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 ====================================== 試合 ====================================== 

朝起きた。今日は試合の日だ。
だというのに、気分はいつもの平日と同じだった。
だけど、日曜なのに平日の感覚で起きたということは、意識しているのだろう。

未夢「そういや、服って私服でやるのかな?動きやすい服にしておかないと」





未夢「おはよう」

未来「おはよう。もう朝食の準備できてるわよ」



優「野球は、どこでやるんだい?この辺は河原とかないし…」

未夢「部活の子が、学校のグラウンド集合って言ってたから、学校じゃないかな…」

未来「それにしても未夢が運動部とはね〜。どういう風の吹き回し?」

わたしもなんだかよくわからないうちに活動していたので、苦笑いしかできなかった。

優「何時に行かなければいけないの?」

未夢「えっと、いつもどおりの9時だよ」


家族で他愛ない話しながら来た。ちょっとしたピクニック気分だ。

車で来ようと思ったけど、駐車場がないから電車で行くことにしたとはパパの談。

未夢「えーと、グラウンドに行けばいいのかな」



夏希「あー、未夢ちゃん!来たわね!」

おー、もう着替えてる。

未来「あら、可愛い部員さん。マネージャーの子?」

未夢「ち、違うよママ、キャプテンだよ」

未来「あら、そうなの!これは驚いたわ」

夏希「未夢ちゃん、そこは話してなかったんだ」

未夢「えへへ」

夏希「えっと、未夢ちゃんのお父さんお母さんですね!今日はありがとうございます!」

夏希「よろしくお願いします!」

夏希ちゃんは頭を下げた。

未来「こちらこそ、未夢をお願いね」

優「あの、僕は野球監督をやれるほどじゃないけど、大丈夫かい?」

夏希「はい!今日はムリをお願いして、すみません」

夏希「みんなを見てて、無理してそうだったら、えーと場所チェンジさせるとか声かけて下さい!」

代わりが居ないので、一瞬言いよどんだ。

場所をチェンジしても、どこにボールが行くかはわからないのだ。

最悪、中止で負けと言うことも…。

それでも、大怪我などに比べたら致し方ない。

夏希ちゃんだけでは、試合中はみんなのところへきっと目が行き届かないのだ。

それを監視して、大人の判断をお願いというものだ。

優「わかったよ」

パパの目つきが変わった。それなりにやる気になったようだ。

けどなんかカッコイイ!

未夢「他の皆は?」

夏希「直に来るんじゃないかな」

未夢「そういえば、試合は何時なの?」

夏希「昼の1時から3時くらいよ。練習試合だけど、9イニングやるから3時は越えるかもね」

優「うわ、それは、意外と長引きそうだな…」

未夢「そういえば夏希ちゃん、まだ9人目がいないよ…」

未来「え?人数、集まってないの?」

夏希「これから探せばいいわよ」

未夢「なんて無茶な…」

夏希「早くに来てもらってすみませんが、ご両親は保健室で待っていてもらえませんか」

夏希「中は開けてもらったので、入って下さい。すみません」

未来「わかったわ。大丈夫よ、日曜日だし、どうせ暇だったしね」

未来「パパ、行くわよ」

優「未夢、時間になったら呼んでね、じゃ」

そういって、ママたちは校舎内に入っていった。

未夢「昼からなら、もっと後の時間で良かったんじゃ」

夏希「朝の時間に練習できるでしょう?今日試合だし、少しでもやっておかないと」

この野球少女め。

夏希「それに、9人目も探さないとね」

未夢「でも、当てあるの?」

夏希「…」

悲しそうだったけど、口元は笑ってた。

夏希「当ては、決まってるでしょう?未夢ちゃんにはお願いしてたけど、さすがに投げやりすぎたか」

夏希「英一に頭下げに行くしかない」

やっぱり、それしかないか。

でもそれでYESを取れるなら、今まで苦労しなかったはずだ。

何かの心境で、心入れ替えてくれるのだろうか?

未夢「とりあえず、今日は英一くんはどこにいるの?」

夏希「わからない、とりあえず家の方探してみる」

未夢「ついていくよ」

夏希「ありがとう」

未夢「お願いされてたしね。全然できてなかったけど」

未夢「家は、わかってるの?」

夏希「大丈夫だよ、わかってる」

未夢「英一くんに、メールしたほうがいいんじゃないの?」

夏希「…アイツは、会わないときっと返事してくれないと思う」

未夢「…メアド、わからないとか?」

夏希「持ってるけど、きっと返事してくれない」

メールするだけすればいいのに。5秒で終わる。

5秒は言いすぎか。でもそれができないのは、きっと夏希ちゃんがトラウマを覚えているからだ。

怖いのだろう。また断られることが。

人は傷つくことを恐れて消極的になる。

あんなすごいボール投げれるのに、心は女子高生そのままだった。

それでも、返事を聞きに行こうとする足は確かなものだ。

会って聞いたほうが効果が高いから?

そんな感情的な理由でもない気がするけど、夏希ちゃんなりの行動なのだろう。

夏希「あっ」

英一「おっ」

道端で突然、英一くんに会った。

心の準備はできてなかったけど、夏希ちゃんはできていたようだ。

英一「なんだその格好。今日部活か?」

夏希「試合」

英一「え?」

夏希「今日、試合」

言葉ははっきりしていたけど、端的になっていた。

英一「なら早く戻れよ。こんなとこで何してんだ」

夏希「英一こそ、こんなところで何してるのよ」

英一「散歩。ってか、コンビニ行こうとしてたんだ。いいだろ、日曜日だし」

夏希「…」

夏希ちゃんは懇願するような顔をした。

英一「な、なんだよ、どうした」

夏希「英一、お願い!来て!」

英一「なんだよ。また俺頼みか?言ったろ、俺はもう野球やらないって」

夏希「ちっ、違うの!今日、人数足りないの」

英一「は?なんだ、どういうことだ、今日試合じゃないのか」

夏希「今日試合だけど、人数足らないの!」

英一「なんだ、どういうことだ、部活のみんなはどうした」

夏希「部活の皆は、都合でこれなくて…」

英一「それじゃ、俺一人が行っても仕方ないだろ」

夏希「でも昨日、がんばって人数集めたの!主に未夢ちゃんが!」

ずいっと出された。

夏希「未夢ちゃんが五人集めてくれたの!私、畑中、未夢ちゃん、あと一人なの!」

英一「お前…」

未夢「えへへ」

未夢「英一くん、お願い、夏希ちゃんに協力してあげて」

未夢「英一くん、夏希ちゃんのこと、好きなんでしょ?」

英一「なっ、お前、なんでそれを…」

夏希「…」

夏希ちゃんは恥ずかしがるでもなく、英一くんを見つめていた。本気なのだ。

夏希「あとは、英一しかいないの!お願い…」

英一「じゃ、じゃぁその残り一人も、そいつに頼めばいいだろう」

英一「野球をやめた俺には関係ない」

未夢「ちょっと!そんな言い方ないじゃない、夏希ちゃんこんなに一生懸命なのに」

夏希「いいよ、未夢ちゃん。英一がそういうんなら…」

未夢「えっ」

急に消極的になってしまった。

夏希「行こ」

未夢「ええっ、ちょっ」

引っ張られるように、英一くんから遠ざかった。

英一「…」



未夢「ちょ、ちょっとちょっと!どこ行くの夏希ちゃん」

夏希「あ、あれ、はは、おかしいな、英一にもっと強引に来てもらうつもりだったのに」

泣いてた。

断られた時に、昔のことを思い出したんだろうか。

でも、それはそうだろう。

想い人に断られたのだ。

その痛みは、知る由もない…。

夏希「…あとでもっかいお願いしてみるよ」

未夢「夏希ちゃん…」

望み薄だ。

出てはいけない言葉が、思い浮かんだ。幸い、外には出ていない。

わたしが、もっとどうにかしてやればよかったんだろうか。

でも、どうやって?

選択肢によって、未来は幾通りにも変わる。

正解の未来だけを先読みし、その答えを持ってきたかった。

けど、そんなことはできないのだ。

だから、当たり前だけど、人は苦しむ。

英一くんは、夏希ちゃんにとっての希望のはずなのだ。

その、一番のダイヤモンドを、一度は手にし、そして落としてしまい、二度と手に入らないのだ。

なんとかしてあげたいのに、わからない。

思考がループした。

============================================================================

グラウンドに戻ってきたら、みんなが来ていた。

パパとママも出てきていた。

未来「グラウンド見てたら、みんなが来てたので、もしやと思って声をかけたのよ」

畑中「あー夏希!お前どこ行ってたんだよ、呼びかけておいて」

夏希「ごめんごめん、ちょっと野暮用」

夏希ちゃんは、もう元気だった。

畑中「…」

夏希「みんな!ユニフォームがあるから、ロッカーで着替えて!」

彷徨「汚いのじゃないだろうな。イヤだぞ、他人の汗臭いのなんか」

夏希「ちゃんと洗濯して洗ってあるわよ」

いつの間に。昨日の今日なのに。

可菜「未夢ちゃん、行こっ」


惠「しっかし、まさかこんなことになるとはなぁ」

惠「そういえば未夢はどこ行ってたんだ?」

未夢「ちょ、ちょっとね…」

可菜「そういえばまだ人数集まってなかったんだっけ」

どきっ。

惠「まぁなんとかなるんだろ。えーと、好きな大きさのやつ選んでいいのか…」

可菜「ねぇ、これって男子用のやつなのかな…」

夏希「言い忘れてたけど、それちゃんと女子用のよ」

未夢「夏希ちゃん」

夏希「着替えたら、おいでね!」

それだけ言って、去って行った。

惠「Mでいいや」

可菜「じゃぁ私はSかな」

惠「SとM」

可菜「ほっほう」

がしっ。

惠ちゃんが突然、可菜ちゃんの手を掴んで押し始めた。

可菜「なんなのっ」

惠「攻めと守り」

可菜「それなら逆でしょっ」

未夢「二人とも、早く着替えなよ〜」


惠「ふーむ、こんなもんか」

可菜「惠ちゃん、カッコイイっ、似合ってるよ!」

惠「可菜も、可愛いぞ」

可菜「ありがとうっ」

惠「未夢、は…」

未夢「…」

惠「うん、なんか、普通に着こなしてるな」

可菜「未夢ちゃん、可愛いよ」

未夢「あっはは、ありがとう」

なんだか、もう慣れてしまった。

まだ一週間ちょっとなのに。



グラウンドに戻ると、男子陣は既に出てきていた。

烈「おー」

惠「なんだよ」

烈「同じ服なのに、女子が着てると何故かまた新鮮」

惠「体操服の部活版みたいなもんだろ」

未夢「彷徨はなんか、もう普通に野球部やっちゃったら?」

彷徨「バスケがあるから無理だ…」

夏希「よーし、みんな、着替えたわね」

夏希「とりあえず、現状だと、草野球感は否めないわ」

夏希「私が何とか抑えても、後半は守備の影響でがんがん点取られる可能性だってある」

夏希「取られなくても取れなきゃ意味ないのと同じだから、試合までに打つ練習するわよ!」

夏希「もちろん守備の練習もするけど、本番では、急がなくていいから暴投だけは止めてね」

惠「なんだそれ?」

可菜「例えば一塁にボールを投げたつもりでも、手元のコントロールが狂って全然違う方向に投げちゃうこと」

可菜「ボールを拾いに行ってる間に、走者に進まれてしまうのよ」

夏希「そ。でも暴投さえなければ、セーフにはなるかもだけどそれ以上進まれることはないわ」

夏希「あと、無理しなくていいから、怪我だけはしないで!今日は、みんなの代わりはいないの!」

惠「ま、臨時だから、こんなこというと悪いが、命かけるほどじゃないからな」

惠「でも一生懸命やるぜ!」

夏希「助かるわ。よろしくね!」

夏希「じゃー、打つ人意外はてきとーに内野外野に広がってー。打つ人は私が呼ぶわ」

烈「じゃー私また外行くー」

夏希「じゃー、まず、どーしよかな、惠ちゃん!」

惠「お、あたしからか。どこに打とうかな〜」

わたしは三塁側にいた。ボールあんまり来なさそうだし。

おっ、惠ちゃん空ぶっててる。怒ってる。夏希ちゃん笑ってる。

曲がる球でも投げたのかな。

カァンっ。

ボールは打たれた。わたしの左で遥か上に上がって飛んでいった。

烈くんが追いかけるも間に合わず。数バウンドしたボールを拾って一塁へ送球、楽々セーフ。

そういや、こうして試合形式で練習に参加したことなかったな。

試合当日直前で初めての練習かぁ。

次は零くんだ。惠ちゃんはそのまま塁に残る。

人数がいないから、守りが手薄になっていく。

外の左と、ピッチャー越えた先の二塁間はがら空きだ。

カァン。

一、二塁間に激しい打球が飛んでいったが、一塁を守っていた彷徨が飛びついてボールを取った。

怪我しないようにって言ったのに、真面目な彷徨はあれは無意識に飛びついたな。

惠ちゃんはびっくりして戻った。彷徨は飛びついて守ったからすぐに一塁に戻れず、惠ちゃんはセーフ。

零くんは二塁の守備に戻った。本来の守りの位置ではなく、二塁にいる。

彷徨も、わたしもベースにべったりだ。

次は可菜ちゃんが呼ばれた。

おっ、可菜ちゃん、成果を見せるとき。

カンッ。

おっ、上手く飛ばした!

夏希「未夢ちゃん!」

未夢「え?」

あ、そうだった。バントの処理は三塁の役目っ。

畑中「いい!俺が取る!」

畑中くんは素早く一塁にボールを送った。

可菜ちゃんは一生懸命走ってたけど、アウトになってしまった。

勘が良く、走り出してた惠ちゃんは二塁に進行。

可菜「ナイス、惠ちゃん!」

惠「あたぼうよ!」

夏希「やるわね!惠ちゃんったら、いつの間に。以心伝心でもしてるのかしら」

次は彷徨だ。大きく飛ばすのかな。

カキン!

未夢「おおー」

思わず声が出るほど高く上がった。夏希ちゃんの頭上を飛び越えて烈くんの後ろへ…。

と思ったら烈くんはすでにかなり下がっていて、ボールをキャッチ。

抜けると思っていた惠ちゃんは、ほぼ三塁付近まで来ていた。

急いで戻るも、カバーしに来ていた零くんがボールを取ってアウト。

彷徨「あいつ、いつの間にあんなところへ」

夏希「ナイスよ!紅瀬くん!」

場は振りだしへ。

夏希「あんた打ちなさい」

次は畑中くんだ、キャッチャーは彷徨と交代するようだ。

カンッ。

誰もいない一塁間を抜け、ヒット。けど烈くんがすぐ取ったため、畑中くんは一塁でストップ。

夏希「ちっ、ずる賢いやつめ」

可菜ちゃんはレフトを、惠ちゃんはショートを守っていた。

惠「あっち守ったほうがいいな」

惠ちゃんは一塁へ。

夏希「未夢ちゃーん、出番よー」

わたしの出番だ。

夏希ちゃんがボールを投げる。

シュッ

ズバン!

彷徨「ストライク!未夢、腰が引けてるぞ」

未夢「わ、わかってるわよ!」

条件反射で答えただけで、実はよくわかってない。

夏希ちゃん、練習の時より全然速い。練習試合を模した感じで投げてるのだ。

ここは、練習した成果を見せて、畑中くんを送ろう!

カンっ。

未夢「あっ」

確かに三塁側に打てたけど、ちょっとピッチャー方向に浮かせてしまった。

全力ダッシュ!夏希ちゃんはワンバウンド後キャッチ、二塁へ送球。

零くんが素早く一塁へ投げて惠ちゃんが捕球。

夏希「やった!ゲッツーね!みんなやるじゃない!ワクワクしてきたわ!」

夏希「未夢ちゃん!残念だったわね!次は上手くやりなさいよ!」

夏希ちゃんが凄い嬉しそうにニッカリしてた。なんか、悔しい!

畑中「初心者相手にムキになって全力かよ…」

夏希「いいじゃない!球は全力じゃないわよ。でも誰にでも本気でプレイしないとね!」

夏希「次ー!烈くんよー!こっち来なさーい!」

烈「私の番ー?」

烈くんが駆けつけてきた。

カンッ。

畑中くんがボールを取って一塁へ送球。アウト。

夏希「ちょっとー!一人でバントしてどーすんのよー!」

烈「いやーあっはは…あんな小さい的、打てる気しなくてさ」


みんな一通り打ったけど、それからも同じように回して練習してた。
順番は変えてたけど。
満塁になったら守備どうするんだろうとか思ってたけど、なかなかそうはならなかった。
それはある意味、わたしたちの攻撃力が低いかもしれないことを示唆していた。
もしくは、戦法がそもそもそれを狙っていないか。
強打者の間にバントを挟む形になって、塁は進めても逆に必ずワンアウト取られるという形。
ある意味、win-winというやつだ。
試合でwin-winって言う表現はおかしいけど。
今は試合じゃないからアウトの数は気にしていなかったけど、それでも中々得点できなかった。
…と思ったら一度だけ満塁になった!得点のチャンス。
惠ちゃん、畑中くん、零くんが塁に居て、満を持しての彷徨。
烈くんはキャッチャーに呼ばれてた。
可菜ちゃんは代わりにセンターへ。
惠「未夢、こんなとこに居ていいのか?ボール、飛んでくかもしれないぞ」
三塁に居た惠ちゃんが話しかけてきた。
未夢「そんなこと言ったら、向こう行けばこっちに打たれるかもしれないじゃない〜」
夏希「大丈夫よ未夢ちゃん!打たせないからね」
夏希「…」
ごくり。行く末を見守る。
カァーン!
夏希ちゃんがすぐ後ろを見上げた。
すごい飛んでった。可菜ちゃんの頭上を超えてった。
惠「おっほほ!やりぃ。ただーいまっと」
夏希「あーあ、打たれちゃったか」
畑中「夏希ー!何やってんだよー!」
ぷんすこしてた。走りながら。
今は練習だからいいけど、攻めてるのに相手投手に怒るという状況がシュールだった。
夏希「仕方ないじゃない、紅瀬くんには私の変化球教えてないんだし」
夏希「全力で投げるの、禁止なんでしょう?」
彷徨「そうだ。だから、ストレートのストライクに絞れたから打てたんだ」
未夢「彷徨」
もう三塁まで来てた。
可菜ちゃんが投げてくれたボールを受け取った。中継してホームに投げることもない。
たっち。
彷徨「…何してんだよ。ベース踏んでるから、セーフだぞ」
未夢「えへへ、なんとなく」
彷徨「だから、全力と変化球混ぜられたら、俺なんかじゃ全然打てないよ」
未夢「でもさすがだね」
彷徨「だからそんなことないって」
未夢「でも、わたしにはあそこまで打てないよ?」
彷徨「…っ。お前は、もうちょっとがんばれ」
夏希「こらーっ、そこーっ!いい機会だからっていちゃいちゃしないの!」
怒ってる方が約一名。他にもいるかも。
惠「見せつけんなよーっ」
何故か喜んでる方が約一名。
未夢「いっ、いちゃついてないよ!見せつけてまーせーんー!早く、プレイボーイ!」
彷徨「…それいうならプレイボールな。あとガールもいるから…」
未夢「…」
手を上げたまま固まった。
夏希「未夢ちゃーん!あなたの出番よーっ!」
彷徨「ほら、呼ばれてるぞ」
未夢「わかってるわよ!」
バッターボックスに入った。
未夢「全く、彷徨ったら子供扱いして…」
なんとなくかっかしてたので、バントの気分にならなかったから右打席だ。
打てるかわからないけど、打ってやる!
夏希ちゃんが振りかぶった…ら、突如、彷徨が走ってきた!
夏希「ホームスチール!?なめないで…よっ!」
未夢「ひゃっ」
ズバン!
思いの外、球が早くて怖気づいてしまった。
体が縮こまって、目を閉じる。
烈「愚か者め!未夢さん、もといホームは私が守る!」
彷徨「未夢、どけっ」
未夢「え?ひゃああ!」
ずざーっ。
彷徨が頭から飛び込んできた。
わたしはとっさのことに動けず、固まるだけだった。
夏希「…」
彷徨の手はホームに触れていたが、烈くんのグローブも彷徨の体に触れていた。
烈「よーし!多分アウト〜」
夏希「はぁっ。そうね。よし」
アウトになってしまったようだ。
彷徨「…だからどけって言ったのに、未夢」
彷徨はわたしの足に抱きつくように突撃しにきていた。
未夢「しっ、仕方ないじゃない、急に突っ込んできたから、びっくりしてっ」
未夢「動けなくなっちゃったんだから」
夏希「ちょっと〜西遠寺く〜ん?」
夏希「いくら未夢ちゃんが好きだからって、時と場所弁えずに抱きつきに行くことないでしょ」
彷徨「へいへい…取れるかと思ったんだよ」
夏希「まぁそりゃ意表突かれたけどね」
とりあえず、彷徨、わたしの足に抱きつきに来たことは否定せんのかい。
未夢「…とりあえず、離れて欲しいんだけど」
彷徨「ん?ああ」
彷徨はユニフォームについた砂を払うように、ポンポンっとやった。
夏希「とにかくっ、試合では勝手にあんな無茶なこと、しないでよ」
彷徨「今回はやってみたくなっただけだよ、わかってる」
夏希「…ま、ホントに行けそうな時は、任せるわ」
あれ、意外と寛容だった。
さて、気を取り直して、わたしの番だ。
ベースには誰もいないから、バントすることもない。
思いっきり振ってみた。
すかっ。
バシッ!
畑中「光月、見てから対応できないなら、来る球の軌道を予め予測して、決めつけろ」
いつの間にか烈くんから交代して、キャッチャーに戻ってた畑中くんがアドバイスをくれた。
畑中「打者が3割しか打てないのは、見てから全てに対応できないからだ」
畑中「だから、テストにかける山と同じだよ」
畑中「多分ここに来ると思って振ってみろ」
未夢「う、うん。ありがとう、やってみる」
そいや、彷徨も予測してたとか言ってたな。よーし。
ここっ!
ぶんっ!
ばしっ。
未夢「あれ!?」
思わず振り返った。
畑中「あちゃー、力が足りなくて腕があがってないな」
畑中「足りない分も考えて、腕を余計に上げてそれも予想に加えるんだ」
未夢「ひーん、色々応用むつかしいよぉ〜」
畑中「光月ならできるさ。西遠寺にだってできたんだ」
未夢「そりゃ〜彷徨なら…」
彷徨ならできると確かに思ったけど、だからわたしにはできないとは思いたくなかった。
この高校だって、彷徨と同じ成績じゃないけど、がんばって入ったんだ。
きっとわたしにもっ…。
カァンッ!
未夢「あっ」
あんな硬い球が早く飛んで来てるのに、あんなに的小さいのに、案外当たって飛ぶんだな。
そんな感想だった。
未夢「やった!畑中くん、打てたよ!」
畑中「…ばか、走れ」
未夢「あ」
忘れてた。
走り出したところ、上がったボールを可菜ちゃんが取ってた。
夏希「バント組の中では、よくやった方よ、未夢ちゃん」
未夢「バント組て…」
夏希「今回は残念だったけど、この調子でがんばってよね!」
最初は全然だめだったかもしれないけど、こうして自信ついて少しずつ良くなっていくのかなと思った。
未夢「うん!」

