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====================================== 人脈 ======================================
今日は土曜日。家でのんびりしていた。
ケータイの音が鳴る。メールじゃなくて電話のようだ。
夏希ちゃんからだ。なんだろう。
未夢「はい、もしもし?」
夏希『あ、未夢ちゃん!?今日、うちに来れる!?』
未夢「え、今日は特に予定ないからいいけど…あ、今日って部活だった?ごめん、忘れ…」
夏希『そうじゃないけど、とにかく来れるなら来てもらえる!?』
未夢「え、う、うん、じゃぁ今行くよ」
夏希『お願いね!』
切れてしまった。なんなんだろう…
『着いたよー』
メールする。
ここは前回夏希ちゃんの寮に来させてもらってから2度目だ。
部屋に行く前に夏希ちゃんが出てきてた。
夏希「未夢ちゃ〜ん!大変大変!」
未夢「え?なになに?」
夏希「みんな怪我して、あ〜もう何が何だかっ!」
未夢「え、え?ちょっと夏希ちゃん、落ち着いて」
夏希「これが落ち着いていられますか!」
夏希「一人は、足が」
夏希「一人は、足が」
夏希ちゃんは指を折りながら数えていく。
夏希「一人は、手が、ついでに用事」
夏希「手が」
夏希「お腹が」
夏希「頭が」
夏希「お腹がって何よ!」
夏希「とりあえず、人手が足りないの!」
夏希「誰でもいいから!」
未夢「え、え〜と、とりあえず落ち着いて話してくれないかな」
何となく、グラウンドに行くことにしてた。
畑中くんも来てた。
畑中「で、なんだよ、呼び出して。光月も来てたのか」
未夢「うん。それで、夏希ちゃんどうしたの?」
夏希「うん。かいつまんでいうとね、明日、練習試合なの」
畑中「は?」
未夢「え?」
畑中「…すまん、聞き違えたと思う。悪いがもう一回言ってくれ」
夏希「明日、試合」
畑中「…」
聞き違えようのない、短くて淡白なセリフだった。
畑中「はっぁぁぁぁあ!?!?聞いてねぇよ!」
夏希「そ、そうだっけ?やっぱり?」
畑中「どっちだよ!!てか、なんでそんな大事なこと黙ってたんだよ!!」
夏希「うん、で、今日休みだし、昨日伝え忘れたから、明日みんな都合つくか確認したら」
夏希「あんたしか空いてなかったわけ。あんた何にも予定ないのね」
畑中「…おっ前…」
畑中くんぷるぷる震えてた。
畑中「で、どうすんだよ」
夏希「うん、どうしよう。さすがにこれはまずったわね…」
夏希「なんだか逆に落ち着いてきちゃったわ」
畑中「っていうかもう色々と急すぎんだろ」
畑中「断るしかないだろ、人数足りてないなら」
夏希「そうはいかないでしょ。ウチのメンツにかけてもそんなわけには」
畑中「人数集まらないんだから、論理的にって言うか物理的に無理だろ」
夏希「それは明日そう思えばいいのよ。まだ決まってないんだから決め付けないの」
畑中「んだよ…」
夏希「で、どうするかお二人さんに相談」
畑中「はぁ…。光月、心当たりあるのか?」
未夢「なくはない、けど」
夏希「え、うっそ、自分で呼んどいてだけど、ホントに!?さすが未夢ちゃん!」
畑中「そいつら野球できんのか?」
未夢「保証はできないけど…」
畑中「じゃぁ無理だろ」
夏希「あんたうっさいわね、少し黙ってなさいよ役立たずが」
畑中「なっ、呼んどいてそれはないだろ!」
夏希ちゃんの畑中くんの扱いがひどすぎる件について。
夏希「だってそうでしょうよ、当てがないっていうんだから!」
畑中「そもそもお前のマネージがずさんすぎるだろ!」
未夢「あー、まぁまぁ、えーとわたしも保証はできないんだし」
夏希「とりあえず、その人たちに当たってみるしかないわね」
K<2の場合、チェック001に移動
未夢「この前も、急にバンドやってって言って協力の声かけした人たちだから」
夏希「何それ、オールラウンダーが何人もいるの!?楽しみ!」
///チェック001/////////////////////////////////////////////////
畑中「野球できなきゃ意味ないだろ…」
夏希「何言ってんの、とりあえず9人集まればいいのよ。それから練習すれば」
夏希「サッカーだったら11人だけど野球なら9人なのよ、2人も少なくていいのよ!」
畑中「だからと言って、急に、えーとあと6人とか無理だろ」
夏希「とりあえず、その人たちに当たってみましょ。正に当たって砕けろだわ」
畑中「どうなっても知らないぞ…」
夏希「それじゃ未夢ちゃん、案内お願いね!」
荷が重いなぁ。
未夢「あっはは…」
====================================== 捜査中 ======================================
未夢「えーとまずは彷徨かな…来てとかじゃなく、会いに行ったほうがいいよね…まずは連絡して、と」
電話をかけてみる。
すっ。
彷徨『はい』
未夢「彷徨?実は折り入ってお願いが…」
彷徨『なんだ藪から棒に…』
未夢「えっへへ…今から会いに行っていい?」
彷徨『俺は構わんが…部屋は掃除してないぞ』
未夢「大丈夫!部屋には入んないから、じゃぁ善は急げだから今から行くね!」
彷徨『急がば回れでもいいぞ〜』
すっ。電話を切った。
未夢「ということで、西遠寺へゴー!」
夏希「まずは旦那様からということね!」
未夢「え」
畑中「はぁ…とにかく行くぞ!」
夏希「あんた待っててもいいのよ」
畑中「ばっか、お前のせいでこうなったんだぞ」
夏希「だから、私は頭下げに行くんじゃないのよ」
畑中「俺も行くよ…チームメイトだし」
未夢「じゃ、じゃあ、行きますよ!」
西遠寺に着いた。
ピンポーン。
ガララっ。
彷徨「あれっ、未夢以外にお客さんがいるのか、それで部屋に入らないって何事…」
未夢「えっとね彷徨、うーんと、かいつまんでいうと…」
彷徨「…言うと?」
誘い方を悩んだけど、特に思い浮かばなかった。
未夢「明日、野球しない?」
彷徨「…なんか勘違いしそうだから、とりあえず前提を話せ」
夏希「あーもう未夢ちゃんってばっ」
彷徨「お前、五十嵐…」
夏希「えっとね、明日、部活の練習試合なんだけど、部員が全員事情で出れないのっ!」
夏希「それで仲間になってくれる人を探してるの。お願いしますっ!」
彷徨「…えっと、事情はわかった。けどこれ、無理やり過ぎないか」
未夢「え、無理なの?」
彷徨「なんつーか、俺野球やったとしても役に立てるかわからないぞ」
未夢「彷徨なら大丈夫だよ!」
彷徨「何の保証だよ…」
夏希「…西遠寺くん、無理なの…?」
彷徨「え?いや、だって俺役立てるか分からないし…」
夏希「……来ないんだ……」
彷徨「いやだからなんつーか……」
彷徨「あーもー!わかったよ!行くよ行くからその顔止めろ!」
夏希「やたっ。ありがとー!」
未夢「さすがの彷徨も夏希ちゃんの泣き落としには敵わなかったか」
彷徨「まったく、なんで俺が…」
彷徨「で、他はどうするんだよ」
未夢「ええと、烈くんと零くんに声かけてみるよ…」
電話中…出た。
烈『はいはーい?』
いつもの、明るそうな声だ。
未夢「えーと、明日って空いてる?」
烈『おっと、これはまさかのおデートのお誘いとは…!』
烈くん、なんか盛大な勘違いしてる、いやさせたわたしが悪いのか?
未夢「えっと、そうじゃなくって、えーと電話だと話しにくいから、今から会える?」
烈『デートを飛び越えてサヨナラ満塁ホームランの告白タイム…!』
未夢「えーと、違う違う」
未夢「あと零くんにも御願い事が」
烈『零に見届け人になれとっ』
烈『とりあえず、そっちはこっちの家分からないと思うから零連れてそっちに行くよー』
未夢「あ、ごめんね、こっちのお願い事なのに…どこで待ってればいいの?」
烈『えーと、じゃぁ商店街の入り口らへんで!』
未夢「わかったよ」
烈『すぐ行きますー!』
切れてしまった。
夏希「それで未夢ちゃん、どうなの?!」
未夢「とりあえず、話を聞きに来てくれるから、商店街の入り口で待ち合わせって」
夏希「来てくれるってことは、勝ったも同然ね!」
畑中「何にだよ…」
未夢「ここで待ってれば来るはずだけど…」
声「未夢さーん」
烈くんが走ってきた。傍には零くんもいる。
烈「おや、なんか観客様がいっぱいいるようだけど…」
未夢「気にしないで」
烈「それで?どんな用事?」
未夢「えっとね…」
わたしは事情を話した。
烈「え、なになに?野球!面白そう!」
烈「私はいいよ!土日家で退屈してそうだったし、久しぶりに運動不足解消にもなりそうだし!」
烈「零は来る?」
零「俺も別に構わないが…烈が居なくなると遊び相手が居なくなるからな」
夏希「おおお」
夏希「一気に男性陣が3人も…!未夢ちゃんすごいわ!どっかの畑中とは大違い!」
畑中「悪かったな…でもあと3人だぞ」
夏希「わかってるわよ!うるさいわね」
未夢「あとは…うーんと、惠ちゃんとかに話しかけてみるかなぁ」
未夢「ねぇ夏希ちゃん、女の子でもいーい…?」
夏希「もちろん!私や未夢ちゃんだって女子でしょ!!」
未夢「あはは…そうだね」
ということで惠ちゃんに電話をかける。案外すぐ出たけど、向こうの音が騒がしかった。
惠『未夢ー?どしたー?』
未夢「えっとね、お願いがあるんだけど…今惠ちゃんどこにいるの?」
惠『商店街で可菜と遊んでるとこー』
しめた。可菜ちゃんも一緒に居るなら誘おう。
惠「静かなとこに移動するから待っ…おお」
気付いたら目の前に居た。
惠「ありゃ、こりゃまぁ大所帯で…何事?」
未夢「えっと、明日野球やるメンバー集めてて…」
彷徨「お前の話し方はいつも突然だな…」
惠「面白そうじゃん。あたしも混ぜてよ」
彷徨「ええええ」
一発OKだった。
惠「可菜はどうする?」
可菜「惠ちゃんがやるなら私もやるわ」
可菜「惠ちゃんができて私ができないはずないもの」
惠「言ったな、このぅ」
可菜「同じ人間だし」
惠「同じ人間でも、一般人がプロレスラーに勝てないだろ、普段鍛えてるかだよ」
未夢「ま、まぁやってくれるなら大歓迎だよ」
可菜「私の瞬発力を見せる時が来ましたね」
惠「期待してるよ…」
ということで一瞬にして5人増えた。
そしてわたし、夏希ちゃん、畑中くん。
夏希「…」
夏希「存外集まるものね…」
夏希「さすが!これも未夢ちゃんの仁徳ね」
彷徨「とりあえず、俺たちはどうすればいいんだ?」
夏希「そうね、とりあえず、今から学校のグラウンドに集合!明日に備えて練習するわよ!」
烈「おおー」
畑中「おい夏希よ!あと1人足りないぞ!」
夏希「そんなの、あとで何とかなるわよ!さ、行くわよ!」
畑中「あ、おい、ちょっと!」
畑中「はぁ…」
未夢「あはは…」
====================================== 練習中 ======================================
ガランガランっ。
夏希「とりあえず、みんなが使ってるグローブとバット持ってきたよ」
夏希「各々に合うやつ使ってね」
烈「グローブ、右左どっちにしようかな…右利き用でいいや」
未夢「烈くん、両利きなの?」
烈「いやそうじゃないけど、右利きだよ」
未夢「?」
左利きの人は右に矯正されることが多いので迷うのは分かる。
けど右利きなのにあえて左を使おうとするのは何故なんだろう?
