烈「聞いてないぞっ」

雪さんは黙って首を横に振った。
雪「私もわからなかったわ。ただ、その予感はしていた…」
雪「病院で過ごして死ぬくらいなら、烈を見ていたいって」
烈「…なんだそれ」
烈くんは苦笑して言った。
烈「それじゃ、治るものも治らないじゃないかよっ!」
武亘「ん…」
くぐもった声が聞こえた。おじさんが起きたようだ。
武亘「…そうか…俺は…とうとう…」
雪「お父さんっ」
烈「…!」
武亘「おお、烈か…学校はどうした」
烈「なんで黙ってたんだよ」
武亘「早く来ても仕方なかったよ」
その口調は、あの日らのような叱咤ではなかった。
強かった者が、弱々しく語る様。
烈「それじゃ、治るものも治らないだろっ!」
武亘「どの道こうなる予感はしてた」
烈「そりゃそうだよ!病院行かなかったら!」
烈「死ぬのか…?」
烈「私たちを置いて、無責任にあっさり死ぬのか?」
武亘「烈よ、親は遅かれ早かれ死ぬのだ」
武亘「子より先に旅立てるのであれば、これほど良いことはない」
烈「全然良くねえよっ!」
枕の横の布団を叩いた。
烈「何簡単に諦めてんだ!」
烈「少しは抵抗しろよ!」
烈「おれは!お前が大嫌いで!」
烈「お父さんが大好きだったよ!!」
烈「勝手にこんな身体にされて…!」
烈「わけもわからず怒鳴ってくるし!」
烈「でも、小さい頃から色んなとこに連れてってくれた」
烈「色んなおもちゃも買ってくれたし、おいしいものも食べさせてくれた!」
烈「感謝したいんだ!!」
烈「なのに、お父さんはいつも酷いことを言う!」
烈「私の大好きな母さんを、泣かすんだ!」
烈「私のことで怒るなら、私を直接怒れよ!」
烈「好きなものを傷つけられるのは、自分が直接傷つくより痛むんだ」
烈「色々ありすぎて、感謝できなくなった」
烈「帰りたい家に帰りたくなくなった、それでも帰らなきゃいけないんだ」
烈「お父さんのいる家へ…」
烈「お前は私がいつか必ず殺すんだ」
烈「だから、生きてろよ!」
烈「死なれると困るんだよ!」
烈「この怒りの向けどころがなくなるんだよ!」
烈「怒りをぶつけた後は、許したいんだ」
烈「死なれると、許せなくなるだろ!」
烈「私に殺され、許されるために生きろよ!」

武亘「…はっは…そんなに想われて、幸か不幸か…」
武亘「それも面白そうだが、残念ながら叶えられそうにない…」
武亘「おれのことが嫌いなら、そのままでいい」
武亘「嫌いになって、おれに頼らず、生きていけ」
武亘「その方が、父さん安心だ…」
烈「何がだよ!勝手なことばかり言いやがって!」
烈「お父さんは、全然おれのことなんか考えてくれてない!!」
武亘「……そうだったかもな…お前のことを考えているようで、できてなかったかもしれん」

烈「違う!」
烈「こんなこと言いたいんじゃない!」
烈「もっと…他に…言いたいことがたくさんあったはずなのに…」
烈「出てこないよ…急に…」
武亘「はっは…そうだな…」

烈「お母さん、お父さん治らないの?」
雪さんは首を横に振った。
雪「全身に転移してて…」
烈「お父さん、苦しい?」
武亘「そんなことはないよ、急にくらっとくる程度だ」
武亘「でも、次寝たら、父さんもう起きないかもな」
武亘「でも、それでいいんだ」
武亘「長く闘病し、苦しんで死ぬよりも…」
武亘「老衰みたいに、いつの間にかあっという間に死ぬ方が楽だ」
武亘「雪、悪いが烈のこと、あとは頼んだ」
武亘「あの子のことも…」
武亘「烈、母さんを任せたぞ」
烈「お前が言うなっ!」
武亘「はっは…俺はいいんだよ…ゴホッ、ゴーホゴホっ!」
烈「お父さんっ!?」
武亘「横になったまましゃべってるから、むせただけだよ」