畑中「夏希よ、ちょっと…」
夏希「ん?」
畑中くんが夏希ちゃんのもとに寄った。
わたし、なんか問題あるのかな…。
畑中「もうそろそろ試合の時間だぞ…」
そっちだった。
夏希「そうね。じゃあみんなお昼にしましょう!」
畑中「いやそうじゃなくて…」
可菜「どうしたの?」
散っていたみんなが集まってきた。
夏希「もうそろそろお昼ねって話」
彷徨「もうそんな時間か」
惠「昼寝?」
可菜「お昼よ、お昼」
烈「そいやお腹空いたよ、朝からなんにも食べてない」
未夢「烈くん、朝ごはん食べてなかったんだ」
夏希「でもそりゃそうでしょ、あれだけ走ってたら」
彷徨「それで、昼飯どうするんだ?」
夏希「とりあえず、寒いし、校舎の中に入りましょ」
昼とは言え、真冬ということを忘れていた。今更手がかじかんできた。
必死な時は、体が意識を調整してくれているという。
落ち着いた今、必死状態から解放されて、本来の意識が戻ってきたのだ。
未夢「さっむ…」
畑中「おい、ちょっと…」
夏希ちゃんはみんなを引き連れて校舎に入って行った。
未夢「わたしたちも、行こう」
畑中「まだ人数が…」
それか。
畑中「…光月。俺たちが来るまで、何かあったな?」
鋭い人だ。
畑中「英一は、誘えたのか?」
未夢「ううん、断られちゃった」
未夢「でも、大丈夫だよ、きっと。夏希ちゃん平気みたいだし、何か策が…」
畑中「…馬鹿。ねぇよそんなもん。ありゃただのやせ我慢だ。本当は、わかってるんだろう?」
うん。そうだ。自分でも、わからないフリに気付こうとしてなかっただけなのだ。多分。
畑中「あいつはまっすぐ過ぎるからな。壁は壊して進むタイプだ。回り道をしない」
畑中「ボールを投げる方は今のところそれで何とかなってるかもしれない」
畑中「けど、他はどうだろうな」
それだけ言い残して、畑中くんもその場を後にした。

ガチャ。
未夢「ママ」
未来「あら。野球、終わったの?」
未夢「ううん、練習だけ。もうすぐお昼だし」
未来「そうなの」
未夢「それでね、お昼どうしよっかなって」
未来「大丈夫よ、みんなの分も持ってきたわ」
一同「ええっ」
用意周到すぎ。
そこには6つの大きな弁当箱が。
正月か。
彷徨「でも、さすがに10人分はないな…未来さんと優さんのも加えて」
未来「私たちは食べなくても大丈夫よ」
惠「いやいや、申し訳なさすぎて飯が喉を通りませんって」
隣の可菜ちゃんも、うんうんと首を縦に振って同意していた。
夏希「私は、これで充分よ」
パリっ。
おにぎりだ。
未来「そんな。食べてって」
夏希「ありがとうございまーふ」
畑中「夏希よ、遠慮というものをだな…」
彷徨「でもみんなが水増ししたら足りそうだな」

惠「それがいいさね」
彷徨「畑中、俺たちはコンビニで少し買ってくるぞ」
畑中「…はぁ、仕方ないな」
惠「行ってきまーす」
可菜「未夢ちゃん、また後でね」
烈「カルピース買うぞー」
零「…」
行ってしまった。
未来「いいって言ったのに」
夏希「みんな、いい子なんですよ」
未来「あら、じゃああなたは悪い子?」
夏希「そうかも、しれません」
そういって、タコさんウィンナーを口に運んでいた。
夏希「すみません、自己紹介がまだでした。五十嵐夏希です」
未来「五十嵐夏希ちゃんね。未来です。未夢がいつもお世話になってるわね」
夏希「いえいえ!こちらもたくさんお世話してもらいました!ね?未夢ちゃん」
未夢「ま、まぁね」
大半、話聞いてただけだったような。
夏希「そういえば、未来さんって宇宙飛行士ですよね!?あの有名な!」
未来「もう3年前だけどね」
夏希「いえいえ!すごいです!こんなとこで、有名人に会えるなんて!」
夏希ちゃんは興奮していた。
夏希「握手して下さい!」
未来「ええ、もちろんよ」
未来「あら、柔らかいけど、なんだか硬い手」
ママはびっくりしていた。
未来「あ、ごめんなさいね。驚いてしまって」
未来「女の子なのに、硬い手なんて言われて、嬉しくないわよね」
夏希「そんなことないですよ!勲章みたいなものです」
夏希ちゃんは笑い飛ばしていた。
優「五十嵐さんは、どうして野球を始めたんだい?」
夏希「夏希でいいですよ、下の名前の方が気に入ってるんです!」
優「じゃぁ夏希ちゃん、夏希ちゃんは、どうして野球をやりたいって思ったの?」
夏希「初めは、仲の良い友達の相手をして遊んでただけだったんです」
夏希「でもそれが野球で、あいつはプロ野球に行くっていうから、私もついていこうと思って…」
未来「それって、さっきの、えーと、畑中くんって呼ばれてた子?」
夏希「違います!あいつなんかじゃないです」
膨れてた。
未来「その子は、今日は来てないの?」
夏希「色々と行き違いがあって…私のせいなんです!」
夏希「でも、私が続けてれば、きっとあいつも元に戻って…!」
未来「…そう」
ママはそれ以上深くは聞かなかった。
未来「望み、叶うといいわね」
夏希「はい!」
彷徨「…ただいまー。お、何話してたんだ?」
未夢「彷徨!早かったんだね」
彷徨「ちょっと買いに行っただけだからな」
未夢「その格好のまま行ったの?お金は?」
彷徨「ああ、ロッカーから持っていったよ」
未来「彷徨くんおかえり。未夢の料理が下手って話してたのよ」
未夢「そんな話、一言もしてないよ!?」
夏希「あっはっは!」
優「君も人のことは言えないだろう…?」
未来「聞いた?未夢、パパがみんなの私への好感度下げようとしたわ」
未夢「それは今ママがわたしにしようとしたじゃないですか…」
夏希「未夢ちゃんのお父さんって料理作れるんですか!?すごい!」
優「優です。大体作れるよ!」
夏希「すごいです!今度教えて下さい!」
優「未夢のお友達なら、こんな可愛い子なら大歓迎だよ」
未来「聞いた?未夢、パパったら未夢から浮気宣言よ」
優「色々違うから」
夏希「未夢ちゃん、未来さんって面白いね」
未夢「あっはは…」
彷徨「食事、ここで取るのか?地面で…」
保健室の床で風呂敷を敷いて弁当箱を広げているけど、床は冷たかった。
夏希「食堂を使いましょう。誰もいないけど、開いてるわ」
惠「最初からそこにしてればよかったな」
夏希「仕方ないじゃない、みんな、さっさと行っちゃうし」
夏希「勝手に行ってたら、あなたたちわからないでしょ」
畑中「それはお前がここで食べ出すからで…」
未夢「まぁまぁ、食堂行こうよ〜」
みんながぞろぞろと動き出す。
未来「私、ここで広げちゃまずかった?」
虚しい独り言に、パパが、大丈夫だよとフォローしていた。



誰もいない食堂でみんなで、わたしたちだけで食べた。貸切だ。
みんな、自分が買ってきたものを主に食べ、ママが作ってきたお弁当箱の中身をつまみにする。
みんなでわいのわいの食べた。
烈くんが欲しがってたものを零くんが先に食べちゃって、烈くんが怒ってたり。
惠ちゃんは呆れてて、夏希ちゃんは笑ってた。
楽しいな。側にはママとパパもいる。
最初から、ずっとこうだったら良かったな。
どこか、昔懐かしい気持ちを叶えた気分になった。

畑中「それで夏希よ、いい加減9人目を探さないといけないぞ」
未来「9人目?人数集まってないの?」
惠「そいやぁ、集まってないんだっけ」
畑中「このままじゃ、部活ごっこしただけで終わるぞ」
夏希「そうね、みんな聞いて」
夏希「9人目を仲間に入れないといけないの」
夏希「そいつは、昔私と一緒に野球やってた同級生よ」
惠「そんなやついたんだ、早く連れてこれば良かったのに」
夏希「でも今は、私のせいで野球ができなくなってるの」
惠「ん?どういうことだ?」
可菜「わけありってことね…それで、私たちはどうすればいいの?」
夏希「みんなついてきて欲しいの」
夏希「部員のみんなが無理でも、試合できなさそうでも、どうしても野球したいって」
畑中「やっぱ、策は無しか…」
夏希「でも、野球やってない子でもこんなに楽しくやってくれるって見せたら、きっとあいつも…!」
彷徨「でも、その様子だともう誘ったんだろ?」
彷徨「今更俺たちみたいな知らないやつが出てっても、無理じゃないか?」
夏希「…っ!」
痛いところを突かれた。
彷徨の、現実的ネガティブ指摘。
それは、言っても仕方の無い、けど紛れもない事実で、一番想像に容易いことだった。
夏希「…でも私は諦めないわ、諦めたくない、最後の一秒まで」
彷徨「なんでそんなムキなんだよ、練習試合なら休んでも支障はないだろう」
彷徨「まだ3年の夏だってあるし、部員のみんなも戻って…」
夏希「今野球やりたいのっ!!」
彷徨「…」
惠「…!」
烈「…!」

一際大きい声だった。
その何らかの思いを各々がどのように受け止めたかはわからない。
みんな静かになった。
畑中「…こいつ馬鹿だけどさ、野球にだけは、そんじょそこらのやつとは情熱が違う」
畑中「夏希は女だ。プロにはなれないかもしれない。だから、今しかないんだよ」
彷徨「でも、それなら、趣味でやるとか、あるだろ…」
夏希「それじゃ、ダメなのよ…」
彷徨「何をそんな急いて…心臓病でもあるのか?」
夏希「…」
冗談とも本気ともつかない彷徨の質問に、夏希ちゃんは黙り込んだ。
畑中「ま、さっきも言ったけど、こいつ馬鹿だけど」
畑中「男でも嫉妬するくらい、情熱あんだ」
畑中「そこは好きだから、俺は馬鹿でもついてくぜ」
夏希「畑中、あんた…」
惠「そうだなぁ、このまま部活ごっこ呼ばわりは、嫌だなぁ」
可菜「そうだよ、せっかくここまでやったのに」
惠「昨日の今日だけどな」
烈「でも、私もせっかくだし、今日は目一杯試合したいよ!」
零「…!」
夏希「みんな…」
未夢「彷徨どーするう?かなりアウェーみたいだけど」
未夢「もちろん、わたしは最初から夏希ちゃんの味方だからね!」
彷徨「わかったよ、どーせ変わらないんだろ…」
未夢「最初からそーしてればいーのに」
彷徨「俺も、お前のばかなところが好きになってたの忘れてたよ」
未夢「ばかは余計でしょっ」
彷徨「何も残らなくなるぞ」
未夢「そいつを好きになってるの、どこの誰よ?」
彷徨「うぐっ…」
未夢「あっはは」
惠「あの、唐突にイチャつくの、やめてくれない?」
可菜「惠ちゃんに一票」
烈「未夢さんの淫乱〜」
未夢「い、淫乱じゃないわよ!烈くん変なこと言わないでよ」
烈「わー、未夢さんが怒った」
夏希「あっはは…」
未来「青春って、いいわねえ…」
優「君も大概だったんだろ…宝晶さんから聞いてたよ…」
優「『瞳が、親友が熱すぎてやけどする』って」
未来「そう?」
未夢「とりあえず、そうと決まれば行くよ!」
未夢「英一くんのところへ!」
未夢「ママたちは、保健室で待ってて」
未夢「色々振り回して、ごめんね」


未来「大丈夫よ。私たちだって今まで散々自分勝手したんだから」
未来「今度は未夢がしたっていいのよ」
未来「それを、元気な未夢たちを眺めてるだけでも、ママたち楽しいわ」
未夢「ママ…」
中学時代のわたしたちも、けっこー自分勝手してたけど、それは言わないでおいた。
未来「それに、ママたちは、ごめんねより聞きたいことがあるわ」
未夢「?」
未来「おべんと、おいしかった?」
未夢「…」
未夢「うんっ!ママ、パパ、ホントにありがとうっ!」
未来「はいはい、良かったわ。それじゃ、早く行ってらっしゃいな、時間ないんでしょう?」
未夢「夏希ちゃん、行こうっ」
彷徨「未来さん、優さん、ごちそーさまでした」
惠「っしたー!」
可菜「ありがとうございました」
烈「おいしかったです!」
零「ごちそーさまでした…」
畑中「どうも、ありがとうございます」
未夢「ほら、夏希ちゃんもっ」
夏希「あ、あのっ」
未来「はい」
夏希「行ってきます!」
未来「行ってらっしゃい」
畑中「ばか、そこは飯の礼をだな…」
夏希「何よ!今から行くんだから、いいでしょ…」

未来「…パパ、若いっていいわねえ…」
優「僕は、そんな老けた気分じゃないんだけどね…」


夏希「未夢ちゃんのお母さん、すごい寛容ね」
夏希「朝から来てもらってたのに、振り回しちゃってるだけで」
夏希「わたしたちがいたから怒らなかっただけかな?」
それだったら怖いけど、そんなんでもなかった。

彷徨「で、どこに行くんだ?そいつは今日どこにいるんだ?」
未夢「えと、変わってなければ、多分コンビニかと…」
彷徨「…お前の話は、いつもよくわからん…」
未夢「何よー、ホントのことなんだからー」
彷徨「まぁ、結論先に言ってくれるのはありがたいんだけどな…」
未夢「いーんじゃないのよ〜」
彷徨「で、五十嵐、そいつはコンビニに居るのか?」
未夢「信じてない〜」
夏希「多分ね」
惠「みんなでこのカッコで街に行くのはちょっとハズいな」
可菜「ホントの野球部みたいに見えちゃうね」
商店街のコンビニに着いた。
さっき会ったところからの最寄りだ。
まだ居るならきっと…。
まだ居たー!
夏希「行くわよ」
未夢「えっ、夏希ちゃん、ちょっと」

店員「いらっしゃいませー」
ぞろぞろとユニフォーム姿の人が入っていった。
英一くんは雑誌を立ち読みしていた。
夏希「英一」
英一「またお前っかっ」
こっちを見るなり驚いた。
それはそうだろう、ユニフォーム姿がたくさんなのだ。
夏希「英一、お願いっ、きてっ!」
英一「ま、待て待て、ここじゃ人目につく、表に出よう」
英一「で、また、何なんだ」
夏希「英一、お願い、試合に出てっ!」
英一「またそれか。言ったろ、俺は野球やらないって」
夏希「私はやりたい。部員のみんなが無理でも、人数集めたよ!こんなにも!」
夏希ちゃんはばっと手を広げた。みんなのことだ。
未夢「確かにわたしが集めたけど、わたしを仲間にしたのは夏希ちゃんだよ」
未夢「だから、これも夏希ちゃんの力だよ」
夏希「お願い!英一!野球やろうよ!一緒に!あの頃みたいに…っ!」
英一「俺は…ダメだ」
夏希「なんでっ、どうしてよっ!」
英一「俺には…もう、そんな資格、ない…お前の誘いを断ったのに、俺は…」
夏希「それでも英一がいいの!一緒に居たいの!一緒にやってよ!」
惠「おー」
惠ちゃんが呟いた。
惠「お前さー、何があったか知らんけど、女の子にそこまで言わせちゃダメだろー」
可菜「そうよそうよ!ハァハァ」
未夢「可菜ちゃん可菜ちゃん、鼻血、鼻血出てるから拭こう、ね」
烈「女の子泣かせちゃ、いけないんだぞ!」
惠「しっかし、ありゃゾッコンだね、畑中、おめー報われねーな」
畑中「うるっせ、俺はいいんだよ!あいつの側に居られれば」
惠「健気すぎて泣けるわー」
英一「俺、は…」
彷徨「…ダメだ。戻ろう。ここまで言ってもやる気出ないやつに、何を言っても無駄だ」
彷徨「無理やり連れても、迷惑かけるし、こっちも迷惑だ」
彷徨はどうしても正論をぶつけてしまう。
それが、話をややこしくすることもあった。
けどそれは正しく正論で、他にもう策がないことの証明だった。
英一「俺、は…」
彷徨「みんな、戻ろう。対戦相手に、お詫びしに行かなければいけない」
惠「えー、このまま何もしないで負けで終わりなのかー?」
烈「不戦勝っすか」
惠「相手がな。それいうなら不戦敗な」
惠「おいお前ーっ、お前のせいで負けになるんだからなー」
惠「昨日と今日の分の慰謝料払えよー」
可菜「お金、お金…じゅるり」
未夢「可菜ちゃん、鼻血とよだれでひどいことに…」
英一「俺は…関係ないだろ」
彷徨「お前…鷹見英一だな」
英一「ああ」
彷徨「お前、野球上手いって聞いてた」
英一「ああ」
彷徨「何があったか知らんが、五十嵐は毎日がんばってたよ、多分だがな」
彷徨「自分のためだけじゃない、自分たちの、お前も含めて、だ」
英一「…!」
彷徨「お前、五十嵐のこと、好きなんだろう?」
彷徨「もっと、素直になれよ…」
英一「…何も知らないくせに…」
彷徨「ああわからん。でも、素直になった方が、幸せだぞ?後悔しないためにな…」
英一「…」

肩に手を置かれた。
未夢「?  英一くんに何を言ってたの?」
可菜ちゃんの顔拭いてて気づかなかった。
夏希ちゃんは、英一くんの胸を掴んで、俯いたまま。
彷徨「行くぞ」
惠「ぶーぶー」
惠ちゃんは、なんかぶーぶー言ってた。
夏希ちゃんも諦めて、力なく歩き始めた。


夏希ちゃんはいつになく元気がない。
それは、英一くんに断られたのが、今生の断絶のようなものに感じられたからだと思う。
みんなと共に、とぼとぼと歩いて行く夏希ちゃんを見送って思い、英一くんに話しかけた。

未夢「無理強いするんじゃなくて、単純な疑問だけど…」
未夢「どうして、そこまで断るの?」
英一「お前には言ったかもしれないが…あいつは俺に告ったことがある」
英一「その時、俺は断った。そしたら、夏希は野球をしなくなった」
英一「だけど中学になったら、逆転したんだ」
英一「あいつのいない数年間は、長かった」
英一「今度は俺が告ったけど、断られたよ」
英一「その時は、野球がしたいからって言ってたけど、俺は自分の中でこう自答したよ」
英一「都合良過ぎだって。虫がよすぎる話をしたんだって」
英一「それからは、俺が野球をできなくなったんだ」
英一「一応、高校に入るまでは何とか続けてたけど、心中はそうじゃなかった」
英一「高校に入った時は腕を買われたけど」
英一「あいつもいると聞いて、部活はやめてしまったよ」
英一「なんていうのかな、うしろめたいのかもな」
英一「別にあいつに着いてったわけじゃない」
英一「けど、野球を続けることが、あいつの側に居たいためだと思うとな…」
英一「そんな気持ちじゃプロには成れないと思って、やめてしまったよ」
英一「だから、俺にはもう野球をやる資格なんかないんだ」
これは、彼自身の心の落としつけ方の問題だろう。
一種の、トラウマのようなものなのだ。

未夢「…人が何をやるかなんて、それぞれだけど」
未夢「別に、いいじゃない」
未夢「大切な人の側に居るために続けることだって、立派な理由だよ」
未夢「むしろ、それが一番大切なんだと思うよ」
未夢「わたしも、こんなこというと恥ずかしいけど、特に目的はなくて」
未夢「でも彷徨と一緒にいたいから、受験がんばれたよ」
未夢「依存してるって思われるかもしれないけど、そうじゃないの」
未夢「この人といると楽しい、だから助けたいし助けられたいって」
未夢「ココロからそう思うだけなんだよ」
未夢「前はどうだったかわからないけど」
未夢「少なくとも今は夏希ちゃんは英一くんを必要としてるよ」
未夢「だから、英一くんも、夏希ちゃんを必要としていいんだよ」
未夢「だから、夏希ちゃんのために、ううん」
未夢「夏希ちゃんだけじゃなく、英一くん自身のためにも、野球をがんばっていいんだよ」
未夢「野球のためじゃなく、自分のために夏希ちゃんといることが、きっと野球のためになるよ」
未夢「…なんだか、何が言いたいのか、よくわかんなくなっちゃったな」
未夢「だから、今日が無理でも、いつか、夏希ちゃんを、自分を許してあげてね」
それだけ言って、わたしもみんなを追いかけた。
英一「…」

惠「あーあー、マジかよー、せっかくここまで練習したのになー」
惠「なんだよあいつ、なんかよくわからんこと言って無理だとか」
惠「殴ってやれば良かったよ」
可菜「まぁまぁ」
畑中「で、夏希よ、どうするんだ」
夏希「それこそ、仕方ないんじゃない。西遠寺くんの言う通り、相手に謝るしかないわ」
畑中「そんなあっけらかんと…あれだけやりたいって言ってたのに」
夏希「やることやって無理だったんだから、どうしようもないじゃないの」
夏希「人の心は…動かせないということよ」
わかってる。夏希ちゃんは笑ってるけど、心は泣いているだろう。
努力しても無理なものがあった。
それは人の心だと、挫折しているのだ。
彷徨「…何か言ってきたのか?」
未夢「…ううん」
彷徨「…そうか。後は、あいつらの問題だからな」
確かにそうかもしれない。他人の、閉じられた問題なのだ。
けど、他人だったわたしと彷徨を繋ぎとめたのも、言わば他人だったのだ。
本当に、人の心は動かないんだろうか?
そんなことはないと、根拠もなしに、子供のように思った。
少しの働きかけで、そこで選択肢が現れ、未来は行く通りにも分岐する。
わたしも、その、架け橋になりたかった。
それが、わたしにできる、小さなことなんだ。



グラウンドに戻った。相手のチームの人が来てた。
パパとママも出て来て対応してた。
未夢「パパ、ママっ、ごめんね」
未来「ああ、未夢、大丈夫よ」


こっちが集まったら、向こうも集まり、整列した。
向こうには監督がいるようだけど、審判も一緒にきているようだ。
相手の一番右端にいる、一際背の高い人が言った。キャプテンだろうか。
大将「ん?そちらの人数が少ないようだが…」
夏希「実は今整列したのは、今から試合の挨拶をするためじゃないの」
大将「なにっ?」
夏希「せっかく来てくれたのに悪いんだけど、選手の都合が悪くて、人数揃わなかったの」
大将「そうなのか」
夏希「だから悪いわね。ごめんなさい。申し訳ないけど、今回は不戦で私たちの負…」
声「待ったぁーーーーー!!!!!」
正門の向こうからとてつもなく大きな声がした。
英一「はぁっ、はぁっ…」
夏希「えーいち!なんで…!」
英一「悪いな、遅れちまったよ、ということで試合開始だ!やろーぜ!」
大将「わかったよ。お前後で着替えろよ。よろしくお願いします!!」
相手一同「「よろしくお願いします!!」」
夏希「あっ、あ…よろしくお願いします!!」
みんな「「よろしくお願いします!!」」
夏希「あ、あんた、どーして…」
英一「気が変わったよ」
英一「俺は、お前と居たいために野球をやりたいと思ってた」
英一「それは不純だと思ってた」
英一「でも正直、野球自体はやりたいんだ」
英一「後悔はしたくないって、思った」
英一「だから、それが生半可な気持ちなのか、この試合で確かめる!」
英一「負けたら、きっぱり辞めるよ」
夏希「英一…」
英一「ま、でも誘われて協力してやるのは、否めないからな」
夏希「へへっ、この天邪鬼め!」
夏希「でも…協力してくれてっ…ありがとっ…!」



============================================================================


英一「喜ぶのはまだ早い。試合に勝ってからだ」

英一「それと、試合に勝ったら、俺の言うことなんでも聞いてもらうぞ」

夏希「…っ。わかったわ」

何を言うつもりだろう。俺に二度と近づくな、とかなのだろうか。


惠「ったく、マジで天邪鬼だよ!不戦敗かとヒヤヒヤしたっつーの!」
英一「ヒーローは遅れてくるっていうだろう」
惠「マジムカつくやつ…」
畑中「だろ?」
夏希「とにかく、着替えてらっしゃいよ。あんたの、まだ置いてあるからっ」

============================================================================

夏希「そういえば誰がどの位置を守るか、どういう順番で打つかをまだ決めてなかったわね」

彷徨「おいおい、もう決めてるのかと思ったけど、直前でそんなんでいいのか…」

可菜「はいっ」

可菜ちゃんが何故か手をあげた。変なスイッチが入ったらしい。

可菜「私、1番目打ちたいっ」

なんか、多少興奮しているような様子で希望を夏希ちゃんに告げた。

夏希「はい、じゃぁ可菜ちゃん1番」

畑中「ええーっ!?そんな適当でいいのかよ!?」

さっそく異議あり。

夏希「いいじゃない。1番やりたいって言ってるんだから打たせましょうよ」

畑中「ええ…いつもシビアな夏希が壊れた」

夏希「だって、もし負けたとしても別に成績には関係ないし」



夏希「勝つのも絶対だけど、みんなでがんばって楽しむことが重要なのよ」

夏希「チームワークってのはそういうもんでしょう?」

畑中「…」

なんか適当なようでちゃんと考えてるんだなぁと思った。

零「五十嵐の言うとおりだ。やる気を削がないようにした方がいい」

夏希「じゃぁ次2番!」

烈「はいはーい!私打ちたいです!」

夏希「じゃぁ紅瀬くん2番ね」

畑中「…」

これでいいのかと言わんばかりの表情をしながら、見過ごすことしかできない畑中くんが佇んでいた。

烈「零の金的をこう…カキーン」

夏希「3番はー?」

烈「流さないで…」

尚も流すチームメイト。流すべきだとの空気を感じ取り、受信した!

