====================================== 友情、努力、勝利 ====================================== 

翌日。

授業が終わり、癖のようにいつもどおり部活へと向かった。

未夢「あれ?」

誰もいない。けど夏希ちゃんだけがポツンといた。

未夢「今日って、部活ないの?」

夏希「ええ、休みよ」

未夢「そだっけ」

イマイチ定休日がよくわからない。

未夢「夏希ちゃんは、何してるの?」

夏希「道具の点検と、色々管理」

未夢「そんな、わたしがやるよ」

夏希「今は腕も故障中だし、大丈夫よ、それにいつまでも未夢ちゃんに迷惑かけるわけにはいかないからね」

未夢「うう…わたしは用済みですか」

夏希「いやっ、そういうわけじゃないけど…」

夏希「点検とかはもう終わったから、いつもどおり、何か話そうよ」

誰もいないグラウンドの中、ポツリ二人でベンチに身を下ろした。

未夢「…英一くんは、来てないの?」

夏希「うん、来てないね」

未夢「そんな…あのあと愛を誓い合ったのに?」

夏希「してないからっ」

夏希ちゃんは慌てた。

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夏希「…昔の英一のことでさ」

夏希ちゃんはポツリポツリと話し出した。

夏希「3セットストレートでアウト取れてた」
夏希「だから、大して強くないと思ってた」
夏希「そんなやつに、何回も負けた」

夏希「でもね、負けたってことは向こうが強いと思うのが普通なんだろうけど」
夏希「今まで会った強いやつみたいにガン攻めでぶっつぶされると言うわけではなかったから」
夏希「そんなに強く感じなかったのだろーなー」

夏希「なんか適当にバントしてきやがる時もあったし」
夏希「それに引っかかって事故ってる自分にも腹立たしいけど」
夏希「こちらが落ち着くと向こうも落ち着くので、普通に強いんだろうって」
夏希「そう思わないと、腹が立って仕方がなかった」

夏希「相手何もしてないのに、殴りたい気分だったよ。全くもー」
夏希「負ける時は大抵読みが全部裏目だったり」
夏希「カーブが出なかったり、やってないつもりの球が暴発してたり」

夏希「おかげで、ストレス解消に2000円使って財布が空になって」
夏希「一週間分の飯代が…しかも今週買い物行ってないとかだったし」
夏希「どうやってストレス解消しようか?って思ってたよ」

英一くんのことを語ってる夏希ちゃんは、怒りながらもどこか充実そうで、饒舌だ。

未夢「あはは。今度、その分を英一くんにおごってもらいなよ」

夏希「それいーねー!」

あっははと笑う。

夏希「…私は腹が立つと血が騒ぐの」

未夢「なんと物騒なっ」

夏希「私の血はもちろん親譲り。父のが濃い。父は怒りん坊で仕方ない奴だよ」
夏希「私も激しい感情の持ち主。父はまだ無口なほうだったけど」
夏希「私はわがままも言わない大人しい子のつもりだったけど、おしゃべりは良くする方で」

未夢「うん」

夏希「いや、常々思うの」
夏希「いくつになっても、人とのコミュニケーションは大切だなぁって」

未夢「え?」

夏希「そして思うの」
夏希「私は、絶交を味わいたいために、人脈を築いたのではないのだと…」

未夢「…」

夏希「そんなことで、と思うものがあるとする」
夏希「例えるよ。昔クラスメイトから完全に無視される状態になったことがある」

未夢「そうなの…?」

夏希「その理由は憶測がついてる。でも、その内容がかなり小さいことなの!」
夏希「そんなことで?と思うけど、私もそう思われるようなことでその子を絶縁してた」
夏希「友達ってのは、自分がどうしようもなくなった時の最後の砦のようなもの」
夏希「とてつもないことが起こらない限り、っていうか」
夏希「起こったとしてもつながりを消すということはあり得ない」
夏希「じゃぁどうしてそうなったかというと、問題の回数がとてつもないから。内容じゃない」

未夢「…」

静かに聞いていた。夏希ちゃんは淡々と語る。

夏希「これを考えると、彼が私を避けた理由に納得が行かない」
夏希「とてつもなく嫌だったにしても、たったの1回で?」
夏希「どうして…?それは本当に致命的なことだったのか?」
夏希「1年経ってもわからず」
夏希「おそらく何年経ってもわからないし、忘れることはないだろう、そう思ってた」
夏希「それが、本当に大事なことだったのだから」