武亘「最期に話せて良かった」
武亘「おれは…幸せだったかな?」
武亘「父さんは…良い父さんだったか?」
烈「最悪で、最高だよ!」
武亘「なんだそれ、最悪なのが最高なのか、父さんわからんぞ…」
おじさんは、烈くんの頭を撫でた。
武亘「父さんは、不器用だったよ」
武亘「もっと、色々してやりたかった…」
瞳から、一雫涙が流れた。
烈「やめろよ!普段泣いたことないくせに、こんな時に!」


武亘「ああ、なんか、急に過去のことが思い出される」
武亘「走馬灯というやつだろうか」
武亘「思えばお前とはいさかいばかりだった…」
武亘「すまなかった…」
烈「違うっ!」
烈「そんなこと聞きたかったんじゃない!」
烈「おれは…おれは…」
烈「…ただ、お父さんにやさしくされたかったんだ…」
烈「他の何も要らない」
烈「ただそれだけ…」
武亘「はっは…」
【武亘が烈の頭に手を添えるCG】
武亘「そんな甘えん坊じゃ、父さん心配だ…」
烈「いいんだよ…親子ってそういうものだろ…」

武亘「父さん安心して逝けないぞ…」
烈「いいんだよ、結局心配に当たる状態だよ」
烈「そんな状態でも、認められたかったんだよ」
烈「例え世間に拒絶されても、家族にだけは…」

烈「だから生きてろよ…元気になって全力でぶん殴らせろ」
武亘「はっは…そうだな…」
武亘「…こんな体にさせてしまって済まなかったな…」
烈「いいんだよ、それはもう…」
武亘「ああ…少し疲れた」
武亘「少し休ませてくれ…」
烈「…!?寝たら、二度起きないんじゃないだろなっ!?」
武亘「はっは…大丈夫だよ…」
武亘「大丈夫…」
武亘「……」
雪「…烈、お父さんは少し疲れたのよ。休ませてあげなさい」

烈「もう目覚めないんじゃないだろうなっ」
雪「大丈夫よ」

烈「…」
未夢「烈くん、あの…」
烈「ごめんね。なんか、色々迷惑かけてばかりで」
未夢「…」
それに怒るとかじゃない。
かける言葉が見つからなかった。
言葉を伝えるための、音として振動させるための空気が、わたしの周りからなくなったのだ。
烈「よくわからないんだ。何かのギャグだと思ってる」
烈「けどここは病院。景色が、雰囲気が意識を現実に引き戻すんだ」
未夢「…」
わたし、何か言えっ!
けど、選択肢がなかった。
何を言うのか。
脳から辞書だけが抜き取られたかのような錯覚だった。
烈くんの右手の手袋は、つけられていなかった。
その手をぎゅっと握った。
烈くん「!」
固くて、そしてとても冷たかった。
血の通わない、モノ。
未夢「…きっと、大丈夫だよ」
目の端に、わずかな水が溜まった。
なんて無責任なのだろう。
振り絞って出した言葉は、他愛のないものだった。
烈「…ありがとう」

行先を語るでもなく歩き出した。
学校は事実上のサボりだ。それ以下でも以上でもない。

烈「…」
未夢「…」
かける言葉もないとはまさにこの事。
どうしたらいいのかわからない。
これ以外のことに、この言葉を使ってはいけないとすら思えるのだ。
大抵のことは、何とかなりそうな気がする。
けど、これこそどうにもならない。
烈「家に、帰るよ…」
未夢「な、ならわたしもついていくよ」
烈「ごめん、今は一人になりたいんだ…」
烈「ホントにごめんね、ついてこいって言ったり、来るなって言ったり」
未夢「…」
そうなのかもしれないけど、ここで黙ってたら誤解される。
けど、なんて返したら良いかわからなかった。
経験のないことなのだ。
きっと、経験してない方が良い。
傍にいてあげた方がと思う傍ら、今は思い通りにそっとしてあげた方が良いとも思えた。
烈「急に色々ありすぎて、疲れたんだ…」
未夢「…わかった。でも、後でまた行くね」
烈「…」
心地よい返事は、得られなかった。
烈「とりあえず、未夢さんは学校に行きなよ…授業、サボりになっちゃうでしょ?」
先生には公欠にしてもらっているし、今は昼過ぎだ。
今更どうでも良かったけど、他に方法もなかった。
未夢「…うん。じゃあ、また後でね」

