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 ====================================== 説教 ====================================== 

放課後。
昨日から何となくここに来るようになった。
一応、何か協力するっぽいこと言っちゃったし。



練習前のミーティング。

夏希「さて、みんな、お疲れ様」

夏希「プレイを進める上で、みんなが思い描いている内容を理解することは絶対よ」

夏希「やっていく内に理解することもあるけど、初めのうちは分からないのが当たり前」

夏希「"初心者の基本注意事項のまとめ"にもあるように、よく分からないままプレイを進めないでね」

夏希「結果的に無駄な作業が発生するわ」

夏希「プレイ前の疑問、プレイ中に発生した問題は、躊躇せずに誰かに質問をして」

夏希「その時は、自分が理解できるまで質問をするようにして。分かっている『つもり』はやめて」

夏希「どんなお願いであれ、受けたからにはプレイに責任が発生するのよ」

夏希「自分が実施している役割には、常に責任が発生しているということを意識しておいてね」

夏希「それじゃ、みんな怪我せずにがんばってね。散!」

夏希ちゃんすごいな。なんか、一人先を走っていっている感じがする。


部室の端っこに置いてあった、"初心者の基本注意事項のまとめ"のノートを読んでみた。


■作業の基本
1) 言われた内容の目的を必ず理解する
2) プレイ前に一度イメージ全体の流れをまとめる
3) プレイ時には練習必要な項目は、あらかじめ紙などにまとめておき、各項目が終わる毎に印を付けていく
4) 各作業でも細かなチェックリストを極力作成し、練習漏れのないよう進める
5) 練習終了後、項目・内容の実施漏れ・ミスがないかを必ず確認する
   他の人が別途確認する場合でも、漏れや簡単な漏れの確認は必ず実施する
6) 練習が終了したらキャプテンに対して必ず報告をしてください

A) よく解らないまま、絶対練習を進めない
     => 多くの場合後々大きな問題・怪我になったりします
        とことん確認を行ってください
        「たぶん〜だろう」は大変危険です

B) 頭に覚えられない事は紙にメモる
   * 練習時はチェックシート等を元に実施 (頭の中で作業を管理しない事)
       計画(何をするか)、検査(実施内容の確認)、終了確認(実施漏れがないか)
   * 穴フォロー、改善必要事項、ミスは個人でも全て記録しておく
       練習終了後、全体でミーティングを実施し、全てを汲み上げ次回に生かします

C) とても不可能な無理な練習はしない
   なぜ出来ないのか、どうしたら出来るのかを併せてキャプテンに相談してね♪
   だまっているのは、「OK・問題ないよ」を意味します

以上


すごい…まるでどこか会社のノートみたい。説教のようだ。


夏希「未夢ちゃんどうしたの…ああ、それ?」
夏希「そんなもの私の性格の一部に過ぎないよ」
夏希「普通の人の言葉で言わせると、気分かな。そういうのをまとめたい気分だったのよ」
夏希「私の場合だと、気分というには収まらないぐらいの変わりようだからなぁ」
夏希「そんだけ書いちゃったね」

見ると、ある科目用のノートだったっぽいけど、マジックで線引いて、部活ノートとしてあった。
授業中に考えてたのかな。

未夢「ちゃんと勉強もしなきゃダメだよ」

夏希「あっはは、そうだね、それは学生の本分で、絶対かもね」

夏希「あとね、私は、必ずやらなきゃいけないことは大抵後回しにしてるよ」
夏希「だって、いずれ絶対やらなきゃいけないから」
夏希「これを最高優先度にしておくとさ」
夏希「やりたくても優先度の低いものはいつまで経ってもやらずじまいになってしまうからね」
夏希「まぁでも普通は逆かな」

未夢「夏希ちゃんのそのパターンだと、結局勉強しないままのような…」

夏希「あ、バレた?」

未夢「夏希ちゃん、勉強ニガテなの?」

夏希「体を動かしてた方が楽しくて」

答えてはいなかったけど、それが答えのようなものだった。


【背景:グラウンド】

わたしはマネージャー兼ピッチャーだ。

ピッチャーと言うのが色んな意味でわかんないけど。

一応ユニフォームに着替えてあるけど、積極的にプレイすることはない。

基本的に、部員のみんなの見て、お世話をするだけ。

まぁ、得意ごとというか、できることではある。

問題が起きたときだけ?何かするという感じ?

