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 ====================================== クラスメイトとの喧嘩  =====================================

彷徨は今日は朝練。
学校の最寄りの駅に着いて一人で登校していると、途中烈くんたちと会った。

未夢「あ、烈くんおはよう」

烈「おはよう未夢さん!昨日のニュース見た?」

未夢「えっ、見てないけど…」

烈「どっかの国が飢えてて助けを求めたのに断られたから宣戦布告と見なして攻撃とかしたんだって!」

未夢「そうなの?」

烈「大人くらいになったら、道徳のある人しかいないんじゃないのかなって思ってた」
烈「なんで攻撃したことをテレビでばらしてるんだろう」

烈「馬鹿じゃないのかなっ。子供の喧嘩じゃねーんだっつーのっ」

隣の零くんは困ったような様子で烈くんの様子を見ていた。

烈「お菓子くれないなら殴るよ、とか言ってるようなもんだよっ」

そうなのか。

烈「人の助けをもらわないと生きれないくせに、助けてくれないならぶっ倒すまでってかっ」
烈「余計敵を作って自分の首絞めてるようなもんだよねっ」

零「はは…」

烈「よくこんなのが一国の王様やってらっしゃいますねっ」
烈「そんなのでなれるなら私だって王様できるわ」

烈くんは今、とても怒りやすくなっている。
とても遠い国、世界の話なのに、烈くんは身近な出来事を例にして感情的になってるようだった。
とても感情豊かな子なんだな、と思う。
わたしにとっては現実味がないしそこまで考えないので、そこまで思えなかった。
そのニュースは最近話題になっているものだった。
烈くんと同じように思っている人もたくさんいるだろう。
流れの速すぎる流行物は、一度触れると激流に流されてそのまま墓場行きだ。

でも…一文は気になった。
『人の助けをもらわないと生きれないくせに、助けてくれないならぶっ倒すまでってかっ』

烈くんが、烈くん自身のことを言っているように思えてならなかった。
何分、昨日の今日なのだ。
どうかそうならないように、なってほしい。

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1時間目の授業は、なんか騒がしかった。
先生が若いからか、みんながからかってて舐めてるみたいだった。
黒板の内容をノートに写すわたしの手も度々、進んでは止まってだった。
困ったなぁ…。
とうとう、すこし耳をふさぐほどうるさくなってきたとき、前の席の烈くんが唐突に立って、言った。

烈「授業中の彼らを静かにさせてもらえませんか?」
烈「うるさいし迷惑で嫌です。先生の声が聞こえません」
烈「私は静かに授業を受けたい」

烈「先生も、訳のわからない確認や質問、言動に一々反応するのはやめて下さい」
烈「数回ならともかく、頻度が多すぎます。授業の進行が止まります」

烈「一々の確認には、『今から言うから落ち着け』などして受け流して下さい」
烈「変な質問には」
烈「あとで質問タイムを設けるので、関連の質問はその時にお願いします、それ以外の質問は授業外で」
烈「などして対応して下さい」
烈「他の先生はできていましたよ」
烈「私もやりましたが、キレるのはあまり効果が無いようです」

烈「それでも直らないなら、個別指導するべきです」
烈「その機会が何回もあるはず」

烈「同じ間違いを2度以上起こさないようにしたいものです」
烈「周りに迷惑をかけないこと、それは人間として勉強より大事なことと思います」

烈「私は、授業が静かであれば、誰が何をしてようと構いません」
烈「あとはそいつが将来尻拭いをすればよいことです」
烈「ただ、周りの妨害をしていることを防いでほしいです」
烈「仕事として行うべきだと私は思います」

…。

ものすごく静かになった。
けどそれは、それで効果があって静かになったわけじゃないことは、すぐにわかった。

烈くん、正直すぎ!それ言っちゃったらダメだよ〜。
自ら敵を増やしていくようなものだ。
今までの話を聞いて、よくよく思ってみれば烈くんならやりかねないことではあったけど。
とりあえず引き続き静かになったけど、そのあとのことが不安だ…。
何もなければいいけど。

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烈「ねぇねぇ、この話、どう思う?」

彼の話はいつでも唐突だ。

零「こいつ、あれからこれに拘ってるんだ」

烈「昨日ね、インターネット見てたんだけど、ある人が漫画描いてたんだけど」
烈「それが昔の漫画に物凄く似てるから、真似してるんじゃないかって」
烈「ある人に言われてたんだよ」