惠「お、未夢。なんだったんだ?」
教室に戻ったら、いつものように惠ちゃんが来ていた。隣に可菜ちゃんもいる。
あたりの様子だけ、彷徨や零くんに聞いたんだと思う。
未夢「…」

他人様の事情なので、躊躇われたというのもあった。
けど、それ以上に、何をどう表現すればいいかわからなかった。
惠「あいや、言いたくないならいいけどさ」
未夢「そういうわけじゃないけど…とてもデリケートなことだから」
零「烈はどうした?」
零くんが聞いてきた。
未夢「一人になりたいから、家に帰るって…」
惠「おま、そりゃ傍にいるべきだったんじゃないのか?」
惠「のこのこついてって何一人で戻ってきてるんだよ」
やはり、そうなのだろうか…?
可菜「まぁまぁ」
未夢「わたし、授業終わったらもっかい烈くんのとこ行くよ」
惠「あたしが言っといてだけど、あんまり構いすぎるなよ。色々と誤解されるぞ」
未夢「…?」
誰に?
彷徨「…そんなツラで一緒に居られても、つまらないからな」
惠「おっとこれは」
未夢「彷徨…」
彷徨「お前は、お前がやれることをやってくればいいよ」
彷徨「色々落ち着いたら、その時に遊べばいいから」
惠「さすが旦那様。かっこいい」
零「すまない…西遠寺」
彷徨「…」
未夢「ごめんね、彷徨…」
可菜「未夢ちゃん、そこは、ありがとう、よ」
彷徨「…」
はっ…。
未夢「…うん、そうだね。ありがとう、彷徨。わたし、できることをするよ」

教師「ほらー鐘鳴るぞー席につけー」
惠「まだ鳴ってないのに…じゃあ、またな、未夢」
振り向き様に、手を振って行った。
可菜ちゃんも、無言だったけど手を振ってくれた。

その日最後の授業となった内容は、頭に入らなかった。
その時空だけ、切り取られたかのようだった。真空の時間だった。


放課後。

未夢「じゃあわたし、烈くんの様子を見に行くよ。気になるから」
分かれ際、良い返事はもらえなかったけど、行くことにした。
厚かましいから、拒絶されるかな?その時は、引くか…。
やれることをやらずに後悔するより、どうせ後悔するなら、やってからの方が良いと思うのだ。
やらない方が、上手く行ったかもしれなくても…自分に後悔したくない。
自分勝手だろうか。
でも、自分にできることをやる。
特に、何ができるというわけでもないけど。
『傍に誰かいないと錯乱してしまうから』
烈くんが、そう言っていた。
それは、一種の信号なのだ。
助けて、という。
だから、するのだ。せめて、傍にいること。
零くんがいれば良いような気もしたけど、さっき代わりについていったぐらいだ。
責任とかではなく、これはわたしがやらなきゃいけないこと、わたしなりの使命なのだ。

彷徨「わかった」
零「…」
零くんがすっと横に来た。
あっ、そっか、行き先同じだっけ。
というか多分、正確にはわたしが零くんについていくことになるんだけど。
未夢「じゃあ彷徨、また明日ね」
手を振って分かれた。

また明日。
明日が来ないかもしれない人がいる。
それが身近な、大切な人だとしたら?
想像できなかった。


零「…」
未夢「…」
話すことがなかった。これではまるで一人でいるかのようだ。
未夢「…そういえば、おじさんは零くんにとってのお父さんじゃないの?」
零「…俺は母さんに拾われた。俺にとっての親は母さんだけで、あの人は他人のようなものだ」
未夢「そ、そうなんだ…」
零「…」
未夢「…」
き、気まずい。話の選択を間違えた。
零「だけど…全く恩がないわけじゃない」
零「おれが今ここに居られるのは、一応あの人のおかげでもある」
零「烈とはいざこざが絶えない人だが、彼が元気になることで烈が元気になるのなら」
零「あの人には、生きていてほしい」
未夢「…零くんも、おじさんとは仲悪いの?」
零「…快くは、思っていないな」
未夢「…」
おじさんは、みんなに嫌われて、そして…。
それで、本当に幸せなのだろうか?
『あの子のことも…』
おじさんはそう言っていた。
想ってはいるけど、本人には届いていなさそう。
不器用なのだろう。
みんな、不器用なのだ。
上手く、いかない。