男子「マネージャー、グローブが破れた。新しいのくれ〜」

未夢「あ、うん、わかった」

あ、でもこれどうするんだろう。夏希ちゃんに聞きに行こう。

未夢「夏希ちゃん、ちょっといいかな?」

夏希「え、未夢ちゃんっ!?ちょっと!」

未夢「え?わっ」

バシィッ!

思わず頭を抱えてしゃがんでしまった。

夏希ちゃんは左手のグローブを右にやり、わたしの頭周辺に来ていたボールを取った。

防いでくれた?


夏希「ちょーっと、畑中、どこにボール投げてんのよ」

畑中「悪い悪い、大丈夫だったか?」

夏希「未夢ちゃんも、ちょっと気になったけど、いい?」

未夢「うん?」

夏希「さっきの場合は微妙な状況だったけど相手に話しかけられるかどうか」
夏希「確実に確認して話かけた方がいいよぉ〜」
夏希「と、ゆうか、癖をつけて」

畑中「確認って言っても、話し掛けることじゃないからな。『様子を見る』とゆうことだな」


夏希「もしくはプレイ中でなくても話とか取り込み中とかね」
夏希「話中でも、話題が途切れている場合もあるし、話を中断していても、相談中とゆうこともあるからね」
夏希「相談中に『今いい?』って聞くのも、間違いだよ。「見て分かれよ」とゆうことになるから」

畑中「身内同士だから、特に注意はしないけど、話の相手が知らないやつだったら…と考えるとな」

夏希「ちなみに『気づかなかったよ』とか言い訳は通用しないよ。口に出さない方が良いね」
夏希「声をかけてから気づいたときは、すかさず、その場で、『あ、話中だね。ごめん」ぐらいの言葉が出るくらいにしておいてね」

畑中「話し掛ける前に相手を1分以上観察するくらいの気持ちでも良いかもな」

夏希「こうゆうときに、笑顔は不要よ。基本的に真面目な時に相手が笑っていない時のこっちの笑顔は失礼にあたるから」

夏希「…とまぁとりあえず、説明したけど、慣れてきてNGシーン結構見る機会が多くなるのも困るし」
夏希「怪我とかしないうちに、周りが黙認しているうちに改めた方が良いよ」

夏希「…せっかく、色々なれてきても、それ以外でNGが多いのはもったいないからね」

夏希「色々言ってごめんね!がんばってね!」

未夢「う、うん…!」

夏希「てゆーか、畑中がいきなり未夢ちゃんをぶつつもりでその方向に投げるのがいけないんでしょ」

畑中「ち、ちっげーよ!たまたまそっち行っちゃっただけだって!」

そういって二人ともまた投げ合うために離れていく。

未夢「夏希ちゃん!」

夏希「ん?」

未夢「あ、ありがとね!」

夏希「チームの穴をふさぐのが、あたしたちの役割ですから!」

あとで、畑中くんにも何となく謝っておいたのだった。

こっちが平謝りされたけど。

夏希ちゃんが怒って謝らせてた。



帰り。

夏希「あーあ。お腹がベルトからはみ出すようになったかなぁ」

未夢「え、そう?」

見てもそのようには見えない。

夏希「なんか、太ったというよりは、腸だけがでかくなった感じだよ」
夏希「お腹減ってたくさん食べてるからか」

未夢「そう言う風には見えないんだけどなぁ」

夏希「一見私を見て誰も、太ってるなんていう人は100%いないだろうね」
夏希「ひどく言っても、『そう見えるかも』という人さえいないはず」
夏希「まぁ、腕とか足周りの筋肉ゼロだからなぁ」

未夢「そんなことないよ、夏希ちゃん練習してるんだし」

夏希「近くにご飯屋があるのはいいんだけど、しょっちゅう虫が入る」
夏希「衛生的によくない。どうにかならないのかな…」

未夢「あっはは。良くないね」


夏希「…未夢ちゃん、お昼はゴメンね」

未夢「え?」

夏希「お昼注意したことね、あれ、昔私が言われていたやつなんだ」
夏希「なんかね、昔の自分を否定してるみたいだった」

夏希「他人のことを痛いと言っていたのは誰?」
夏希「他でもない、自分だった」

未夢「いや、痛いとかは言ってないと思うよ」

夏希「でもねー、自分ができてなかったのに、それしろとか」
夏希「その自分が実はものすごくダメな人物だったと分かった時にはもう、自我もなく狂うしかないよ」

未夢「そんな大げさな」

夏希「ダメな奴の友はダメな奴 なんて言葉はないけど、そう思えるだろう時ってあると思う」
夏希「逆に、いい人の友はきっといい人、という幻想や期待を自然と抱くものよ」