惠「じゃぁあたしが3番やるよ。こんなこと滅多にないし、打たせてもらおうかな」

夏希「惠ちゃん3番ねー」

夏希「じゃぁ次4番ー」

要の4番。でも夏希ちゃんは同じような調子で聞いていく。

英一「…俺が打つ」

着替えて出てきた英一くんが言った。

希望の星が躍り出た。

夏希「おっ!英一か!頼んだわよ!4番!」

その割には適当に決めようとしてませんでしたか。
この結果も、夏希ちゃんは読んでいるのだろうか。
わたしたちは彼女の手のひらの上で踊っているのか。

コンビは久しぶり?のはずなのに、夏希ちゃんはもういつも通りかのように接してた。
昔の絆は、廃れることはないというような。


畑中「いくら昔すごかったからとはいえ、こんなにブランクがあってすぐ打てるのか?」

夏希「じゃぁ私がその後をフォローするわよ。私5番ね」

畑中「ええっ!お、ちょい!待てよ!お前はピッチャーだろうが!ふざけるのもたいがいにしろって!」

慌てふためくようにして諭そうとする畑中くん。

夏希「じゃぁあんたが私のフォローしなさいよ。畑中6番」

とんとん拍子で順番が決まっていく…

畑中「うう…もう好きにしてくれ…」

彼の思いは虚しく届かない。

夏希「えーと、次は何番だっけ…7番ね…」

零「…」

零くんが無言で一歩前に出た。7番にするという意思表示だろう。

夏希「闇無くん?7番打ちたいのね?ありがとねー」

夏希ちゃんはどんどん表に名前を書き込んでいく。

残りは彷徨とわたしだ。

彷徨「なんか俺めんどくて打ちたくないなー。いざ頼られても困る」

未夢「ええっ!順当に行ったらここは彷徨でしょ!」

すでに順当でない気もするけど、彷徨がわたしより役に立てないとは思わない。

夏希「西遠寺くん拒否の意思表示により消去法で未夢ちゃんが8番に決まりましたー。わーぱちぱち」

未夢「ええーっ」

なに、このいい加減なノリの良さ。

彷徨「これで責任を課せられることもない。けど来たら精一杯打とう」

未夢「打とうとか言うなら自分から4番選びなさいよ!」

こうして、順番が決まった。



夏希「次は守るところね…私はピッチャーだから相棒は畑中で決まりね」

畑中「よっしゃ!」

畑中くんは利き手をグローブにバシンと叩いて、気合いを入れた。
ここはさすがに予想通りだったらしい。

夏希「うーん、未夢ちゃんは一塁かなー」

畑中「おいおい、一塁はよく送るところだぞ」

夏希「うーん、でも三塁間抜けられたりバントされたりしたら嫌だしねー」
夏希「どっちもどっちだし、それなら勘かなって」

未夢「うう…勘で決められては責任重いです…」

泣きながら異議あり。

夏希「大丈夫よ。未夢ちゃんならここ数日でキャッチングの技術バカ伸びしたし!」

バカ伸びって…。

夏希「ということで英一、三塁お願いね」

英一「わかった」

なんだかんだいってスムーズに決まっていく。夏希ちゃんはリーダーの素質があるんだな。…多分。

夏希「うーん、西遠寺くん中堅任せられる?」

彷徨「オーケー、わかった」

畑中「センターは大変だぞ?」

彷徨「いつもバスケで走ってるからな」

夏希「えーと、あと残ってるのが左右と二塁、遊撃か…」

どうでもいいけど、夏希ちゃんは場所を日本語で言うのが好きだなぁ。
普通、ショートとかじゃないのかな。

夏希「闇無くん、遊撃お願いできる?」

零「…」

零くんはコクっとうなずいた。本当に無口だなぁ。
もし試合に勝って興奮最絶頂に至ったら、どうなるんだろう。
見てみたい気もする。

烈「はいはーい!私、零の隣がいい!」

夏希「そう?じゃぁ紅瀬くんは二塁お願いね」

夏希ちゃんは気軽にみんなにお願いしていく。
その人柄の良さが、夏希ちゃんをリーダーにさせていったのかもしれないな。

烈「零の隣なら、全部零がやってくれるよ」

零「仕事しろ」

烈「する時はするけどっ、仕事の究極は仕事をしないことだよ!」

恵「紅瀬と闇無はいつも一緒だな。お母さんと一緒みたいだぞ」

夏希「残りは左右ね。どっちでもいいから、恵ちゃん左ね」

惠「どっちでもいいってなんだよっ」

可菜「じゃぁ私は反対がいい」

きっと烈くんと零くんが隣のことに対しての揶揄だろう。

惠「反対がいいってそこしかないんだよっ!しかも反対がいいって、仲悪そうに言うなっ」



夏希「みんなありがとねーおかげでスムーズに全部決まったわ」

かなりの無理やり感が否めないが、早く終わったのは事実。


夏希「ふむふむ、今のオーダー、こんな感じね」

1番 右手(ライト) 内田 可菜
2番 二塁(セカンド) 紅瀬 烈
3番 左手(レフト) 武乃邑 恵
4番 三塁(サード) 鷹見 英一
5番 一投(ピッチャー) 五十嵐 夏希
6番 捕手(キャッチャー) 畑中 広志
7番 遊撃(ショート) 闇無 零
8番 一塁(ファースト) 光月 未夢
9番 中堅(センター) 西遠寺 彷徨











未夢「彷徨最後ってのが、すっごい違和感あるわね…」

夏希「いいじゃない、下位打線もなめるなってことよ!」

============================================================================



烈「みんな円陣組もうよ!肩組んで下向くやつ!」
惠「嫌だよ!なんだよ下向くやつって」
夏希「おっ、乙なこというわね紅瀬くん!いいわよ、やりましょう!」
惠「やるのかよ!そこは空気読んで、やるなよ!」
烈「空気読んで集団いじめしないでよ!」
零くん、烈くん、可菜ちゃん、惠ちゃん、わたし、彷徨、畑中くん、夏希ちゃん、英一くん。
その順に肩を組み、円陣を組んだ。

夏希「『勝てばいい』」
夏希「たった5文字の言葉に、どれだけの意味が込められていることか」
夏希「溜まった愚痴もストレスも、勝ちさえすれば出てこないはず」
夏希「卑怯な手を使おうが、こつこつ努力しようが、方法は何でもいい」
夏希「勝てば」
惠「うおーいなんか今変なの混じりましたぞー」
未夢「スポーツマンシップに則って、正々堂々と」
夏希「てへ」
夏希「どうでもいーけど、私らウーマンだよね。どーでもいくないか」
未夢「ま、まぁそうだけど」
夏希「じゃあ、スポーツウーマンシップに則って、卑怯に…!」
未夢「これこれ」



夏希「昨日今日しか練習してないけど!みんな部員のみんなより強いから!」
彷徨「それどうなんだ…」
未夢「あっはは…」
夏希「多分!」
夏希ちゃんなりの褒め方だろう。
夏希「みんなと一緒なら勝てる!」
夏希「ゆくぞ!」
烈「おー!」
惠「よっしゃー!」
可菜「…おー…!」
夏希「バラバラー!もっかい!せーのっ!」
みんな「「おおー!!」」
気合が入った!わたしたちの、試合が始まる!


どっちが先に攻めるか、先攻後攻はどうやって決めるのかと思ったら、大将同士のじゃんけんだった。
こちらが勝って、先攻にしたようだ。

審判「プレイボール!」

 ====================================== 一回 ====================================== 

夏希「一番は可菜ちゃんね。何も気にせず、思いっきり振ってきなさい!」
可菜「よーし」
未夢「そういえば可菜ちゃん、あんまり振って打つ練習してないような…」
夏希「気にしない気にしない!」
未来「そういえば、私たちはここにいればいいの?」
未夢「わっ」
そういえば、忘れてた。
わたしたちが居るのは3塁側だ。
夏希「はい!基本的に私と未夢ちゃんがみんなを見てますけど」
わたしがマネージャーなの忘れてた。
いつの間にか、ふつーに選手なんですけど。
夏希「守りの時とか、周りに目が行き届かない時、優さんにはみんなを見ていてほしいのです!」
優「わかったよ。三塁コーチみたいなもんかな」
未来「私は何をしてればいいの…」
夏希「えと…未夢ちゃんの代わりに応援したり、お茶やタオル出してあげて下さい!」
未来「わかったわ。ふれー、ふれー、み・ん・な♪」
気の抜ける応援だった。
バーン!
審判「ストラーイク!」
ワー!パチパチ!
試合の始まりの合図のように盛り上がった。
夏希「可菜ちゃん、リラックスー!」
彷徨「相手の球、そんなに速くないな…?」
夏希「そうねー」
夏希「本気じゃないだろうし、練習試合だから一番は本番に備えて隠してるだろうから」
夏希「まぁ100キロ強以上、くらいかな?」
未夢「そうなんだ…」
それでもわたしにとっては、高速道路の標識数字をオーバーした、かなり速いスピードだと思った。
知識は確かにそう思っているのに、感覚はそうじゃなかった。
夏希ちゃんの球を見続けたから、目が、球の速い方に慣れたのだ。

英一「速くても遅くても関係ない…打つ」
夏希「期待してるわよ」
言葉少なだった。
カンッ!
おっ、可菜ちゃん、打ったっ?
けど、ショートゴロだった。
可菜「ごめんね〜。ヒットできなかったよ」
夏希「可菜ちゃんよく打った!」
夏希「女の子が1〜2日練習しただけで、練習試合に出てくる男子の球に当てたのよ!」
夏希「これはもう、勝ったも同然ね!」
可菜「そ、そうかな…えへへ」
すごい持ち上げようだった。
夏希「火あぶり、蜂の巣よ!ひっひっひ…!」
キャプテンに邪悪な笑いが立ち込めていた。
烈「次は私の番だね!行ってくるー」
夏希「紅瀬くん!可菜ちゃんもちゃんと当てたんだから、がんばってね!」
烈「努力するよ!」
彷徨「そいやぁ、なんだかんだいい打順になったな」
彷徨「バント勢が最初で、4番付近はバスターが集まってるもんな」
夏希「4番付近がバント勢でも、意表を突いて面白かったかもね」
彷徨「そんな面白半分でいいのか。負けたら鷹見は…」
夏希「わかってるわよ。どんな形であっても勝つ運命は変わらないのよ」
彷徨「なんなんだ、その自信…」
確かに。
でもリーダーがあんな平気そうだと、見てるこっちも安心する。
それがたとえ根拠のないものだったとしても。
むしろ、根拠がないならそれは圧倒的な力を感じるのだ。
夏希ちゃんの球は、相手にどこまで通用するのだろう。
夏希「だって!女の子ばかりだけど、こんな個性的なメンバーが集まったのよ!」
夏希「ワクワクせずに、いられないじゃないの」
彷徨「個性的ね…はは。まぁ確かに」
夏希「しかも、種目違いでも別のキャプテンが来てるのよ。西遠寺くん、期待してるわよ」
彷徨「俺なんか全然だって。未夢の方が面白い結果になる」
未夢「いつのまに面白いこと目指してることになってるのよっ。失礼ね」
夏希「あっはは。じゃ、未夢ちゃんにはそれを期待しようかな〜」
未夢「夏希ちゃんまで〜」

烈「どーん!」

カンッ

烈くんは、ボールを叩きつけるように打った。

ボールがバウンドして高く上がる。

夏希「あの子…!あんな技術あるんなら、まともに打ちなさいよ…!」

烈「ドラゴン…ブーストー!」

男子「何っ!速!」

ボールが高く上がって落ちてくる間に、烈くん猛ダッシュ!

投手「うわっ!眩しい!」

ボールは高く上がって、落ちてくるときに、太陽の光と重なった。

投手「くっ…」

相手の人がボールをキャッチして投げようとした時、烈くんは既に二塁に近づいていた。

烈「へっへーん。はぁっはぁっ」

夏希「あの子ヤバいわね…結構欲しくなってきちゃったんだけど」

惠「欲しい!?なんてエロティックな…」

夏希「選手としてってことよ!」

惠「あ、そっちか」




惠「さて、あたしの出番か」
夏希「惠ちゃん、よろしくね!」
惠「あたぼうよ!」
惠ちゃん、なんて頼りになるんだ。
一球目は見送った。ボール。
夏希「選球眼もあるなんて。惠ちゃんて何者?」
未夢「軽音部のボーカルだよ…」
夏希「種類的には文化部だけど、舞台で歌うんだから運動部みたいなものよね」
カァンッ!
左の方へ高く上がった。けどレフトの人がほぼその位置でボールをキャッチ。レフトフライだ。
烈「ちょっとー!私を帰してよー!」
惠「あちゃー、上手く当たったと思ったんだけどなー飛んでった位置が悪かったか」
夏希「あれは打たされたわね」
未夢「打たされる?」
夏希「打ちやすそうな真っ直ぐの球に見えて、実は回転かけてたり、相手の苦手なコースだったり」
夏希「そうすると、大抵野手が居るところにボールが飛んで行くようになるのよ」
未夢「へえ〜」
英一「…」
英一くんがバットを持って静かに立ち上がった。
夏希「えーいち!頼んだわよ」
英一「…おう」
未夢「…」

静かに見守る…。

見送った!
審判「ストラーイク!」
夏希「当てが外れたかな?まぁ初球で打ちまくっても、相手楽になっちゃうしね」
それからボールが3回続いた。相手が警戒しているようだ。
未夢「そういや、ボールの時は審判さん何も言わないんだね」
夏希「際どい時は、言ってくれる人もいるよ」
カァンッ!
夏希「おっ!…あ〜、ショートゴロか〜」
英一「すまん、打てなかった」
夏希「プロの4番でも7割打てないのよ。ドンマイ!」
英一「いやそれはたくさん球種持ってるやつのを読めない時だからな」
英一「高校の練習試合なら、そんなに種類もスピードもないから、見てから読めると思ったが」
夏希「さすが英一!見てから反応なんて、次に期待してるわ!」
念願の英一くんが仲間になったのだ。
なのに夏希ちゃんはあっけらかんとしていた。
もっと何かあってもいいのに…
でも試合中だから、今は気持ちが試合に入っているのだろう。
一方、烈くんはぷんすかしながら戻ってきた。ホームに戻って点にしたかったらしい。
みんなもそう思う、嬉しい内部クレームのようなものだった。

    ------------------- 守備1 -------------------

0−0、一回裏の守備。

夏希「さて!みんな、初めての試合での守りよ!よろしくね!」
惠「おう!」
可菜「おー」
烈「おー!」
彷徨「了解です、リーダー」
未夢「そいや、センターは烈くんじゃないんだ…」
夏希「成り行きでね」
適当すぎる。
畑中「まぁ、最初の方はあんまり出番ないかもしれないけどな…」
夏希「そこは、あんたがコントロールしなさい!」
畑中「へいよ」
夏希「未夢ちゃん、そっちにたくさんボール投げられるけどいつも通りでいいからね」
未夢「う、うん」
ちょっと?いやだいぶ緊張してきた。
夏希ちゃんとおしゃべりしながら柔いボールが来るわけではないのだ。
畑中「英一、打たせて取る時は、三塁側のピッチャー周辺のはお前が取ってくれ」
畑中「夏希を休ませたいのに走られたら、困るんでな」
英一「わかった」
夏希「何よ、いいじゃない、投げるんなら同じよ」
畑中「はいはい。それはバッターに対して頼む…」
みんなが守備位置についた。

夏希ちゃんが投げる…。
カァンッ!
いきなり打たれた!けど二塁の烈くんが守っている正面の辺りだった。
ワンバウンドしてこちらに送球。
バシッ!
ボールをキャッチ!アウト。
未夢「はぁ…」
ドキドキした。胸も手も痛い。
夏希「紅瀬くん!未夢ちゃん!ナイスファイト!」
烈「いきなりボール飛んでくるかと思ったから、びっくりしたよ!」
未夢「ふぅー。わたし、ちゃんと取れたよ!」
夏希ちゃんが親指を立ててくれた。
未夢「えと、このボールどうすればいいのかな…」
夏希「ジャマにならないように、キャッチャーの外側に転がしておけばいいわ」
未夢「う、うん」
ボールを向こうへ転がしておいた。
審判さんが腰の袋からボールを取り出し、夏希ちゃんに投げて、夏希ちゃんはそれをキャッチした。
なるほど。
二球目。
カァンッ!
またすぐ打ってきた!
三塁ゴロ。英一くんから鋭い球が投げられた。
英一くんの球は、わたしのグローブに吸い寄せられるように収まった。
英一くんが、わたしのグローブに向けて投げてくれたのだ。
バシッ!
アウト。
ビリビリ…
未夢「ひええ…」
今日、左手保つかな。
三人目はピッチャーフライ。夏希ちゃんが取ってアウト。交代。
未夢「あれっ、もう終わり?」
夏希「未夢ちゃん、相手に失礼よ」
あっ、しまった。後の祭り。
未夢「もしかして、打たせて取るってやつ?」
畑中「おかげでたった三球で終わった」
夏希「私は!もっと三振取りたいんだけどね」
畑中「そんなことしてたら毎回九球は投げなきゃいけないだろ」
畑中「まぁ、打たせて取れるのも、夏希がコントロール良いおかげだからな」
畑中「こちらもオーダー、指定がやりやすくて助かる」

 ====================================== 二回 ====================================== 

0−0、二回表の攻撃。五番から。

夏希「さぁ、また私たちの攻撃の番よ」
夏希「次は…あ、私だった」
畑中「夏希、力温存しとけよ」
夏希「何よ、手加減しろって言うの?」
畑中「ちげーよ!マラソンと同じだよ。勝ちたいなら、後のこと考えろよってこと」
夏希「わかってるわよ」
カァンっ!
右中間ヒット。一塁進出。
未夢「投げて打って…夏希ちゃん、完璧超人じゃない?」
畑中「そうでもねーよ。放っとくと全力ですぐバテる。管理が必要だ」
未夢「そうだったね」
夏希ちゃんのマネージャーという意味なら負けてるかも。
英一「もうお前ら結婚しろよ」
畑中「なっ!なんでそうなるんだよ!」
彷徨「畑中、次お前な」
畑中「!…ったく…」
カァンっ!ヒット。あっさり。
次は零くんだ。
未夢「零くん、がんばれっ」
零「…ああ」
零くんは何回かボールを見送った。
上手くボールを見ているけど、振った時はファールだった。
スリーボール、ツーストライク。ファールじゃなければ、見送れば次で決まる。
三振か、フォアボールか…。
カンっ!
打った!ライトよりやや左に上がった。ライトフライだから夏希ちゃんたちは走れなかった。
次はわたしの番だ。
どど、どーしよう!
下手に打って、連続アウトで一気に交代になっちゃったら…。
夏希「未夢ちゃーん、いつも通りでいーのよー」
夏希ちゃんから声が聞こえた。
ツーアウトになっちゃうけど、ここは夏希ちゃんたちを送るか…!
カンっ。
上手くいった!全力ダッシュ!
でも相手の人は、人が三塁に行かれたら困るのか、ピッチャーの人が三塁に送球。
夏希ちゃんはアウトになってしまった。代わりにわたしがセーフ。
畑中「まぁ、こっちのがいいかもな」
夏希「私は休ませてもらうわ。未夢ちゃん、よろしくね!」
足にはそんな自信ないんですが。
次は彷徨だ。頼む!
カァンっ!
打ったっ!
優「畑中くん、待ってっ」
けど、ショートを超えた辺りで、レフトの人がフォロー、畑中くんは走り込めない。
畑中「どーもです。つまったヒットだったな」
次は、一周回って、可菜ちゃんだ。
可菜「ひーん。どうしよ〜」
半泣きで腰が引けてた。
わたしの番でも、そうなってたと思う。
夏希「てきとーに振ってけ〜。当たらなくても死にゃあしないわよー」
可菜「うん…」
けど、夏希ちゃんの声で少し落ち着きをとりもどしたようだ。
バシンッ。
ストラーイク!
可菜「えーい!」
ストラーイク!
英一「こりゃダメかもな…」
夏希「そんなことないわよ、フォームがよくなってきてる。次もしかしたら…」
バシンッ…!
…。
ボールだ。
可菜「ふぅっ…」
夏希「可菜ちゃん!よく見切ったわ!センスあるわよ!」
投手「ちっ。なんでも振るんじゃねえのかよ」
夏希「女の子だからって甘く見るんじゃないわよ!」
腰に手を当てて、自慢するように言ってた。
英一「夏希、挑発はやめろ…」
投手「ほんじゃ、まっ!」
速い!
けど、可菜ちゃんはそれを待ってたかのように、タイミングを合わせてバットを振った!
カキンッ!
可菜「あっ…」
タイミングも合ってたし、いい音はしたんだけど、バットの振りが急速に負けてたみたい。
ピッチャーゴロ。ピッチャーの人が一塁に送球。交代。
可菜「ごめんね〜」
夏希「泣かないの!バットに当てたじゃない!すごいわ!次は飛ばせると、いいわね!」
普段、部員さんとトラブってたとは思えない優しさ。わたしたちが女子で初めてだからだろうか。

夏希「しっかし、なーんか思うように点取れないわね…みんな悪くないのに」
畑中「まだ始まったばかりだぞ。でも、俺たちも打たされてるのかもな」
夏希「普通にヒットの時もあるけど、その人が見抜いてるだけかもね」

    ------------------- 守備2 -------------------

0−0、二回裏の守備。相手は四番から。
相手の人は、打たされていると思ったのか、ボール球を見送ってきた。
審判さんも判断に迷うほどの絶妙なコースを夏希ちゃんは投げてたのだ。
それは、ストライクではなくてギリギリボールだった。
それに気付いた夏希ちゃんは、高めのボールを投げた。
相手は思わずバットを振り、それを2回続け、ファールとなった。
ストライクは稼いだ。ツーツーである。
最後に夏希ちゃんは、また際どいコースを投げた。
相手の人は、追い詰められたせいか、バットを振った。
スカった。ストライク、バッターアウト!
烈「わー!」
夏希ちゃん、かっこいい!
夏希「ふぅっ。せっかく節約してたのに、これじゃ意味ないわね」
先ほどとほぼ似たことが繰り返された。ツーツー。
けど違ったのは最後だ。相手は見送った。
審判「…ストラーイク!バッターアウト!」
一瞬、コールに間があった。
相手の選手は、苦そうな顔をして悔しそうにした。
クレームをつけるにしても、ストライクのコールもまた納得できるコースだったのだろう。
3回目も似たようなことが起こった。
三球目、相手は空振った。
ボールコースに来ると思った狙いが外れたようだ。
審判「チェンジ!」
烈「ボール来なくてつまんないんだけど」
夏希「最初びっくりしたって言ってたじゃない。だからそうしてやったのよ」
夏希「というか、そうなったというか」
畑中「指示しておいてだが、結果的に俺もわからんくらいの絶妙なとこに来るからな…」
未夢「夏希ちゃん、体大丈夫?」
あんなにボールを投げたのだ。疲れてないかな。
夏希「大丈夫よ!ありがとね。未夢ちゃんはやさしーね。さすがマネージャー!」
夏希「それとも、畑中が余計なこと言って、気にしちゃった?」
未夢「ご、ごめ、そんなつもりじゃ…」
夏希「大丈夫よ!これでもコッソリ鍛えてるのよ。いつまでも言われるのは癪だし」
畑中「言われるから鍛えるのかよ…あと、別にこっそりじゃなくていいから」
夏希「コッソリがいいのよ。というか、時間的にそーなるというか」