烈「よーし!バシーン!零、来い!」
惠「へぇー、女子じゃ体育で野球なんかやらないからな、どれどれ」
可菜「せっかくの服が汚れちゃうわね」
可菜「これどうやってはめるの?」
未夢「これはね、ここに手を通して、こう!」
可菜「なるほど、未夢ちゃんすっかり野球少女ね」
夏希「そういえば、ちょうど二人ずつ揃ってるのね、じゃぁまずはキャッチボールから!」
惠「可菜ー、ちゃんと取って投げろよー」
夏希「私は久々に全力で投げてやろうかしら」
畑中「お前ら今までサボってたからな」
夏希「隠れて練習してるの知らないでしょ?私の本気、見せてあげる!」
彷徨「さて、未夢がいつの間にか野球部で練習してたということだが」
彷徨「どれくらいになってるか、お手並み拝見と行こうじゃないか」
未夢「舐めないでよね!成績体育ゼロだった3年前とは違うんだから!」
彷徨「ゼロはないから…」
ひゅっ。ボールを投げた。
彷徨「おおっ。フォームはそこそこしっかりしてるな。じゃぁ取るほうはどうだ」
未夢「ほっ」
ばしん。
彷徨「おおっ。問題なし。やるな」
未夢「フフン!まだまだこれからよ」
ぱしっ。
彷徨「じゃぁちょこっと強くいくぞ」
びゅんっ。
ばしぃっ!
未夢「ちょーっと!何すんのよーっ!」
彷徨「あっはっは!怒るな怒るな!ちゃんと取れてたじゃないか」
未夢「ちょっと痛かったんだからねー!」
彷徨「そんなもんだー!」
彷徨「そういや、お前とキャッチボールなんかしたことなかったなー」
未夢「そうだっけー?」
彷徨「多分なー。俺は小さい頃親父とやったけどー」
そう言われたらなんか楽しくなってきた。彷徨とキャッチボール!キタコレ!
未夢「いよっしゃー!」
つい強めに投げた。ばしーん。
彷徨「おおう」
彷徨「お前、案外上手いな!」
どっきん。
未夢「でしょー!」
ドヤァ。
ふと隣を見てみた。畑中くんが座ってた。
夏希ちゃんは、わたしと彷徨よりもっと離れてて、もっと強く投げてた。
もういっこ向こうは可菜ちゃん。惠ちゃんとソフトなキャッチボールしてた。
一番向こうは…零くんが居たけど、烈くんは夏希ちゃんよりも離れて遠投してた。
零くんが外側に走り出してた。
彷徨「おーい未夢ー早く投げろー」
未夢「あー、ごめーん!」
しばらくしたら、夏希ちゃんが畑中くんを呼び寄せてた。
惠ちゃん、彷徨のところにも行き、何か話してた。
烈くんも遠い向こうから戻ってきてた。
そしてわたしのところへやってくる。
夏希「みんなの投球捕球技術は大体分かったわ!みんな初めてじゃないわね?」
惠「あたしらは初めてだと思うけど」
夏希「まぁ男性陣はさすがというか。あなた?は上手かったわよ」
惠「そういえばさ、ものっそい今更なんだけど」
惠「あたしら、自己紹介まだしてなくない?」
確かに。そうだった。
わたしからはみんな知ってる面子だったから気にしてなかった。
夏希「全くそうだったわね。紹介が遅れたわ」
夏希「私は五十嵐 夏希。野球部のキャプテンよ!ピッチャーをやってるわ」
夏希「で、こいつが畑中 広志。前のキャプテンよ。キャッチャーだから私の相棒ね!」
惠「前のってことは、ポジション奪われたんか!」
畑中「るっせーな!いいだろ!夏希は強いんだから!」
惠「相棒ってことは、ボーイフレンド?彼氏?」
夏希「ボーイフレンドは間違ってないわね」
畑中「んだよ!相棒でいいじゃねーかよ!」
そっぽ向いてしまった。
夏希「で、みんなご存知みんなのアイドル、光月未夢ちゃん。マネージャーをお願いしてるの」
夏希「女の子の部員は居なかったし、マネージャーも私がやってたから、代わりにね」
夏希「あと万が一の時のピッチャーもお願いすることにしてるの」
惠「ええ!キャプテンの代わりかよ!」
烈「未夢さん凄い!」
可菜「未夢ちゃん、やるわね」
みんながもてはやす中、彷徨1人は呆れるようにこちらを見てた。
彷徨「お前大丈夫かよ…」
未夢「だ、大丈夫よ!任せて!」
きっと夏希ちゃんの代わりの番なんか来ません。
夏希「最近は、なんだか私が嬉しくなっちゃって話し相手になってるだけみたいになってたけどね…」
畑中「そうだぞ。ちゃんと練習しろ」
夏希「私はしてるわよ!」
未夢「わたしは、してなくていいんですか…」
夏希「してるじゃない、私とキャッチボール、会話しながら」
未夢「してますけど…」
夏希「じゃ、未夢ちゃん!改めてみんなを紹介してよ!」
未夢「えーと、じゃぁ、武乃邑 惠ちゃんから。1年生の時クラスメイトで仲良くなったの」
惠「今はクラス違うけどな。好きに呼んでくれて構わないぞ。軽音楽部でボーカルをやってる。よろしく!」
夏希「惠ちゃんね!よろしくね!元気な女子が増えて嬉しいわ」
惠「入部したわけじゃねーから!明日一日体貸すだけだよ!」
夏希「体貸すって、なんかエロイー」
惠「未夢…五十嵐ってこんなやつなのか?」
夏希「夏希でいいわよ」
未夢「え、えーとじゃぁ次いくね…内田 可菜ちゃん」
未夢「惠ちゃんと同じく、今はクラス違うけど1年生の時一緒だったの」
可菜「内田 可菜です。図書委員をしています。よろしくお願いします」
礼儀正しく頭を下げた。
夏希「可菜ちゃん、今日明日はありがとね!なんでやってくれる気になったの?」
可菜「私にできないことはございません…」
釈迦のように、手を合わせて目をつむっていた。
夏希「頼もしいわ!よろしくね!」
未夢「こっちは、紅瀬 烈くん。今月うちのクラスに転校してきたの」
烈「烈です!帰宅部です!」
夏希「紅瀬くんね。その目は…」
烈「あ、これ?気にしないでいいよ、日常生活には支障ないから!」
夏希「そう…無理はしないでね。よろしくね!」
誰だって最初はああなるよね。
未夢「えと、こちらは闇無 零くん。烈くんと同じ日に転校してきたの」
零「零です。部活は…烈のお守り役かな」
夏希「あっはは。何それ。仲良いのね。よろしく、闇無くん!」
夏希「そしてそしてー!最後はー?」
未夢「えっと、西遠寺 彷徨です…クラスメートの」
夏希「彼氏でしょー!?」
惠「いよっ!彼女さん!」
烈「ヨッシャー!ヒュウウーっ♪」
烈くんが笛を吹いた。周りが勝手にどんどこずんどこ盛り上がっちゃってるっ!
彷徨「えと…バスケット部所属してます。よろしく」
畑中「お前、確か部長だよな?」
彷徨「えと、ああ」
畑中「ん?俺のことは気楽に呼べよ、西遠寺」
彷徨「わかったよ、畑中」
未夢「あれ、中学の時は友達のこと下の名前で呼んでたのに」
彷徨「それは長い付き合いで仲良いからだよ…女子みたいに出会っていきなり下の名前で呼ばないよ」
未夢「男子は律儀だねぇ」
畑中「何はともあれ、運動部の部長の男が臨時助っ人たぁ心強い。噂は聞いてるぜ」
彷徨「俺も噂は聞いてるよ、主に五十嵐の」
畑中「俺のじゃなくて悪かったな!」
未夢「あっはは」
夏希「さてー、自己紹介も終わったことだし、次はグループ組んで球を回してみようかな!」
可菜「はい」
夏希「?」
可菜「可菜、って」
夏希「あー、ごめんごめん、口語だから、呼んでない」
夏希「ちょうど男女で分けられる人数だから、それで分けるかな」
未夢「そういえばさっき夏希ちゃん、かなり強めで投げてたよね…あれやられたら」
夏希「あっはは!ああいう感じにはしないよ、次はチームワーク力鍛えたいだけだから」
夏希「もうこれで新生チーム作ったほうが強くないかな」
畑中「滅多なこと言うな!」
未夢「あ、でも夏希ちゃんの本気の球、ちょっと受けたいかも」
夏希「私の本気の球?悪いけど、未夢ちゃんじゃ怪我させちゃうかも」
未夢「えー、大丈夫だよー」
畑中「いや、光月、やめとけ…そもそもさっきのは、まだ本気じゃない」
未夢「ええっ、どれくらいだったの?」
夏希「んー、60%くらい?それでもかなり強めだったよ」
未夢「60%…」
夏希「100%って言っても、実際人間は100%の力出せないから、80%ぐらいが、限界かな?」
未夢「ごくり」
夏希「それでも、受けてみる?じっと立ってたら大丈夫よ」
畑中「いややめてくれ。せめて壁に向けて速球とかにしてくれ。素人に向けるな」
夏希「わかったわよ。壁でいいのね?」
夏希「じゃぁあそこに投げるわね」
夏希「みんな見てなさい、私の本気を。行くわよ」
夏希「…」
目の色が、変わった。
周りの空気が、凍りついた。
ビュッ
ボガァッ!!!