隣の彷徨も自然と話を聞いていた。

烈「漫画描いてる人は、普段から、人と全く同じことをやっちゃいけないって言ってたんだよ」

零「俺は飽きるほど聞き飽きたぞ…」

烈「注意した人は、人に禁止しておいて自分でやるなと言いたいのか」
烈「その人が法律を犯していると言いたいのか、どっちだろうね?」

彷徨「それは注意した本人に聞かないとわからないだろう」

烈「前の場合なら、漫画家さんの言い方が悪かったんだろうから」
烈「謝って訂正しておけばいいけどさ」
烈「後者の場合なら、それは違うよね」
烈「ネットでマンガを公開した人はそれでお金を得ているわけではないみたいだし」
烈「昔の漫画の人から具体的にジャマされてるっていう文句を聞いているわけでもないみたいだし」
烈「漫画描いてる人はそう言う活動によって、元ネタやそれに関することを楽しんだり」
烈「勉強したりして助けれたらいいなと」
烈「善意の思いでしかないと思うんだ」
烈「もしジャマしちゃってると言うのならば」
烈「そうではなくて逆に昔の漫画の人がファンの生活を助けていると言う考え方もできるよね」
烈「また、ファンがそう言う活動をする事により、より昔の漫画の人が助かる可能性もあるわけだし」
烈「もし注意した人が、昔の人のジャマをしてると言うだけならよくよく目を凝らしてほしいよね」
烈「その人のしている事は、人の趣味や活動をジャマしているだけかもしれないんだし」
烈「ねっ!どう思う!」

未夢「う、う〜ん…わたしにはよくわからないけど、難しい話だよね」

烈「そうかな〜?まぁ、私もその辺に関しては初心者だけどね」

零「…まぁ、一長一短には言えない問題だよな」

彷徨「…」

さすがの彷徨も、特に言葉が出ないようだ。
確かに、自分が一生懸命考えた案を、他の人がそのまま使っていっちゃったら…
それは良くないなって感じる。
けど、人は必ず自分よりいいものを作り出す人を真似るもの。
その模倣方法によって、意見は分かれるんじゃないのかな、と思う。

未夢「でも、少なくともそれだけ語っておいて初心者だって言うのは…」
未夢「知らない人に失礼なので止めた方がいいよ〜」

烈「なんで?常識の範囲内でしか語ってないよ」

彷徨「なんか知識を自慢しているように聞こえてしまうのは、俺の気のせい?」

烈「気のせい気のせい」

零「でも、もうちょっと考えてから発言しろよ…」

零くんの口が開いた。

零「相手の機嫌が悪くなる確率が限りなく少なくなるような発言を心がけろ」
零「言うなれば、コミュニケーション能力を高めろ」
零「自分がその人を嫌いとか好きとかは関係ないから」
零「苦手なら苦手なりにも周りに悪影響が出ないことも考えるのが大人だぞ」
零「ついでに言うと、TPOを心がけろ。時と場所と場合だ」
零「変な話や専門的知識な会話は一週間に一回位とか」
零「ここならこんな話題は控えようとか」
零「相手がこの人ならこんな話題にしようとか考えろ」
零「一番いいのは、冗談がわかって相手の悪口を言わないような」
零「ボケツッコミと乗りの良さがあることだ」
零「別に俺たちだからとかじゃなくて単に礼儀の問題だ」
零「これだけの発言でこれだけ色々思えてしまうのが凄い」
零「やっぱ烈はダメだな」
零「色々と反応に困る。周りも沈黙するしかない」
零「俺が静かなのはこう言う理由があるんじゃないかと自分で考えてしまうよ」

な、なんか…良くない雰囲気…なんとかしないとっ。

烈「…」

ほら、烈くんもへこんじゃってるっ!

烈「おー、ぱちぱち」

ずるっ!
全然へこんでなかった!

零「って突っ込むとこそこかよっ!っていうか今俺が色々と突っ込んでたはずだが」

烈「いや、零が似合わず珍しく私くらいによくしゃべったな〜って」

色々と通じてなかった!

男子「お前ら少し黙らねぇ?少しは落ち着けっての」

女子「あんたら色んなやつに裏で嫌いって言われてるの自覚してる?誰とは言えないけど」

男子「人は誰しも好かれも嫌われもするから別にいいけど、少しは謙虚になれよ」
男子「じゃないとうざくて迷惑なだけだ」

女子「逆にあたしたちは安心するって言われてる。これは自慢じゃなくて状況の説明よ」

男子「これは偏った意見じゃない。同一人物に聞いてるからな」

えっ…何?どうしたんだろう。

烈「って言うか何?私のことが嫌いなのか知らないけど」
烈「根拠もないのに勝手に嫌って冷たいこととか言ったり…」

烈「みんなの前で偏見的な発言をしまくるのはほどほどにしてほしいな」

なんだかよくわからないけど、険悪な雰囲気…。

男子1「紅瀬は光月のこと、根拠のない褒めや勘違いが多すぎだし」

女子1「猫被りすぎだし」

男子2「わざと話を間違えたり強引に持っていきすぎだし」

女子2「場を荒らしてるよね〜。論外」

男子1「闇無は冷たいし、二人ともコミュニケーション能力なさすぎ」

烈「て言うか、おい、てめー」
烈「別に話しかけられてないから反応してないだけであって」
烈「反応されたいがために悪口雑言とは何様だよ」
烈「相手が黙ってるのを良いことに挑発とか自分が何言ったのかわかってるのかよ」
烈「お前こそいい年していつまでそんなこと言うんだよ」