 ====================================== 三回 ====================================== 

0−0、三回表の攻撃。二番から。

未夢「次のバッターは…烈くんだね」
烈「行ってくるよ!」
夏希「紅瀬くん!あんた、あんな技術があるなら普通に打ちなさいよ」
烈「いやー、あれは、ああしたらどうなるかなって。まぐれだから二度とできないよ」
夏希「そうなの?なら仕方ないけど、がんばってね」
烈「うん!」
烈「…」
精神集中し始めたようだ。
烈くんは最初からバントの構えを取った。
畑中「せめてセーフティにすれば、バレずに意表を突けるかもしれないのに…」
夏希「仕方ないわよ。急に当てれないっていうんだから」
夏希「それにしてはさっきのは謎だけど」
畑中「あれを毎回完璧にやったら、毎回二塁打だな」
夏希「ごくり。ヤバイわね…」
カンっ。
烈くんは一塁の方へ転がした。
畑中「あー」
夏希「犠牲にして進ませるものもないのに…」
だけど、結果はセーフだった。
畑中「ば、バカな…」
夏希「これは…テンション上がっちゃってヤバイんだけど」
惠「お、もー出番回ってきたのか〜。早いなー」
惠「皆さんがバンバン打つからか」
夏希「まだ得点できてないけどね。よろしくね」
相手投手が身構えて振りかぶる…。
惠「…えっ?」
夏希「!?」
烈くんが走り出してた!
投手「くそっ!」
ピッチャーの人はボールを投げてた。キャッチャーの人は急いでボールを送る。
かなり遅れてボールが二塁に届いた。烈くんは既に二塁に居た。
投手「…」
夏希「…」
畑中「…」
惠「おー」
誰もがぽかーんとしてた。
烈「ねー、これって盗塁してもいーんだよねー?」
夏希「いいけど…そんな指示出してないわよー!」
烈「えへへ…ごめーん!」
でも完全に意表を突いてた。
まさに、敵を騙すには味方から、を実行した感じだ。
投手「舐めやがって…でもそこまでだろう」
ピッチャーの人は気を取り直し、投球フォームに入る…。
ザッザッザッザッ!
投手「!?」
夏希「あの子また!?」
投手「舐めやがって!」
ピッチャーの人は急いで投げた。
未夢「ねえ、あれって三塁に投げちゃいけないの?」
夏希「投球フォームに入っちゃったら、基本的にそれはできないのよ…!」
キャッチャーが急いで三塁に投げた。
審判「…」
審判「セーフ!」
際どいが、セーフだったようだ。
最初に意表を突かれた直後なんだから、誰もが注意するはず。
だけど、二塁から三塁の盗塁まではさすがにやらないだろうと、みんな思っていたのだ。
ついさっきやられたはずなのに、先入観に従って注意しなかった!
その裏を、見事にかいたのだ。
彼がただの走りたがり屋だったのかもしれないけど。
惠「うおーい、お前のおかげで2回もストライク取られたじゃないかよー」
烈「打っても良かったよー」
惠「アホか、でもまー、これで打点取れるかもな」
未夢「打点って?」
可菜「犠牲フライとかでアウトになっても、その時に他の仲間に点を取ってもらった時の数よ」
可菜「アシスト点数みたいなものかな」
夏希「可菜ちゃん、あなたそういうのは詳しいのね…」
夏希「なんにしても紅瀬くんの機転でここまでチャンスが広がったわ」
夏希「ヒットは打ててるんだから、得点しないとね」
カァンっ!
惠ちゃんが左の方へ大きく打ち上げた。
烈くんは、下がったレフトがボールを取ったのを確認してスタートダッシュ!
ボールが三塁手を経由した時には、烈くんは余裕で帰ってきていた。
夏希「やった!このすかぽんたんめ!」
畑中「無茶しやがって!」
可菜「おめでとー」
彷徨「紅瀬、いいぞー!」
英一「よくやった」
未夢「烈くん、がんばったね!」
烈くんはみんなに笑顔で頭を撫でられ、叩かれもみくちゃにされていた。
烈「零!点数、取ったよ!」
1−0!満面の笑みと、Vサインだった。
零「…ああ!さすが烈だ」
烈「…えっへへ」
夏希「さて、ここから追走撃と行くわよー!」

英一くんが二球目で打ってくれた。ライトを超える大ヒットで、二塁だ。

夏希「よーし!」
畑中「夏希、待て」

夏希「ん?」

畑中「ここは、送れ」

夏希「ええー」

夏希「どうなの、未夢監督」

未夢「ええーっ。い、いいんじゃないかな」

何故監督。適当に相槌を打ってしまっていた。

夏希「ちぇっ。ま、いっか」

コンッ。

夏希ちゃんは指令通り、バントで送った。
英一くんは夏希ちゃんがバントの構えをしたのを見てから、走り出していた。
夏希ちゃんは一塁側に転がし、自分をアウトにするよう、適度に走って誘っていた。

審判「アウト!」

夏希「よし!送ってやったわよ」

畑中「後は任せろ!」

カァンッ!

センターフライ。アウト。

夏希「あんた、自分から言っておいて、英一のヒットと私の犠牲を無駄にしたわね…」

畑中「す、すまん…」

な、夏希ちゃん、怖いよ。

夏希「まぁでもこれで良かったのかも。おかげで疲れずに済んだわ」

夏希「けど休ませるなら次はもうちょっと粘りなさいよ」

畑中「確かに…わかったよ」


    ------------------- 守備3 -------------------

1−0、三回裏の守備。相手ターンの下位打線。




夏希ちゃんの絶妙なコントロール。

インコースで相手のバットの根元だったり、アウトコースでバットの端っこに当たって、ボテボテのゴロ。

英一くんや、二塁を守る烈くんがフォローしてくれてわたしにボールを投げた。結果はアウト。

さっきの、烈くんがフォローしてくれた当たりは、実はわたしの範囲内かも。

気を利かせて烈くんが取ってくれたのだ。

未夢「あ、あの、烈くん、ありがと」

気にしないで、と言わんばかりにグローブを上げてくれた。

三人目、ピッチャーの人の当たりも、夏希ちゃんの急速に負けて打ち損じた。

ほぼバッターボックスに近い位置の、一塁へのボテボテゴロ。
畑中くんがボールを送ってくれた。
走者は、スリーフットラインと言われるファール側の方を走ってくれたから、ボールは見えた。

スリーフットラインとは、走者が横を走ってくれた理由を後で夏希ちゃんに聞いた時の談。

烈「五十嵐さんすごいね!あっという間に三者凡退だよ」

畑中「問題は後半だよ…俺は夏希が無茶しださないかハラハラしてるよ」

夏希「正直、全力で投げて相手の度肝を抜きたいわね!後半じゃ全力出せないからね」

畑中「野球はワンマンじゃないって自分で言ってたじゃねぇか…マラソンと同じだぞ」

夏希「わかってるわよ」

言葉とは裏腹に、うずうずしてそうだった。


 ====================================== 四回 ====================================== 

1−0、四回表の攻撃。七番、零くんからだ。

烈「零ーっ、がんばれーっ」

夏希「あの子結構オールマイティっぽいわよね…ちゃんと見てから打とうとしてるし」

一球目は見送っていた。ボールだ。

カキンッ。

打ったっ。サードとショートの際どい間だったけど、サードの人が捕球、一塁へ送球。セーフ。

烈「零、良く打ったっ」

夏希「次は未夢ちゃんよ」

未夢「うう〜、なんか慣れないなぁ」

夏希「ガンバレ!」

背中を押されて見送られる。

夏希「ああ、そうだ」

と思ったら声をかけられた。

夏希「ツーストライクを取られるまでバントの構えはしなくていいわ」

夏希「追い込まれてからがんばって当ててみて。ピッチャーの方にね」

夏希「当てたら、全力で走るの!間に合わないだろうけど、相手のピッチャーの人に焦らせるためよ」

夏希「失敗したからってゆっくり歩いたんじゃ、相手の人もゆっくり対応するからね」

夏希「これは相手投手の人に多く投げて走ってもらって、バテさせるためよ」

未夢「う、うん、わかった」

といっても、やっぱよくわからないよ〜。

普通に構えてみる。

バシーン。

審判「ストラーイク!」

やっぱ速い。最初はよくボール当てられたなと思った。

でもそれは構えて振ろうとするからだ。

パシーン。

審判「…」

ボールだったようだ。

バシン!

審判「ストライク!」

わぁ〜。結構素直にまっすぐ投げてるな。なめられてるのかな。

女子だから仕方ないかもしれないけど、わたしだって!

相手投手、投げた!

コンッ。

よしっ。

ほぼ真正面に浮かす形となった。

ピッチャーの人が取れるか際どいところだけど、ワンバンで取ってたと思う。

わたしは全力で一塁に走った。

ピッチャーの人が素早く送球!

アウトになってしまった。

その間に零くんは次へ進塁。

夏希「未夢ちゃん、あれでいいのよ!」

未夢「はぁっ、任務完了!」

夏希「うん!」

結果はアウトだったけど、その時の経過が後々の効果になることを祈った。

夏希「次は西遠寺くんね。相手がバテてるうちに打っちゃえ!」

彷徨「ああ」

未夢「彷徨ー、わたしががんばったんだから、あんたもがんばりなさいよー」

彷徨「わかったわかった、お前がんばったから、あとでキスしてやるよー」

未夢「な、バカー!!!しなくていー!」

夏希「おー。彼氏様の公開キス宣言」

惠「なんだなんだ今のー」

烈「未夢さん、淫乱ー」

未夢「彷徨のやつ、戻ってきたら殴る!」

カァーン!

ライト前フライ。ヒット。見事に戻ってこなかった。

零くんは三塁へ。

夏希「ホームに戻ってきたら、頭叩いてやってね」

夏希「可菜ちゃんの出番よー」

可菜「わ〜、なんだか早いよー」

夏希「何言ってるの、打ちたがってたでしょ、がんばってね!」

夏希「しっかし、これ案外絶妙な打順になったわね」

畑中「ん?何がだ?」

夏希「打って、送るを堅実に行う戦法になってるわ」

畑中「まぁ、確かに…」

コンッ。

可菜ちゃんが当てた。見事に三塁方向だ。

あればっかり二人で練習してたからな〜。

三塁の人よりピッチャーの人の方がボールに近かったので、走って取ってた。

零くんはタッチを警戒して進めずそのまま三塁に駐留。

二塁に投げるが、彷徨はセーフ!

二塁の人が一塁に素早く送球!

可菜ちゃんは一生懸命走ってたけど、ギリギリでアウトになってしまった。

夏希「可菜ちゃん、惜しかったわね!でも任務完遂よ!最高!」

可菜「そ、そうかな…」

可菜ちゃん、照れてた。

烈「次は私の番だねー」

夏希「紅瀬くん、お願いね!」

畑中「でもあいつ、打てないんじゃ…」

夏希「いえ、それでも、わからないわよ。あの子の足ならあるいは…」

カンっ。

三塁側に上手く転がした。

零くんはまたも進めず。

三塁側の人は、零くんがいるから、ボールを待ち受けるために三塁から離れられない!

ショートの人にフォローしてもらえばよかっただろうけど、咄嗟の判断が遅れた。

ピッチャーの人が取り、三塁にボールを投げようとしたが止め、一塁に投げた!

烈くんは、ギリギリセーフ!一瞬の迷いの結果だ。

夏希「あとワンアウトで交代なんだから、迷わず一塁に投げるべきだったわね」

夏希「いつもの感覚で、三塁に行かれたくないって気持ちが優先しちゃったのね」


惠「で、あたしが闇無を返せばええのか」

よっこらしょと、惠ちゃんが立ち上がった。バットを肩に当てながら。

可菜「惠ちゃんガンバレー!」

夏希「惠ちゃん、ヒットじゃなきゃいけないわよ、最初に誰かさんがアウトになっちゃったからね」

未夢「もうー夏希ちゃんー!あれでいいって言ったじゃないのー」

夏希「あっははは」

惠「ま、お任っせあれ!」

惠ちゃんはボールを見送った。ボール。

次も見送った。ストライク。

夏希「ごくり…」

なんだか、緊張させられる場面だ。

カァンッ!

打った!レフト方面へ高く上がった。

零くん、彷徨はもう走り出してる!ボールは間に合わないだろう。

レフトの人は下がり、止まった。

アウト。レフトフライだったようだ。

夏希「あー、残念!」

可菜「惠ちゃん、惜しかったね」

惠「あっちゃー、飛ばしすぎたかな」

夏希「あれでいいのよ、誰かさんがアウトに」

未夢「もー、責めないでよー」

夏希「あっはは!」

彷徨「悪い未夢、キスしに戻って来れなかった」

未夢「もうそれはいいのよっ」

彷徨「いてっ」

頭をスパーンと叩いてやった。

英一「…お前らいつもそんなんなのか」

未夢「違います!」

彷徨「そうです」

英一「意見が違うようだが…」

未夢「もう!なんで混乱させるのよ!」

彷徨「いや、その方が面白いかなと…」

未夢「夏希ちゃんも何か言ってやってよ!」

夏希「いや私は面白いから西遠寺くんに賛成だけど」

未夢「もー!」

夏希「あっははは」

畑中「…お前ら、キャッキャウフフしてないで、守備行くぞ。ほら、夏希!」

夏希「わかってるわよ!」

夏希ちゃんは再びマウンドに赴いた。

    ------------------- 守備4 -------------------

1−0、四回裏の守備。相手は最初の一番さんに戻った。

夏希ちゃんがボールを投げる。

相手は、空ぶるか、打つかの繰り返しだ。

打っても、ボテボテのゴロか、ショートやセカンド周辺、飛んでも守備位置へのフライだ。

夏希「よっし!三者凡退!」

烈「これなら楽勝だね」

惠「緊迫感がないんだが」

畑中「俺はドキドキだよ…お前ら、夏希が蜂の巣になるの知らないだろう」

夏希「何よそれ、何かむかつくわね…」

烈「全身穴だらけの五十嵐さん…?想像したら、シュールだった」

夏希「とにかく、それって私がバテるみたいな言い方じゃないのっ」

畑中「お前は少し自分の体力とかを自覚してくれ…今はいいけど」

英一「夏希…大丈夫か?」

夏希「英一…うんっ、大丈夫よ、任せて!」

惠「このまま完全試合といくといいな」

畑中「まぁ、守りと言う意味では理想だが、それは求めてない…」

畑中「打たれても、点を取られなければいいんだ」

惠「でもヒットされたら、投げる球数増えるだろう?投げる球数抑えたいってことは」

畑中「まぁ、確かにそう言う意味では、完全試合を目標にしてることになるが…」

夏希「私は投げられればどっちだっていいわ」

畑中「お前な〜」

夏希ちゃんはまだ平気なようだ。
額の横から汗が滴っている。
それは激しい運動をしているからだろう。
それとも疲れなのか。

 ====================================== 五回 ====================================== 

1−0、五回表。次のわたしたちの攻撃は、四番の英一くんからだ。

夏希「よーし、英一、かっとばせー!」

可菜「がんばれ〜」

烈「ホームラン見せて下さーい!」

惠「それにしてもあいつ、何となくぱっとしないな」

夏希「まぁ、そういうときもあるわよ」

カァンッ!

打ったっ!大きい上がり!

ほぼ真ん中だ。センターの人がもうちょっと後ろに進んで、取った。アウト。


烈「あー惜しい」

惠「どこがだよ。まだホームランまで結構あったぞ」

烈「もうちょっと飛んでたら」

畑中「確かに、学校のグラウンドは球場ほど広くないから、もうすぐでホームランだったかもな」

英一「…夏希、すまん」

夏希「いいっていいって!ナイスファイト!英一!」

一挙一動を好意的に受け入れている。
全面的な信頼をしているようだ。

わたしも、あそこまで意識的に露骨にしたことはなかったけど、無意識にでもそうしたことがあるのかな。

彷徨「…ん?なんだ?」

未夢「別にっ。なんでもっ」

夏希「また回ってきたわね」

畑中「夏希、無茶はするなよっ」

夏希「わかってるわよ。姑かっ」

畑中「どっちかっていうと、女房役だよ!」

夏希「はいはい」

惠「役目が逆だったら、もう普通の感覚だな。彼氏彼女か?」

畑中「なんでだよ。普通野球部には男しかいないから、彼氏と彼氏になっちまうだろーがよ」

可菜「彼氏と彼氏だとっ…ウホ…っ」

未夢「可菜ちゃん可菜ちゃん、鼻血鼻血」

カァンッ!

ショートゴロ。

夏希ちゃん一生懸命走るも、アウト。

夏希「失敗しちった」

畑中「アウトなんだから、あそこまで全力で走るこたないだろ」

夏希「いつでも全力じゃないと、相手に失礼じゃないの」

畑中「その精神は尊敬するんだが…俺はお前の体力が心配でだな…」

夏希「あーもーうるさいなーわかったわよ、体力消費するだけの走りを止めればいいんでしょ」

夏希「ていうか全力なのもね、紅瀬くんが間に合ってるから、私もってやっただけよ」

夏希ちゃんは烈くんの方を見る。

烈「…?」

烈「えっへへ」

照れていた。

夏希「あなた、何者なの…?」

烈「た、ただの転校生ですが何か」

夏希「前の学校で闇のお仕事に就いてたとか?」

烈「何それ」

畑中「じゃぁ行ってくるぞ」

夏希「おー!」

相手投手の人投げた…ボール。

夏希「しっかし、あそこまで足速いと、嫉妬するわね」

夏希「実は陸上部だったとか?」

烈「そ、そんなことないよ〜。帰宅部だよ」

夏希「毎日全力ダッシュで帰ってたら陸上部と同じね」

彷徨「それ、どんだけ早く帰りたいんだよ…」

可菜「あっはは」

カキンッ!

打ったー。けど、夏希ちゃんのときとほぼ同じ当たりで、ショートが下がってジャンプキャッチ。

夏希「おー。ファインプレイね、超えるかと思ったけど」

畑中「…」

夏希「畑中、ドンマイ!」

畑中「…すまん」

夏希「何、悲観的になってるのよ。勝ってるじゃない」

畑中「でもだな…」

夏希「まぁ確かに、追加点は取れてないけど…点やらなきゃいいのよ」

畑中「まぁそだけどな…」

    ------------------- 守備5 -------------------

1−0、五回裏の守備。相手は二度目の四番さんから。

再び夏希ちゃんがマウンドへ。

後ろのみんなは暇かもしれないけど、わたしのところには常にボールが来るので暇じゃない。

畑中くんは、夏希ちゃんの体力を温存するのを最優先にするために、投球数を少なくさせている。

言わば、打たせて取る方法だ。

パシッ。

審判「アウト!」

ボールをバットに当てるのは凄い。けど、飛ばないようにしてるのだ。

カァンッ!

ほぼ垂直に高く上がった。

畑中「夏希!俺が取る、下がれ!」

太陽が眩しいはずだけど、畑中くんは取った。

ツーアウト。

六人目の人も、サードゴロ。英一くんから送られるボールをノーバウンドでキャッチ。アウト。



惠「なんか、もしかして相手が弱いのか?」

畑中「いや、そんなことはないと思う」

彷徨「畑中が、上手くリードしているからだろう」

惠「なんかその表現、いいな。女房が彼女をリードか」

可菜「彼女が彼女を…ウホッ」

惠「いや、冗談だが、お前はどっちでもいいのかよ!」

畑中「まぁリードというか、夏希の調子が良いからというか、温存してるというか…」

畑中くんは目をごしごしとやった。

夏希「畑中、どうしたの?そういえば最後だけ真っ直ぐしか要求しなかったけど」

畑中「さっきので少し目が眩んだだけだよ」

夏希「ああ。変化球でも位置言ってくれれば、そこに投げたのに」

畑中「そういうところは心強いけどな…一応な」

惠「そういえば、剛速球は投げないのか?」

畑中「あんなのやる必要ねーよ」

惠「それほど楽勝なのかっ」

畑中「そうじゃなくって…単純にホント、必要ないんだよ」

惠「そっかなぁ〜あれ見たら誰でもビビるし、対戦相手のその顔見たいわ」

可菜「私も、後一球ぐらい見たいな」

夏希「あー私も私もー」

畑中「お前本人だろ!自重しろ!まぁ、一球くらいなら、いいけど…」

夏希「バテないうちに、お願いね。バテてからじゃ全力じゃないし」






 ====================================== 六回 ====================================== 

1−0、六回表の攻撃。

零くんの番だ。下位打線。

烈「零ー、がんばー」

夏希「闇無くんは、紅瀬くんと違って、物静かね」

烈「私がうるさいみたいじゃないですか」

夏希「というか、あんまりしゃべらないなと」

烈「零は、ああいう性格だからね」

カンッ。

打った。サードゴロだけど、上手いことサードとショートの間を抜けていった。

烈「零、やったー!ナイス!」

夏希「いい感じね。さぁ未夢ちゃん、出番よ!」

未夢「う、うん。いつものでいいの?」

夏希「もちろん!打ってもいいけどね」

未夢「う〜ん」

バントばっかり練習してたからなぁ。ここは送ろう。

相手投手、投げたっ。

未夢「っとと」

審判「ストライク!」

タイミングを逃した。

夏希「未夢ちゃーん、落ち着いてー!ドンマーイ!」

烈「未夢さんがんばれー!」

惠「未夢、がんばれー」

可菜「未夢ちゃんー」

みんなが応援してくれてた。手を上げて応えた。

いつもどおり、いつもどおり…。

コンッ。

未夢「よしっ」

ダッシュ!

上手いこと三塁側に転がした…けど勢いがちょっと強かったか。

キャッチャーの人が追いかけて二塁に投げた!?こっちじゃないんだ!?

零くんはわたしが当てる前から走ってたようで、ギリギリセーフ!

わたしはアウトになった。

夏希「任務ご苦労さま!」

未夢「ふう。ちゃんと零くんを進ませたよ」

夏希「まぁでもあれは闇無くんの機転かもね。未夢ちゃんが当てる前に走ってた」

夏希「エンドランほどではないけど…」

未夢「エンドランってなぁに?」

畑中「走者が盗塁しようとしてる時に打つ…でわかるか?」

未夢「あ、うん」

彷徨「さて、俺の出番だな」

夏希「よっ!強力な下位打線!期待してるわよ」

彷徨「下位打線だから責任薄め…ってのはナシか?」

彷徨がバッターボックスに入った。

相手投手…投げた!

カァンッ!

彷徨、初球から打ったっ!

鋭い打球が一二塁間を越えた。ライト前ヒット。

夏希「一三塁とか最高に嫌な形ね」

可菜「えーと、これどうすればいいの?送ればいいの?」

夏希「難しければそれでも構わないけど、次は紅瀬くんだしなぁ、バスターでいいよ」

可菜「バスターって…」

畑中「わかるか」

可菜「バントの構えしておいて、急に普通に打つやつ?」

畑中「お前、ホント詳しいな…」

可菜「うーん、できるかなぁ」

夏希「無理しなくていいけど、可菜ちゃんに任せるわ!」

可菜「…がんばってやってみる!」

夏希「よし!」

可菜ちゃんがバッターボックスへ旅立った。

夏希「みんなが打ってくれるから、ピッチャーの私が休めて助かるわ」

畑中「もうちょい点が取れたら、御の字だけどな」

夏希「じゃぁ早くあんたがホームラン打ちなさい〜」

ひじで畑中くんのお腹をこすりまわした。

畑中「なっ…やめろ!」

くすぐったがってた。

畑中「…努力はする」

夏希「おーけー」

わたしたちは打順のように座っているわけではない。

わたし、夏希ちゃん、畑中くん、惠ちゃん、可菜ちゃん、英一くん、彷徨、零くん、烈くんの順番に座っている。

夏希ちゃんは、隣の畑中くんにイタズラしていたのだ。

可菜ちゃんの方を見た。

惠「可菜ー、ファイトー、おおー」

可菜ちゃんはバントの構えから、相手が投げたら普通に打とうとしてたけど、二回ともミス。

夏希「あれは普通の選手がやってもムズイからねぇ…我ながら無茶な指令を出したか」

カァン!