トンッ、トンットン…。
惠「…」
可菜「…」
零「…」
烈「…」
いつも変な反応しそうな烈くんまでもが沈黙するほどだ。
夏希「ねっ?取れないでしょ?」
畑中「コイツの本気の球は、俺でもずっと受けてるときつい」
彷徨「…こいつぁ、女子と思ってなめたら死ぬな…」
惠「なんだよ今の!取れるわけないだろ!あれを打てって言うのか!?」
夏希「だからぁ〜、練習じゃあんなことしないって」
惠「しかもなんか変な音してたぞ!壁壊れたんじゃないのか!?」
夏希「見ればわかるけど、壊れてないって、音だけだって」
惠「球とかよく破裂しなかったな…」
烈「ほ、ほえ〜、これは凄い…」
忘れていたけど、忘れちゃいけないけど、夏希ちゃんはプロ野球を目指しているんだった。
女子のソフトボールじゃない、男子のプロ野球だ。
今までわたしと雑談してた女の子とは、思えなかった。
零「あれは何キロ出てるんだ?」
夏希「この前図った時は、140キロくらいだっけ?」
畑中「バカ、150だよ…」
烈「え、まじっすか。絶対勝てるじゃん。誰も見えないよ」
夏希「150なんてプロに行ったらゴロゴロ居過ぎるレベルで話にならないわよ」
畑中「いや、プロでも中々居ないから…」
次元が違いすぎた。
あの細くて綺麗な腕の、どこにそんな力が?
わたしたちは今、物凄い人を目の前にしている。
夏希「ま、そんなわけだから、グループの投球練習始めるわよ」
惠「相手のチームもこんなんなのか?」
畑中「多分、夏希ほどじゃないと思う」
烈「これ、私ら守らなくても、五十嵐さん1人で勝っちゃうんじゃない?」
夏希「スポーツはチームワークよ、1人のワンマンで勝利なんてないわ」
夏希「チームで努力して、それでやっと勝つのよ」
可菜「友情、努力、勝利ね。それほどの力を持ちながら奢らず…スバラシイ精神だわ」
夏希「なーに言ってるの、当たり前のことよ」
夏希「仮に私一人凄くても、こいつがいなきゃ私の球取れないんだし」
ばんばんと畑中くんの肩を叩いてた。
夏希「そんなわけで!グループ投球始めるわよ〜」
ぐぅ〜ぎゅるるる…。
未夢「…」
夏希「…」
畑中「…」
惠「…」
可菜「…」
零「…」
彷徨「…」
烈「…いやーお腹空いたね!」
惠「誰かと思ったらお前かい!しかも変な音してたわ!」
そういえば朝から人探ししてすぐ見つかったはいいけど、すぐ練習してたからご飯食べてなかった。
夏希「仕方ない、ご飯にしますか」
惠「この大所帯で昼に入れる店あるのか?別々に分かれて…」
夏希「いえ、それでもいいけど、寮生や部活の人の為に食堂開いてるから、そこ使いましょう」
惠「おおう、土日って食堂開いてたのか、知らなかった」
夏希「土曜だけね。日曜は閉まってるわ」
惠「がらんがらんの食堂とか、新鮮だわ」
可菜「やりたい放題ね」
みんなそれぞれ頼んだものを持ってきた。
8つ席の椅子が埋まる。こんなみんなで食べるの初めてかも。
部活とかあったらみんなこんな感じなのかな。
わたしが一番左手前、向かいに夏希ちゃん。
隣に可菜ちゃん、向かいに惠ちゃん。
そのもう一個向こうに彷徨、向かいに畑中くん。
一番向こう側に零くん、向かいに烈くんが座っている。
烈「カツカレー」
零「うわっ!カレー粉飛ばすな…」
畑中「お前んとこは土曜部活ないのか?」
彷徨「ああ、今日は休みだ。俺は今来てるけどな…」
惠「なぁ、いつもこんな感じなのか?」
夏希「まぁ土曜朝からやるときは大概ね」
惠「こういうのないから新鮮だなぁ…可菜もそうだろう?」
可菜「ええ…私は図書委員だし、こういうのはないわ」
惠「あたしだってねぇよ」
惠「そういや聞いてなかったけど、お前ら学年は?」
夏希「2年よ、畑中もね」
惠「なんだ、みんな同級か」
可菜「もし3年生だったら、お前とか失礼よ」
夏希「あっはっは!大丈夫よ。うちの部活、3年生居ないからね」
惠「え、そうなのか?」
夏希「珍しい感じね。奇跡的に1人もいなかったみたい」
うちの高校は野球で有名なわけでもないから、入部員が少ないならわかる。
けど1人もいなかったなら、珍しいかもしれない。
未夢「そこに特待で入ったっていうんだから、夏希ちゃんよほど期待されてるのね」
惠「え、お前特待なのか?そういや聞いたことあるな…野球部に特待で入った女子が居るって」
可菜「出会っていきなりお前とか、惠ちゃん失礼よ」
夏希「あっはっは!別にいいわよ、好きに呼んじゃって」
夏希「それにしても、そんな噂になってるのね」
惠「推薦に似たようなもんだけど、普通の推薦か一般で入るのが普通なのに」
惠「特待で野球部に入ったのが女子だっていうからな」
惠「特待で野球部に入るのも、特待で女子が入るのもありえそうなもんだけど」
惠「うちはそんな特待とか聞かないのに、野球部に女子が入ったってのがな」
惠「組み合わさって初めて話題になったんだろ」
惠「でもそれが夏希とは」
夏希「仕方ないじゃない、学費大半免除してくれるっていうんだから…」
惠「これはこれは、貧乏少女様でしたか…」
夏希「びんぼー少女ゆーな!」
惠「あっはは、悪い悪い」
可菜「でも特待って言うのも納得ね、あんなすごいボール見せられたら」
惠「夏希って中学の頃からあんななのか?」
夏希「んー、どうだっけ」
夏希「ねー畑中ー!私の中学の時の急速ってどれくらいだっけー?」
畑中「中3の時でいいんなら、最後に図った時は130キロだったよ」
惠「うーん、聞いてもそれが凄いのかよくわかんねぇ」
畑中「バッカ、130って言ったら大体プロの平均だよ」
惠「…」
惠「おみそれしやした」
夏希「球だけ速くても、プロは目利きいいから、球種見切られたらあまり意味ないわよ」
惠「なー、畑中?だっけ。あんな球いつも受けてるのか?」
畑中「まぁだいたいな。いつもあんな球じゃないが」
惠「やっばいな。取り損なって目とかに当たったら失明すんじゃね?」
畑中「ああ、ヤバイな…」
夏希「だからあんな球、常に投げないって!その時は、お面被ってもらうしさ」
畑中「おかげで、手が豆粒だらけだよ」
見せてもらったけど、ところどころ斑点があるような模様だった。
惠「うっわ、手の皮が硬いところだらけになってる…もう全部硬くなれよ」
畑中「カンベンしてくれ…それに、夏希は常にあの球は使えない」
惠「?」
畑中「夏希は女子だから…って訳じゃないが、スタミナが低い」
畑中「あんな球常に投げてたら、即行でバテる」
畑中「いつかの試合で、しょっぱなからあれだけ投げてて、最初は相手が全く打てなかったけど」
畑中「後の方でバテて、打たれ放題で負けたからな」
畑中「あの後は戦略練って、剛速球はとっておきってことで常用しないことにした」
畑中「切り札は最後にとっておくもんだ。脳あるタカは爪を隠すってな」
夏希「恥ずかしい話をおおっぴらにしなくてもいいでしょー」
畑中「明日限りとはいえ、チームメイトだ、弱点をフォローしてもらわないといけないしな」
惠「へぇ。で、その剛速球ってのは何回使えるんだ?」
畑中「えーと、あの時は確か3回持たなかったな…」
惠「3回だけ?さっき投げたから、今日はあと2回?」
畑中「勘違いしてるようだが、野球の3回だからな、投げる回数で言えば10ないくらいだ…」
畑中「しかもなんで今日なんだよ、マジックポイントか」
惠「だって、寝たら回復するじゃん」
畑中「そりゃまぁそうだけど」
未夢「じゃあ畑中くんがコントロールしてあげてるのね。さすが女房?」
畑中「キャッチャーなんだから、その辺やんねーと、夏希は暴走するからな」
夏希「何よ。いいじゃない。ストレート、好きなんだもん…」
畑中「そりゃいいけど、自分でも言ってたろ、それだけじゃダメだって」
夏希「わかってるわよ!だから色々球種覚えたじゃないの」
畑中「それよりお前は走れ…もっと体力つけて、土台の足腰を鍛えろ」
夏希「えー。だって投げる方が気持ちいいし」
畑中「気持ちはわかるが…」
夏希「走ってるわよ!…ちょこっとだけど」
未夢「夏希ちゃんにも、弱点があったんだね」
畑中「速度、球種、コントロール、完璧に見えるが、放っとくとすぐバテるからな」
畑中「コントロール役が必要だ」
惠「マジで女房じゃん」
可菜「お嫁さんに欲しい、女子力の高い男子ね」
夏希「あーそいつダメよ、部屋は散らかしっぱなしで汚いから」
畑中「おまっ!その情報要らないだろ!」
夏希「えー?チームメイトだから弱点フォローしあうんじゃないのー?」
畑中「くっ…弱点の公場じゃねぇ…」
未夢「えっ、夏希ちゃん、畑中くんの家に行った事あるの?」
夏希「中学の時なんかしょっちゅう行ってたわよ。部屋をボールの穴だらけにしてやろうと思ったわ」
未夢「え、何かあったの?」
畑中「こいつウチ来てもすぐボール投げたいとか言って聞かねぇんだ。部屋で素振りばっかしてたんだよ」
可菜「根っからの野球少女だったのね」
夏希「いいでしょ、別に!」
可菜「うふふ」
畑中「あと、こいつは厳しいからな。部員とのコミュニケーションはちょいちょい不具合が出る」
畑中「光月なら知ってるだろ?夏希から聞いてるかわからんが」
知っている…多分聞かなくても、その場はちょくちょく見てきた。
惠「えっ、夏希、厳しいのか?」
畑中「厳しいというか…向上心が高いのはいいけど、それを人に押し付ける傾向があるな」
畑中「自分ができるんだからお前もできる…ってな」
畑中「夏希、みんなお前みたいにできるわけじゃないんだ、みんなを認めろよ」
夏希「ふんっ、そんなの、ただの甘えでしょ」
畑中「じゃぁお前も走れよ…部で集まって皆に走らせてお前だけ突っ立ってるじゃん」
夏希「あの時はみんなの体調とか成績とか管理してたのよ!」
惠「ま、まぁまぁ。いいけど、あたしを挟んで喧嘩は止めてくれ」
夏希「がるるる」
未夢「な、夏希ちゃん、どうどうどうどう」
夏希「私は暴れ馬かっ」
未夢「わっ。怒った」
畑中「今は光月がいるからマネージは任せてるだろう」
夏希「そうだけど、未夢ちゃんだって私の無理強いで協力させてるだけだからいつまで居るかわかんないし」
夏希「未夢ちゃんに野球教えるのも私の役目なのよ」
惠「え、未夢、何か弱み握られてるんか?」
未夢「え、そんなことないよ、わたしの意思で夏希ちゃんに協力してるよ」
まぁ、多少強引なところとかはあったし、完全にわたしの意思だけじゃないけど、協力したいのは本当だ。
畑中「一応光月がリリーフできると言っても常用できないし代わりがいないんだから」
畑中「夏希には体鍛えてもらわねーと」
夏希「だって、走ったりしてるより投げる方が楽しいんだもん…」
惠「全く色んな意味でストレートなお嬢様ですこと。こりゃ畑中も大変だな」
畑中「全くだ」
惠「そいやお前ら付き合ったりしねーの?そこのお二人さんみたいに」
どきっ。
心臓が高鳴った。
心臓の鼓動回数は決まっているらしい。じゃぁ今ので一応寿命短くなったのかな。
可菜「そういえば適当に座っちゃったけど、私これジャマだったかしら」
未夢「いやいや、そういうのないから」
惠「そっか、別に今じゃなくても、二人きりになってからいちゃいちゃすればいーもんな?」
未夢「もうー!惠ちゃんはまたそうやってすぐからかってー!」
惠「でも事実になるんだろー?」
畑中「へー、お前ら、そんな感じなのか?」
彷徨「俺たちのじゃなくて、お前らの話だっただろ」
彷徨ナイス!