烈「零、行こっ」

零「え?あ、ちょ…」

男子1「紅瀬も同じことやってんじゃん…」

未夢「あ、ちょっと…」

彷徨「わかったわかった、俺から言っとくから、ごめんな」

わたしがみんなを止めようとすると、彷徨がみんなに言ってくれた。
彷徨はそんなつもりはないんだろうけど、場を収める言葉を選んだのだ。
烈くんに聞かれてたら、よくなかったかもしれないけど。
わたしは烈くんを追いかけた。

未夢「ちょ、ちょっと待って…!」

烈「未夢さん」

烈くんは、困ったようにしながら、無理やり笑顔を思い浮かべた。

未夢「烈くん…どうしてあんなこと言っちゃったの?」
未夢「そりゃ、確かに向こうもひどかったけど…」

そう質問すると、烈くんはむっとした。

烈「いいじゃん、あいつがああ言うこと言って何も文句言われないんだから」
烈「私がああ言う事言っても誰も私に文句言う権利ないでしょ」

未夢「でも…あっ」

わたしが言うか言わないか、している時に烈くんはどこかへ行ってしまった。

零「…」

零くんも、しばらくわたしを見た後、烈くんについて行った。
彼は、何を思っているんだろう?

でも、何か案の定のことが起こってしまったのだと、思った。

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お昼になった。
その時には、今朝何事もなかったかのように、みんな過ごしてた。
わたしが気にしすぎなんだろうか?

昼食の時間に、烈くんはまた語り始めた。

烈「関係ないけど、前の学校のクラスメイトとお弁当を一緒に食べてて」
烈「親知らずの話をしていたんだ」

未夢「うん」

烈「私が親知らず痛いという話をしていて、『抜けばいいのに』って誰かが言った後」
烈「別の人が冗談で『死ねばいいのに』って言ってたんだ」

それは…。仲が良ければいいことなのだろうか?

烈「当時はみんなに合わせて笑って済ましたよ」
烈「普段の私の素行が悪かったなら、私にしか言わない冗談半分だと思うんだけど」
烈「人として許容範囲を超えると思う」

彷徨「確かに、ちょっとひどいかもな」

未夢「そのちょっとひどいことを普段してるのはどこの誰かな?」

彷徨「さーって、誰だろうなー」

彷徨は向こうを向きながら言った。
まぁ、わたしは彷徨にたまに言われてムカっとするけど、正直そこまで神経に来てないし。
彷徨になら、彷徨らしいから、いいかなとわたしは思う。
烈くんは苦笑いで話を続けた。

烈「前からそういうことを言うのは止めるよう口頭でお願いしてきたけど止めてくれなかったんだ」
烈「今となっては些細な事だったけど、続けられるといつか取り返しのつかないことになりかねないよね」
烈「悪い芽は早いうちに摘むべきと考えるよ…」
烈「当の本人がかなり嫌だったら、控えるよう圧力をかけるべきだと思う」

最後の烈くんの発言はちょっと怖かった。

烈「冗談がわかる人で人の悪口を言わず、ボケツッコミがあってノリの良い人」
烈「そういう人が全くいなかった。おかしかった。変」
烈「でも、そういう人たちがいたから、零がこうなっちゃったのかもしれない」
烈「これも何もかも、コミュニケーションがヘタなヤツラが話してたからだ」
烈「勘違いされたくないのが、零は私の好きな友達じゃなくて、私が好きになった友達だ」
烈「意味の違いは、私がなんとなく好きだったのか、零の人柄が良かったのかの違いだ」
烈「零はしゃべらないけど、決して相手の悪口を言わずかつ面白かったから」

なんか、零くんのことを好きって言ったり暗くなっちゃったとか言ったり色々言っちゃう子だな。
当の零くんは、別に何も言われてないかのように普通に食を済ましている。
烈くんとは相対して、本当に感情の少ない子なんだなぁと思う。

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放課後。

惠「未夢ー!一緒に帰らない?」

未夢「ごめーん、ママに頼まれててこの後買い物が…」

惠「そっか。それじゃ仕方ないね」
惠「それじゃぁね!」
惠「…」

未夢「…?」

烈くんに一瞥していった気がするけど、気のせいかな?