夏希「おっ」

当てた!けど、ショートゴロ!

内野安打で、零くんは走りこめなかった。刺されたらアウトになりそうだったからだ。

夏希「まずいっ」

二塁に送球!が、彷徨はすでに来ていた。セーフ!一塁に送球!

可菜ちゃんはアウトになってしまった。

夏希「ふうっ。西遠寺くんのファインプレーね」

未夢「え?どういうこと?」

夏希「併殺、ゲッツーされて一気に交代になるかと思ってたけど、西遠寺くんも走り出してたのよ」

夏希「さっきの闇無くんみたいにね」

夏希「おかげでゲッツーにならずに済んだわ。一三塁に走者が居たからできたのかしら」

未夢「え…えっ?」

畑中「一三に走者が居て、キャッチャーから二塁にボールを投げたとする」

畑中「その時、ホームはがら空きだろう?三塁の人が走ってたらホームに入られてしまう」

畑中「だから、この時二塁側へ盗塁しやすいんだよ」

夏希「まぁ、さっきのパターンではたまたま零くんが走りこめなかっただけね」

烈「ほえー、私の出番だー」

夏希「紅瀬くーん、最初の、ドカーンやってよー」

烈「えー、無理だよー」

相手投手、ボール、投げた!

ぶんっ。

バシ!ストライク!

空振り!

二球目も同じ。

惠「あー。紅瀬ー打てー」

カキンッ!

打った!当たった!いい音鳴った!

烈「当たった!あ」

キャッチャーのほぼ真下だ。

烈くんは走り出したけど、ほぼ振り逃げの状態だった。

一塁にボールを投げる。アウト。

烈「せっかくのチャンスだったのにすいません」

惠「このやろー」

烈「蹴らないで」

夏希「さすがにあの状態ではセーフにならなかったか」

畑中「そりゃそーだろ。できたらバケモンだ」


    ------------------- 守備6 -------------------

1−0、六回裏の守備。

夏希ちゃんが再びマウンドに上がる。

相手は七番からの下位打線だ。

それにしても凄いな。あれだけ投げてたら、わたしなら疲れちゃうのに。

夏希ちゃん、ボールを投げる!

相手選手打った、セカンドゴロ。

零くんからボールをもらう。アウト。

未夢「ふう」

順調に仕事をこなしている。

次の選手。

夏希「ふっ」

バァン!

審判「ストラーイク!」

相手が空ぶった。夏希ちゃんさすがだ。

二球目。

バスッ。

ボール。

夏希「あら?それなら…」

夏希ちゃん、ボールを、投げた!

カキィッ。

ガシャン!

審判「ファール!」

ツーストライク、追い込んだ。

夏希ちゃんがボールを投げる。

バシッ。

審判「…」

夏希「振らないのね…それならっ」

ビュッ。

真っ直ぐの早いボール!

カァンッ!

レフトをはみ出た方面へ大きく上がった。ファールだ。

夏希ちゃんがボールを投げた。

バシッ。

審判「…」

ボールだ。

畑中「振らないな…」

打者「へへっ」

何か一瞬会話してたようだけど、聞き取れなかった。

夏希ちゃん、ボールを投げる。

カキンッ!

ガシャン!

審判「ファール!」

ほぼ真後ろのネットに勢いよく当たった。審判さん危ないな。

それから、何回かファールが続いた。

畑中「まずいな…粘られてる」

その時、夏希ちゃんが初めて首を横に振った。

五〜六回は振っただろうか。

烈「は〜や〜く〜!」

ファールも含め、飽きてきたらしい烈くんが叫んだ。

畑中「…」

しばらく間があって、夏希ちゃんがようやく首を縦に振った。

チェンジアップと言っても良いほど、さっきに比べて投球の溜めがあった。

そして腕を振る。

ゴッ!

ガシン!

畑中くんがグローブでキャッチした時の音が、すごかった。

畑中「…!」

打者「…!!」

審判「す、ストライク!バッターアウト!」

打者「な、なんだよ今の…!あんなとっておきがあったとは…!」

畑中「へへ…脳ある鷹は爪を隠すってな」

出た、夏希ちゃんの剛速球。

次は、ピッチャーである相手の九番。

カキンっ。

剛速球ではなかった。初球から打ってきた。

レフト方面前方!

惠「おおおおおっしゃー!」

ヒットになるかと思ったけど、惠ちゃんが滑り込んで取った。アウト!

夏希「惠ちゃん!ナイス!ありがと!」

惠「夏希があそこまでがんばってるとな〜応援したくなってな」

未夢「でも、泥だらけ!大丈夫?」

惠「大丈夫大丈夫!ユニフォームの泥は勲章だって言うじゃない?」

夏希「気持ちはわかるけど、聞いたことないわ…」

畑中「でも野球は短距離走じゃない、マラソンと同じなんだ」

畑中「明日続けるために、安全に行うんだ」

惠「でも、あたしら今日で首なんだろ?」

夏希「あら、入部してくれればいいじゃない」

惠「無茶言うなよな」

惠「てか、最初からあれ使ってれば良かったじゃん」

あれとは剛速球のことだ。

畑中「それも、安全を考えてのことだ」

畑中「夏希はみんなの事を見てるときは安全に配慮してるけど、本人は全然でな」

畑中「誰かがコンロトールしてやらないと」

夏希「その誰かさんのおかげで私はフラストレーションいっぱいよ」

未夢「まぁまぁ」

 ====================================== 七回 ====================================== 

1−0、七回表の攻撃が回ってきた。三番から。

夏希「さぁーラッキーセブンよ!みんな、かっとばすぞー!」

未夢「おー」

惠「よっしゃー!」

可菜「おー」

烈「おー!」

彷徨「おー」

英一「…」

英一くんと零くんは無言で手を上げてた。

未夢「…でも、ラッキーセブンって、なぁに?」

惠「ズコー!わからんかったんかい!」

可菜「130年前のアメリカで優勝のかかった試合があったんだけど」

可菜「ある選手が平凡なフライを打ったんだけど、風に乗ってホームランになったの」

可菜「ラッキーな七回目ってのが語源だけど、諸説は色々あるよ」

可菜「投手が疲れ始めたとか、交代されても実力の落ちる人だったり」

可菜「打者が打撃に慣れてきたり、下位打線で代打して強い人に交代してもらったり」

可菜「とにかく、点が取りやすそうなターニングポイントになる回なの」

夏希「可菜ちゃん…詳しいわね…歴史まで」

未夢「戦争前から野球してたんだね」

未夢「でもそれだと、夏希ちゃんも疲れてるし、うちには代打とか交代できる人いないし」

夏希「あら、私はまだ大丈夫よ!」

それでも、肩で息をしていた。

畑中「前半で球数抑えても、さすがに七回も投げてたら疲れるからな…」

畑中「今までの練習試合は五回とかだったしな」

畑中「あと、うちには交代できる人が居ない、だからみんな安全に行ってくれ」

可菜「おー」

烈「おー!」

未夢「わかったよ」

夏希「…私としては、ナメプしてるみたいで嫌だけどね」

未夢「彷徨は、無茶とかしてないよね?」

彷徨「というか、今んとこ無茶する出番がない」

未夢「あはは、そうだね」

でも、こっちがラッキーセブンなら、相手もラッキーセブンなのだ。

これから、夏希ちゃんが打たれるのかもしれない…。

夏希「それにしてもみんな助かるわ、トンネルとかしないし」

未夢「トンネル?」

彷徨「ゴロとかを捕り逃して、足の下を通り抜けて行ってしまうことだ」

烈「まぁ今んとこ、そんな激しいゴロじゃないからね」

畑中「まぁ、武乃邑とか内田の場所は、ゴロするような場所でもないしな…」

夏希「あら、そんなことないわよ、うちの部員でもたまにする子いるじゃない」

畑中「そうだけど…」

惠「おっ、そういえば、次はあたしか。いっちょ行ってくる!」

夏希「ホームラン打て〜」

惠「んな無茶な」

夏希「惠ちゃんならできるわよ!」

可菜「惠ちゃんのちょっとカッコイイとこ見てみたい!がんばれ〜」

惠「やれやれ」

未来「惠ちゃんー、がんばれー」

未夢「ママ!そういえばどこに行ってたの?」

未来「学校の厨房を借りてたのよ。ほら、おにぎりと温かいお茶を持ってきたわ」

未来「みんなの分もあるから、ゆっくり休んでね」

夏希「おおおー!」

可菜「すごい」

烈「ありがとうございます!」

零「…ありがとうございます」

彷徨「未来さん、すみません」

未来「いいのよ別に。私がやりたかったことだしね」

英一「…いただきます」

未来「あら、そういえば、あなたが期待の新星?」

英一「…え?」

未来「みんな探したのよ、あなたのこと」

未来「あなたがいないと負けちゃうーって」

未来「みんなのためにも、がんばってね」

英一「…はいっ…!」

夏希「…!」

未来「まぁとりあえず、くつろいじゃって!」

烈「わーっ」

そういえばもう三時を過ぎてた。奇しくも、三時のおやつの時間だ。

小腹を満たし、タオルで汗を拭いた。七回までの疲れも何のそのだ。

主に疲れてるのは、夏希ちゃんだろうけど。

未来「彷徨くんも紅瀬くんたちもお疲れ様。汗を拭いてあげるわね」

彷徨「すみません、ありがとうございます」

烈「わーっ、ありがとうございますっ」

零「…ありがとうございます」

未夢「夏希ちゃん、大丈夫?疲れてない?」

首筋に滴る汗を拭いてあげた。冬でもこんなに汗かくなんて。

冷えて風邪引いちゃう。

夏希「未夢ちゃん?ありがと。やさしーなー。西遠寺くんには、してあげないの?」

未夢「いっ、今はっ…夏希ちゃんのマネージャーだし」

夏希「じゃぁ後で西遠寺くんのマネージャーになるのね」

未夢「うっ」

夏希「その時は、呼んでね」

未夢「なんでよ〜」

しかし、みんなおにぎり食べてお茶飲んで、登頂後のピクニックみたいな雰囲気になっていた。

カキンっ。

夏希「おっ」

快音が聞こえた。

レフト方面へ高々上がる!レフト下がる!

けど、キャッチされてしまった。

夏希「お疲れ!」

惠「可菜がホームラン見たいなんていうから、欲張っちゃったよ」

可菜「わー、私の期待に応えようとしてくれたの?ありがと!」

惠「おっ、なんだ、おにぎりとかある。食べていいの?」

未来「もちろんよ」

惠「ありがとうございます!」

夏希「よーし、次は英一、かっとばしちゃえ!」

英一「今んとこあんまり活躍できてなくて、悪いな…」

夏希「そんなことないわよ、充分よ!」

英一くんがバッターボックスに入った。

相手投手…投げた!

ボール!

夏希「ふぅ〜」

夏希ちゃんは少し疲れてきたようだ。

夏希「未夢ちゃん?もういいわよ?」

未夢「いやいや、今夏希ちゃんのマネージャーだからね〜」

夏希「あっはは」

カキンッ!

鋭い打球が一二塁間を抜けた。

ライト前ヒット!

夏希「よーし私の出番か〜」

畑中「夏希!送れ!」

夏希「えー、ワンアウト状態だから、次フライとかできないわよ?」

畑中「いいから送れ!走者が居ない時はともかく、体力温存だ!」

夏希「バントで走るほうが体力使うんだけど…ぶつぶつ」

相手投手…投げた!

コンッ。上手く一塁側へ転がし、全力に近い走りで一塁への送球を誘う。

ボールが一塁に送球された!アウト。

英一くんは二塁に到達。

夏希「今度は、ちゃんとあんた打ちなさいよ」

畑中「わかってるって」

相手投手がボールを投げる。

ボール。

未夢「夏希ちゃん、お疲れ!」

夏希「お疲れさま!」

烈「オツカレとカツカレーは似て非なるものである…」

未夢「…」

夏希「…」

未夢「と、ところで夏希ちゃんは体調大丈夫?」

夏希「大丈夫よっ」

それでも、収まっていた肩での息がまた復活していた。

カァンッ!打球が高く上がる!

レフト前ヒット!

零「…」

夏希「さぁ、次は闇無くんね、ガンバレ!」

烈「零、ホームランだー」

相手投手、ボールを投げた。

審判「…」

ボール。

相手投手、振りかぶって、ボールを…投げた!

審判「ストライク!」


相手投手、振りかぶって、ボールを…投げた!

零くんバットを振る!狙いが外れたか、空ぶった。ストライク!追い込まれた。

相手投手、振りかぶって、ボールを…投げた!

ボール。

これが二回続いて、最後のボール。

相手投手、振りかぶって…ボールを、投げた!

零くん、振ろうとするがバットを止めた!

審判「…ボールフォア!」

フォアボールだ。

零くんが進塁した。一塁に居た畑中くんは二塁へ。

夏希「闇無くん、よく我慢したわね〜」

夏希「さぁ未夢ちゃんの本気を出すときよ!満塁よ!」

未夢「いつでも本気だよぉ〜」

彷徨「未夢〜、へっぴり腰になってるぞ〜」

未夢「プレッシャーかけないでよ〜」

未夢「いつものでいいの?」

夏希「今はいつものだと、ツーアウトだから確実にアウトになっちゃうわ。振っていきなさい!」

未夢「ふえ〜ん…」

烈「未夢さん、がんばれ〜」

相手投手の人、疲れてないのかな〜。

最初の方で結構疲れさせたと思ったんだけど、さすが男子か、変わらない無表情だ。

やせ我慢だといいけど。

ズバーン!

審判「ストラーイク!」

ええ〜。これみんなどうやって打ってるの?

夏希「未夢ちゃーん、振ってけー!まぐれでホームラン!」

惠「未夢がんばれー!」

可菜「未夢ちゃん、ふぁいとー」

そんなこと言ったって〜!

未夢「えーい!」

審判「ストライク!」

ああ、やばい、あと一回で終わっちゃう。
せっかくのみんなの満塁とチャンスが、わたしのせいで。

夏希「目を瞑るな〜!しっかりボールを見ろ〜!怖くないぞ〜!」

烈「未夢さん現実を見て〜!」

冗談じゃないよ〜!

相手投手、ボールを投げた!

しっかり見て、振った!

…

バシン!

審判「ストライク!バッターアウト!チェンジ」

夏希「まぁ普通はそうなるわよね」

未夢「ふえ〜ん、ごめんなさ〜い」

惠「未夢、気にするな!あたしが打ってやるから」

可菜「未夢ちゃん、ドンマイ」

夏希「いいっていいって!畑中があの時長打してなかったのが悪い」

畑中「な、なんでだよっ」

未夢「…ははっ」

みんな優しいな。

    ------------------- 守備7 -------------------

1−0、七回裏の守備。

夏希「畑中ー、私三振取りたいー」

我慢してたらしい夏希ちゃんが呟いた。

畑中「ええー。まぁ、いつもならもう終わってるから、いいっちゃいいが…」

夏希「ホント!?」

夏希ちゃんの目が妖しく輝いた。

畑中「で、でも!九イニングが普通なんだからな!もっと温存しろ!」

夏希「それじゃいつまでナメプするのよ」

畑中「ナメプじゃないだろ、相手に失礼な…それに、明日試合じゃないとはいえ、ずっと続くんだぞ」

畑中「体を大切にしろ」

夏希「それはわかるけど、少しくらいいいじゃないの」

畑中「夏希よ、野球とは遊びじゃない、仕事のようなもんだ。一瞬で燃え尽きるな。続けたいんだろう?」

夏希「そりゃそうだけど…」

畑中「本気を出すのだけが野球じゃないぞ」

なんだかお説教的なのが始まってた。

夏希「でも、じゃぁこの試合のあと三回だけでいいから!」

目がウルってた。

畑中「ぐっ…」

惠「あーあ、畑中が女の子泣−かしたー」

可菜「ちょっと!畑中くん、何やってるの?」

畑中「俺悪くないだろ!」

畑中「あーもーわかったよ!このイニングだけだぞ!」

夏希「マジ!?やったー!」

疲れが吹っ飛んだかのような笑顔になってた。すっごい活き活きしてる。

夏希「何してんの畑中!行くわよ!」

畑中「やれやれ…これだからな」

相手の一番から。

夏希ちゃん振りかぶって…目が妖しく光る!

投げた!

ズバン!

審判「ス、ストライク!」

打者「…!!」

夏希「へへ…どんどん行くわよー」

振りかぶって…投げた!

ドズン!

審判「ストライク!」

打者「…」

バット振ってたけど、完全に振り遅れてた。

夏希ちゃんの、急に変わった投球フォームと球速についていけない感じだった。

ブンッ。

また完全に振り遅れてる上に、あのボールは高めだから多分、ボールだったろう。

夏希「ストラーイク!バッターアウト!まだまだ行くわよー!」

夏希ちゃんの声が、審判さんと被ってた。

打者「…!」

二番目の人、一番目の人の時のを見て、びびってた。

同じ立場だったらわたしもびびってると思う。

夏希ちゃんの絶妙なコントロールで、素早いカーブがボールからストライクコースに。

打者「変化球でもあんなに速いのなんて反則だ…!」

ブン!

バットはかすりもしない。

夏希ちゃん振りかぶって…投げた!

バシン!

審判「ストライク!バッターアウト!」

夏希「やっぱ最後はストレートよね!」

ばったばったとなぎ倒していく感があった。

敵には回したくない、恐ろしい子である。

夏希ちゃん振りかぶって…投げた!

ストライク!

夏希ちゃん振りかぶって…投げた!

ストライク!

夏希ちゃん振りかぶって…投げた!

ストライク!バッターアウト!チェンジ!


惠「完全にワンマンじゃねぇか」

可菜「でも全く打たせない完璧の守りだわ…」

夏希「フッフッフ」

未夢「夏希ちゃん…凄い汗」

タオルで額や首の辺りを拭いてあげる。

拭くというよりはガーゼを当てて水分を吸収させるような感じだ。

畑中「六回の時みたいな、やむを得ない時の一球だけならいいけど、連続はすぐバテる」

畑中「後半、一気に打たれる、だからあまり使いたくないんだ…」

夏希「でもやっぱり気持ちいいわ、コレ!」

夏希「後七三振ぐらいはできるわよ!三振数二桁目は行きたいわね!」

夏希「ふーっ、ふーっ」

夏希ちゃんも大分疲れているようだ。

 ====================================== 八回 ====================================== 

彷徨「さーて、いっちょデカイのを飛ばしてくるか」

1−0、八回表の攻撃は九番の彷徨からだ。

夏希「我ながら、西遠寺くんみたいな期待の子をラストってのが凄い采配よね」

未夢「夏希ちゃんが好きに任せちゃうからでしょっ」

彷徨「ラストでもやる事は変わらんさ、いっちょ行ってくる」

相手投手、投げた!

彷徨「っとと」

ボール。

相手投手、振りかぶって…投げた!

チェンジアップ!

ストラーイク!

相手投手、振りかぶって…投げた!

彷徨見送った、ストライク!

彷徨「なにぃっ?」

追いこまれた。相手投手、振りかぶって…投げた!

彷徨「ふっ」

狙いが外れたか、空ぶった。ストライク、バッターアウト!

彷徨「負けたぜ」

未夢「まーそんなこともあるよね」

夏希「何気に西遠寺くん、初の三振ね」

彷徨「そりゃするだろ、向こうは真面目に野球練習してる連中なんだし」

夏希「西遠寺くんだって、真面目にバスケしてるでしょ?」

彷徨「してるが…野球関係ないだろっ」

可菜「じゃー次は必然的に私の番か」

未夢「可菜ちゃん、追加点、がんばれ!」

惠「可菜ー、肩の力抜いてけよー」

可菜「おー」

相手投手「ふー…」

相手投手振りかぶって、投げた!ストライク!

相手投手振りかぶって、投げた!ストライク!

相手投手振りかぶって、投げた!ストライク!バッターアウト!

未夢「ちょっとー、何やってるのよ可菜ちゃんー」

ほぼ棒立ちだった。

可菜「あいや、なんかちょっと何故か打てる気しませんでした」

夏希「さすがに相手投手もちょっと疲れてきたかな…?」

夏希「ボールを混ぜて来なかった。ストライクばっかで即行終わらせたい感じだったわ」

畑中「相手の投手、体力あるな…」

夏希「対照的に私がないって言いたいの〜?」

畑中「いや、プロでもないのに、一人で投げ続けるなんて、リリーフが居ない訳でもないだろうに」

烈「私の出番ですだ」

夏希「紅瀬くん、なんでもいいから、塁に出て!」

烈「努力はするよ」

相手投手振りかぶって、投げた!空ぶった!ストライク!

相手投手振りかぶって、投げた!空ぶった!ストライク!

相手投手振りかぶって、投げた!見送った!ボール。

夏希「ふー」

未夢「見てるこっちが緊張するね」

相手投手振りかぶって、投げた!

キン、バスっ。

審判「…アウト!」

烈「…!」

未夢「あれ?今、ちょっと打った音聞こえなかった?」

夏希「チップだわ!…紅瀬くん走って、と叫びたかったけど、さすがにあの状況じゃ無理ね」

惠「チップ?」

可菜「ピッチャーの球にバットがかすった状況のことね」

夏希「今回で言えば、その球がそのままキャッチャーのミットに収まった時のことを言うんだけど」

夏希「ん〜…今回は明らかに音がしてたしなぁ。クレームつけづらいわ」

未夢「え?どういうこと?」

彷徨「普通、チップは、他の人にはわかりにくいからストライクとして扱う」

彷徨「けど今回、明らかにみんなにわかるように音がなったから打ったとみなしてファールだと言いたい」

彷徨「けどそのままボール取られたから、アウトに変わりはないってことだよ。ま、チップそのままだな」

夏希「大抵はチップしたら球の軌道が明らかに変わってキャッチャーが捕球できないし」

夏希「ファールっぽい感じになるからね。あそこまで音聞こえてそのままってのも珍しいわ」

烈「打ったと思ったのに打ててなかったよ…ごめんです」

夏希「ドンマイ!まだ勝ってるわ。強気で行きましょう!」

畑中「それにしても、見事に投手戦になったな…相手はまだ余裕そうだな」

未夢「投手戦?」

畑中「お互いのチームが中々点が取れず、投手が防ぎ合う試合の感じのことだよ」

畑中「大抵はお互いの投手が優れている場合に言うんだが…」

畑中「今回はウチの得点力が微妙だから何とも言えないな。結果的には投手戦っぽいが」

夏希「でも相手のチームよりは打っている方なんだけどね」

    ------------------- 守備8 -------------------

1−0、まだリード中だ。

夏希「さーて、八回裏の守備も、みんな締まっていくわよー!」

惠「おー!」

可菜「おー」

烈「おー」

零くん、彷徨、英一くんは無言でグローブを上げてた。

相手は四番から。クリーンナップだ。

夏希ちゃん振りかぶって、溜めて、投げた!

カキンッ!

センター前ヒット!

未夢「夏希ちゃんの剛速球を打つとは…」

畑中「さすが四番だな…多少速くてもコースが読まれてちゃな」

夏希「まぁ別に打たれたことなかったわけじゃないけど、進塁されちゃったかー」

夏希「完全試合は失敗ね」

畑中「点やらなきゃいいだけだ。締まっていくぞ!」

夏希「おうともさ!」

夏希ちゃん振りかぶって…溜めて…

ダッダッダッダッ。

未夢「あっ」

四番の人走った!

畑中「夏希!」

夏希「くっ」

ゴッ!

バシィ!

畑中「くっ!」

畑中くん、一瞬ひるんで、投げた!

