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 ====================================== 境 ====================================== 

放課後。
部活に行く前に、惠ちゃんが来てたから雑談してた。
今日はアルバイトらしい。時間まで少し間があるみたい。
お金が欲しいとの事。

烈「働いたらお金なんて手に入るよ」

惠「何、そのカッコ良さ気なセリフは。一度はっきり言ってみたいわ」

烈「言ってみればいいじゃん」

零「…お前は働いているのか?」

烈「経験ないけど」

零「…ニート」

烈「学生だよ!それならお前もそうじゃん」

零「俺は勉強してる」

烈「私だって勉強してるもん!」

零「いや、お前は寝てる」

烈「うるさい!じゃぁお前は一生寝るな!」

零「なんだそれは」


未夢「ま、まぁお金は欲しいよね」

惠「そうだなぁ。野球選手にでもなって、1軍?とかでドバーっと入ればいいけどな」

未夢「…」

そういえば夏希ちゃんは、そう言う方向になるのかな?

惠「そろそろ時間だから行くわ。またなー」

未夢「バイバイ」

惠ちゃんは出て行った。

未夢「お金かぁ〜…烈くんはお金欲しい?」

烈「欲しくないって言ったらウソだけど、最低限以上は欲しいよね」
烈「お金と言うより、資金というか」
烈「衣食足りて礼節を知るって言う言葉もあるくらいだし」

未夢「そうだねぇ…高校行かせてもらってるのも、両親のおかげだしねぇ」

お金に関してはあんまりおおっぴらにしたこともないし、考えたこともなかった。
けどうちは多分お金持ちの部類だと思う。何しろ両親が一応有名人だし。

烈「お金がないと、色々と考え方がひねくれちゃうかもね、嫉妬とか」

そうすると、わたしは嫉妬される側の立場に居るのか。ヤバイ。

烈「お金も大事だけど、私はお金より優しさが欲しかったなぁ」

未夢「?」

烈くんはどこか遠い目をした。


烈「自分で言うのもなんだけど、私は多分全然マシに育っていると思う」
烈「別に両親に離婚もされず普通に高校まで行かせてもらって…」

烈「でも、育つ前に、くだらないことでよく怒鳴る父を見すぎてね」
烈「好きな母の泣く姿、毎日のように見てきた」
烈「中学時代いじめられても無遅刻無欠席、宿題も全部やる私のことを誰も評価はしてくれなかった」

未夢「…」


烈「両親は私に期待しすぎたのか、高レベルなことができないと怒鳴るだけ」
烈「イケない事をして叱られるのは納得できるけど」
烈「得手不得手があって怒鳴られるのは納得がいかなかった」

烈「次第に私は親たちのことを信頼できなくなっていったよ」
烈「高校合格が出た時も『訳のわからん高校に入りやがって』と言われたし」
烈「高校に認められた私の存在を全否定するかのような言葉しか浴びせられなかった」

烈くんは一見、こんなこと言っちゃなんだけど、お馬鹿風のようには見える。
けどここは名門の一種。烈くんには、普段見えない賢さがあるのだろう。
ここは有名なんだけど、それ以上を求められたということなんだろうか…。
かなり厳しい様子が垣間見えた。

烈「毎年元旦には、よくわからないことに怒鳴ってくる親に疲れた」
烈「無視を決め続けるお母さんのこともよくわからなくなっちゃった」
烈「育ててくれたことに対する感謝と、意味不明で不快にされる恨みの葛藤に疲れ果ててね」
烈「この人たちは必ず私を不快な気持ちにする」
烈「いつか、逆に殺してしまうと思って私は逃げてるよ」

零「…」

未夢「…」

烈「育ててくれたのに親に感謝ができなくなる心を持つ私を、どうして天涯孤独じゃないと言える?」
烈「親はいつかは死ぬ。それが早いか遅いかだと思うんだ」

烈「今は、前の学校を転校して転校生だけど、卒業すれば間もなく向こうに戻れる」
烈「だけど、天涯孤独で一番困るのは、引越しの時の保証人かな」
烈「今の暮らしに不満はないけど、身動きができず親にストーカーロックオンされているのが嫌だな」