烈「未夢さん」

未夢「え?う、うん、何?」

烈「この後、図書室に連れて行ってもらってもいいかな?」
烈「その、内田さんに相談しておきたいことがあるんだ…」

未夢「可菜ちゃんに?」

唐突に何だろう??全く想像がつかない。

未夢「それなら、可菜ちゃんは図書室に居ると思うから行ってくるといいよ?」

烈「でも、私と内田さんはそんなに仲良くないし…」

ああ、なるほど。

未夢「いいよ。じゃぁわたしは可菜ちゃんと一緒に買い物行こうかなーって」
未夢「どうせ閉館まで本読み続けてるんだろうけど…」

いつものことなので予想ができた。

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案の定、居た。

可菜「未夢ちゃん」

今回は、こちらの気配に一早く気付いて声を逆にかけてくれた。
もしこっちから声かけて、また本読みジャマしてると思われたらどうしようと思案していたところだ。

未夢「烈くんが、可菜ちゃんに相談したいことがあるって…」

可菜「そう」

パタン。ギィ。
可菜ちゃんは本を閉じて烈くんの方に向き直った。
特に訝しげにすることもなく当然のように。

可菜「それで話って?」

烈「あ、うん。えと、さっき、武乃邑さんに会ったんだ」

さっきの違和感のことか。わたしも横で話を聞いていた。

可菜「ええ」

烈「言うなと言われてるかもしれないけど、多分言われてないと思うけど」
烈「私に関する話が出なかった?」
烈「何も知らない武乃邑さんがあの子たちに色々吹き込まれたらしくて」
烈「最近私への態度が冷たいんだよね」

可菜「うん」

烈「色々と困るので…内田さんにまでそうなられると困るので…」

可菜「…考えすぎよ。私は何も聞いてないわ」
可菜「惠ちゃんも最初からあんな性格だから気のせいよ」

烈「そうか、考え過ぎか…」

可菜「…惠ちゃんも一生徒だからね。みんなの的にされたら敵わないのよ」
可菜「きっと。だから、察してあげて」

烈「えっ?それはどういう…」

つまり、烈くんたちを批判した子が惠ちゃんと普通に友達で色々話してて。
その話題をされたけど烈くんたちをフォローできなかった、ということだろう。
もしフォローしていたら彼らからもはぶられるかもしれないからだ。

可菜「まあ、私ならノリで一緒に未夢ちゃんの陰口叩いちゃうかも」

未夢「そんなこと本人の前で言わないでよ〜!」

可菜「うふふ」

でも、なんだかクラスが険悪なムードになりつつある気がする。
なんとかしなきゃなぁ、そう思った。

可菜「でもね、紅瀬くん。これだけは覚えておいて」
可菜「あなたの陳腐な世界観で全てを完結させてしまってはだめ」
可菜「この世の中にあなた以外の人間が存在して、それと関わって生きていく以上」
可菜「あなただけの価値観というのは通用しないの」
可菜「たくさんの人と話しなさい。とことん話しなさい。色んな人を考え方を知りなさい」
可菜「とことん話せる仲になるにはどうしたらいいか、とことん考えなさい」
可菜「本をたくさん読みなさい。先人の知恵を身に付けなさい」
可菜「その上で、それを超えるものを生み出す事を考えなさい」

ものすごいお説教が始まった。今まで我慢したものを吐き出すかのようだ。
でもその内容は、わたしにも言っているように聞こえた。

可菜「先輩に教えを乞いなさい。昔の先輩後輩っていうのはね」
可菜「なんでも言う事ききます。そのかわり、一人前にしてください!」
可菜「っていう、師弟関係みたいな感じだったから、びしばししごかれても何の疑問も感じなかったらしいわよ」
可菜「あなたも男なんだから、それぐらいの気合でぶつかっていけば、きっと気に入ってもらえると思うよ」
可菜「厳しい事、いろいろ言ったけど、あなたが何かを考えるきっかけになればいいと思います」
可菜「あなたが、この非常識な説教ですら素直に受け入れる事ができる人間性をお持ちであれば」
可菜「いつでも議論のお相手をして差し上げましょう」

可菜ちゃんは、わたしと同い年だよね?まるで昔の人、大先輩みたい。
本をたくさん読んでるから知識任せかな?
でも、言っていることにおよそ間違いはないと思った。
可菜ちゃん自身、自分が非常識な説教をしてると解って言ってる。
でもそれは何でだろう?わたしにはわからなかった。