二塁は烈くんだけど、零くんが二塁に入りボールを受け取るも、四番の人は滑り込むでもなく、間に合ってた。

夏希「畑中!大丈夫?」

畑中「夏希の剛速球で一瞬手が痺れたんだ…」

それで一瞬ひるんでたんだ。

畑中「ちょっとまずいとこ見られたかもな…でもまだだ。行くぞ!」

夏希「う、うん!」

夏希ちゃん振りかぶって…溜めて…

ザッザッザッザ!

畑中「何!そんなに足早かったわけでもないのに…ナメてるのか!」

ビュッ!

カキン!

畑中「ヒットエンドランだと!」

ボールはライト前へ。

未夢「可菜ちゃん!」

可菜「わっ」

ライト前に落ちたボールが大きくバウンドし、可菜ちゃんの背を大きく超えた。

可菜ちゃんはすぐボールに追いついたが、ひとまずわたしのところへ送球。

かなり遠くから投げてもらったけど、何バウンドかしてやっとわたしのところへ届いた。

相手は三塁まで進出していた。二塁から走ってた四番の人はすでにホームイン。

夏希「くっ…!」

1−1!点を取られてしまった。

畑中「気にするな!これから抑えるぞ!」

相手は六番目。

夏希ちゃん振りかぶって…投げた!

ゴッ!

豪速球!

審判「…ストラーイク!」

何度見ても、あれはすごい。相手の選手も怖気づいているようだ。

夏希ちゃん振りかぶって…投げた!

キン!

畑中君の右後ろにするどく飛んだ。ファール!

審判の人、怖くないかなあれ…。

夏希「くっ…さっさとアウトになりなさい…」

夏希「はぁ〜…!」

夏希ちゃんが深く深呼吸をした。

夏希「なめんじゃ…ないわよっ!」

溜めの少ない、渾身の速球!

バシン!

畑中「…!」

審判「ストライク!バッターアウト!」

相手は見送ってた。手が出せなかった模様。

畑中「夏希の体力があれなのもあるが…俺もこれあんまり受けるのツラいんだよな、へへ」

畑中「女房役としては慣れていかないとな」

相手の五番の人が三塁に残ったまま試合は進む。

次は下位打線七番の人。アウトの数はまだ一個だ。

夏希ちゃん振りかぶって、投げた!

コースは真ん中から右下へ。ボール。シンカーと呼ばれるものらしい。

夏希ちゃん振りかぶって、投げた!

ボールが不規則に揺れる!

きわどいコースだったが、結果はボール。

夏希「最初に未夢ちゃんがやってたのを見て学んだナックルボールだったんだけどね…」

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

右手から、左手の方向へ曲がって見えた!スライダーだ。結果はボール。

相手は、夏希ちゃんが変化球を使い始めたからなのか、振れなさそうにいる。

夏希ちゃんが振りかぶった。

夏希「私が変化球を使うのは剛速球を温存する為だけど…」

夏希「結局はこれ一番得意なのよっ!」

ゴッ!

カツッ!

打たれた!レフトフライ!惠ちゃんが下がる!

取った。

惠「…おのれっ…!」

惠ちゃん、渾身のバックホーム!

三塁に居た五番の人が、ホームへスライディング!

速い球がスリーバウンドぐらいして畑中くんへ到達。

畑中くんが守った頃には走者が到達していた。

1−2。まずい、抜かれた!!

夏希「…!!」

打者は八番へ。

夏希ちゃん、第一球を、投げた!

八番打者はバットを振った!空振り。ストライク。

夏希ちゃん、第二球を、投げた!

八番打者はバットを振った!見送り。ボール。

夏希「はぁっ。…なめんなっ」

八番打者、バットを振った!

キィーン!打った。外野に向かって鋭い打球が飛ぶ。

上がった打球がまたしてもライト、可菜ちゃん方面へ…。

今度は正面ではなく遥か後ろの方へ飛んだ。

可菜ちゃん、慌ててボールを拾う。

可菜「えーい!」

可菜ちゃん、二塁へ送球!

バッターランナー、二塁を蹴って三塁へ!

三塁へ進塁されてしまった。セーフ!

夏希「くっ…畑中!」

夏希「これ以上打たせるわけにはいかないわ!」

畑中「あれか、マジか…でもやむを得ないな」

九番、投手。

夏希ちゃん、振りかぶって…夏希ちゃんの目が怪しく光る!

投げた!

ゴッ!

バシィ!!

審判「ストラーイク!」

夏希ちゃん振りかぶって…投げたっ!

夏希「はっ!!」

バシィ!

審判「ストライク!」

もう八回の裏だというのに、急速は衰えていなかった。むしろさっきより上がってた。

夏希ちゃん、振りかぶって…。

夏希「…がああっ!」

投げた!渾身の剛速球!!

バアン!

畑中「…!」

審判「ストライク!バッターアウト!チェンジ!」

相手は手が出せないでいた。

畑中「全く、もう少し手加減しろよ」

夏希「だって、もう絶対に打たせるわけにはいかなかったんだもん」

あれだと、打ってもボテボテのゴロ未満だっただろう。

夏希「でも、みんな、ごめんっ!私のボールが浅かったから…」

可菜「ううん、私がボールを取れてなかったからだよ…」

可菜ちゃんは泣きそうになってた。

夏希「そんなことないわ、可菜ちゃんはよく守ってくれたわよ」

夏希ちゃんは可菜ちゃんの頭を優しく撫でてた。

畑中「しかし何で取られた…ボールは悪くなかったはずだ」

彷徨「今までが良すぎたんだ、さすが、お互いにだが、練習試合とは言え全国を目指しているだけある」

英一「…一筋縄では、いかんということだ…」

畑中「くそっ!俺の読み違いだったと言うのか」

ここに来て、点を取られちゃうなんて。

 ====================================== 九回 ====================================== 

1−2、九回表の攻撃。ラストの攻撃は三番からだ。

惠「なーに、点を取れば、それでいいのだろ?」

未夢「惠ちゃん!」

バットを肩に当て、余裕そうに言った。

惠「大船に乗ったつもりでいろよ、野球をやる連中が、そう落ち込むなって」

惠「ふつー、やらない方が不安になるんだろ?これじゃ逆じゃないか」

畑中「お前な、やらないから気楽なんじゃないんだろうな」

惠「そのままだと可菜や未夢まで不安になる」

惠「リーダーは、余裕を見せてあたしたちを安心させてくれよ。そういうものだろう?」

惠ちゃんは軽音楽部のボーカルで部長だ。そういう気合を、知っているのだろう。

どうしてだろう。根拠のない自信が、安心させてくれるのだ。

畑中「ったく、野球やらないくせに、軽々しく言ってくれるぜ…」

惠「よし、行ってくる」

夏希「お願いね…!」

惠「そこまで懇願されたら、打たない訳にはいかないな」

惠ちゃんがバッターボックスに入った。

相手投手振りかぶる…。

投げた!

ブンッ。

空ぶった!ストライク!

相手投手振りかぶって…投げた!

ボール。

投手「はぁ、はぁ」

ここに来て相手投手も疲れ始めた。

夏希「お願いっ」

相手投手振りかぶって…投げた!

カキンっ!

打った!鋭い打球が三遊間を抜けた!

夏希「やった!」

畑中「やっべ、あいつマジすげーな…何もんだ」

未夢「本人はただの軽音部員だと言ってたけどねぇ」

次は英一くんの番だ。

夏希「英一っ」

英一「…仕事をしてくる」

畑中「今日の成績だけで言ったら、武乃邑の方がすごいかもな」

相手投手、振りかぶって、投げた!見送った。ボール。
相手投手、振りかぶって、投げた!見送った。ストライク。
相手投手、振りかぶって、投げた!見送った。ストライク。
相手投手、振りかぶって、投げた!見送った。ボール。
相手投手、振りかぶって、投げた!見送った。ボール。

投手「はぁっ、はぁっ」

畑中「よく見てるな…さすがだ」

夏希「お願い…」

ここまで来たのに、負けて終わりは嫌だ。

英一くん、何とかしてあげて!

相手投手、振りかぶって、投げた!見送った。ボール。

審判「ボールフォア!」

カラン。英一くんがバットを置いた。

畑中「よく見切った…!」

夏希「英一、助かったわ…」

畑中「夏希、送れよ」

夏希「チャンスなのにっ?」

畑中「だからこそだ。確実に点にするんだよ」

畑中「それに、勝つんなら後一回投げるんだぞ?」

夏希「…くっ…わかったわよ」

夏希ちゃんがバッターボックスに入った。構えは普通だ。

相手投手、振りかぶって、投げた!見送った。ストライク!

構えは普通のまま。

夏希「…」

夏希ちゃんは一塁の英一くんと二塁の惠ちゃんを見てた。

なんらかのアイコンタクト?

惠「!」

英一「…」

相手投手、振りかぶって、投げた!

スピードが落ちている。

夏希ちゃんが構えた!セーフティバントだ!

同時に、惠ちゃんと英一くんも走り出してた!

コンっ。

一塁側のラインより内側に軽く浮き、転がった。

畑中「よし!」

相手投手取った!夏希ちゃん駆け抜ける!ピッチャーは触れず届かない!

投手「くっ!」

三塁に投げようとするも、走り出してた惠ちゃんと英一くんは既にそれぞれ三塁と二塁へ到達。

一塁に送球!際どい!

バシンッ!

審判「アウト!」

畑中「まぁセーフだったらそれはそれで良かったが、とりあえずおつ!」

パァン!

ハイタッチしていた。

夏希「ちゃんと仕事したんだから、あんたもしないと承知しないわよ」

畑中「はっは、こりゃ耳の痛いこって」

畑中くんがバッターボックスに入った。

ワンナウト、二塁三塁、チャンスだ。

相手投手、振りかぶって、投げた!

球威が落ちている。

畑中「もらった!」

カァンッ!

レフト方面へ高々と上がる!

レフトの人大きく下がった!

キャッチ!アウト!

惠ちゃん、走り出す!

パパが、英一くんに手のひらを見せるように手を伸ばしていた。

レフトの人がバックホームへ送球!球威はそれほど高くない。

サードの人が中継!惠ちゃんは既にホームへ。

なるほど、サードの人が中継すると思ったから、英一くんに走りこまないようにしたのか。

畑中くんのは犠牲フライとなった。

夏希「やった!っこいつめっ!」

可菜「惠ちゃん、お帰り!」

惠「へへっ、無事に帰って来れたぜ」

未夢「惠ちゃん、すごいよ!」

彷徨「やったな」

烈「やったー!」

惠「鷹見が打って夏希が送って、畑中が上げてくれたからだよ」

2−2の同点になった!とりあえずこれで負けはない!

夏希「ツーアウトになっちゃったけど、さぁまだチャンスは続いているわよ!」

英一くんが二塁に残っている。長打が出れば、得点に繋がる可能性は充分にある。

零「…」

夏希「闇無くん、任せたわよっ」

烈「零、打ったらヒーローインタビューだぞ〜!」

惠「インタビューするほど人居ないけどな」

でも外を見てみたらチラホラ人が網の外から見てた。

寮に住んでる男子か、部活で来た子か。

日曜なのに学校に来ている子だから少なかったが、逆に日曜だからか一般人の人も居た。

零くんが静かにバッターボックスに入った。

振り子のようにバットを下に振りながら、構えた。

投手「ぜぇ、ぜぇ」

畑中「相手、かなり弱ってきてるな…点取られたし精神的なものもあるだろう」

相手投手、振りかぶって…投げた。

カァン!

初球からいった!

烈「おおー!」

打球は右のラインを超え、かなり大きく上がった。ファールだ。

烈「零、すごい…ごくり」

彷徨「こりゃ一発もあるかもな。相手も疲れてきてるし」

相手投手、振りかぶって…投げた。

零くん、空ぶった。ストライク!

烈「惜しい!」

畑中「ここからじゃ惜しいかどうかはわからんが…」

相手投手、振りかぶって…投げた。


カンッ!

左方面へ大きく上がったーっ!

レフトの人、後方へ走りながらボールを見て追いかける!

走りながら背面キャッチ!レフトフライでアウトになってしまった。

畑中「今度は確かに惜しかったな。あのレフトのやつの守りは上手い」


    ------------------- 守備9 -------------------

2−2九回裏の守備。相手は一番から。

畑中「夏希!とりあえずここは死守だ!絶対守るぞ!」

夏希「ええ!」

畑中「みんな!締まっていくぞー!」

色んな箇所から、おー、と掛け声が聞こえた。

とりあえず、勝つなら延長戦は必至。けど点を取られたら・・・。

審判「プレイ!」

試合が再開された。

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

ブン!

バシン!

審判「ストラーイク!」

空振り。

夏希「…」

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

バシン。

審判「…」

ボールのようだ。
宣言は聞こえていないだけで、バッターボックスには聞こえるように言っているのかもしれない。

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

ボール。

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

ボール。

相手の人、なかなか振らないな…。

畑中「…」

夏希「…」

夏希ちゃんが心なしか、笑った気がした。

夏希ちゃん、振りかぶって、溜めて、投げた!

剛速球のフォーム、だ…?!

打者「!」

カツっ。

ほぼ振り終わる前のタイミングでバットの先に当たった。

畑中「ちょっ」

三塁線側に軽く浮いた。

夏希ちゃんと畑中くんが取りに行く。

結果は、畑中くんが転ぶように滑り込んでキャッチ。アウトだ。

良かった。

けど、さっき何かおかしかったような…?

夏希「はぁっ、はぁっ」

夏希ちゃんが、疲れ始めた…。

畑中「やっぱり始まったか…。あれだけ球数抑えてたのにな」

畑中「さっきも球速落ちてたしな」

畑中「でも今まで五回で、フルイニングしなかったからな」

畑中「見れなかった状況だ。フルイニング時の練習とするか」

さっきのは、疲れてたから、もう剛速球は投げられないってこと…?

畑中(もう余裕はない!コースを変えて、全部ストライクにさせてもらうぜ!)

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

剛速球のモーション!

バシイ!

打者「…!?」

審判「ストライク!」

高めのインコース。

相手の人は驚くと言うより、不思議な顔をしていた。

なんだろう、あれでも全然早いはずなのに、前回比で遅く見えた。

慣れた目が違和感を訴えているのだろうか。

チェンジアップのような球速だ。

チェンジアップは、モーションの溜めを短長して相手のタイミングを狂わせるものだという。

全く同じモーションで球速だけが違う緩急のつけた戦法のような感じになっていた。

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

剛速球のモーション!

バシイ!

外角真ん中。

審判「ストライク!」

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

剛速球のモーション!

相手は外角低め、真ん中、インコース高めの三つを打てるように斜めに救い上げて振った!

バシイ!

コースは内角の真ん中。

審判「ストライク!バッターアウト!」

烈「やったー!」

畑中「ふう。疲れて球速が落ちてもコントロールが落ちない夏希でマジ助かるぜ」

夏希「ストライク取れなきゃ意味ないからね」

剛速球を投げたいだけではないらしい。プロを目指しているから意識高い。

畑中「とりあえずあと一人だ!」

三番の人がバッターボックスに入る…。

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

ど真ん中!

カキン!

ライト方面へ高々上がった!

畑中「やっばい!」

しかし波風に乗ったのか、そのまま大きく横切った。

ファールだ。助かった。

畑中「くっそ、俺の選択ミスだ!」

球速が落ちたから、打たれやすくなってるのか。

夏希「くっ…」

再開だ。

畑中(昔はともかく今の夏希は暴投を克服してるけど、変化球はさらに疲れるからさせたくない)

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

外角真ん中ギリギリストライクコース!
ブン!

バシイ!

打者「あれっ」

審判「ストライク!」

畑中「よし!」

ボール球を振ってくれたようだ。

打者の人は、踏み込みが足りてなかったのか、バットの先がボールに届いていなかった。

何故か自然とバッターボックスの外側に位置していたからか。

それから何回かボールが投げられ、それがファールになるのが続いた。

夏希「はぁっ!はぁっ!!」

畑中「やばいな…続けられてる。俺はバカか!何正直にストライクコースにしてんだ…」

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

外角低めのボール球!

打者「くっ!」

振るのが癖づいてた打者の人は、バットを止めた!

バシイ!

審判「……!」

…ボールのようだ。

打者「ふー」

畑中「…っちっ。振れよ」

打者「危なかった」

そう会話していたようだ。

気を取り直して、夏希ちゃん、振りかぶって…。

投げた!

カンッ!

夏希「うっ!」

センター方面に高々上がった!彷徨追いつかない!

バッター、一塁を蹴った!

彷徨、勢いよく送球!

烈くんが二塁について構えた!

ズザーッ!

バシイ!

審判「セーフ!」

烈「くっ」

ギリギリの差だったようだ。

三番「ふーっ」

ツーアウトランナー二塁。四番の人。

長打されたらヤバイ。

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

カァン!

いきなり打たれた!走者は既に走り出してた!

ツーアウトだから、ヒットエンドラン!

ショートを高々と越えて落ちた。彷徨がフォローに入ろうとする。

烈「零、西遠寺くん、任せて!」

烈くんがフォローに入りに来ていた。

ぱしっ。

かなりセンター近い位置だったが、烈くんが取った。

走者は三塁を蹴っている。

烈「ドラゴン…ビーム!」

バシィッ!

三塁に居た人は、怖気づいて走るのを止めた。

夏希「ナイスよー!紅瀬くん!」

どうでもいいけど、あれは何かの技名なのか…?

でも烈くんじゃなかったら、走りこまれていたかもしれない…。

烈くんの隠れファインプレイだ。


ツーアウト一三塁。尚もヤバイ。

夏希ちゃんは横目で一三塁を警戒していた。

棒立ちで畑中くんを見てた。何らかのアイコンタクトだろう。

剛速球はもう使えない。後は…。

畑中「…」

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

夏希「くっ!」

ボールはかなり高く上がった!

畑中くんの頭上を越えて…。

烈「ぼっ、暴投だー!」

夏希「ま、また…」

畑中「くっ!」

三塁の人がホームに走ってきた!

英一くんも走ってきて、その人を抜いた!

英一「畑中!」

畑中「くっ!」

ボールを投げる!

ズザーッ!

バシッ!

走者「…」

英一「…」

夏希「…!」

…。

審判「…」

審判「…アウト!」

畑中「…はぁっ」

畑中くんはため息をつくように安堵した。走者の人はうな垂れてた。

しかし、ホントに危なかった…もし英一くんが三塁の人より早く来れてなかったら?

考えたくもない。

夏希ちゃんは、その時は膝ついてしまっていたから…。

 ====================================== 十回 ====================================== 

2−2、十回表の攻撃。延長戦だ。八番から。

畑中「すまん!俺があんなところであんな要求をするから…」

夏希「いえ…私がコントロールミスなんてするから…」

烈「まぁでも結果的にはヒット打たれるかもしれないのを無くしてアウトにできたから良かったじゃない」

烈くんが空気を変えてくれた。

畑中「そいやさっきはサンキュな。機転が利いてくれて助かったぜ」

烈「二塁の人が走り出すのが見えたからね」

未夢「もう夏希ちゃんは、ちょー速い球は投げられないの…?」

畑中「剛速球が投げれるのは、フル体力から10個くらいだ」

畑中「けど今日は長く投げてから使ってたから、それより少ない段階で疲れが来たんだろう」

夏希「やっぱり、もっと早くやっておくべきだったのよ」

畑中「それだったらもっと早くバテてたろ!覚えろよ!いーかげんに」

未夢「剛速球だったら、烈くんにお願いすればいいんじゃないかなっ」

我ながら名案!

烈「ええっ!無理無理!コントロールとかできないから!」

畑中「まぁ、遠投時のコントロールは悪くないが、それだけじゃないからな…」

惠「そういえば、十人以上居ないけど、ピッチャー交代とかできるのか?」

彷徨「十人以上と言えば、優さんが…」

優「ええっ、僕?無理無理」

夏希「いちおー、リリーフ先の人が既に守備についてたならできるわよ」

夏希「その後私は戻れるけど、その場合はもう交代できないわ」

惠「そんなルールがあったのか」

夏希「要するに、皆を代わる代わるピッチャーにするのは無理ってことね」

夏希「そんなことしたら、疲れとか継続しないし、打者は読めないばかりだからね」

惠「まぁ、ピッチャー専用の人よりかは、読めるかもしれないけどな」

夏希「とにかく、十回の表、延長線、私たちの攻撃の番よ」

畑中「みんな頼む、夏希はもう保たない。点を取ってくれ…!」

未夢「…うん!」

惠「おう!」

烈「おー!」

零「よし」

彷徨「そうだな」

英一「…わかった」

夏希「さて、未夢ちゃんからよ」

未夢「わたしからかぁ〜」

惠「っていうかこれもう引き分けでよくないか?」

畑中「草野球じゃないからな」

自信ないなぁ。

バッターボックスに入る。

最後かもしれないのに、緊張感がなかった。

相手投手、第一球、投げた!見送り。ボール。

相手投手、第二球、投げた!見送り。ボール。

相手投手、第三球、投げた!見送り。ボール。

相手投手、第四球、投げた!空振り。ストライク。

相手投手、第五球、投げた!空振り。ストライク。

相手投手、第六球、投げた!空振り。バッターアウト。

未夢「ふぇ〜、ごめんっ」

夏希「全部ボール球だったわね…でもよくがんばった」

わたしのせいで負けたら、どうしよう。

夏希「私のせいで負けたらどうしよう、って顔してるわよ」

未夢「えっ、なんでわかったのっ」

夏希「だから、そんな顔してたって」

夏希「気持ち分かるのよ、私もだったし、チームメイトがミスしてゲームセットした時も、そんな顔してた」

夏希「確かにそれはあるかもしれないけど、でもタイミングが違うだけでそれは全ての人に言えるのよ」

夏希「だから、あんまり自分だけを責めなさんな」

未夢「うん…」

でもわたしだけが役に立ってない気がした…。

夏希「大丈夫だって!未夢ちゃん、一塁でみんなの球受けてるじゃない!仕事してるよ!」

何も言ってないのに、考えてることが見透かされてるかのように慰めてくれた。

きっと、夏希ちゃんもこの感情になったことがあるのかな。

どうやって、元気を取り戻したのかな。

夏希「それに、彼氏様が何とかしてくれるわよっ。いっししっ」

彷徨「何とかするけど、なんかムカつくなそれっ」

夏希「未夢ちゃんを前にしといてよかったわね」

夏希「お兄ちゃんが、尻拭いしてくれますよ〜」

彷徨「お兄ちゃんじゃない…」

畑中「夏希、まだ試合勝ってないぞ…気持ちをだな」

夏希「こんな時だから明るくしないと、気分でも負けちゃうわよ」

相手投手、第一球、投げた!

彷徨「ふっ」

ブン!

空振った。ストライク。

彷徨「くっ」

夏希「ストライクコースだったけど、狙ってたところが外れたのかな」

相手投手、第二球、投げた!

彷徨「っとと」

見送り。ボール。

相手投手、第三球、投げた!

彷徨「っとと」

見送り。ボール。

相手投手、第四球、投げた!

彷徨「っとと」

見送り。ボール。

相手投手、第五球、投げた!

カァン!

未夢「わっ」

こっちにボールが飛んできた!

バシイ!

夏希ちゃんがグローブでボールを取ってくれていた。

夏希「まぁこんなこともあろうかと」

未夢「あ、ありがとう…」

夏希「どういたしまして」

未夢「こらーっ、彷徨ー!何やってんのよーちゃんと打てー!」

彷徨「無茶言うなー!どこに飛んで行くかなんてわからん!」


相手投手、第六球、投げた!カァン。ファール。

相手投手、第七球、投げた!カァン。ファール。

投手「ぜぇ、ぜぇ」

それから何度かファールを繰り返した。

畑中「狙い球でも待ってるのか…?」

夏希「でもファールを続けられるのは結構な技術よ」

相手投手、振りかぶって、投げた!

カァン!

三遊間を抜けた!