惠「そうだった、で、お前らどうなんよ」
夏希「べ、別にそんなんじゃないわよっ…畑中なんか」
畑中「そ、そうだぜ、こんな、走るのサボって管理できないやつなんか…」
夏希「部屋汚いあんたに言われたくないわよ」
畑中「部屋汚いのは関係ないだろ!」
夏希「あら、それは認めるんだ、部屋汚いと女子にモテないわよ〜」
惠「わかったわかった、あんたらが仲がいいのはわかったからあたしを板ばさみにすんな」
可菜「未夢ちゃんはコレのマネージもするの?大変ね」
未夢「あっはは…」
少し、昔のわたしたちを見てる気がした。
夏希「さて、もうそろそろ行きますかね」
烈「えっ、もう?」
烈「待って、お腹いっぱいで動けない」
烈くんは零くんにずっと話しかけてた。こちらには聞こえなかったけど。
零くんはずっと聞いてた。聞き上手というか、烈くんの扱い上手というか。
烈くんは大盛りを頼んでたし、お話してたから、結果的に一番食べるのが遅くなってた。
もともと食べるのが遅いわけじゃないだろうけど、お話好きと大盛りがその理由だろう。
夏希「明日の試合は待ってくれないわよ!練習練習!」
烈「ひぇぇ…」
惠「諦めて、行くぞー」
可菜「惠ちゃんもノリノリね」
烈「全然休憩してないのに…」
夏希「さーて、じゃぁ続きね!さっきと同じ陣形、4角形になって!」
未夢「その前にグローブっと…あれ、これってどうやるの?」
可菜「え?そのやり方は未夢ちゃんに教えてもらったんだけど」
未夢「あ、これ左利き用だ」
なんか上手くはまらないと思ってた。
可菜「未夢ちゃんは、おっちょこちょいね」
夏希「ホラホラ、早く早く!」
未夢「夏希ちゃんは、せっかちだよぉ」
夏希「男性陣も、ちょっと離れて4角形になって、ボールを投げるのよ!」
畑中「あいよー」
向かいの夏希ちゃんがボールを持っている。夏希ちゃんから開始だ。
夏希ちゃんは隣りの、と言ってもさっきと同じくらい離れてるけど、惠ちゃんにボールを投げた。
惠ちゃんから可菜ちゃんへ。さっきより距離は離してる。
可菜「えっと、未夢ちゃんに投げればいいの?」
夏希「そうね!時計回りで良いわー」
可菜「はい、未夢ちゃん」
未夢「ありゃりゃ…」
トンットントン…
ボールは何バウンドかしてわたしのところへ。
可菜「あっ、ごめんね未夢ちゃん…」
未夢「んーん!大丈夫だよー!」
しばらくゆっくり回していたけど、ここで夏希ちゃんから新しい指示が。
夏希「もうちょっと早めに回すわよー!受け取ったらすぐに投げて!」
惠「おおう」
惠ちゃんはすぐに受け取った。惠ちゃんは運動神経いいんだよね。
可菜「えいっ」
ぱしっ。
可菜ちゃんもできるだけ急いでくれた。球の強さも、わたしに届くように投げてくれてる。
可菜ちゃんは非力なイメージあるけど、案外力持ちなのかもしれない。
夏希「ゲッツーって言ってね、敵から素早く2アウト取れるようにする必要があるのよ!」
惠「なるほどな!」
夏希「ちょうどこれは、私が三塁、惠ちゃんが二塁に居て」
夏希「可菜ちゃんが一塁、未夢ちゃんがホームに居るようなものよ!」
陣形はそうでも、距離は近かった。10メートルくらい?
夏希「徐々に離れていって、実際の距離ぐらいにするわよ!」
可菜「ええ〜」
惠ちゃんは、離れても可菜ちゃんに届くほどの球を投げてた。さすがだ。
どれくらい離れてるだろう。25メートル越えたぐらい?
可菜「えーい!」
ポテッ、ポテポテ…。
可菜ちゃんは山なりボールを投げてくれるけど、一歩届かないくらいの距離になってた。
わたしも最初そうだったけど、今まで夏希ちゃんとお話しながらでも投げてきた。
あの時は、夏希ちゃんにつられてたからだっただろうか。
お話しながらだから気にならなかったのか、わたしはなんとかできるようになってきた。
夏希「…ふっふーん。えいっ!」
可菜「きゃっ」
バシン!
惠「!?」
夏希「あっはっは!油断したわね!でもだいじょーぶよ!グローブに向かって投げたから!」
夏希「ボールはいつどこに飛んでくるか分からないから、それの練習も兼ねてね!」
夏希「どこに投げてもいいわよ!」
惠「斜めもありなんかー!」
夏希「別にダメとは言ってないわよ!」
夏希「実際の試合だって、いつボールが飛んでくるかわかんないんだから、慣れないとね!」
夏希ちゃん、可菜ちゃんの距離は斜めだからさらに遠い。30メートルくらいあるかも。
こんなに離れてやったことないから、惠ちゃんまで届くかな。
さっきと同じように夏希ちゃんに投げる。そして惠ちゃんへ。
惠「よーし、未夢、いくぞー」
ボールが来た。
パシイッ。
急速は衰えてなかった。惠ちゃんはどちらかというと文化部なのに、さすがだ。
わたしも惠ちゃんに投げ返してみた。
ぱしっ。
なんとか届いたようだ。
惠「ほらー」
また来た。可菜ちゃんに投げてみる。
ぱしっ。
可菜「はーい」
投げ返してくれる。夏希ちゃんに投げる。
バシィッ。
夏希ちゃんは即行で投げ返してくれた。夏希ちゃんが一番ボールが強い。
再び可菜ちゃんに投げた。
ぱしっ。
可菜「未夢ちゃんのボールは、やさしーねっ」
未夢「そ、そうっ?」
力が足りてないだけかもしれない。
可菜ちゃんは惠ちゃんに投げた。
惠「っとと」
惠ちゃんはちょっと前にダッシュして、ワンバウンドで受け取っていた。
ミスってあごに当たったら怪我しちゃうのに、普通に上手かった。
可菜ちゃんは夏希ちゃんには投げなかった。多分、遠すぎるのだろう。
何回かランダムに投げ合っていたけど、あることに気付いた。
未夢「!?」
未夢「なんか、みんな、わたしにだけ投げてないー!?」
惠「おっ!気付いたか!なんかみんな未夢に投げるから、なんとなく空気読んでみた!」
可菜「未夢ちゃんやさしーから〜」
夏希「未夢ちゃん!特訓よ!」
未夢「ひぇぇ、いじめだぁ〜」
しばらくしたら、夏希ちゃんが惠ちゃんの方に行ったかと思いきや、畑中くんに話しかけに行った。
そして皆を呼び寄せる。
夏希「畑中、そっちみんなの調子はどう?」
畑中「ああ、悪くない。みんな部員のみんなと同じくらいに上手い」
畑中「紅瀬も闇無も問題ないし、もしかしたら西遠寺は俺より上手いかも…」
夏希「男性陣はさすがね。こっちもそんなに問題ないと思うわ」
夏希「みんな女子なのに、運動神経実はいいわね!」
惠「あっはは、夏希だって女子だろう!」
夏希「私は、小さい頃から練習してたんだもん」
夏希「もしかしたらみんな、私が初めての時より上手いかもね」
惠「その頃とは年齢も違うから、比較できないな」
惠ちゃんはバンドとかで体力ついてるから分かるし、わたしも最近自然と鍛えられてた。
けど可菜ちゃんは少し肩で息をしていた。
特に指摘しないのは夏希ちゃんの思いやりかもしれない。
夏希「じゃぁ次はバッティングね!」
畑中「よしきた!」
バシン!
畑中くんはグローブを叩いた。気合が入っているようだ。
投げるより、こちらの方が好きなのだろう。
未夢「そういやわたし、打つほうはやってないや…」
夏希「私がバッティングピッチャーやってあげるわ〜」
未夢「え〜!あんなの打てないよ〜!」
夏希「だからぁ〜、あんな球投げないって!これは打たせてあげる用だから」
未夢「ほっ」
夏希「まぁボールたくさんあるからいいけど、一応後で球探しに行くのもなんだし」
夏希「誰か外野行く人ー?」
烈「じゃぁ私、外野行くー!ボール飛んでこなさそうだし」
夏希「そんななまけた理由で外野行くなんて〜全くー!」
夏希「言っておくけど、内野誰もいないから、転がってくボール取りに行くのに走りまくるのよ?」
烈「だいじょーぶだいじょーぶ!」
夏希「あれわかって言ってるのかしら…あれ相当きついのよ実は。私はやりたくないわ」
畑中「お前は球拾いとか思いっきり拒否ってたもんな…」
畑中「管理するようになってからは違うけど」
夏希「じゃぁとりあえず未夢ちゃん、バット持ってバッターボックスに立って」
未夢「う、うん」
うわ初めて。緊張してきた。
夏希「あ、みんな、バットは木製でも金属製でもどっちでもいいわよ」
惠「へぇ〜色々あるんだな。木って折れないか?」
夏希「大丈夫よ。プロだって使ってるもの」
惠「あんな剛速球来たら折れそうだ…」
夏希「まぁ実際に折れることもあるけど、今日はそんなこと絶対ないから」
惠「ホントだろうなっ」
夏希「ホントホント」
畑中「お前がみんなをびびらせるから…」
夏希「だって、みんなが私の本気見たいって言ったんじゃないのよ〜」
畑中「はいはい」
夏希「じゃぁ悪いけど畑中、いつものようにキャッチャーやってくれる?」
畑中「はいはい」
嫌そうに言うが、嫌そうじゃなかった。
むしろ進んでやりたそうにお面をつけて座った。
未夢「わ、わたしは金属のバット使おうかな…」
夏希「金属は重いわよ〜。未夢ちゃんに使いこなせるかな?」
未夢「おっも」
畑中「言った矢先から…」
夏希「えっと、走っていかなくていいからね。転がってったボールも気にしないで。紅瀬くんが処理してくれる」
未夢「わかったよ」
夏希「他の人はバットで素振りとかして待ってて〜。隣の人に当たらないように距離取るのよ」
夏希「じゃぁ行くわよー」
夏希「それっ」
さっきとは打って変わって、下からすくいあげるような優しいボールだった。
未夢「えいっ」
すかっ。
ぱしっ。
畑中「ストライーク」
未夢「ええ〜。全然当たんないよ〜」
夏希「あっはっは!未夢ちゃん何それ!」
夏希ちゃんはお腹を抱えて笑っている。
畑中「笑ってやるなよー。女子で初心者だぞー」
夏希「だって!」
畑中「お前だって最初は空ぶってたぞー。素振りのフォームは良かったけど」
夏希「こりゃー、打つのは難しいかなー。セーフティーバントでも練習させた方がいいかなー」
未夢「せーふてぃーば…?」
安全なお茶?