烈「…」

烈くんは黙ったままだった。可菜ちゃんは尚も続ける。

可菜「惠ちゃんがそんな態度を取った言い分としては多分…」
可菜「『これ以上、こいつをかばい切れない。面倒を起こされちゃ困る』なわけ」
可菜「…私の言ってる事、最低だと思うでしょ。まあ、あなたからしたら敵なわけだし、仕方ないね…」
可菜「でも、あなたのために、言ってるって事だけはわかって」

可菜ちゃん、それはひどいよ。
でも、口が動いただけだった。なんで?
怖いから?でも続きが聞きたいから?
よくわからない。

可菜「とても苦しいとは思うけど、わたしはあなたじゃないから、あなたの苦しみはわからないの」
可菜「でも私はあなたと違う道生きてきたんだから、あなた以上にいろいろ辛い事経験してきたこともある」
可菜「お父さんが死んじゃったり、妹はグレちゃったりというのも結構辛そうでしょ?性格もこんなだし」
可菜「みんな辛いんだよ?辛くないように見える人は、あなたの知らない苦しみを乗り越えてきた人だから」
可菜「『自分だけ…』なんて思うのは、あなたが他人を知らないから」

――――。

言葉にならない声を自分の中であげた。
さらっと言ったけど、今ものすごく重要な秘密を知ってしまった。
可菜ちゃん、お父さん、いなかったの…?え…?なんで…?
その、嗚咽に近い悲鳴の言葉の数々は、誰に向けられてのものだっただろうか?
烈くん?わたし?それとも、可菜ちゃん自分自身に?

可菜「あいつの作業、結局みんなで分担して全部やりなおしじゃないか!なんでしっかり単位もらえるんだ?」
可菜「あいつのせいで休みがなくなった。俺の時間は誰が返してくれるんだ?」
可菜「あいつがやる気出るように、みんなで知恵を出し合って仕事を割り振ってるのに」
可菜「なんでやる気を見せてくれないんだ?」

わたしも昔、グループ作業でミスしてお願いしたことがある。
もし毎回そう思われてたのなら…少し怖くなった。

可菜「これでモチベーションが下がらない人間はかなりタフだよ…。何か大事な事が見えてこない?」
可菜「今まで考えもしなかった事を発見できない?」
可菜「ちょっとやそっとじゃなくて、頭から煙が出るぐらい考えるの!」
可菜「そろそろ目を覚まさないと。人様に迷惑をかけたら、確実に自分にも返ってくるんだから…」

可菜ちゃんも、そういうミスをしたことがあるのだろうか?
途中から、烈くんとは目線を話し、大きくつぶやくようにしてうつむきながら言った。

可菜「ちょっと話がそれたけど、そもそもどうしてこんな事態になったのか、真剣に考えてみたの?」
可菜「『弱気で人見知り』だから?あなたはこれで納得かしら?もしそうならとても深刻よ」
可菜「考える事をやめてしまったら、人間は他の動物となにも変わらないの」
可菜「そのまま行っても同じ事の繰り返し。前に進めないわよ」

わたしは考えることを途中でやめる。めんどくさ〜いってなる。
いつも彷徨に頼りきりだった。
自分のことを言われてる気がしてならなかった。
金縛りにあったように、体がしびれて直立して動かなかった。
拷問のように、その話をじっと聞いていた。

可菜「クラス一緒だったら、みんなと仲良くしなきゃだめだよね。そうじゃなきゃ、だめじゃない?」
可菜「もし自分に仲良くする能力が無いなら、自分の時間を削ってでも能力を獲得しなきゃならないと思うわ」
可菜「誰だって自分の好きな人とだけ話していたいわよ。でもね、まわりをしっかり見てごらんなさい」
可菜「みんなやることをきっちりやって、それに対する報酬を受けとってるの」
可菜「その報酬が、お金なのか時間なのか、はたまた気分なのかはわからないけど」
可菜「時間も管理して自分の時間を作って、その上で趣味を楽しんだり」
可菜「さらなる高みを目指して勉強や部活の腕を磨いたり」
可菜「もしかしたらやりたいことや夢を見つけて、そのために活動する人もいるかもしれないわね」
可菜「そういう人たちの視点で自分を見てみようよ」

怖い。でも、今のわたしたちでそこまで考えるだろうか?
少なくとも、可菜ちゃんは考えていたみたいだ。

可菜「紅瀬くんが来た時はみんなとても期待してたと思う。元気な人が来てクラスの活気がアップするってね」
可菜「ほとんどの人って、勉強ができるできないとか、あまり重要だとは思ってないよ」
可菜「特に新しい人の場合は楽しければそれでいいって」
可菜「でも紅瀬くんはそんな期待に応えられたのかな?」