烈「まぁそんなわけで、色々と優しさが欲しかったね」
烈「人類みな兄弟。困っているみんなと助け合っていきたいね」
烈「なんか、勝手に色々言い出したりしてごめん」

未夢「…」

言葉が出なかった。言葉にならなかった。
隠された裏を垣間見たのだ。
それは、世界の境だった。
ほのぼのと平凡に過ごしているわたしは、幸せだったのだ。

そりゃ、子供の頃は、ママたちから放置されてたのだと思ってた。
悲しさは比較できないけど、烈くんのは悲惨だ。
何があったかはわからないけど、そう言う感情に至るまでの事実があったのは確かなのだろう。

未夢「…」

ドンマイ、とはとても言えなかった。
両親とは仲直りして欲しいとは思う。

未夢「…これから、優しくしてもらえると、いいね」

烈「…うん、そうだね」

わたしの、バカ。

そういうことじゃない。そんなことが言いたいんじゃない。
社交辞令のような言葉しか出なかった。
なんて声をかければいいか、わからなかったのだ。

零「お前には俺が居るから、心配するな」

烈「おお、頼もしい零」

烈「さて、色々話し込んじゃって、もうこんな時間だから帰るよ」
烈「じゃぁね、また明日」

零「またな、光月」

未夢「…うん、バイバイ」

わたしが言いたかったのは、零くんが言ったような言葉だったかもしれない。

未夢「あ、やばっ、わたしも部活行かなくちゃ。夏希ちゃんに怒られちゃうっ」

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夏希「未夢ちゃん、昨日はごめんね〜!なんか弱気になってた。もう来ないかと思ってたよ」

怒られると思ったら謝られた。

夏希「でも、無理しなくてもいいんだよ?」

未夢「そうじゃないよ〜、やるって決めたからね」

夏希「未夢ちゃん…ありがとう!頼もしいわ」

未夢「それで?今日は何するの?」

夏希「うーん、適当にキャッチボール?」

未夢「え、それだけでいいの?」

夏希「校庭1500周でもいいよ?」

未夢「メートルとか15周の間違いじゃなくて…?」

夏希「冗談よ」

夏希「今いきなりきついことさせても難しいでしょ」

夏希「でも、いざと言うときのピッチャー任せるなら、足腰は鍛えておかないとかもね」

夏希「まぁそれはまた今度にしましょう」



今日は本当にキャッチボールしただけだった。
夏希ちゃんもそれに付き合ってくれた。
ボール投げるのと転がりを拾う練習なら、わたし1人でも良かったかもしれない。
なのに、夏希ちゃんにつき合わせてしまった。
夏希ちゃんには、夏希ちゃんの必要な練習があるのでは?
最初に言われた、英一くんを入れることも進展がない。
このままでいいのかな…。


夏希「な〜に黄昏ちゃってんのよ、何か悩み事?」

未夢「あ、いや、そういうわけじゃ…」

夏希「私は基本的に哀愁とか切なさって言う雰囲気、好きよ」
夏希「何かの出来事のせいで深く考える姿って言うのは魅力的だと思うの」
夏希「その魅力ってカッコいいとかじゃないんだよね〜」
夏希「なんかこう…言い表しづらい状態って言うのかな?そういうの」

未夢「そんなことないよ。そんなこと言っても何も出ないよ」

夏希「じゃぁ何さ」

未夢「ホントになんでもないってばぁ〜。それに、わたしが話下手だけなのかもしれないよ?」

キャッチボールの最中は、野球のルールだとか色々説明されたけど、あんまりわかんなかったかも。
やば、マネージャー失格かもしれない。

夏希「そんなことないわよ。確かに、未夢ちゃんは最初は野球のこと詳しくなかったかもしれないけど」
夏希「一生懸命話についてきてくれたじゃない。私は楽しかったわ」

夏希「それにね、会話能力があるってのは雑学を知ってるかどうかってことじゃないわ」
夏希「何も知らなくて言葉の交換を続けれるかどうかだと思うの」

夏希「でも、大人とかの話をじっと聞いてるのは会話ではなくて説教かな」
夏希「言葉の交換がなくて一方的なのはあまり好かない。説教とか天敵。授業とか?」
夏希「多分聞いてても途中で全然わからなくなってて頭に入んないし」