畑中「バットを水平に保つ構えをして、ホントにただバットにボールを当てにいくんだよ」
未夢「それじゃ、全然飛ばないよ?」
畑中「それでいいんだ。一塁に人がいることを想定して、そいつを二塁に送る役目なんだ」
未夢「でも、その人送っても自分がアウトになっちゃうよ?」
畑中「2アウト状態だったら非常に難しいが、1点取りやすくするためならそうするんだよ」
畑中「でー、どーすんだー?」
夏希「とりあえず、最低1回は打ちましょう!未夢ちゃん行くわよー」
未夢「う、うんー!」
夏希「ほいっ」
すかっ。
ぱしっ。
畑中「ストラーイク」
未夢「こっ、腰がぁ」
金属バットの遠心力に体を持って行かれて、体をひねった。
未夢「しかもこれ、カウント取るのぉ?」
畑中「気分的に言ってるだけだよ。ボールの時はボールっていうよ」
未夢「じゃ、じゃぁ夏希ちゃんもう一回お願いー!」
夏希「ほっ」
未夢「…」
ぱしっ。
見送った。
未夢「今のボール?」
畑中「何やってんだ!バッティング練習で見送ってどーすんだよ!」
夏希「あっはっは!」
畑中「お前も笑ってないで叱れよ!」
夏希「私は投げれれば何でもいいからー!」
畑中「全く…あいつはホント投げたいだけなんだから…」
畑中「いいか、とりあえず振れ!夏希が、お前の打ちやすい位置に投げてくれるから」
未夢「う、うんわかったよ」
夏希「行くわよー」
しゅっ。
カンっ。
ぽてっ、ぽてぽてぽて…。
未夢「当たった!当たったよ!」
やった!人生初!
なんか、ちょっと面白かった!!
畑中「おー、おめでとー」
夏希「ふぅ。まぁ控えピッチャーだし、打たなくてもいいかな?控えだから打ってもいいけど」
夏希ちゃんがボールを取りに来た。
畑中「その辺のボールは後で拾えばいいじゃないか」
夏希「いーの!」
夏希「未夢ちゃん、どーだった?」
未夢「うん、たのしーね!」
興奮した!
夏希「そうでしょ。まっ、この調子で次も続けてね」
畑中「敵の時はもっと早いけどな…」
夏希「じゃぁ次はそれくらいで行くわよ」
未夢「ええ〜怖い」
夏希「大丈夫だって、その辺は気を付けるから」
夏希「じゃぁ次!」
可菜「はい!私やりたいです!バッティング、気になります!」
夏希「はーい、じゃぁ、可菜ちゃん!」
未夢「可菜ちゃん、がんばって!」
可菜「うん、未夢ちゃん、かっこ良かった!」
未夢「えっへへ」
彷徨「お前、思いっきり腰ひねってたけど、大丈夫か?」
未夢「えっ、そうだったっけ?忘れてた」
嬉しさの余り、直前の記憶がないみたいだ。
しゅっ。
ぱしっ。
可菜ちゃんも素振りになってた。がんばれ!
夏希「打ちやすいたま行くわよー!」
カンっ。
未夢「おっ、可菜ちゃんも打った!」
ポテポテポテポテ…。
夏希「あ〜、こりゃ、打つ方は戦力外かな…」
畑中「仕方ないだろ、急ごしらえの数合わせのようなものだ、協力してくれるだけありがたい」
夏希「確かに、そう思わなくっちゃね」
惠「じゃー次はあたし行ってみるかなー」
未夢「惠ちゃん、ファイト!」
惠ちゃんは目配せしながら行った。ちょとカッコいい!
未夢「可菜ちゃん良かったよ!」
可菜「うん、ありがとう、未夢ちゃん!」
彷徨「はぁ…」
カンっ。
畑中「おっ!」
夏希「おおっ!」
ボールは鋭く左の方へ跳ね返り飛んで行った。
彷徨「あの辺りだと、左中間ヒットだな」
惠「ふー」
夏希「惠ちゃん、やるじゃない!驚いたわ!初めてじゃないの?」
惠「いや、初めてだけど?なかなか面白いな、これ!」
夏希「やった!期待の星ね!」
コロコロコロコロ…。
ボールが、跳ね返ってきた方向から転がってきた。多分、烈くんが返してくれたのだろう。
未夢「惠ちゃん、やるじゃない!カッコいい!」
惠「これ案外楽しいな!体育にも取り入れてほしいな」
未夢「惠ちゃんしかできないよ」
惠「そう?」
彷徨「じゃあ俺行くかな」
未夢「彷徨、がんばってー!」
親指を立てて旅立って行った。
夏希「この中では一番の期待ね…!」
夏希「ねー西遠寺くーん!ちょっと強めに投げていいー?」
彷徨「ああー、構わないぞー」
未夢「彷徨ったらあんな調子いいこと言ってー。素振りしても知らない…ぞ…?」
カンッ。
夏希「げっ」
惠「おおー」
ボールは夏希ちゃんの頭上を遥か超え、山なりのように遠い向こう側へ飛んで行った。
可菜「すごい…」
畑中「あれはホームランだな…」
烈「ボールボールっ」
夏希「なんか、ちょっと腹立っちゃった」
畑中「なんでだよ!あれでいいんだよ!練習なんだから」
夏希「いや、なんか、確かにそうだけど、普通に甘目の球を持ってかれたって感じ…」
零「…」
零くんが静かに立ち上がった。次は零くんの番だ。
未夢「零くん、負けないでがんばってっ」
零「…あれに負けるなと言うのは荷が重いな…」
未夢「かっ、彷徨、すごいねっ」
彷徨「そうか?」
可菜「さすが未夢ちゃんの旦那さんね」
惠「さすがに西遠寺には負けたわ〜ちょっち悔しいな」
彷徨「まぁ、試合じゃあんな甘い球飛んでこないと思うからな」
未夢「うう…その甘い球にスカってたわたしって何…」
彷徨「安心しろって、別にできなくていいから」
未夢「うう…」
彷徨「お前が素ぶった分、俺が打てばいいんだろう?」
可菜「おおーう、西遠寺くん、カッコいい」
カンっ。
零くんが打ったようだ。少し高めのボールが少し早めに右の方へ飛んで行った。
彷徨「あれも右中間のヒットだな」
惠「紅瀬が右に左に大変そうだな…バテないか」
夏希「男性陣はさすがに問題ないのかしらねー」
烈「ねー!こっからボール投げていいー!?」
ボールを取りに行った烈くんが何やら叫んでいた。
遠くてかなり聞こえづらかったが、多分あそこからボールを投げるようだ。
夏希「いーわよー!!」
烈「バックホーんムっ!よっしゃぁー!」
夏希「おおっ」
可菜ちゃんのような山なりボールだけど、それより高く上がり、早く落ちてきた!
バシンっ!
畑中「バカな…」
畑中「ホームランを超えた、あの100メートル以上の距離から、ホームまでノーバウンドでなんて…」
烈「はぁっはぁっ、えっへへ、これで良かった?」
烈くんは駆けつけてきた。
畑中「お前、意外と肩むちゃくちゃ強ぇーな!」
烈「そう?えっへへ」
夏希「守りも上手いみたいだし、あなた意外と凄いわね!」
烈「えへへ」
意外とっていうと少しあれな気分もするけど。
夏希「さぁ、次は紅瀬くんの出番よ!」
烈「そうそう、そう思って戻ってきた、はぁっ」
夏希「じゃぁ行くわよー」
烈「ブラックドラゴンバスタ〜」
ぱしっ。
ぶんっ。
畑中「…紅瀬、アウトー」
超振り遅れてた。
烈「まだワンストライクだから!てか、あんな球みたいな小さい的、当たるわけないから!」
夏希「あら?守りは堅いのに、攻撃はニガテなのかしら…」
烈「ねぇー!ちょっとー!球も速すぎるんだけどー!」
夏希「ええ〜?ずいぶん手加減したんだけどなー」
畑中「相手もこれよりちょっと早いくらいの球は投げてくるぞ」
烈「ええー、みんなどうやって打ってるの?」
夏希「仕方ない、とりあえず打つ感覚を覚えてもらわないとね」
夏希「ほら」
すごいゆっくり目の山なりボール。
カンッ。
烈「当たったっ。ダッシュ!」
夏希「え、早!!」
烈くん、足速っ!
夏希「走らないでいいって言ったのに。彼が向こうに行ったあとだったから聞いてなかったか」
畑中「でもあの速さだと、お前の正面じゃなかったら、上手く飛ばされたらあれセーフにならないか…?」
夏希「あんた、気付いてた?さっき、普通ならヒットになりそうなところ、取ってたのよ?」
夏希「あと、ここグラウンドだからいいけど、さっきの西遠寺くんのホームランの球も、取ってたのよ?」
畑中「ああ…」
夏希「ヤバい…意外とドリームなメンツが集まっちゃったのかもね…」
夏希「次あんたにするけど、やる?」
畑中「あたぼうよ!」
夏希「キャッチャーどうしよっか?」
彷徨「俺がやろうか?」
畑中「おっ、悪いな。助かる」
夏希「んー、どうしよっかなー」
なんとなく彷徨について行ったけど、畑中くんがバット振る番みたいだ。
彷徨が球を取る役をやるみたいだけど、夏希ちゃんはこっちを見て考え込んだ。
夏希「未夢ちゃんにがんばって取ってもらっちゃおーかなー」
畑中「なっ、危ないぞ」
夏希「大丈夫よ、普段キャッチボールしてるし」
畑中「でもこの距離で座ってはしてないだろ」
夏希「お面つけてもらえばいいじゃない」
夏希「ねっ、西遠寺くん、未夢ちゃん借りてもいい?」
彷徨「構わないが…未夢、大丈夫か?」
未夢「う、うーん…ちょっと怖いけど…やってみる!」
彷徨「おーけー。がんばれ」
肩に手をおかれた。
未夢「うん!」
夏希「よし、良いわね!未夢ちゃんの心意気!」
畑中「大丈夫か?無理はすんなよ」
未夢「うん」
畑中「まぁ打つからボールは来ないと思うけどな」
未夢「えー」
夏希「畑中ー、行くわよー」
畑中「おー」
カンっ。
確かに、球来なかった。
ボールは真ん中よりやや少し右の方に高く上がった。
彷徨「でもあれはセンターフライの辺りだな」
惠「センターフライってなんだ?」
可菜「真ん中を守っている人の守備範囲で、アウトになっちゃうってことよ」
惠「お前、こういうことの知識はあるよな…」
畑中「そう言われるとなー…。くっそー。夏希、もう一回だ!」
夏希「はいはい。良いわよと言いたいところだけど、今日はみんなの練習だからね。もっかい回すわよ」
コロコロコロコロ…。
ボールが転がってきた。
あれ、烈くんいつの間にまた外へ…。ボール拾い好きだな。
畑中「お前は、いいのか?」
夏希「うーん、後でいいわよと思ったけど、一応やっとくか。畑中、投げ役お願い」
畑中「あいよ」
夏希ちゃんと畑中くんが入れ替わった。
こうしてみると、ホント普通に仲良いんだよね。
夏希「未夢ちゃん、ボールは取ろうしなくていいわ。下がってて」
未夢「う、うん」
畑中「行くぞー」
夏希「うーん!」
畑中「ほれっ」
カァンッ!