畑中「よぉしっ!抜けた!」

ワンアウト、一塁。

可菜「うわ〜、とんでもない場面に出くわしちゃったな〜…」

これ、もしアウトになったらわたしと同じ気分になるやつだ。

未夢「可菜ちゃん、がんばって!」

可菜「プレッシャ〜だよ〜…」

夏希「負けてもいいとは言わないけど、気楽にがんばって!」

可菜「それつまり負けちゃダメってことじゃない〜」

夏希「あっはは!気持ちだけはね」

夏希「気持ちでそうなってると、事実もそちらに吸い寄せられちゃうからね」

夏希「まぁいつもどおりでいいのよ!」

可菜「それって、バント…?」

畑中「ここでツーアウトになるのはまずくないか…?」

夏希「同点なんだし、負けるわけじゃないわ。チャンスなところはよりチャンスにしていかないと」

畑中「お前今元気だけど次マウンドに立って投げたらぜぇぜぇだからな…」

夏希「まぁツーアウト後に打てなかったらその人の責任ってことで」

烈・惠「「ええ〜」」

後ろに控えてる人が不満そうにハモってた。

可菜「あっはは。ならがんばれるかな」

夏希「この無責任者めっ」

可菜「だって、惠ちゃんたちが何とかしてくれるんでしょう?」

惠「まぁ努力はするが…その前に、頼りないこいつがどうにか打たないと話にならんぞ」

烈「…?」

烈「どうも」

未夢「あっはは…」

夏希「あはは…まぁ烈くんなら何とかしてくれるわよね。大丈夫よ」

烈「何、この重圧…」

実際に、惠ちゃんが烈くんの背中に覆いかぶさってた。

惠「責任の重さを思い知れ」

烈「重い、重いから!」

惠「レディーに対して重いとは、デリカシーの欠片もないやつだな〜」

烈「なんか重要アイテムっぽい名前、デリカシーの欠片」

惠「ああ、はいはい、重要アイテムだよ、確かに…」

可菜「いってくる!」

未夢「がんばって!」

可菜ちゃんがバッターボックスに入る。バントの構えだ。

それを見て彷徨も、牽制で刺されない程度にリードしていた。

三塁を守る人が前に出てきた。

夏希「…ごくり」

相手投手、投げた!

可菜ちゃん、当てに行くが、当てられない!

審判「ストラーイク!」

夏希「可菜ちゃん、がんばれー!」

未夢「可菜ちゃん、がんばって!」

惠「可菜ー!打ったらケーキでもなんでもおごってやるぞー!」

可菜ちゃんは子供か…。

可菜「…」

声援は届いてたと思うけど、可菜ちゃんは真面目に打とうとしていた!がんばって!

相手投手、投げた!

可菜ちゃん、当てに行くが、当てられない!

審判「ストラーイク!」

惠「可菜、がんばれー!」

夏希「可菜ちゃんー!」

お願い…!

可菜「…」

彷徨も、なかなか走りにくそうだ。

相手投手、投げた!

彷徨、走り出した!

神様!

カンッ!

当てた!

一塁方向にぼてのゴロ!

可菜ちゃん、颯爽と駆け抜ける!

ピッチャーの人がフォロー、二塁に投げる!

セーフ!一塁に投げる!

アウト!

惠「よーし!よくやった!」

惠ちゃんが可菜ちゃんの頭をぐちゃぐちゃと撫で叩いた。

ホームランしたわけでもヒットしたわけでもなかったけど、気持ちはわたしも夏希ちゃんも同じだった。

夏希「よく役目を果たしたわ!さぁ後は烈くんに任せなさい!」

烈「私も褒めたいけど、直後の重圧がひど過ぎてとてもそんな気分になれないよ…ごめんね」

惠「てめー、打たなかったら可菜を投げるからな」

烈「ひぃっ」

ひどい差だった。

可菜「てか私もヒドイことになるよっ」

烈「私そんなに打つの上手くないしなぁ」

夏希「大丈夫よ!最初にやった、ドラゴンどーん?とかなんとかやれば!」

烈「あれはまぐれだってば!」

夏希「じゃぁマグレをお願い!」

烈「マグレだかマグロだか知らないけど、そんなに運を出し入れできないから…」

夏希「一生分の運を今使い果たしてちょうだい!」

烈「この試合ごときでっ!?っていうといかんけど!」

烈「まぁ、五割ぐらい使ってくるよじゃぁ」

それも結構使ってると思う。

烈くんがバッターボックスに入った。

見た目は、さっきのような不安な顔はしてなかった。普通だ。

相手投手、第一球を投げた!見送り。ボール。

相手投手、第二球を投げた!空振り。ストライク。

相手投手、第三球を投げた!見送り。ストライク。

夏希「紅瀬くん、がんばれー!」

惠「紅瀬、がんばれー!」

零「烈、がんばれ!」

烈「!」

烈くんがバントの構えをした。

投手「ばかめ、さすがのお前でも今の状態じゃ無理だろ」

相手投手、第四球を投げた!

烈くんが普通の構えに戻った!

夏希「バスター!」

カツ!

烈「やたっ。初めて打った!」

かすったような音が聞こえた。ショートの真正面!

彷徨、走り込めない!

ショート、一塁へ鋭く送球!

…。

審判「セーフ!」

夏希「紅瀬くんだからできる芸当ね…あの子本当に何者なの」

烈「打ったぞー!」

烈くんが一塁で飛び跳ねてた。

惠「はいはいー!」

畑中「よくやった!」

烈「零ー!」

零くんは親指を立ててた。やっぱり仲良いなこの二人。


惠「もー、誰かさっさと点入れてくれ、ツーアウトでチャンスとか荷が重すぎるぜ」

惠ちゃんの番だ。

惠「なんだかんだ打ててないからな…」

夏希「あれっ、そうだった?なんか、バンバン打ってた気がするけど」

惠「まさに気のせいだな。上げてはいるが、大体フライだ」

畑中「でもアシストとかはしてるから、今回も頼む」

惠「いやいや、今回は犠打は無理だろ」

畑中「じゃぁヒットな」

惠「無茶言うよな!」

惠「まぁ、できることをがんばるさ」

惠ちゃんがバッターボックスに入った。

相手投手、振りかぶって、投げた!

惠ちゃん、初球から振っていった!空振りになった。ストライク。

夏希「あちゃー。頼む、惠ちゃんガンバレ…!」

指を組んでお願いしていた。

わたしもだ。惠ちゃんがんばれ!

未夢「惠ちゃんがんばれー!」

可菜「惠ちゃん、ふぁいとー!」

相手投手、振りかぶって、投げた!見送った。ボール。

相手投手、振りかぶって、投げた!外角低めのコース!

空ぶった!ストライク!

惠「ふー」

夏希「まだまだいけるわよー!」

惠「…」

相手投手、振りかぶって、投げた!

カンッ!

二遊間を越えてのセンター前ヒット!

夏希「よっしー!」

ツーアウト、満塁だ。

英一「…」

夏希「えーいちっ、たんっ、のんっ、むんっ!」

物凄い溜めて頼んでた。

英一「まだ仕事らしい仕事できてないからな…」

夏希「そんなことないよ!英一が居なかったら、ここまで来れてなかった」

英一「昔はピンチヒッターで出てお前に負けたけど、今度は負けないぜ」

よっと言いながら、夏希ちゃんの頭に手をやり、立ち上がった。

夏希ちゃんは、ぱぁっと笑顔になり言った。

夏希「いっけぇ英一!サヨナラホームランだ!」

畑中「サヨナラじゃねぇよ!俺たち表だよ!」

畑中「ったく、あいつの何がそんなにいいんだか」

畑中「俺はお前の球をずっと受け続けてきたってのに…」

夏希「ん?何か言った?」

畑中「なんでもねーよ!」

わたしには聞こえてましたけど。

夏希「英一はバッターボックスに入ってから最初の球は見送るんだ」

夏希「そして打つ球を決める。最初から決めてはいないんだ」

夏希「それを相手が知っていたら、最初はストライクを取られてしまうけど…」

英一「…」

相手投手、第一球、投げた!

英一「…」

ボール。

夏希「ほっ」

夏希「相手は何球を投げてくるだろう…?」

夏希「今日の試合を通してみると、特別な変化球は持っていないみたい」

夏希「ここで投げられたらホントお手上げだけど、ナメプされたみたいで嫌ね」

畑中「いや、それはないと思う。ストレートの内角外角高め低めとチェンジアップくらいだ」

夏希「お互いに癖を知り合うデータがないから、完全な運か…あとは英一の選球眼に頼るのみ」

相手投手、第二球、投げた!

カァンッ!

高々と上がったー!

夏希「!」

烈「おおっ!」

二人とも思わず立ち上がって見た!

打球は大きくライト方向へ…。

しかし曲がりの勢いが良く、そのまま線を切り、ファールとなった。

夏希「英一のやつめ、もうちょっと中に入れなさいよ」

夏希「なぜだか冷や汗出たじゃないの」

畑中「ホントなんでだよ…」

相手投手、第三球と四球は続けてボールだった。

夏希「明らかにびびってるわね…でも満塁だから歩かせるわけにもいかない」

畑中「もうボールは投げられない」

畑中「内角高め、真ん中、外角低めの斜めと外角高め、内角低めの三コースしかないな」

畑中「チェンジアップとかも含めたらもっとあるかもしれないが、おおよそ三コース」

畑中「まさに三割ってわけだ」

夏希「野球で三割三部って言ったら凄いけど、単純な確率論で言ったら低いわよね」

夏希「こういうとき、畑中ならどうする?」

畑中「それは俺がバッターの時か?キャッチャーの時か?」

夏希「どっちだと思う?」

畑中「じゃぁキャッチャーで考えさせてもらうぜ」

畑中「まぁ夏希は球種色々あるから、フルパワーなら嬉しい悩みだが」

畑中「変化球とか投げられなくなった前提だとするなら、そうだな、俺は…」

カキンッ!

打球音が聞こえた!英一くんが打ったのだ!

今度はレフト方面に低く鋭く飛んで行ったがラインは切っている。ファール。

夏希「ああもう!心臓に悪いわね!」

畑中「お互い追い込み、追い込まれたな…」

英一「…」

英一くんはバットを下げ、一回転させるように振り回し、再び構えた。

夏希「…」

畑中「…」

可菜「…」

零「…」

未夢「…」

皆、固唾を呑んで見守った。

未来「未夢〜、お茶いる?」

未夢「…」

未夢「…」

未来「…未夢?」

未夢「…あ〜もう今ちょっと待って!いいところだから!」

相手投手振りかぶって…。

投げた!

外角の低め!

ザッ!

英一くん踏み込んで…。

カキン!

救い上げて、引っ張ったー!

打球はセンター方面へ大きく放物線を描き…。

そして、壁がある前の柵の中へ入った。

…。

…カラン。

英一くんがバットを落とした。

夏希「…」

夏希「…ま」

夏希「満塁ホームランだーーーーーッ!」

畑中「よっしゃーーーーーーー!!!」

可菜「やったーーーーーっ!」

零「…!!」

未夢「やったーーっ!!!」

みんなでホームに戻ってくるみんなを迎えに行った。

未夢「彷徨、おかえりっ!」

彷徨「…ははっ」

パンッ!

ハイタッチした。

烈「零っ!戻ってこれたよ〜」

零「…よくやったな」

烈くんは零くんの手を取り、握り合ってた。

可菜「惠ちゃん!」

惠「可菜!」

惠ちゃんは可菜ちゃんの頭をごしごしと撫でていた。

夏希「英一!」

英一「…夏希!」

夏希「英一っ!ありがとう!大好きっ!」

みんなの前でハグしていた。
点数は2−2から6−2へ。

畑中「…」

夏希「ハッ」

夏希「い、いや、これはそういうんじゃないから!」

畑中「誰に言い訳してんだてめー」

夏希「あいたっ」

畑中「今回はお前に助けられたけど、お前なんかいなくても俺が打ってたからな!」

英一「…はいはい、頼もしい。頼りにしてるよ」

夏希「畑中、何嫉妬してるのよ。単純に大幅に逆転できて嬉しいってだけよ」

夏希「さてさて!この勢いに乗って、私もホームラン打っちゃお〜かな〜」

畑中「お前ヒットにしろ!俺がホームラン打ってやる!」

夏希「何言ってるのよ、それにしても満塁にはならないけどね」

夏希ちゃんはそのままバッターボックスに入って構えた。

夏希「さぁー、行くわよ!」

相手投手、投げた!

カァンッ!

夏希ちゃん、初球から行ったーッ!

センター大きく下がる…。

しかし止まってしまった。キャッチ。アウト。チェンジ。

夏希「あちゃー」

畑中「味方の援護で元気出て回復してたみたいだけど、大丈夫か」

夏希「大丈夫よ!全快したわ!何でも来い!」

畑中「全快はないだろ…何でも来いは俺が言いたいところだがな」

夏希「とりあえず、このままいけば勝てる!勝てるぞみんな!いくぞ!」

みんなで、おー!と掛け声を上げた。

烈「そういえばこれってチーム名とかないの?」

夏希「え?チーム名?平尾高校野球部?」

烈「うん。そう。え?今のチーム名?いや、そうじゃなく…」

夏希「ああ、プロ野球みたいな名前ってこと?特にないわよ」

烈「そうなんだ…」

畑中「普通、つけないだろ」

夏希「…うーん、でもなんかいいわねそれ」

畑中「ええっ」

夏希「なんか臨時的につけようかしら。みんな、未夢ちゃんを元に集まってるし」

烈「光月一家とか?」

惠「なんだそれ!そのまますぎるだろ!」

光月一家。謎の大家族。

夏希「未夢ちゃんには悪いけど、チーム名としてはダサいからパス」

未夢「彷徨さんや、何も悪いことしてないのに、ディスられた気がするんですけど」

彷徨「まぁまぁ」

可菜「英語にしたらどうかな」

烈「ムーンライトファミリーズ」

惠「ファミリーつけるのかよ!どんだけ和みたいんだよ!」

可菜「じゃぁ、ムーンライトーズ?」

烈「なんか夜行列車みたい…」

畑中「いいけど早く決めてくれ…」


零「星…」

烈「え?」

零「星をつけてみてはどうだろうか」

烈「なるほど、月と言ったら星か!」

可菜「ムーンスターズ!」

ムーンスターズ。月の星たち。

夏希「良いわね!それにしましょう!今日から私たちは、ムーンスターズよ!」

畑中「あと半イニングだけだけどな…」

夏希「よーし!ムーンスターズ、行くわよー!」

再び、おー!と喊声が上がった。


    ------------------- 守備10 -------------------

6−2、十回裏の守備。五番の人から。
ついでにスコアボードには、平尾高校の読みがなに、ムーンスターズが追加されていた。

夏希「よーし、いっくぞっ!」

カキン!

初球から打たれた!レフト前ヒット。

夏希「あっれ、油断しちゃった」

畑中「やっぱり元気は見かけだけか…剛速球はもう使えないな」

六番の人が野球帽を被りなおしながらバッターボックスに入った。

夏希ちゃん、落ち着いて、第一球、投げたっ。

畑中「んっ」

バシイ!内角の中。ボール。

畑中「変化球で外角低めを要求したんだけどな…指も疲れてるのか」

夏希(指もびんびん痺れてきたな…でもまだ大丈夫)

夏希ちゃんは、さっきより息切れしてないけど、どこか調子が悪そうだ。

畑中(仕方ない、チェンジアップとコース変えであとこのイニング粘るしかない…!)

畑中(外角低め、ストレート)

夏希ちゃん、振りかぶって、ためて、投げた!

バシイッ!

バッター見送った!ボール。

ストライクじゃないみたいだ。

畑中「…」

夏希ちゃん、振りかぶって、ためて、投げた!

速球!

ストライク!

畑中(外角の真ん中、ボール)

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

シューっ。

バシッ。

ボール。

振らないな…。

夏希「はぁっ」

早く決めないと、夏希ちゃんが疲れちゃう。

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

カンッ!

夏希「くっ!」

ライト方面に大きく外れて上がった。ファール。

なんだか、打たれるようになってきちゃったな…上がるのはまずい。

ファールになったのは、速球に慣れて早めに振るようになったのが芯に行ってないだけだ。

夏希ちゃん振りかぶって、溜めて、投げた!

速球とは逆に、スローボール!

畑中(まずい!遅すぎた!)

カンッ!

二遊間を越えて、センター前ヒット!彷徨が球を処理する。

バシッ。

彷徨からボールを受けたが、ランナーはそれぞれ一二塁無事。

あ〜、打たれちゃったよ〜。

七番打者、バッターボックスに入る。下位打線だけど、油断無用。

夏希ちゃん振りかぶって、投げた!見送り。ボール。

夏希ちゃん振りかぶって、投げた!空ぶった。ストライク。

夏希ちゃん振りかぶって、投げた!カァン!ファール。

夏希ちゃん振りかぶって、投げた!見送り。ボール。

夏希ちゃん振りかぶって、投げた!見送り。ボール。

夏希「はぁっ」

夏希ちゃん、大分疲れがひどくなってきてるな…。

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

カァンっ!

夏希「うっ!また!」

センター前ヒットだ。

彷徨が素早く二塁に送球する!

バシッ!

烈くんがフォローするも、セーフだ。

夏希「はぁっ、はぁっ」

点を取って元気が出てたけど、この状態は精神的にヤバイ。

満塁だ。


八番打者。

夏希「はぁ、はぁ…」

畑中「夏希!まだ大幅リードしてる!心配すんな!」

畑中「こいつら一気にトリプルプレイでアウトしてゲームセットだ!」

夏希「はぁっ…ふふ、そうね」

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

カァン!レフト方面へ大きく外れて上がった。ファール。

球速が落ちて、おそらく相手の人にとって打ちやすい球になってるんだ!

でもやっぱりまだ前の夏希ちゃんの速球側に慣れてて、早く振っちゃうんだろう。

畑中(早く片付けないと!)

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!見送り。ボール。

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!見送り。ボール。

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!見送り。ボール。

畑中(相手ももう夏希が変化球を使えないのを知ってるのか、コースを読まれてるな・・・)

畑中(…インコース低め)

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

カァンッ!

畑中「ぐっ!」

またしてもレフト方面に大きくファール。しかし前より内側だった。

これ以上慣らされたら危ない!

夏希ちゃん、振りかぶって、投げた!

カァンッ!

未夢「ああ…」

ボールはセンターを大きく越えて中央へ飛んだ…。

彷徨がボールを取りに行っている間に、三塁の人がホームイン、相手チームは沸いていた。
6−3。まだリードしているけど点差が縮まった。
彷徨が遠くから二塁へ中継!

二塁の人はそこで止まっていたけど、三塁ベースを既に蹴っていた人がもう中ほどまで走りこんでいた。

ボールが二塁に到達する前に零くんが中継、そしてバックホーム!

バシッ!

セーフ!

点を取られてしまった…。
6−4。さらに点差が縮まる。

畑中「くっそ…!」

夏希「…はぁっ、はぁ」

相手のチームは先程よりさらに沸いていた。

畑中「夏希、すまん」

夏希「はぁっ、はぁ…大丈夫よ、まだリードしてるから、トリプルプレイするんでしょ」

畑中「あ、ああ…」

スコアボードは、6−2から6−4へ。

五、六番の人は帰り、七、八番の人が二塁、一塁に。

打者は九番、ピッチャーの人。

ノーアウト、一二塁だ。

    ------------------------------


夏希「痛っ!」

畑中「タイム!」

畑中くんがタイムをかけてみんなを集合させた。

畑中「どうしたんだ?まさか…」

夏希「あっはは…もうどこもかしこも痛いし疲れたけど、肘の痛みが酷いみたい」

畑中「マジか…」

未夢「夏希ちゃん、大丈夫っ?」

畑中「あと一回ぐらい投げられるか?」

夏希「それぐらい…いたっ!」

畑中「む…ちょい見せてみろ」

夏希「あっ」

畑中くんが夏希ちゃんの袖をまくると、見た目は何ともないようなんだけど…。
なんとなく赤く腫れているような気がした。

畑中「…」

夏希「痛ったぁ!」

畑中くんが夏希ちゃんのひじを強く押すと、夏希ちゃんは驚きながら痛みに顔を歪めた。

夏希「何すんのよ、このバカっ!」

畑中「いった!人を殴るのに一々力使うんじゃない!」
畑中「でもこの調子じゃー無理だな…」

可菜「そんな…」

惠「えー!このまま試合放棄して負けちゃうのか?」

烈「ここまで来たのに、そんなのもったいないよっ」

英一「…」

零「…」

彷徨「でも、これじゃ仕方ないだろ。大事を取って…」

夏希「ピッチャー交代!」

え?

夏希ちゃんがいきなり大声を上げて告げた。

夏希「ピッチャー!光月 未夢ー!」

一同「ええー!」

当然ながら驚愕の声が上がった。わたしは声も出なかったけど。

未夢「な、夏希ちゃん!突然、なんで!?」

てゆうか、色々と何で!?

畑中「そうだよ!光月が投げられるわけないだろ!」

惠「未夢じゃ無理だよ!」

可菜「そうだよ。可哀想だよ」

烈「未夢さんが投げたらヘロヘロボールでめっちゃ打たれて負けちゃうよ!」

零「光月じゃ難しい。誰か他にフォローできるやつが…」

英一「闇無の言うとおりだ。光月じゃ難しい」

なんか、まぁ最もでフォローされてるはずというか、無理なんだけど、ムカムカしてきた。

彷徨「そうだよ。こんな幼児体型じゃ色々と無理だ。俺がやる」

最後のがとどめだった。

未夢「あーもう!みんなして何よ!こうなったら意地でも投げてやるわ!」
未夢「わたし、ピッチャーやる!」

一同「ええええーーー!!!?!」

さっきより驚きの反応が大きかった。相手チームは、何だろうと思っていることだろう。

畑中「お前、本当に大丈夫なのか?」

惠「未夢、運動神経あるの?あたしがやってあげようか?」

可菜「未夢ちゃん本当に大丈夫?」

零「光月、無理はするな」

みんな心配してくれてるのはわかるんだけど、なんかこう。
零くんだけが唯一フォローらしかった。
零くんの優しさに感動。

未夢「大丈夫!ここまで貶されて、引き下がれるもんですか!」

夏希「ふふっ」

夏希ちゃんが、畑中くんに肩貸されながら小さく笑った。

夏希「計画どおりっ」

夏希ちゃんは痛みと疲れで汗だらけだったけど、悪だくみが成功したようで綺麗な笑顔だった。

夏希「未夢ちゃんをピッチャーにさせたら、なんとなくみんなそう言うと思ったのよ!」

未夢「あっ…!」

わたしの性格を知っている夏希ちゃんは、ここまで読んでいたんだ。

夏希「普段から相手チームや自分チームのメンバー性格分析してるあたしを、なめるんじゃないわよ!」

しまった…しかし悔しいと思ってしまったのも事実。

でも、分析って言っても今日のチームは昨日今日でできたんですが。

畑中「じゃぁそういうことにしてとりあえず始めるぞ」
畑中「光月、ばんばん打たれてもいい。思いっきり俺めがけて投げろ」

未夢「う、うん」

夏希「未夢ちゃん、ムーンスターズの勝敗は、あなたにかかっているのよ!頼んだわよ!」

夏希ちゃん、余計なプレッシャー与えないで〜!

みんなは守備に戻っていった。

審判「再開!」

相手のバッターが手持無沙汰そうにしていたが、気を取り直して構えた。

打者「初心者だからとはいって手加減はしない!」

少しはしてよ〜。

でも、女だからってなめないその精神は有難く感じた。

未夢「いっけぇ〜!」

思いっきり振りかぶって、投げた!

未夢「あっ!」

畑中「うぉいっ!」

ボールは山なりで、バッターの背中を超えて後ろのネットに当たった。

審判「ボール!」

未夢「ごめん…」

畑中「光月!大丈夫だ!俺を的だと思え!」

未夢「う、うん!」

ちょっと緊張しちゃった。次は確実に投げる!

未夢「えいっ!」

ボテッ。ボテッボテッ…

しかし、さっきの山なりを意識しすぎたのか、今度はキャッチャーまで全然ボールが届かない。

審判「ボール!」

未夢「あう…」

畑中「タイム!」

畑中「光月、緊張するな。2回やそこらで上手くいくやつは男にはいない」

男には?