未夢「うう…ダメなやつですいません」

泣けた。

夏希「ああえっと、ああ、ごめんごめん、そんなつもりじゃなくて!もう、私のバカ!」
夏希「そうじゃなくてね、もし友だちに良い人が付いて、その人に自分が見られるようなことがあればね」

夏希「友の株を下げないためにも、辱めないためにも色々がんばるべきだなって」

未夢「つまり、わたしが他のみんなから悪く思われないように、夏希ちゃんががんばるってこと?」

夏希「逆もお願いね。じゃないと、未夢ちゃんを連れてきた私、みんなに白い目で見られちゃうから」

他人が自分に影響してから初めてかのように、改めて自分は自分だけの存在ではないことを実感するのだった。





夏希「…よくね、自分一人だけでできなければならないと思ったりするんだ」
夏希「私がしっかりしなくちゃって」
夏希「能力的にそうなるのはいいけど、現場環境的にそうなるのはまずい」
夏希「野球は、みんなでがんばるものだからね」
夏希「じゃないと、その人がいないとチームが機能しないという状態が果てしなく危険だからね」

確かに、夏希ちゃんはしっかりしている。

未夢「夏希ちゃんだけのワンマンチームになっちゃうってこと…?」

夏希「そうだね。まぁ、畑中もいるけど」

夏希「別に、自分だけが頼られて価値も甲斐もあるのは構わないけど、そんなのは人間の精神的満足なだけ」
夏希「チームにとっては何のメリットもない」
夏希「人間だからいつかは風邪引くし、冠婚葬祭など特別な用事もあるだろうし、居なくなる可能性があるんだ」

夏希「私用で休んだりもするかもしれないし。広義的には休むなら全部私用のようなものだけど」
夏希「そんな、稼働率の低い状態を信じるのは危険な考えだからね」


未夢「まぁお休みのときは仕方ないよ、その時はみんなにがんばってもらわないとね」
未夢「わたしたちが、わたしがフォローするから大丈夫だよ!」

どやっ。
ちょっと無理して言ってみた。

夏希「未夢ちゃん…ここまで育って」

未夢「ちょ、ガチ泣きは止めて」

シュールすぎた。


夏希「それに比べて、部員が半年経っても仕事をがんばってくれん」
夏希「それって部員としてどうなの」
夏希「一生懸命やりましたとか言えばやっていけるんだ、と思ってるんなら殴らないといかん」

急に愚痴ってた…。そして怖かった。

未夢「そうなの?みんながんばってると思ってたけど…」

わたしはまだ昨日の今日だけど、夏希ちゃんは1年半以上?見てきたのだからそういうところがあるのかも。

夏希「いくら苦手なプレイがあると言っても、1000時間もあれば一つの仕事くらいできるでしょ」

未夢「1000時間って何日だっけ…」

とにかく、何日にしても、時間に直すと多大な時間だ。



夏希「最大限の努力ができるならそれに越したことはないけど」
夏希「でも、最低限の努力さえできないのはさすがにダメだと言わざるを得ないわ」

未夢「そうなの?」

夏希「ろくに練習しないで、練習きついとか」

夏希「人を説得できるアピール力も持たないで、どや顔して歩いてるやつは、もう何なの?と」
夏希「あーだこーだ文句言える資格ないよ、ぶつぶつ」

未夢「まぁまぁ。どうどう」

夏希「がるるるる…」

未夢「そんなに怒らなくても」

夏希「厳しくしないと、ナメられるからね」

夏希「貫目を安く見られたら終わりだからね」

夏希「キャプテンってそういうもんよ。特に私は女だし」

厳しい世界だ。

今日は色々教えてもらったし、色々知った。夏希ちゃんのお説教も愚痴も聞いちゃったな。

後に、成長したといえる日が来るんだろうか…。