烈くんの方を見てみた。
悲しむでも怒るでもない、じっと無表情に聞いていた。
それがまた、怖い。
この場から、動けない。
全てを、本当の空気の動きまでも可菜ちゃんに支配されたかのような気分になった。

可菜「ちょっと話し変るけど、紅瀬くんはこんな人、どう思う?」
可菜「暗くて消極的」
可菜「やる気を感じさせない」
可菜「責任感がない」
可菜「基本的なモラルが欠けている」
可菜「自分の事しか考えない」
可菜「こちらの言う事が理解できない。日本語の文法がおかしい」
可菜「自分の能力の低さに対する自覚がない」

可菜「認めたくないと思うけど、私が聞いた限りの話よ」
可菜「周りであなたと関わりのある人はあなたをこんな風に見てたみたい」

可菜「勝手にまとめると、『キモくて痛い』を極めた人なんだけど、自分でそれに気付かない人?」
可菜「全部ひとづてに聞いた事だから、多少のずれはあると思うし、ちょっと厳し目に言ってるつもり」

未夢「か、可菜ちゃんっ!それはちょっと、ひどすぎるよ!」

言葉に出す勇気を詮索する前に口が動き、声が出ていた。
この空気を破壊するのが怖かったけど、言わずにいられなかった。
その自分の声にわたし自身がはっとし、烈くんも目が覚めたようにはっとした。
放心していた?

烈「い、いいんだよ未夢さん。全部、内田さんの言う通りなんだから…」

可菜「それにしても、陰で人の悪口言いまくってるくせに」
可菜「いざ自分が痛いとこ突かれると縮みあがっちゃうんだね」
可菜「小学校低学年みたいな反論を期待してたけど…」
可菜「そんなに動揺するような事なの?」

可菜「そこは頭使って、言葉でやっつけなきゃ」
可菜「あ、でも、そもそも本当の事言ってるだけだから反論なんて無理よね…」
可菜「ちょっと大人気なかったかな…反省」

どうしたんだろう、可菜ちゃん。
まるで、人格が入れ替わったかのようだ。

可菜「忘れれば大丈夫ダヨ♪忘れる前にどっかにメモは取ってね」
可菜「ってかお気に召さない記憶は全部消してるんでしょ?いつもの事じゃん」
可菜「どうする?また小学生レベルの言葉で反論してみる?」
可菜「それとも、嫌らしい言葉で私を攻めてみる?私の日本語添削でサービスしちゃうけど??」

烈「うっ…!いやっ!ごめんね!色々ありがとうっ!」

未夢「あっ!」

烈くんはだっと走り去ってしまった。
泣き出しそうな、そんな顔だった。

未夢「可菜ちゃん、どうしちゃったの?」

明らかにいつもの可菜ちゃんではなかった。

可菜「…は…わ、私、最低だ…ね。紅瀬くんにあんなこと言っちゃった…なんで」
可菜「と、止められなかった。昔、私が言いたかったこと全部、紅瀬くんにぶつけちゃった」
可菜「私、紅瀬くんに嫌われちゃったよね?当然だよね、なんで…?」

取り残されたわたしを、反応しない物のように見ながらさめざめと懺悔をしだした可菜ちゃん。
可菜ちゃんの過去に、何があったんだろう?

可菜「ホントは、私がクラスで言われてたことなんだ…なのに…」
可菜「う…うっ…!」

わたしも色々あるけど、烈くんにも色々、可菜ちゃんにも色々…。

本当の嗚咽を漏らし、可菜ちゃんは泣き出してしまった。
それを宥められず、ただ見つめることしかできなかった。



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彷徨「ふぅ〜ん…そんなことがあったのか」

あの後、可菜ちゃんは一人にしてと言い残して、動かなくなった。
わたしは可菜ちゃんに構う事が出来ず、一人教室に戻ってきたのだ。
教室で待っていた彷徨と帰ることにした。

未夢「今度の土曜空けといて」

彷徨「はぁ?またなんで」

未夢「烈くんちにいく」

彷徨「いいけど、俺も?」

不思議そうにしながら彷徨は聞いた。

彷徨「まぁ、いいけど」

なんだかんだ付いてきてくれる。
それが、彷徨のいいところでもあった。

それから久しぶりに一緒に帰る時、彷徨が読んでる本の話になった。

彷徨「良く事件が起きるマンガあるけど、人死んでるのに皆冷静なのがおかしいよな」

見慣れてる人には違和感ないかもしれないけど、確かに言われてみればそうだ。
ここは如何にその気にさせるかなのかもしれないが、根本的にはよくないのかも。
実は幽霊だとか狐だとか、非現実的な事で許されて感動できるのはこれは例外なのかもしれないけど…。