ああ、夏希ちゃんは本当に英一くんのことが好きだったんだな、と思った。
少し羨ましい。
わたしにも、夏希ちゃんほどの情熱があるだろうか。

夏希「でもね。それぐらいの価値が、彼にとってその時の私にあったのだろうか?」
夏希「私が余裕がないレベルの低さ故、そうしたことをする必要があったのかもしれない」
夏希「わたしが野球を続けてったら、英一が野球ができなくなったとか言って」
夏希「だから私が野球をやめたら、英一が野球をやるとか言い出して」
夏希「こんなこともあったのに、未夢ちゃんのおかげで…」
夏希「未夢ちゃん。本当に、ありがとう」

その場に何が足りないのかを瞬時に悟り、わたしは、その穴を拭う。
わたしは、その場にいない者になる。
足りないものを、補うために。
大げさだけど、世界に影響を与える種を幸せにしていこうと思う。
夏希ちゃんは、その種なのだ。

声「…そんなに思われて、幸か不幸か」

未夢「英一くん!」

英一「今日誰もいないな、休みなのか」

夏希「休みよ。どうしたのよ」


英一「入部しに来た」

夏希「昨日来なかったじゃないの」

英一「準備してたんだよ」

夏希「何を」

英一「色々だよ」

未夢「じゃぁ、これで正式に二人一緒だね」

夏希「正式にって何がよっ」

英一「夏希、一緒に甲子園に行こう」

夏希「!!」

それはある種のプロポーズのような言葉だった。

英一「ああ、でも、それはお前の最終目標じゃなかったな」

英一「お前を、その先の、プロ野球に連れてってやるよ」

英一「二年の冬から入るなんて遅すぎで、今年の夏まで短いけど…」

英一「よろしく」

英一くんは少し頭を下げながら手を出しだしてきた。

夏希「…こちらこそ、英一がいれば鬼に金棒よ」

未夢「ってことは、夏希ちゃんが鬼なんだ」

夏希「うっさい!がるるる」

未夢「うわぁ、やっぱ鬼だぁ」

畑中「夏希、待たせたな…ってお前!」

畑中くんが来るなり英一くんに突っかかった。

畑中「何でここに居んだ!」

英一「居ちゃ悪いか。俺も野球部員だ」

畑中「!!」

畑中「お、お前なんかに、夏希は渡さねーぞ!」

英一「…一昨日の告白を聞いてなかったか。夏希は俺のもんだ」

未夢「あんなこと仰っておられますが?お嬢様?」

言ってみて、夏希ちゃんが凄い可愛く思えてきた。

未夢「そういえば待たせたなって、畑中くんとどこか行くつもりだったの?」

英一「なに?」

未夢「デート?」

夏希「違うわよ!試合でボロになった備品とかあるから、買いに行くつもりだったの」

夏希「部費も出たし」

英一「ちょうどいい、俺も久々に見に行く」

夏希「久々って、あんたたまにそういう店行ってたんじゃなかったの」

英一「夏希と久々に」

夏希「まぁ確かに久々だけど、っていうか何で今まで一緒に行かなかったのよ」


英一「そんなんじゃねぇよ…ただ小っ恥ずかしかっただけだ」

夏希「何よそれ、私が今まで色々考えてたのがアホみたいじゃないのさ」

先の考えは取り越し苦労だったようだ。

畑中「おい…俺を放置するな」

夏希「ま、じゃぁせっかくだからこの四人で買い物して、ゲームセンターへ遊びに行きますか!」

未夢「えー」

畑中「おいっ!」

英一「俺は構わないけどな」

夏希「じゃぁ多数決で決まったので、行くわよ!」

畑中「待て!多数決で決まってないだろ!光月、いいのか!」

未夢「え、う、うん」

夏希「決まってるじゃないの」

畑中「だー!じゃぁさっきのえーは何だったんだよ!」

未夢「えっと…急だから驚いただけっていうか」

畑中「紛らわしいなもう!」

夏希「じゃぁあんたはゲームセンター来なくてもいいわよ」

畑中「ま、待て!俺も行く!」

夏希「多数決どころか満場一致じゃないの。ったく」

それからみんなで野球道具を売ってるスポーツ屋さんに行った。

こんなところが、こんなのがあるんだなぁって思った。

スポーツシューズとかも売ってた。

お金がなかったけど、これは普通に買ってもいいかなって思えるのがいくつかあった。

夏希ちゃんと一緒に、これがいいとかあれがいいとか、笑顔で話し合ってた。

ボロボロになったものの代わりの備品を買って用事を済ませた。