未夢「おおっ」
ボールは左の方へ大きく飛んで行った。
彷徨「ホームランだな…」
惠「そうなんだ。すげー」
可菜「夏希ちゃんもかっこいいっ」
夏希「ふうっ。調子は悪くないわね」
夏希「じゃぁもう一回回すかー」
夏希「未夢ちゃん、可菜ちゃん、あとで烈くんもだけど、3人はセーフティーバントの練習をしましょうか」
未夢「ああ、さっき言ってた安全なお茶ね」
畑中「どーいう覚え方してんだ…」
夏希「あっはっは!なんか作戦名みたいでいいわね。そう、安全なお茶戦法よ!」
畑中「夏希まで…」
夏希「セーフティーバントはね、普段は打つ格好なんだけど、相手がボールを投げたら急にバントの構えにするの」
夏希「急に体制を変えるのは、三塁の人に警戒されない為よ」
未夢「なんで三塁なの?」
可菜「打ったら一塁の方に走るでしょう?だから、逆の三塁の方に打った方が、距離を稼げるの」
可菜「ピッチャーの人が取ってたら投げる人が疲れちゃうから、ボールが転がってくる三塁の人が投げるのよ」
夏希「可菜ちゃん、よく知ってるわね」
可菜「本の知識だけどね…」
夏希「一塁の方に打ったら、キャッチャーの人が送球しにくいってのはあるけど」
可菜「それって、スキップで跳ねながら走って、投げたボールに当たったらどうなるの?」
夏希「なんで跳ねるのよ!守備妨害で退場食らうわよ!」
可菜「なるほど。勉強になったわ」
夏希「とりあえず、いくらバントとはいえ、急にバントの構えで上手く当てるのは難しそうね」
夏希「プロでも、打つじゃなくてバント専門の人がいるのよ」
未夢「え、そうなの?なんで?全然セーフにならないよ」
可菜「…さっきの未夢ちゃんが打つ時の話のくだりで言えば、チームに貢献するためじゃないかな」
畑中「さっきの?」
可菜「一塁に居る人を、二塁に送るのが役目って言ってなかった?」
夏希「よく聞こえてたわね」
可菜「全校に盗聴器を仕込んでる勢いで、全てに聞き耳立ててるからね」
畑中「なんでだよ…」
可菜「それで、少しでも点を取りやすいようにアシストする役目って感じかな」
夏希「私はあんまりバントやらないけど、大体そんな感じでいいと思うわ」
夏希「一発ホームラン狙う役の人でも、7割はアウトになっちゃうわけだから」
夏希「チームの為に監督の命令を受けて、4番の人が相手の意表を着いてバントとかもあるのよ」
未夢「へぇ〜」
よくわかってはいない。
畑中「しかし、わかっていたことだが、7〜8割はアウトになるって聞くと気落ちするな…」
夏希「天気予報と同じよ。結構外れるでしょ?逆に20〜30%は意外と当たるってことよ」
最近の天気予報は逆によく当たるようになった気もする。
夏希「まぁ確率が低いのは、投手の球種が10種類以上あって、読んでも当たらないだけだけどね」
夏希「ワンパターンなら10割よ」
畑中「昔のお前だな。集中砲火状態だった」
夏希「うっ、うるさいわね!がるるる」
未夢「あっはは…」
夏希「まぁそんなわけで、バントは奥深いのよ、やらないけど」
畑中「今バントの話してなかったぞ…」
夏希「あとね、バントと言ってもただ当てるだけだと、浮いてフライになってゲッツーされたり」
夏希「キャッチャーの目の前に落としただけだと、すぐボール投げられちゃうから、難しいのよ」
夏希「多分」
未夢「ええ〜。そんなに難しいんじゃ、無理だよ〜」
夏希「まぁ無理に当てに行かなくてもいいかもね。相手をバテらせるために投げさせるとか」
夏希「一球目で当てに行って、即行でアウトになることもないしね」
畑中「まぁそうだな…」
未夢「えっ、どういうこと?」
畑中「例えば、光月と内田がアウトになる前提の話になってすまないが」
畑中「ストライクを取って二人を最速でアウトにするには、6回投げなきゃいけない」
畑中「けど、お前らが打つのを仕損じて転がした場合、2回でいい訳だ」
畑中「その分、相手投手の体力も節約できて、後半になってもバテないかもしれない」
未夢「な、なるほど…」
夏希「でも相手には代わりのリリーフとか居るだろうから、バテたら交代させられるかもね」
畑中「それでも、一番上手いやつから交代させられるかもしれない」
夏希「わからないわよー、さっきの、脳あるタカは爪を隠すだっけ?とっておきは後にあるかもね」
畑中「そう言うチームもあるかもしれないが、それは稀かな」
畑中「まぁそんなわけで、お前らはとにかく左前に飛ばすようにすればいい」
畑中「それも、ピッチャー、キャッチャー、サードが一発で取れない位置だ」
未夢「ひぇ〜、注文が多くてむつかしいよぉ〜」
夏希「順番よ!まず当てること、その次に左前に当てること!最後に位置調整ね」
夏希「まぁ、今日だけじゃ位置調整は難しいから、せめて浮かせないように前の下に落とすことね」
夏希「あ、ファールの方向に落としても意味ないからね」
未夢「ファールって、どこからファールなの?」
夏希「今グラウンドに引いてる線消えかかってて見にくいけど、三塁からホームに伸びてる白い線」
夏希「あれより左にボールが行ったら、ファールで打つのやりなおしだから」
夏希「ちなみにこれは亜種だから覚えなくてもいいけど、てか私もよくわかってないけど」
夏希「ツーストライク取られた状態で、三塁、一塁よりちょっと手前?ぐらいのファールの位置に落とすと」
夏希「ファールじゃなくてストライクカウントでアウトになっちゃうから気をつけるように」
未夢「ええ〜!」
夏希「あれ?バッターボックスより後ろだっけ?」
畑中「ちげーよ。位置は関係なくて、ツーストライク後バントでファールになったらアウトだよ」
夏希「そうそうそれそれ。ちなみにスリーストライク時に振り逃げって言って、一塁に走ることを許されるわ」
未夢「ええっ、何それ、意味あるの?」
夏希「よほど足の速い人じゃないと無理ね。カールルイスくらい?でも無理かもね」
未夢「ほうう〜」
夏希「あ、話脱線するけど、一塁にボール投げる時に走者に当たったら、その人セーフになっちゃうから」
夏希「守りのときは気をつけるように」
未夢「痛そう…」
夏希「まぁ今回はそんなこと起こらなさそうだけど」
夏希「そういえば、みんな右利きなのね?」
畑中「そうだな」
可菜「うん、そうだね、私も惠ちゃんも右利きだよ」
畑中「俺と夏希もそうだな」
未夢「わたしと彷徨もそうだし…烈くんと零くんはわからないけど、左に立ってたよね?」
畑中「バッターボックスのことか?そうだな」
烈くんはグローブ決めるときに、どっちか迷ってたけど…。
夏希「バントするなら、右の打席、左打席に立って、一塁への距離を縮めたほうがいいかもね」
夏希「右利きの人でも、コントロール重視で左打席で打つ人もいるのよ」
未夢「右なのに左…うあああ混乱する〜」
夏希「ごめんごめん、バッターボックスの位置じゃなくて、左利きの人のって思って」
夏希「あと、審判位置からじゃなくて、ピッチャー位置から左って思ってもらえれば」
未夢「ああ…」
夏希「バットを振ったとき、こうなるでしょう?」
夏希ちゃんはバットを振った後のポーズをする。
夏希「右利きの人は左手でバットを引っ張ってることになるのね」
夏希「当てるときの力は右でコントロールするんだけど、飛ばすときの角度調整は左かな」
夏希「まぁ右利きって言うのはコントロールより力が強い人の方が多い気もするけど」
夏希「コントロール重視の人は、左打席で打つのね」
未夢「なるほど」
夏希「バントだったら右利きでも左打席でできると思うから、一度やってみて」
可菜「わかったわ」
可菜ちゃんが躍り出た。
夏希「おっ、まずは可菜ちゃんからか、やる気ね」
可菜「とりあえず、バットに当てればいいのよね?」
畑中「そうだな、まずはそこからだな」
夏希「そうね、よろしくね!」
畑中「はぁ…」
夏希「何よ?」
畑中「明日試合なのに今バントを教えてる状態で、大丈夫かよって思って…」
夏希「なーに言ってるの。あんた野球好きなんでしょ?楽しめればいいのよ」
畑中「俺もお前もプロ目指してるのに何のんきなこと言って…!」
夏希「じゃ、始めるわよ〜!」
畑中「…ったく…」
そうだ。これは夏希ちゃんと畑中くんの運命がかかっているかもしれないのだ。
可菜「なんか、ごめんね…」
畑中「ん?ああ、いや、悪い、気楽にやってくれ。別に今回の試合で死ぬわけじゃないから」
可菜「おおげさな。でも一生懸命やるよ」
そう言うと、可菜ちゃんは真剣なまなざしで、来るボールに対して構えた。
可菜ちゃんらしくないような、不恰好でも真面目だ。
カンッ。
ポトポト…。
夏希「そうそう!その意気よ!可菜ちゃん、上手いわね!」
畑中「そうだな、とりあえず当てるとこは、よくできた」
可菜「そ、そう?」
傍目には、さっき打った時と結果は変わらなかったけど、あれでいいらしい。
畑中「浮かせないのがコツだ。最悪、一塁の人が走り出して、ボール取られたら、一気にツーアウトだからな」
可菜「なるほど、わからん!」
夏希「とりあえず、浮かせなきゃいいのよ!」
彷徨「こりゃ、しばらくバントの訓練で俺たちの練習は無しか…?」
夏希「あ!うーん、そうねぇー!あんたたちは上手いから、そこでキャッチボールでもしててー!」
一塁側で待機してる彷徨たちに指示していた。
夏希「あと、紅瀬くーん!もうボールは飛んでいかないから、闇無くんとキャッチボールしてなさーい!」
烈くんに呼びかけると、戻ってきた。
烈「えー、もういいのー?」
夏希「あとで紅瀬くんもバントの練習するから、闇無くんとキャッチボールして待ってて」
夏希「そういえば、もっかい説明しなきゃいけないのかしら…?紅瀬くん、バントわかる?」
烈「わかるよ!聞いてたし」
夏希「!?」
あの距離で!?