彷徨「あと読者はさ、漫画の主人公がピンチなのをどう乗り越えるかを楽しみにしているのに」
彷徨「そこで覚醒したーっとか言う一発をやってしまったら」
彷徨「考えてない単純な話だな、最初からそのつもりかよ、ならなんで最初からやらないんだよ」
彷徨「みたいな話になる」

確かに…言われなければ素で流すか、それほど気にならない事だ。
気にしてちゃんと見るのは心の問題だからムズイ。

彷徨「きっかけを作るのに、どうしてそうなったのかの"理由"を明確にする必要があるよな」

未夢「そ、そうだね。彷徨アツイね」

彷徨「なんだよ、つまらなかったか?」

未夢「ごめん、こういう話題が来たときの対応とかまだ身についてなくて」

というより、まだ色々と頭の整理ができていなかった。

そんなとき、ポンっと頭に手を置かれた。

彷徨「なんかよくわからんけど、お前はがんばってるよ」

彷徨「だけど、頑張りすぎるな」

彷徨「そして、失敗しても、やったことに後悔はするな」

彷徨「悲しくても、俺が受け止めてやるから」

彷徨は、基本何もしない。けど、いつも見守ってくれてる。

本当は、甘えたい。だけどこれは、わたしがやりたいことだから。

未夢「わたし、がんばりすぎなのかな…」

彷徨「色んな人の色んな事情を、一人で抱え込むなってことだよ」

そういって頭に置かれた手は離れた。

最後に言われた、つまるところの意味はわからなかったけど、何となく少し気分が和らいだ気がした。

彷徨「ま、お前じゃ無理かもしんないけどな」

そういって、べっと舌を出した。

未夢「…むー!また彷徨はそういうことゆうー!」

彷徨「あっはは」

振り回した鞄はすっと避けられた。

けど、彷徨なりのわたしへの元気づけだったのかも。

確かに、わたしは困ってる人がいたら、自分のことのように心配しちゃうから、無理なのだ。

可能な限り、助けてあげたい。余計なお節介にならない程度に…。



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家に帰って部屋に戻ってから、クラスメイトの子たちのことを考えてた。


S君。
1年の時の自己紹介で、先輩に友人がいる、と言っていた。
授業中の一々の確認や、校長先生への批判をなくせば彼はいい感じだと思う。
授業中は寝ないし、課題は早い、わからなくても誰かに聞く。
資料作成とかもできるし、せっかくなのに色々勿体無い。

N君1号。
わたしは彼は何の問題もないと思ってる。
一般的な高校生と言ったところ。
あえて言うなれば、もう少し勉強を…と言いたいところ。人の事言えないけど。
でも人としての基本はできてると思うし、その辺りはもっと成長してから学んでも全然遅くないと思ってる。

N君2号。
根はとてもやさしくて、色んな物事も、理屈を通して吸収するし話していて楽しい。
ただ、考え方は、ちょっと改善の余地あり!かな。

N君3号。
字がきれい、大人しいけど舞台では緊張せず面白いことを言える。
わたしは誰かが背中を後押しすれば彼はできる!と思う。
必ずどこかで誰かが見ているという言葉を借りれば、わたしが彼を観ているということだと思う。
べ、別に好きとか、そういうのじゃないから。

N君4号。
何の問題もない。一番の成績、これが人間性を表してる!
あ、成績が全てってわけじゃないけどね。
肝心な時に寝坊したりするけど…とても良い人。

H君1号。
以前、ある子が真面目に勉強を教えてと言ってきたので、自習室でわたしも真面目に対応していた。
そこに、わたしに話しかけるわけでもなくわたしの方向へ大きな声で独り言を言うのです。
多分、彼の性格上構ってほしかったんだと思うけど、空気は読んでほしかったかなぁ。

迷惑だと言うより、教えた方がいいかな?と思い指摘してあげた。
その時、人を怒らすのが好きだとか、本気になれば周りは気にならないって言い負かされた。
最後にはわたしの言い方が良くないって言われちゃった。
最後わたしが無視しちゃったのは、彼の自業自得だと思う…。
前も、校長の話の感想提出で8割以上埋められていなかった。
過去6割程度の感想でハンコ通ったのを理由に、8割以上書くのを頑なに拒否してた。
できるところはできるのだけど、大きな穴が非常にもったいない…。