畑中「あいや、オカマとか怪人とかは別って意味じゃなくて」

未夢「なんですって〜!」

畑中「冗談冗談!」
畑中「あ、まぁうちのメンバーにも男で7回ぐらいでいきなり投げられたやつも全然いっぱいいるけど」

未夢「…」

慰めようとしてるのか、貶してるのか、どっちかにして〜よくわかりません。

畑中「ああ、悪い悪いっ!夏希と勘違いして」
畑中「でもエースとしてマウンドに立てることに誇りを持って投げろ!打たれろ!」

そういって畑中くんは戻っていくけど、微妙な気持ちになった。

普通に止めようかな。

未夢「畑中くん!」

畑中「俺が悪かった。とりあえず投げてボコボコにされろ」

未夢「え、う、うん」

なんだかよくわからないけど、畑中くんの気圧に押された。
彼も、とりあえず試合を終わらせたいと思っているのかもしれない。
もうなんでもいいや。とりあえず投げちゃえ。

投げる前に、夏希ちゃんの方をちらっと見た。
彼女はわたしを一生懸命な目で見てくれていた。
どうしてわたしを信じてくれたの?夏希ちゃん。
彼女の期待に応えなきゃ!


畑中「すみません、少し投球練習させてください」

タイムで投球練習をし、8球ぐらいだった。ほとんどが明後日の方向のボール。

畑中「よし!始めるぞ!」

大体届くようになった。

いつも軽く練習してて、受け取るほうは上手くなったと思ったけど、投げるほうはそうでもなかった。
ピッチャーの位置からホームまでってこんなに遠かったんだ…。

2ランナー2ボール。やばい。
はぁ…はぁ…。
もう疲れた。体力はある方だと思ってたのになぁ。
夏希ちゃんはいつもこんなにがんばってたんだ。
夏希ちゃんを顧みた。
その方向を向くと、さっきと同じように中腰で軽く肩で息をしながら、目は真剣にこちらに向かっていた。
わたしも彼女に負けないように、こんちくしょうっと思って投げようと思った。

声「タイム!」

なんか、声が聞こえた。

彷徨「畑中、ちょっと来い」

遠くで声が聞こえたと思ったら彷徨だったのか。
真後ろだったし、声源方向がわからなかった。
畑中くんは、自分を人差し指で指差し、俺?といった感じで、疑問を持ってそうな感じでやって来た。

彷徨「畑中、お前、センターできるだろ?」

畑中「あ?あ、ああ。普通にいつもやってるからな。それがどうした?」

彷徨「俺と代わってくれ。俺が捕球をする!」

畑中「はぁ?お前までどっか痛めたのか?ってぼーっと待ってるだけだろ?」

彷徨「ぼーっととか言うな。とりあえずいい作戦があるんだ」

未夢「?」

彷徨は最初こっちに来たから、何か言うのかなと思っていたけど、目的は畑中くんだったみたい。
彷徨は畑中くんの肩に腕をかけながらわたしの方向を背にして、ひそひそ話をするように何か話し合っていた。

結構長い話のあと、畑中くんは嬉しそうに納得していた。

畑中「わかったよ西遠寺。よぉーくわかったっ。光月のことは任せたっ」

彼はそういって、わたしの真後ろの方の守備へ走っていった。

夏希「なになに?どうしたの?」

夏希ちゃんが暇に飽きたらしくやってきた。

彷徨「実はな…」

さっきと同じように、彷徨は夏希ちゃんの肩に腕をまわして相談を始めた。
彷徨ったら、何の気にもせず夏希ちゃんの肩を…夏希ちゃんも何とも思ってない?しっ。
とか思ってたら話が終わったらしく、二人してこっちを向いた。

夏希「そういうことね。首尾は上々のようね」

夏希ちゃんは満足そうに笑った。
そしてわたしの肩を叩きながら言った。

夏希「キレちゃダメよ」

未夢「え?」

夏希ちゃんはそれだけ言って戻っていった。

彷徨「未夢、俺が座ったら、俺は手をある形に変える。そうすると、敵は多少惑うはずだ」
彷徨「意味は特にない。だから何も気にせず、思いっきり投げろ!いいな」

未夢「え、う、うん…?」

そ、それだけ?
なのにあんなに話すことがあったのだろうか。

未夢「よーし!」

多少ブランクがあったので休憩できた!気を取り直して投げよう!
おっとと、彷徨から手の合図があってからだったか…。
どんな手の形にするのかなと彷徨の手を見たら…

未夢「…!」

彷徨の手は、親指を下に向ける形で誘っていた。

未夢「かぁ〜なぁ〜たぁ〜!」

怒り心頭で、顔面にぶつけて死なせてやる勢いでボールを放った。

ビュン!

ズバーン!

審判「す、ストラーイク!」

打者「お、お前何をさせたんだ?」

彷徨「さぁ?俺にもよくわかんね」

そんな会話が聞こえてきた気がするが、何も気にならなかった。

未夢「さっさと次の合図を出しなさいよ、彷徨っ!」

彷徨「おー、悪ぃ悪ぃ」

そう言うと、また親指を下に突き出していた。

未夢「どこまでわたしをバカにすれば気が済むのよ、あんたわぁ〜!」

ビュン!

バーン!

審判「…」

彷徨「判定は?」

審判「あ、ああ、す、ストラァーイク!」

ボールはなんだか変な軌道を描いた気がするが、気にしない。

打者「なんだ?あいつ隠し玉だったのか?サイドスルーもできるのか。カーブか?今のは」

彷徨「さぁ?俺にもよくわかんね」

打者「わからんはずがないだろっ!いま何かすごく曲がったぞ!」

夏希「未夢ちゃんにこんな覚醒能力があるとはっ」

烈「わーっ!」

畑中「明日から夏希とエース交代するかーっ!」

そんな叫び声しか聞こえなかったけど、気にしない。

打者「様子を見ていたが、次は油断しないぞ!」

バッターは、さっきよりも鋭くわたしを見るようになったが、それより彷徨の挑発の方がなんか腹立つ!

次は何を指定するの!?指定なんか元よりないけど!!

わたしはもう指定を無視して投げようと思った。

すると彷徨は、中指と薬指だけを折ったパーの形で手のひらを見せてきた。

未夢「…?」

なんだか拍子抜けしたけど、そのマークをじっと見ていると、なんだか可笑しくなってきた。
チョキでもグーでもパーでもないし、何それ!?

未夢「あっははは!」

あっ、しまった。やばい!

ひょろろろ〜。

ボールは中途半端な山なりを描き、しかしカーブしながら彷徨のグローブめがけて入っていく。

バッター「む、むおっ!」

ぶんっ!

バシーン!

審判「ストライク!バッターアウッ」

打者「初心者のくせにチェンジアップなんぞ使いおって…無念」

烈「アウト取ったの!?」

可菜「ワンアウト?」

惠「やればできるじゃん未夢ー!」

夏希「ちょっと見直したわよ!」

わーわーと騒ぎ出すチームメイト。

事態の急変に状況を把握できてないわたし。

彷徨が、そうさせてくれたの?

彷徨を見ると、舌を見せて、べーっとしていた。

むっとしたけど、そうなるようにがんばらせてくれたんだ。
彷徨は不器用だけど、いつもわたしを支えてくれる。
さっきのはまぐれ。これからが本番なのだ。

打者「俺はさっきのやつのようにひっかけられんぞ」

さっきよりも頑丈そうでしっかりしてそうな人が現れた。

一番の人だ。

彷徨「タイム!」

彷徨がタイムをかけた。何か助言してくれるのかな。

彷徨「未夢、思いっきりゆっくり投げろ」

未夢「う、うん。っていうか彷徨!さっきのはケンカ売ってるのっ!?」

近づいて顔が見えたら、急にさっきのことが思い出された。

彷徨「悪かった。プリン買ってやるから我慢しろ」

未夢「プリン!」

彷徨「それより、思いっきり軽く投げろよ。俺に届くか届かないかぐらいだ」

未夢「そんな器用なコトできるかどうか…」

彷徨「最初みたいな感じでいい。俺の未夢はできるはずだ。あとは自分で何とかするんだなっ」

吐くようにそういって彷徨は戻っていった。
なんだかよくわからないけど、とりあえずがんばってみよう。


冬なのに汗が滴る。帰ったらシャワー浴びなきゃ。
汗で余計体が冷えそうだ。
こんなことを考えていたら何となく落ち着いた。
とりあえず彷徨の言われた通り、山なりに投げてみよう。

未夢「それっ」

ボールは大きく山なりをえがき、彷徨の手元に届くか届かないかのところで落ちた。

未夢「よしっ!」

ってこれで喜んでいいのだろうか?とりあえず目的は達成した。

ぶんっ!

バッターは調子を崩されて空振りした。

彷徨は捕球した。あんな目の前でバッターを振り回されたら怖いだろうに、彷徨はよく取ったな。

審判「ストラーイク!」

やった!と心の中で喜び、彷徨が投げるだろうボールを受け取る準備をした。
ついこの前までろくにボールも取れなかったけど、練習のおかげ。
がんばればなんでもできるんだと思った。

未夢「?」

彷徨はわたしの方向を向いているけど、目線が違う気がした。そして思いっきり投げようとしていた。

気付くと、一塁と二塁に居た人が走っていた!

夏希「だ、ダブルスチールっ!?さ、西遠寺くん、早くっ!」

ブンッ!!

未夢「う、うわあっ!?」

思わず反射神経で、頭を抱えながらしゃがみこんでしまった。

彷徨大暴投!?

ズバーン!

未夢「え?」

頭を抱え込んだまま、目をあけてチラ見してみると、零くんが二塁で球を受け取っていた。

二塁って烈くんの役だった気がするけど、驚いていただけだった。
まぁ、驚いたのはわたしもだけど。
零くんは敏感に周りの空気を読み取り、二塁に着いたのだ。
結果、盗塁していた一塁の選手は、二塁で捕まえられていた。

審判「アウト!」

惠「未夢ーっ!ナイスごまかし!」

烈「零、西遠寺くん、ナイスアシストっ!」

零「…って、ホントはお前の仕事だろ。全くしかたないやつだ」

わたしもそう思うけど、投げたのは誤魔化しではなく。

彷徨「お前の手柄にしといてやるよっ!」

夏希「よく機転が回ったわね。でもよくあんなゆっくりボール投げさせて大丈夫だったわね」

彷徨「早く投げさせたら、読まれると思ったんだ。ゆっくり来ても刺せる自信があった」

夏希「なるほど。普段あんな馬鹿でかいボール投げてたらちっちゃいのは…ってこと?」

彷徨「いや、こっちはこっちで投げるの難しいけどな」

夏希「技術もあれば頭の回転も良く!未夢ちゃんが羨ましいわね」

未夢「え?」

目を点にして話を聞いていたら、なんかわたしの名前が。

彷徨「お前だって、そこ隣に天才いるじゃん…」

夏希「う、うるさいっ!と、とにかく、バッテリー任せたわよ、夫婦漫才!」

夏希ちゃんは走って一塁に戻っていく。

彷徨「誰が夫婦漫才だ…」

未夢「め、夫婦って…」

彷徨「未夢」

未夢「は、はいっ!」

びっくりした。けど、彷徨はわたしの声にびっくりしているようだった。
でもすぐに優しそうな顔で言った。

彷徨「未夢、あと一回だ。ここで燃え尽きろうぜ!」

最初はめんどくさがっていた彷徨も熱くなっていた。
やっぱり男の子なんだな。

未夢「よーし、やるぞぉー!」

彷徨「その意気だ!」

そういって彷徨はわたしの肩と背中を強く叩いた!

気合と根性を彷徨に注入してもらったし、もう大丈夫!

へばっていた身体を叩き直してくれた。

わたしたちのチーム。ムーンスターズ、絶対勝つ!



三塁、ツーアウト、一番の人。

彷徨「…」

彷徨の指を見た。
さっきのような謎の形ではなかった。
人差し指で、左下を差している。

そっちの方向に投げろってことかな?

未夢「ん〜…はりゃ!」

ひゅうーん。

少々山なりのボール。

ブン!

ぱしっ。

審判「ストライク!」

未夢「やたっ」

ボールも何とか届くようになってきた。

今度は、わたしから見て左、打者の外側だ。
彷徨は打者から離れるように位置を座り直した。
打者はより真ん中に寄った。届かれる…。

未夢「よーし…いけっ」

ひゅーん。

さっきよりはまっすぐ。

打者見送った!
審判「…」

ボール。

打者と彷徨とボールの位置関係で言ったらストライクぐらいだったと思う。
けどベースから離れていた。

ベース側に寄った打者に対して、彷徨は元の位置に座り直した。
下を指し示している。

そんなこと言ったって、上手くそこに投げられるかどうか…。

そういえば、あれで方向を指し示すとなると、ど真ん中は表現できないし、聞いてない。

ど真ん中は危険だからかな?

未夢「ん〜…くらえっ」

しゅーっ。

ブン!

打者、空振り。ストライク。

打者は下がり直した。

夏希「おー!未夢ちゃん、あとストライク一つよ!」

烈「わー!未夢さんがんばれー!」

惠「未夢ー!」

可菜「未夢ちゃーん!」

遠くから応援が聞こえた。

彷徨の指は、わたしから見て右下の方向。

わたし、上手く投げられてるかな?

そこに投げるようにしているから、実は全力ではない。

本気じゃない、という意味じゃない。

思いっきり投げたら、どこに飛んで行くかがわからないからだ。

最初に比べたら、力を出している方。どれぐらいで届くかはわかった。

ほぼ全力で、多少コントロールの為に力を抜いている感じだ。

けど、慣れてきた。

四球目、振りかぶって、投げた!見送り。ボール。

上手くそこに投げられたけど、内側で低すぎたか。

それにしても、わたしよくそこに投げられてるな。なんか気持ちよくなってきた。

夏希ちゃんの気持ちが少しわかる。

彷徨の指は、わたしから見て右。内角の真ん中。

五球目、振りかぶって、投げた!見送り。ボール。

ツースリー。

別に歩かせても押し出しになるわけじゃない。

けどそれは問題の先送りと同じだ。今アウトを取れば…。

彷徨の指は、右。

六球目、振りかぶって、投げた!

カンっ!

あっ…。

レフト方面へ高々と上がった。そして…

横に切れて行った。ファール。

あぶな〜…。

彷徨は座り直して、すぐさっきと同じ右を示した。

七球目、振りかぶって、投げた!

カンっ!

今度は、ボールがわたしの左上、ライト方面に…。

さっきと同じく、横に切れて行った。

恐〜。

風に助けられているのか。

真冬の風は寒いはずなのに、それを忘れるほど、運動と緊張で体が火照っていた。

暑い。

それが何回かあって、打たれて上がってファール、でもそれがだんだん内側になっている気がした。

彷徨の指は、自分を差していた。真ん中ってこと?

バシイ!

グローブに激しくパンチして構えた。思いっきり来いってことかな?

よ、よーし…!

未夢「えーい!」

一番真っ直ぐに飛んで行った!

カァン!

快音がした。

振り返ると、真ん中に飛んで行った。

ああ、ホームランかな…。そんな思いが過ぎった。

夏希「畑中!」

彷徨に代わって入った畑中くんが走って下がる。

畑中「代わったところに飛んで行くってな…っ」

三塁の人はもうホームに到達していた。

お願い、柵まで行かないで…!

畑中くんは全力で走っている!

そして飛び込んだ!

ズザー!

結果は…。

………。

……。

…。

畑中くんは、左手を高々と上げた。

ボールを取っている。

審判「アウト!ゲームセット!」

夏希「………」

夏希「………い」

夏希「いよっしゃああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

夏希「勝ったアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

烈「やったーーーーーーーーー!!!!!」

未夢「えっ?勝ったの?終わったの?」

夏希ちゃんが飛び込んできた。

未夢「うわっ、夏希ちゃん」

抱えて一回転した。


彷徨「ああ、俺たちの勝ちだ」


夏希「未夢ちゃんありがとう!もうホント大好き!」

惠「未夢!よく投げたな」

可菜「未夢ちゃん、かっこいい!」

零「お疲れ」

英一「よくやった」

パチパチパチパチ。

拍手が外側から聞こえた。

柵の外から、学校の人たちが何人か観戦してくれてたのだ。

いつの間にか結構な人数になってた。

未夢「おー」

何が何だかわからない。けど…。

でもそれはなんだか、絵に描いたような幸せな光景に思えた。どこか他人事のように。

畑中「いってて…がんばって取ったのは俺だからな」

未夢「畑中くん、大丈夫?」

夏希「あんた、実は取ってなかったとかじゃないでしょーね」

畑中「ちゃんと取ってたわ!なんだよそれ」

英一「ま、結果オーライかな」

夏希「なんか、よくわかんないけど、すっごい嬉しいわ」

とにかく、延長した試合は終わった。

なんか、わたしが甲子園した気分。

一週間ぐらいに感じた、長い時が、今、終わったのだ。


審判「整列!」

ムーンスターズの勝ち。スコアボードには、6−4と書かれていた。
 一二三四五六七八九十
先0010000014|6
後0000000202|4

全員「「ありがとうございました!!」」

未夢「そういえば、同点で終わってたらどうなってたの?」

夏希「うちは延長は練習試合の場合、一回だけって決めてるのよ」

夏希「だから、引き分けでおしまいね」

未来「みんな、お疲れ様」

ママがみんなにタオルと暖かいお茶を渡していた。

烈「ありがとうございます!」

未来「未夢、よくがんばったわね」

額と首の汗を拭いてくれた。

未来「ママ感動しちゃったわ。将来は、プロ野球選手にする?」

未夢「いやぁ、あんな難しいのはもうこりごりです…」

夏希「でも、ホント助かったわ」

優「いやぁ、僕の出る幕がなくてホント良かったよ…」

未夢「パパも、お疲れ様」

夏希「おじさん、ありがとうございました!」

優「誰も倒れたりしなくて良かったよ。僕何にもしてないけどね」

彷徨「そんなことないですよ、優さんが制止してくれなかったら危なかったときもありましたし」

優「ともかく、みんな、お疲れ様」

未来「未夢、私たちは、先に帰ってるわね」

未夢「えっ、みんなと一緒に居ないの?」

未来「未夢はもう少しみんなと一緒に居たいでしょう?」

未夢「それならママたちも一緒に…」

未来「私たちは、先に帰って家でパパと料理しておいしい夕食を用意して待ってるわ」

未夢「ママ…」

優「さーて、今日は腕によりをかけてごちそうを作らないとなぁ…」

烈「未夢さんいーなあ」

英一「…夏希」

夏希「! えーいち…」

夏希「英一、ありがとう、あんたが来てくれたおかげで、試合に勝てたわ」

英一「俺一人の力じゃないさ、夏希の、みんなの力があったからだ」

英一「夏希」

夏希「な、何よ、改まって」

英一「試合は終わった。勝った。そして俺はもう用済みのはずだ」

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英一「そういえば言ってなかったな。俺の言うこと何でも聞いてもらうぞって」

夏希「そ、そうだったわね。いいわよ。聞くわ、き、聞いてあげるわ」

体も声も震えてた。

『二度と近づくな』

断絶されるのを覚悟しているようだった。

英一「えーと、こほん…」

夏希「…っ!」

英一「夏希、好きだ。付き合ってくれ」

わたしの顔が赤くなった。

夏希「…」

夏希「はっ!?」

烈「おおっ?!」

惠「なんだなんだ!?見せつけの告白タイムか!?」

彷徨「やれやれ…」

夏希「ま、待って待って。よく聞こえなかったわ。悪いけどもっかい言って。お願い」

英一「ば、ばかやろう。恥ずかしいんだからな。耳かっぽじってよく聞け」

英一「夏希、お前のことが好きだ。ずっと一緒に居たい」

さっきとちょっと違ってアレンジされてた。

自分が言われてるわけでもないのに、太陽のように顔が熱く、赤くなった気がした。

そして爆発した。フレアだ。


惠「なんだこれ、おいなんだこれ!?」
惠「ひゅー!」

烈「ひゅー!」
烈くんは口笛を吹いた。

可菜「おお〜」

畑中「ぐっ…」

一人、悶えてた。

夏希「…!」

夏希「わ、悪いわね英一、耳かっぽじってなかったわ。もっかい聞きたいんだけど」

英一「聞こえてるだろ!聞きたいだけだろ!」

夏希「私の言うこと何でも聞くって言ったじゃないの!」

英一「ぐっ…!い、言うよ、けど今はナシだ!」

夏希「いーえ!今言いなさい!」

英一「そ、それで、答えはどうなんだよ」

夏希「…っ!」

静かになった。夏希ちゃんの返答タイム。

夏希「…は、はぃ…」

夏希ちゃんらしからぬ、消え入りそうな声だったけど、YESと言う答えが聞き取れた。

惠「キャプテーン!!声が小さいんですけどー!!」

夏希「ああ!もう!愚民ども!うっさい!」

夏希「わかったわよ、言えばいいんでしょう!」

夏希「私も英一が好きです!英一と付き合いますーーー!!!」

余計なことまで高らかに叫んでいた。

惠「よく言ったー!」

烈「ひゅーひゅー!」

可菜「…!」

零「…」

畑中「へっ!」

未夢「…彷徨」

彷徨「うん?」

未夢「これで、良かったのかな」

彷徨「いいに決まってるんだろう?俺たちのときは、あそこまで豪快じゃなかったけどな」

未夢「へ、変なこと思い出させないでよ!あれでも実は恥ずかしかったんだからね!」

ポカポカ叩いた。


夏希「で、でも、急に、なんでよ…?あれだけ誘っといたのに、今になって…」

英一「夏希ががんばってる姿をずっと見て、憧れたんだ」

英一「そしたら、野球が好きだった頃の自分を思い出した」

英一「そして打てた」

英一「自分の気持ちに気付けたのは夏希、お前のおかげだ」

英一「野球をやってるかどうかなんて関係ない」

英一「夏希、俺はお前が好きなんだ」

夏希「…っ」

かぁぁっと夏希ちゃんが赤面していくのがわかった。

未夢「おおー」

惠「うっわー。こんな大勢の面前でそれ言っちゃうかねフツー」

可菜「男女の恋の始まりね」

烈「いいねぇー」

畑中「おいてっめ!」

英一「いって」

畑中くんが英一くんの足を蹴ってた。

畑中「夏希の球をずっと受け続けてきたのは俺なんだよ!」

畑中「お前なんか今更…!」

英一「今更、なんだよ…?」

畑中「いまさら…」

畑中「…」

畑中「と、とにかく!ポっと出のお前なんかに夏希は渡さねぇ!」

英一「ポっと出と言われても、俺と夏希はお前より先に出会ってるんだが?」

畑中「うるっせぇ!出会いより中間!真ん中だろーがよ!」

英一「ポっと出って言ったのはお前だし、それいうならお前だろ…」

畑中「うるっせぇー!」

惠「おやおや、修羅場?」

可菜「おー」

夏希「なに、あんた、私のこと好きだったの?」

畑中「ばっか!おま何言ってんだ!俺は別にお前のことなんかだな…!」

夏希「でも、あんたのおかげでここまで続けてこられた」

夏希「英一に嫌われて、上手く投げれない時も、あんたが背中押してくれたから」

夏希「ありがとね」

畑中「…!」

夏希ちゃんが畑中くんをハグしてた。

畑中「ふ、ふん!俺はだな…」

英一「…おい、今は俺と夏希の時間だろ」

畑中「うるっせ!てめなんだ!やんのか!まじぶっ殺す!」

畑中くんが英一くんの肩にパンチしようとしてた。

夏希「ひゃっ」

それを避けて、夏希ちゃんをお姫様抱っこし、逃げて、それを畑中くんが怒りながら追っかけてた。

みんながそれを見て笑ってた。

未夢「あっはは…」

未夢「ね、彷徨」

彷徨「ん?」

未夢「わたしたちも野球、やる?」

彷徨「俺バスケなんだが…」

未夢「あ」

そうだった。

なんにしても、永い時が終わった。楽しかった。

この冬の、一大イベントが、終わったのだ。

忘れることのない…。