烈「私も、全校舎内に盗聴器を仕掛ける勢いで、グラウンドに耳を設置しており…」
夏希「わかったわかった、助かるわ」
烈「しくしく…」
全部言い終わりたかったらしい。
夏希「あ、でも紅瀬くんにはやっぱ見ててもらおうかな」
夏希「ごめーん、闇無くんは、西遠寺くんや惠ちゃんと3人でキャッチボールしててー!」
畑中「いつもは走ってろって言うのに、今日は言わないのか」
夏希「足腰を鍛えるのは長くやる予定があって意味が出るからね」
夏希「素人に走らせてもつまらないでしょ」
畑中「なるほど。夏希なりに考えてんだ」
夏希「当然」
胸を張って言う。
夏希「じゃぁ次は未夢ちゃんね」
畑中「そういや全然セーフティーじゃなくて露骨バントになってるな…」
夏希「後でやればいいわよ」
夏希「あと試合のとき一塁に人が居ない場合は、バントしても意味ないからてきとーに打って」
なんてアバウトな。
夏希「小難しい詳細な指示してもわかりにくいでしょう」
まぁ確かに。
夏希「じゃぁ投げるわよー」
カンッ。
当たった!
夏希「あ」
未夢「おー」
当たった時はほぼ真上に上がったけど、左ちょっと前に浮いた。
ぱしっ。
畑中くんが滑り込んで取った。
畑中「なっ。これでアウトだ」
未夢「あー。畑中くん泥だらけだよ」
畑中「ん?こんなもん、帰ったら洗濯すればいいんだよ」
確かにそうだけど。オトコノコはみんなそんな考え方なのかな。
畑中「今のだと、一塁に人がいて二塁に走り出してたら、俺が素早く一塁に投げたらそれでツーアウトだ」
未夢「うわわあ」
畑中「だから、上手くやってくれよ」
未夢「そんなぁ〜」
それから何回かやってみたけど、ボールが怖くて、当てたときどうしても浮いてしまっていた。
畑中「ボールの下から当ててるから角度的に浮いてしまうんだ」
畑中「ボールが来る位置より上にバットを構えるんだ」
未夢「う、うん」
カンっ。
ポトッ。ポテポテ。
や、やった!浮かせずに当てられた!
未夢「夏希ちゃん、やったよ!」
夏希「ふう。やれやれね」
烈「じゃぁ次は私の番っかな」
夏希「後で未夢ちゃんと可菜ちゃんは、セーフティーバントの特訓ね〜」
可菜「えー。夏希ちゃんきびしーい。もう疲れたよ〜」
夏希「今日だけだから。ファイト!」
可菜「え〜」
未夢「あっはは」
可菜「未夢ちゃん、いつもこんなことしてたの?」
未夢「ううん、ここまでみっちり練習してるのは、今日が初めてだよ」
可菜「そうなんだ…」
夏希「紅瀬くん、さっき話聞こえてたなら、セーフティーバントわかる?」
烈「うん、大丈夫だよ」
夏希「よーし。じゃぁ始めるわよ」
夏希「あ、浮かせずに落とすの成功したら、紅瀬くんは一塁に走ってみて」
烈「おーけー」
夏希「あ、西遠寺くーん!」
彷徨「おー。どうしたー?」
夏希「悪いんだけど、一塁に居て、畑中がボール投げるから受け取ってくれるかなー?」
彷徨「わかったー」
彷徨が一塁に陣取った。けど向こうでキャッチボールは続いてた。
畑中くんがボールを投げそうな時だけ、零くんと惠ちゃんが彷徨に投げるのを止める感じのようだ。
夏希「まっ、西遠寺くんならいざボールが来ても大丈夫でしょう」
夏希「畑中ー!こっちにボール飛んできたら私が取るから、あんたはそのままでいいわよー!」
畑中「いーのかー?」
夏希「別にいーわよ、バント対策の練習にもなるし」
夏希「さて。紅瀬くん、行くわよ」
しゅっ。
烈「おおーう」
カーン。
高く上がってしまった。
烈「あはは。意外と難しいね」
それから何度かそれが続き、そして成功した。
烈「あ、成功した!ダッシュ!」
夏希「お」
夏希ちゃんが素早く転がったボールを取る!
夏希「西遠寺くん!」
彷徨はちょうどボールを持っていた。それを落とし、構える。
ビュッ
バシッ!
彷徨「アウトー」
烈「ああ、せっかく打てたのに、はぁっはぁっ」
夏希「ピッチャーの真正面だったから良かったけど、上手く飛ばされたら、あれセーフだったわね…」
夏希「とまぁあんな感じで、未夢ちゃんと可菜ちゃんと紅瀬くんは左打席でセーフティーバントの練習ね!」
可菜「はぁーい…」
未夢「あーい」
夏希「西遠寺くんたちの練習に戻りましょうか!相手が投げそうなくらいのスピードで投げるわよ!」
彷徨「お、よしきた」
惠「あたしらの出番かー」
零「…」
強者3人だ。
夏希「当たったら普通に一塁に走って!全力疾走よ!みんなの走力を見たいわ」
彷徨「わかった」
夏希「紅瀬くーん!悪いんだけど、また球取りお願い…あれどこ?」
烈「もういるよー!」
烈くんは既にセンターの奥深い位置に陣取っていた。
夏希「いつの間に…。まるで投げられた球を取りに行くワンチャンね」
夏希「じゃぁ、行くわよ!」
未夢「じゃぁ可菜ちゃん、どうしよっか?」
可菜「どうしよっかって、バントの練習じゃないの?帰るとか?」
未夢「いやいや!だって投げる役いないじゃ…」
可菜「私たちのどっちかが投げればいいよ」
未夢「近すぎたら、当てれて当たり前になっちゃわない?」
可菜「そしたら、遠く離れてやるとか」
可菜ちゃんが遠くに離れた。
可菜「未夢ちゃん、そこからボール投げてみて」
ちょうどそこいらに置いてあった、ボールの入っているかごからボールを一つ取り出した。
未夢「それっ」
カンッ。
可菜「うん。なんか、全然プレッシャー感じずに落ちついてできるよ」
未夢「あっはは」
わたしも何かそんな感じ。
可菜「もうちょっと強く投げてみて、前に飛ばすように当ててみる」
未夢「そんな〜、ずるいよ可菜ちゃん、わたしにも〜」
可菜「はいはい、後で交代ね」
だったったった…。
ちょうど彷徨が一塁に走っていくところを見た。夏希ちゃんもそれを見ていた。
未夢「あ、ちょっと待って!惠ちゃんの打つところだけ見たい」
可菜「あ、じゃぁ私も」
惠ちゃんは最初空ぶったけど、2回目はちゃんと打ってた。
ダッダッダッダッ…。
未夢「惠ちゃん、凄いよ!あんな速い球、普通に打ててた!」
惠「そうかっ?はぁっ」
可菜「惠ちゃんはやっぱ凄いね」
惠「そうでもないさっ。はぁっ」
全力疾走したからか、肩で息をしていた。
カァンッ。
次は零くんだ。
ダダダダッ。
夏希「闇無くんも、紅瀬くんほどじゃないけどやや早目ね!西遠寺くんより早いかも」
彷徨「くっそー。なんか悔しいな、バスケ部の部長として」
夏希「じゃーもっかい行くわよー!」
可菜「私たちも、バントの練習しよ」
未夢「うん!」
彷徨「お。お前らバントの練習か?がんばれよ」
未夢「うん!」
そういえば、彷徨とこうして運動系のことを一緒にすることもなかった気がする。
彷徨はすでにバスケ部に入っていたけど、もっと早くに何かで一緒にやりたかったかな。
可菜「どうしたの?」
未夢「ううん。なんでもない。やろう!」
それからわたしたちは二人で色々工夫して練習した。
一応、普通に打つこともやってみた。
可菜ちゃんが横で球を浮かせて、それに当てたり。
ボールがバットに当たる時の甲高い音が気持ちいい。
普通の女子高生に似つかず、運動少女状態になってたと思う。
自分で思うのもなんだけど。
彷徨「日が落ちてきたな…」
言われて初めて気になった。時刻はまだ5時だけど、冬の昼は短い。
それに気付いてから、初めて気温を思い出したかのようだった。
汗と冬の風で体温が冷えるのを感じた。
しかし、まだ5時と言うか、もう5時と言うか。
いつの間にか時間が過ぎ去っていた。
夏希「今日はここまでにしましょうかしらね!怪我されても困るし」
なんか、初めて部活らしい練習をした気がする。
今まで、夏希ちゃんとキャッチボールしてるか、雑用しかしてなかったもんな。
烈「なんか私、今日走ってるだけだったよっ…」
夏希「でも、大分運動になったでしょう?」
烈「うん」
走ってしゃがんでボール投げての繰り返しだ。充分、練習になっただろう。
夏希「西遠寺くん、惠ちゃん、闇無くん3人は大分慣れたようだけど、あ、そいや紅瀬くん」
夏希「あなたのバッティング練習忘れてたわ」
烈「私も今それ思った。まぁ明日何とかするよ」
夏希「そうね。なんとかなるわ」
適当だった。
畑中「普段からこれぐらい練習してくれると嬉しいんだけどな…」
夏希「私は今日そんなに練習してないわよ。みんなのお手伝いにはなってたけどね」
畑中「いや、指示と言うかなんというか…」
夏希「それに、今日はみんな初めてだったし。そうじゃなかったら指示してないだけでいつも通りよ」
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夏希「じゃぁみんな、明日は朝9時にグラウンドにしゅうごっ!」
烈「はーい!あー、明日筋肉痛になってたらどうしよう…」
零「…」
惠「やれやれ、自分で参加しておきながらだが、めんどいことに借り出されたもんだ」
可菜「どうやら私の瞬発力を見せる時が来たようですね…」
彷徨「お前と居ると、ホント退屈しないし飽きないな。この巻き込まれ体質め」
未夢「あっはは…」
夏希「みんな、ホント、ありがとね。明日は、よろしくお願いしますっ!」
夏希ちゃんは頭を下げた。
みんなは手を上げて、構わないよ、と言う風に返事をして帰って行った。
畑中「おい、あと1人足りないぞ、どうするんだよ」
夏希「明日何とかなるわよ」
畑中「ちっ。どうなっても知らないぞ!」
そういって畑中くんも去った。
未夢「あ、あの、夏希ちゃん、英一くんを誘えば…」
夏希「あいつとはね。小学3年生の頃から3年間。1100日近く連続よ。ある意味記録」
夏希「英一は毎日うちに遊びに来続けてた」
夏希「けど3年経った時、さすがに毎日は生活に支障を来すから」
夏希「母に少し控えるよう説得してくれと言われて」
夏希「けど上手く言えなくて、確か『もう来ないで』とかだったかな」
夏希「さすがに英一も切れて。そりゃそうだよね。絶交を言い渡された」
夏希「中学生になって仲直りしようと思ってた」
夏希「けど、『5000円払ったら許してやる』と言っていたと言う情報を別の友人から聞いて、諦めた」
夏希「5000Gで許すて、RPGじゃないーっつーの」
夏希「まぁそれは、その別の友人がついた真っ赤なウソだったけどさ」
夏希「今となってはお笑いのツッコミもできるけど、当時は心底がっかりだった」