遊びに行くには荷物になるから、と夏希ちゃんが言って、一度学校に戻って、みんなで備品を整理した。

これから商店街でゲームセンターだ。

未夢「ゲームセンターなんてなんか久しぶり」

夏希「私もね。部活で全然行ってなかったし」

畑中「それなら俺もだな」

英一「俺は…入ってないけど通りすがってた」

夏希「全員久しぶりじゃないの」

夏希「じゃぁ何やる?UFOキャッチャーでいい?」

畑中「何やるって、自分で決めてるじゃねーかよ…いいけど」

英一「夏希、何が欲しい?俺が取ってやろう」

夏希「気持ちはうれしいけど、こういうのは自分で取って気持ちいいのよ」

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夏希「クレーンゲームって、縦かけのやつと、プッシュするやつと、ひもがけするやつがあるよね」

未夢「へぇ〜、色々あるんだね」

夏希「あえてむつかしい、プッシュするやつでいく!」

夏希「あ、あれ欲しい!」

見ると、可愛い桃色の時計だった。

夏希「よーし、これ取ってやる!」

未夢「これ、どうやるの?」

夏希ちゃんがプレイするのを見てた。

硝子盤の向こうに景品があり、そこに穴が空いている。

筒状のアームをその中に入れ、押し出して落とすゲームのようだ。

夏希「よし!もらった!」

こつ。

夏希「えー何あれ!ちょっとシビアすぎじゃないの!」

夏希「もっかい!」

コインが吸い込まれた。

アームを下ろし、横へ移動させる。

こつ。

夏希「…」

うな垂れていた。

そしてそれが何回か繰り返された。

夏希「よーし、こうなったら意地でも取ってやる!あんたたち、協力しなさい」

英一「おーけー」

畑中「お金が…」

夏希「あ、未夢ちゃんには、無理強いしないわ」

未夢「そんなこと言わないでよ、仲間はずれにしないでよ、大丈夫だよ!わたしが取ってあげるね!」

夏希「泣けるわ…」

夏希「とりあえず、もう絶対取るから!」

500円玉が挿入された!チャンス回数は1回おまけがついて6回に。

まずは引き続いて夏希ちゃんから。

こつ。

夏希「あーもう無理!あんたやりなさい!」

畑中「ええっ、俺かよ!いいのか?」

夏希「みんなで回してやりましょ。いいけど、取らなかったらひどいからね」

畑中「ひでっ」

こつ。

げしっ!

夏希ちゃんが畑中くんを蹴ってた。

夏希「英一頼む〜!」

こつ。

英一「やっべ…これむずいな」

夏希「未夢ちゃんもやってよ」

未夢「えー、仕方ないなぁ」

こつ。

未夢「うん、これ無理だわ」

英一「すまん、俺がコイン入れるよ…」

夏希「ええー、いいって私が勝手に欲しいだけだし」

そうして何回か繰り返され、畑中くんや英一くんのデカコインも吸い込まれていった。

そして英一くんが操作する。

英一「…」

スッ。

夏希「よーしやった!入っ…ええええーーー!?!?」

筒状のアームはピンポイントで穴に入り、時計を押し出したが、ラベルが引っかかって落ちなかった。


夏希「こんなのアリ!?」

英一「いや、大丈夫だろ、店員さんを呼んでくる」

畑中「まさかのラベルオチ…」

夏希「いや、落ちてないから!」

英一くんが店員さんを呼んできた。

店員さんが、大丈夫ですよ、と言って台のカバーを鍵で開け、それを英一くんに手渡した。

そして英一くんから夏希ちゃんへ。

英一「ほらよ。これが欲しかったんだろ」

ぽふっ。夏希ちゃんの手元へ渡された。

夏希「…」

夏希「英一、ありがとう、大切にする」

英一「何言ってんだ、大半はお前の小遣いが投入されてるぞ」

夏希「…えへへ」

夏希ちゃんは早速時計を身につけていた。

未夢「畑中くん、残念でしたなぁ、取れてたら夏希ちゃんにいい顔できたのに」

畑中「へんっ、そんな必要ねーよ」

そういってそっぽ向いてしまった。

未夢「あらら…」

天邪鬼なんだから。

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それから夏希ちゃんのいきなり提案でカラオケへ初めて行った。