零「…」
未夢「…」
大して良い話もできないまま、もうすぐ烈くんの家だ。
今のこの状況で、なかなか明るい話はできないけど。

零「烈は自分の部屋にいると思う。慰め、励ましてやってくれ」
零「…本当なら俺の役目のはずだが、すまない…」
未夢「ううん、大丈夫。だからわたしが来たんだよ」
零「…フッ、言ってくれるぜ」
そう言って、零くんは奥の部屋に行った。
雪さんは病院で看病してるのか、戻ってきていないんだろうか。
前に案内された居間に行ってみた。
誰もいないし、何もなかった。
未夢「…」
座って待ってみるが、当然、何もない。
わたしは何をやっているんだ…。
他人様の家の中を周るのは気が引けたが、烈くんを探すことにした。
少し広い家だ。前も思ったけど、彷徨の家より少し狭いくらい?
それはそうだ。寺ではないし。
それでも、普通の家よりかは広い。
廊下に隣接する障子に通りかかる。
烈くん、ここかな…?
コンコン。
未夢「烈くん?入るよ…」
すっ。
誰もいなかった。わたしが居た居間のような部屋だ。
そうやっていくつかの部屋を通り過ぎた奥に、横開きではなさそうなドアがあった。
コンコン。
烈「烈くん…?」

ガチャ…

未夢「烈くん!」
見ると、烈くんが仰向け様に横を向いて倒れていた。
未夢「烈く…」
横たわる彼の傍に駆けつけ、座ったところでわかったけど、眠っていただけだった。
未夢「そこにベッドあるのに、紛らわしいよ、もう…」
真冬なのに床で布団も被らずに寝ていたら風邪を引いてしまう。
せめて布団まで運んであげよう。
未夢「おもっ…」
お姫様抱っこの要領で持ち上げようとしたが、案外持ち上がらなかった。
未夢「わたしと同じくらいの背と体型なのにっ…!」
わたしが非力なだけだと思うけど。
どうにかベッドに運び、掛け布団をかけてあげた。
ベッドに腰掛ける。勝手に座っちゃっていいのかな。
寝顔を覗き込んだ。
よほど熟睡しているのか、起きなかった。
表情は、悩み、悲しみ、苦しみ、疲れたような顔だった。
怒りや憎しみ、感謝などの板挟みで疲れ果てたのだろう。
今までの彼の表情を思い出していた。
無邪気な笑い顔。
普段の他愛ない話の時の元気そうな顔。
惠ちゃんに責められた時の泣き顔。
零くんに文句言われて怒った顔。
同じ笑い顔や泣き顔でも、色んな表情を見た気がする。
最近の彼は、暗い顔しか見てなかった気がする。
悩み、イライラして、怒った顔。
悲しそうな表情。
何が、友達だ。
友達一人の表情さえ、明るくさせられない。
友達は、遊び友達でしかないんだろうか。
困った時に、助けてあげられないのだろうか。
わたしは無力だ。
彼が一人悲しみ眠るのを目の当たりにし、そう思った。
今までわたしが彷徨と楽しく帰っていた裏で、烈くんは何かに悲しんでいたかもしれない。
それこそどうしようもない、仕方のないことだ。
でも、それに気づいてしまった。
気づかなかった方が良かっただろうか。
そんなことはない。
気づいて、こうして傍にいてあげられることしかできないけど。
人として、足がある。思考がある。
そうして、傍にいてあげられる、それが、わたしの今の力だ。