夏希「英一、何も否定しないんだもん。デマを信じ込んじゃったよ」
夏希「本人も知らなかったらしいから無理もないけど」
彷徨と同じだ…。昔に、少し似たようなことがあったと思う。
夏希「3年も繋がりがあったのにこんな突然な別れが起きたのは、多分…」
夏希「片方が一方的に相手に干渉しすぎたからね」
夏希「恋人でもそうだけど、いくら仲が良くても過ぎたるは及ばざるが如し」
夏希「過度な欲求は破滅を意味するの」
夏希「互いが互いを思いやり、立場を均等に保ってこそ、その関係を続ける事ができるの」
夏希「未夢ちゃんも気をつけるようにね…」
未夢「で、でもっ!英一くんはそう言ってなかったのなら、きっと仲直りしたいと思ってるはずだよ」
未夢「夏希ちゃんが協力をお願いしたら、きっと喜んで助けてくれるよ」
夏希「そうかな。私なら、そんなに拒否られたら、そうは思えないかな…」
夏希「それにね、もういいんだ。私には、相棒もいるし」
未夢「え?」
夏希「畑中よ。あれから、5年くらい私の球受けてるのよ。立派な女房だわ」
夏希「なんか、立場逆だけど」
未夢「夏希ちゃんはそれでいいの?」
夏希「…えっ?」
未夢「夏希ちゃんは、それでいいのっ?ホントの心を奥に隠して…」
夏希「だって、仕方ないじゃないっ!あんなに一緒に居たのに、こんなに会わないんだからっ!」
夏希「…っ!ごめんね、アイツのことで未夢ちゃんとケンカしたくない」
未夢「ううん、こちらこそゴメンね。でもね、夏希ちゃんには、もっとストレートで居て欲しいの」
未夢「後悔したく、ないんでしょ?」
未夢「わたしだって、想いが叶ったんだから」
夏希「未夢ちゃんは、問題なさそうだし…」
未夢「あるよ。ないわけないよ」
しかし、わたしは畑中くんも応援したかったんじゃなかったのだろうか。
思ったことと言っていることは矛盾した気がしたけど、でも夏希ちゃんが一番したいのは、それじゃないのだ。
夏希「…じゃぁさ、好きな人ってたくさん居ていいのかな?」
未夢「え?」
夏希「普通、好きな人って言うと恋人のことを言うと思うけど」
夏希「だけど、友達として好きな人と言うのはたくさんいていいはず」
夏希「その場合は、大体、いい友達とか親友、いい人と言う風に表現すると思うけど」
夏希「私はあえて、好きな人と表現したい」
夏希「だって、好きなものがたくさんあるのは素晴らしい事だと思うから」
わたしの場合、今では烈くんの笑顔が思い浮かんだ。
好きというより、ほっとけない感かな。
自分も大概だけど。
夏希「でも、もし恋人が居たとき、その人以外を好きな人と表現していいものかな?」
夏希「表現だけなら変えれば良いけど、付き合いは?」
夏希「もし恋人と仲の良い異性が居たとして、仲の良い異性とは縁を切らなければならないのかな?」
夏希「私はそうは思わない。決別以外に道はあるはずだと考えてる」
夏希ちゃんは、語尾で『思う』とは言わなかった。
考える、ということは、確信してるってことかもしれない。
夏希「そうしてたくさんの異性友達が居る事は悪くないと思う」
夏希「節操がないと言われればそうかもしれないけど…浮気とは違うし」
夏希「あくまで私が思うだけで一般の見解とは違うかもしれない」
未夢「わからないけど、恋人が居たときに仲の良い異性が居る場合」
未夢「恋人が自分だけを見て欲しいと言う過剰な欲望で、問題が生じてしまうんじゃないかな」
独占欲。
自分ではないつもりでも、どこか心の片隅にあるのかもしれない。
未夢「だから、仲の良い異性とは決別して、恋人一人に集中するのが簡単で正しい道なんだって」
未夢「世間はそう言うとわたしは思う」
未夢「やっぱり思うだけで、個人的な偏見でしかないんだけどね」
夏希「うん」
夏希「だから、好き同士はお互いに介入『し過ぎる』べきではないんだよ」
夏希「互いが互いを、『一番』必要とし、心の支えとし、一生を生きれる存在であればいい」
それは、英一くんと畑中くん、どちらのことだとして言っているのだろう?
どっちとも取れる。
夏希「仲の良い異性との、コミュニケーションリンクを断ち切るのはさ」
夏希「生命線を自ら断じていってしまうことだと思う」
夏希「浮気を勧めてるんじゃないよ」
夏希「好きな人がたくさん居るのは素晴らしい事だってこと」
夏希「例えそれが同性であってもね」
夏希ちゃんは、小さくウィンクした。
夏希「私は同性愛は持ってないけど」
夏希ちゃんは、笑いながら言う。
夏希「同性に対してとても頼りにしている人がいるから、同性愛を持っている人に対して否定はしない」
夏希「好きなのは素晴らしい事だから。少なくとも嫌う事よりは」
恥ずかしそうなことでも、はっきり言う子だな。
夏希「好きなものがたくさんあることは、素晴らしい事だから」
夏希「未夢ちゃんはどう思う?」
夏希「好きなものは、一つであるべきか、否か?」
未夢「なら、なおさら英一くんのことは諦めるべきじゃないよ」
夏希「でもね、3年友達で居ることと、片思いで3年恋愛をするのは違うと思うんだよ」
夏希「恋愛はずっと好きで居続けないとダメじゃない?」
夏希「ほとんど会わずに彼だけを好きで居続けるのは難しいし辛いことのように思う」
夏希「友達なら何でもいいしね」
夏希「片思いなら何人相手でもいいし」
夏希「でも、前提が違うのかなぁ」
夏希「付き合ってるときに他の人を好きになるのは浮気かな?」
夏希「別につきあってるわけじゃなかったけど」
それは、本当にどちらのことを言っているのだろうか?
英一くんを真として、畑中くんとは仲良くしてはいけないと思っているのか。
それとも、畑中くんを真として、英一くんとはもう仲良くしてはいけないと思っているのか。
未夢「例え好きな人ができたとしても、彼以外の男子と絶交する必要はないよね?と思う」
未夢「これと同じことだと思うよ」
未夢「好きな人がたくさん居るのは素晴らしいことだよ」
未夢「その中で一番なのが、恋人であるだけなんだよ、きっとね」
未夢「そんな理由もあって、片思いもそれはそれでいいかなとも思うよ」
夏希「でも私は英一を拒否っちゃったから…」
未夢「でも、ついこないだだって、普通にというか仲良さそうに話してたじゃない?」
夏希「あんなの、うわべだけよ」
夏希「お互いに、平気な、フリをしてただけよ」
夏希「ホントに仲直りしてたわけじゃない」
未夢「それでも、喧嘩中のようには見えなかったよ…」
夏希「とにかく、あの5年間は、わだかまりは消えることはないと思う」
夏希「なぜなら、それが私を育てた原点になったから」
夏希「今も、無意識に嫌な記憶を思い出して道中悶絶することがあるくらい」
夏希「でも、会わないなら忘れて封印することはできると思う」
夏希「私は、もう誰からも理解されることのない心になったから」
夏希「きっと誰かに慰められたかったんだよ」
夏希「あー、なんだか説教くさくなってダメね…」
未夢「…」
もしわたしが、3年前に彷徨を好きなことに気付いたのに喧嘩別れしてずっと会えなかったら?
その問い自体は思い浮かんでも、その状態を想像することはできなかった。
それと、似たようなものなのかもしれない。
もし会えても、その間の空白期間の落としこみ方が、わからないのだ。
それでも、夏希ちゃんの依頼抜きで、夏希ちゃんには、想い人と一緒になって欲しい。
未夢「どっちにしても、明日、英一くんに来てもらうしかないんでしょ?」
夏希「…」
未夢「わたしは今日、当てを何とかしたんだから、今度は、夏希ちゃんの番だよ!」
少し、背中を押してあげるように言った。
夏希「もう、そういうところは、強引ね」
未夢「えっへへ」
夏希「わかったわよ。なんにしても、なんとかしないとね」
未夢「そうだよ」
夏希「とりあえず、今日はもう終わりっ!また明日!」
未夢「えー、今からアタックすればいいのに」
夏希「それができてたら、こんなに悩まないから!」
未夢「あはは。それもそうか」
夏希「全く…未夢ちゃんみたいに、ハッピー状態じゃないのよ、こっちは」
未夢「えええっと、それは」
夏希「うふふ。まぁ、なんとかなるわよ…」
明日どうなるか分からない。
それこそ正に、神のみぞ知ることだ…。
夏希「ああそういえば、あいつ、監督は明日来れないみたいだから、これも代わり探さなきゃいけないんだけど」
未夢「ええ〜!それ、監督さんなの?」
夏希「もしよければ、未夢ちゃんのお父さん?とか、頼めないかな〜って」
未夢「…もう〜強引なんだから〜。話してみるけど…」
夏希「ホントっ?やたっ。お願いね!」
未夢「それじゃぁね。バイバイ」
夏希「うん。バイバイ」
校舎を出た。
振り返ると、夏希ちゃんがまだ居たので、外から覗くように見ていたけど、壁にボールを投げていた。
いつも、誰もいなくなった後に、ああいう風に練習していたんだろうか。
見てなかった。
一体何時までやっているんだろう。
今日は疲れてそのまま見ていることはできなかった…。
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未夢「ただいま〜」
未来「おかえりなさい。遅かったのね。あら、どうしたの、泥だらけじゃない」
未夢「ちょっと色々あって…パパ居る?」
未来「居るけど、先にお風呂に入ってらっしゃい。お話はその後の夕食でしましょう」
未夢「はーい」
未夢「…なことがあって、パパにお願いしたいんだけど」
優「ええ〜っ、僕、監督!?」
未夢「できなければ、無理しなくても大丈夫だけど…」
優「僕にできるかなぁ…野球の監督なんてやったことないよ」
未来「大丈夫よ、パパならできるわ、未夢のパパですもの」
優「何それ」
未来「それに、できないかもって言われたら燃えるでしょう?」
優「確かに…うおおおー!」
未来「さて、パパの洗脳はこれでOKとして」
ひどすぎる。
未来「じゃぁ、未夢の代わりのサポートはママに任せてね」
未来「みんなの分もきちんとサポートするわよ!」
未夢「えっ、ママも来るの?」
未来「当然よ。野球なめてるでしょ?サポート必要なのよ〜」
未夢「うう…じゃあお願いします」
未来「じゃ、用意して、今日は早めに寝なくちゃね」
なんだかおかしなことになってきたけど…。
えーい、もうどうにかなれだ…。