みんな初めてだった。

色々食べ物も頼めたみたいで、おやつ代わりのおつまみを頼んだ。

もうすぐ夕食だけど…。

そしてカラオケを出た。

畑中「あーっ、疲れた」

夏希「初めてだったけど、楽しかったわね」

畑中「英一、お前選曲が古臭すぎるんだよ、演歌なんて…」

夏希「いいじゃない、英一の演歌、良かったよ」

英一「別に演歌だって新しいのいっぱいあるぞ…」

畑中「ぐっ…」

未夢「こんなに遊んじゃって、いいのかなぁ」

夏希「いいでしょ、たまには」

夏希「ね、未夢ちゃん、楽しかった?」

未夢「そりゃもう」

夏希「そうじゃなくて、野球」

未夢「え?う、うん、もちろんだよ」

夏希「良かった」

夏希「色々、未夢ちゃんのおかげだよ」

夏希「ありがとうね。私、未夢ちゃんと出会えて良かった」

未夢「そんなあ。水臭いよ。どうしたの突然、お別れみたいに」

夏希「多分、卒業まであっという間なんだなって思ったら、ついね」

夏希「未夢ちゃんと友達になれて良かったなって」


夏希「でもね、今手に入る友達は、きっと学校だけの仲じゃないんだ」

夏希「卒業して遠く離れてしまっても…」

夏希「それでも休みをあわせて会うような…」

夏希「そんな仲だと思いたいんだ」

夏希「みんな出世してさ…すごく忙しくなっても…」

夏希「職場の同僚との新しい居場所ができても…」

夏希「結婚して、子供ができて、家族を守るために精一杯でも…」

夏希「それでも私たちはきっと、顔を合わせれば笑いあってるんだ」

夏希「そんな友情は、今しかつかめない」

夏希「そんな気がしてるんだ」

夏希「だから、私はここにいる」

夏希「もう一年、最後までね…」

夏希「私ね…」

夏希「大切な時間、過ごしていく」

夏希「…ね、未夢ちゃん」

夏希「私たちはさ、いつまでも笑いあえる友達、かな?」

夏希「馬鹿をやりまくろうよ」

夏希「学生時代、馬鹿をやりまくった奴らは、一生縁が切れないから」

夏希「そんな奴がいるかどうかで、その後の人生…」

夏希「辛くっても、笑っていられるかどうかが決まると思うからね」


未夢「大丈夫だよ」

未夢「わたしたち、じゅーぶんおばかなことしたよ」

未夢「試合日なのに部員の人全員休みで、けどわたしの友達全員で代わりして」

未夢「しかもずっと離れてた英一くんも来て」

未夢「土壇場で勝っちゃうなんて」

未夢「今日だって、みんなと色々遊んだりしたんだし」

未夢「夏希ちゃんが将来有名になってなかなか話せなくなっても」

未夢「また、会えたら、嬉しいな」

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夏希「うん」

夏希「私、がんばるよ」
夏希「時代は移り行く…どんな思いを抱いていてさえ」
夏希「無情に、時は進んでゆくんだ」
夏希「立ち止まっていてはならない」
夏希「例えその先にどんな苦難が立ちふさがっていようとも」
夏希「私は超えてみせる」

夏希「だからその日まで…待っててね」

夏希「でも、今、この時だけは…」

繋がりを持ち、試合に勝ち、英一くんを手に入れた。

それは正しく、友情、努力、勝利、だ。

言ってみてすんごいオトコノコクサイけど。

それはそれでいいなって思った。

がんばって、幸せを掴み取ったんだ。

そのお手伝いを、お友達としてできたなら、それはとても嬉しい。

夏希「私、きっとプロ野球選手になってみせるよ」

その笑顔は、とてもまぶしかった。

夏希ちゃんなら、叶えるに違いない。



【EDCG】




夏希「よーしお前ら、今日たっぷり充電したし、備品も新品取り揃えたし、明日から特訓だからな」

畑中「なんだよ急に」

夏希「プロ野球選手になるんだ」

畑中「その前に甲子園だろ」

夏希「夢はでっかくないとね」

英一「安心しろ夏希、俺が連れて行ってやる」

夏希「あっはは。お願いね」

畑中「英一てめー!夏希を連れてくのは俺だ!」

英一「お前だけでは辛いだろう?」

畑中「おめーなんかいなくても俺一人でじゅーぶんだ!」

夏希「あっはは」

微笑ましい光景だった。

彼らならきっと困難も乗り越えていくんだろうなぁ。

その背中をそっと押せたなら、良かった。

夏希「よーし、出口までダッシュだ!」

英一「よし」

畑中「あ、おいっ、待てって!」

夏希「あっははっ!」