烈「う…ん…」

未夢「烈くん、起きた?」

烈「あれ、私、布団に登ったっけ…?」

未夢「わたしが持ち上げたんだよ。床で寝てたら、風邪引くよ」

烈「おわ!未夢さん!どうしてここに?」

未夢「言ったでしょ、また来るって」

烈「…でもまさか、起きたら美少女様が居るとか、びっくりだよ」

未夢「やだなあ、美少女なんて」

烈「あっはは…」

いつもの勢いも、絞り出したような空笑いに終わってしまった。

烈「…考えても仕方ないことだけど、考えちゃうんだよ。仕方ないよね」

ぽつぽつと語り出した烈くん。

烈「本当は仲良くしたかったんだ」
烈「でも、下らないことで本当に嫌なことがあったのも事実」
烈「だから、もう無理なんだ。相反する、矛盾する思いが同梱してる」
未夢「烈くんが本当に仲直りしたいなら、きっとできるよ」
烈「無理だよ、だって、もうすぐ死んじゃうんだよ?」
何気無く出た言葉。およそ日常に出ないはずのもの。
未夢「そんなことないよ…まだ決まってないし…」
烈「予測だよ。対策のしようもない。きっとそうなる」
烈「それに、ならなかったとしても、もう生理的な嫌悪感さえあるんだ、無理だよ」
烈「喧嘩という経験や記憶がなかったら、また違っただろうね」
烈「仲直り、したかったな」
未夢「そんな、まだ終わってないよ…」
烈「やめよう。嫌なやつのことで、未夢さんと喧嘩したくない」
未夢「烈くん…」
声「ぴー…」
がちゃ…
タミちゃんが入ってきた。
烈「おー、そういやお前居たな。ご飯大丈夫か?すっかり忘れててごめんな」
タミ「ぴー」
烈くんはタミちゃんを抱きかかえた。抱き枕のように見える。
烈「…お前がいなかったら、私は手足ないまま今までどうしてただろうな」
烈「お前がいたから、今まで平気で来れた」
烈「あの時、諦めていた、手足の感覚」
烈「でも、突如現れたお前に、何でも話しかけてたなぁ」
烈「お前、ぴーとしか返してくれなかったけど」
ははっと彼は力なく笑う。
烈「でも、その中で、無意識的に思ってたのかもな」
烈「手足が欲しいって」
烈「そしたら、お前が作ってくれた」
烈「お前、もしかして私の願い、叶えてくれるやつか?」
烈「なら…」
烈「お父さんの病気、治してよ…!」
烈「また、やり直したい…!」
烈「…まぁ、今更無理だよな…ははっ…」
そこまで言い終えて、タミちゃんの体が輝き出した。
烈「これは…!?」
ものすごい眩しいほどだ。
そしれ、タミちゃんの体が透明になっていく…
キィーーーーン……
耳鳴りがしたかと思えば、タミちゃんの姿はもうそこにはなく消えていた。
未夢「なに?今の…」
烈「タミはどこ行った!?」
先ほどまで烈くんの手の中にいたはずなのに、いなかった。

烈「なんで…お前まで居なくなるというのか…」

烈「ずっと一緒に過ごしてきたのに…なんで突然急に…」

烈「もう無理だ…無理だよ…」

普通にあるものがなくなる。
それを喪失する気持は、知っていた。
わたしはタミちゃんとは関わりがほとんどなかった。
烈くんが、タミちゃんとどんな関わり合いをしてきたかも知らない。
けどその気持ちは、痛いほどわかったのだ。

烈「う…う…わああぁぁぁぁーーー!!」

蹲り、泣き叫ぶことで自身を守る事しかできない姿を、見ることしかできなかった。
それを目にして、それを救えない自分の無力感にも、悲しさを覚えた。

烈「う…なんで未夢さんが泣くの…?」

いつの間にか、泣いていた。

烈「あっはは…変なの…未夢さんがもらい泣きすることないのに」

烈「いいんだよ、未夢さん、なんにも悪くないし」

未夢「ううん、わたしも、気持ちわかるから」

誰かが見てたら、傷の舐め合いと思われるかな。
それでも、同じもの同士助け合えればいいなと思ってる。

未夢「うん、今回は思いっきり泣きなよ」

未夢「せめてわたしが傍に居るよ」

烈「うん…ありがとう」

悲しみに悲しみを重ねられて耐えられないのだ。
大声で泣き叫ぶのは、そうすることで、現実から逃げる効果があるのだと聞いたことがある。
今ぐらいは、逃げてもいいと思う。
そうしないと、悲しみに押しつぶされるのだから。

未夢「でも、タミちゃんが消えただけで、いなくなったとは限らないよ」
未夢「いつかまたひょっこり、現れてくれたらいいね」

烈「…」

くすんと泣き笑いするだけだった。

確かに、居なくなったという根拠はないけど、根拠がないのに、確信してるような感じだった。