夏希ちゃん、授業嫌いなんだ。
多分、1秒でも野球をしていたいのだろう。

未夢「あ、じゃぁわたしはさっき実は説教されてたのかな?」
未夢「結構、ずっと野球の話聞いてるだけだったし」

夏希「そ、そんなことないわよっ。私、説教なんかしてないっ」
夏希「もう〜。未夢ちゃんぶつけるわよ?」

未夢「あははっ。ごめんごめん〜」

ずばしんっ。

手元のミットにボールが叩きつけられたのだった。


夏希「説教で思い出したけど、去年は監督に怒られてたりしたなぁ」

未夢「え?夏希ちゃんが?」

うん、と頭を縦に振る。

夏希「雑談ついでに余計なこと言っちゃうけど、顧問の先生にはもっとしっかりしてほしいなぁ」
夏希「今年度思えるような問題は、去年にはなかったし。変わったのは顧問だけ」

未夢「今年度?変わった?」

夏希「監督が変わったのよ。しかも今回のは私が知ってるやつで…」

ちぇ、と夏希ちゃんは舌打ちをした。

未夢「先生にそんなこと思っちゃダメだよ〜」

夏希「いいのよ。実はあいつとは、小学生からの腐れ縁なんだから」

未夢「なになに、実は想いあってるとか?」

やれやれといった感じで首を横に振った。

夏希「全然そんなんじゃないわ」

夏希「近しい話で例えるけど、あいつ部員になめられてるみたいでさ。優男な性格だし」
夏希「私が『なめられてるのよ』と言った瞬間、あいつは怒った」
夏希「なんかすーごい怒ってた。なんか、ああいわれて怒った感じじゃなかった」
夏希「もし何か思い出して怒っただけで、関係ない事なら、それはそれで八つ当たりするのもおかしいし」



夏希「あと、私が後輩の部員に叱ったことがあるんだけどね」
夏希「曲がりなりにも監督に失礼な事言うなーってね」
夏希「あ、私は例外」

頭をぽりぽりとかいていた。

夏希「まぁでもその時反抗されてね」
夏希「私はさらに怒ってた」

夏希ちゃんは笑いながら言う。過去のことだからだろう。その時は、本気で怒ってそうだ。

夏希「でもアイツはその時、売り言葉に買い言葉するなーって言ってさ」
夏希「アイツ、私がなんか言ったら怒るのに」
夏希「私が後輩に取られた態度に対して叱った気持ちがわかるはずなのに、あんなこというなんて」
夏希「とても教師が語るお言葉とは到底思えない」

未夢「まぁまぁ」
夏希「プンプン」

夏希ちゃんはプリプリのご様子だった。

夏希「お互いが良いことをしたら褒め、悪いことをしたら叱るのが私たち先輩の運命のはず」
夏希「遊びだったら、面白ければいいやとかだったのかもしれないけど」
夏希「今はそうではないことを自覚してほしかった」
夏希「ちゃんとした、部活なんだし」

夏希「ちゃんと指導しないと、迷惑を被るのは真面目にやってる子たち側だし」

真面目に言動してる子たちが骨折り損になってしまうと言いたいのだろう。

夏希「一番困るのはそれで教育しないといけない時間を取られる先生自身のはず」
夏希「上がしっかりしてくれないと、部員たちに示しがつきない。これは忠告であり、助言」
夏希「色々言ったけど、もっと大切なことにがんばってほしいなぁー」

夏希ちゃんはしっかりしてるから、その監督さんのことが、しっかりしてないように見えるのかなと思った。
他の部員の行動に対して注意しきれない監督さんがあわあわしているところを、夏希ちゃんが叱る。
そんな構図が想像できた。
ここにも境があった。
夏希ちゃん自身、両方の立場にいるから、無意識的に悩んでいるのだろう。

夏希「あっ、いっけなーい、みんなを部室に待たせてるかも!」

わたしたちが話し始めたのは、終わりの時間より少し前だったから、大丈夫だと思う。

夏希「そろそろ部室に戻ろうか、未夢ちゃん」

未夢「うん」




夏希「えー、みんな久しぶりになってごめんけど、会議したいと思うんだ!」
夏希「みんなの都合のいい日を教えてー」
夏希「内容は、近況報告と今後の予定、今の状態確認などなど」
夏希「詳しくは当日話したいと思います!以上!」

みんな散っていった。蜘蛛の子を散らすようだった。

未夢「あれだけでいいの?内容は何?」

夏希「最近、みんなのコンディションとか確認してなくてね」
夏希「それだけだけど、重要なことなのよ」

未夢「ふーん」

夏希「未夢ちゃんも、誰が調子悪そうとか、小指の動きだけでわかるくらいになってね」

未夢「そんなの無理だよぉ〜」

夏希「うふふっ」