H君2号。
中学を中退してこっちに来た子みたいだけど、彼はかなりやる!
去年の授業で同じグループになったけど、わたしはあんまり進んでやれてなかった。
そしたらわたしへの信頼を落としていたみたい。
けどわたしが彼を誉めたら、最近は信頼が回復しているような気がする。

F君。
彼には色々思うところがある。
昔、親友がいたらしく、その人には『親友だから互いに助け合うのは当然だよな』と言われ続けたらしい。
それで性格が歪んでしまったように思う。
彼を黙らせるには、わたしたちがしっかりするしか。
一年の頃は、開口一番が「誰々さん」と可愛かったものだ。
けど今は実力をつけ、慣れてしまってからは調子がいいみたい。
一々逆らうところが子供っぽいけど、現実に周りがしっかりしてないといけない。
『こいつらについて行っていいのか心配だ』となめてくるのは普通のこと。
他の人が黙って色々やるので、そのことを好いているみたい。

B君。
かなりの人間性を誇っていると言える。
でも触れてはいけないと思うけど、彼の腕…。
一時期話したがっていたこともあったけど、過去に相当な思いをしたんだろう。
少し心配なところもある。
他の人も家とは色々あるし、いつか腹を割って色々話してみたいところだ。

H君3号。
彼はとても残念なところがある…。
幸い、普段はそれほど騒がないのでいい。
けど遅刻してきて授業の進行が止まる、課題をやらずに委員やグループに迷惑をかけるのはどうにも問題。
先生に3時間以上説教をされたみたいだけど、直らないようなので構わないことにした。
わたしも余裕がない。

M君。
わたしも中学時代は一番前の席で爆睡すると言う、素晴らしいことをしてたときがありました。
でも遅刻もサボりもしたことなくやることはやってたし。
騒いだりもせず、周りに迷惑をかけるほどではなかった…と思いたい!
けど、彼はやりすぎかな。特別な事情か病気があるみたいだけど…。
どう対応したら良いのだろう。

Mちゃん。
わたしが思う一番ニガテな子。
なんていうか、彼女に関しては完全に私情。
普段全く穴が見当たらないので、その分厄介。
痛いことしてるわけでも無し、無視されるっていうのは悲しいものだ。
別に仲が悪いわけじゃない。
お互いに性格か何かニガテなのか、彼女とはあまり口を聴いたことがない。
ものすごく大人しいのだ。
わたしが彼女に対して思っていることを、彼女がわたしに思っていることもあるだろう。
彼女と仲良くなりたくて、無意識的に考え事をしていて車にぶつかりそうになったこともある。
さて、どうしたものやら。

Y君。
彼はわたしと家が近いので色々話したことがある。
親御さんにぶたれたことがあるらしい。
その事情を聞くと、親御さんが彼を「どうしていいかわからなかった」だそうだ。
しかし今ならその親御さんの気持ちはわかる気がする。

彼はカードゲームをしているので、全国で年齢の上の人と話す機会があるようだ。
偏見だけどカードゲームをしまくっている年上の人、というのを想像する。
簡単極端に言うと、ニートさんに近いようなものだと思う。
そういう人と接し続けて、年上たちに対する信頼が薄れたのだろう。

中途半端にたくさんの経験をしているようなのでそれを信じ、周りの意見を吸収しにくい傾向があった。
また、中途半端に物理的な筋肉もある。
考えるのに疲れると手が出るみたい…。
色々考えることができるようなので話してはいるけど…。
わたしの表現が下手なせいか、どうも心には届かないみたい。
あと今一歩なんだけどね。

Yちゃん。
Mちゃんと共にわたしと一緒のグループだった。
その時に色々話しましたが、告白を70回以上滑って自分に自信をなくしてる。
あんた、70回も告白する勇気、わたしにも下さい。

1年の頃、わたしが課題回収をやっていたら「今課題やっているでしょ!」と何故か怒られたこともあった。
逆ギレはよくないよ〜。
たぶん、圧力をかけられていると思ったのだろーけど色々と考えにズレがあって、昔のわたしみたい。
わたしへの呼び方が、「ちゃん」から「さん」になってた。



わたしも色んな人に迷惑をかけた。
周りの失敗を観ていると、まるで自分を観ているよう。
過去にタイムスリップして、自分の過ちを止められないかなと思う。
もしかしたら今のわたしも昔のままかもしれない。

わたしがみんなに迷惑をかけているかもしれない。
けど全て、皆のためにもなればと思ってのこと。
かなりの越権行為だと思うけど、やりすぎないようにしてる。
みんなには、みんなの事情が…。
彼らは何を思って、烈くんにああ言ってしまったんだろう。
悲しみの、すれ違いだ…。

みんなのことを思いながら、冷えていく部屋の中で、眠りに落ちていった。