====================================== 新婚モドキの二人きり ====================================== 


未夢「彷徨ー、朝だよー」
未夢「おーい、朝ごはん食べるぞー…」

閉めていたはずの雨戸を開け放った。窓から降り注ぐ光が眩しい。

未夢「…早く起きてっ」

彷徨「う…ん…寒ぃ…」

未夢「寒いのは当たり前だよっ」

彷徨「いつの間に俺の時計は高性能な反応型になったんだ…」

未夢「誰が、時計だっつの…」

彷徨「ん…?」

彷徨は時計を掴もうとしているのか、頭まで被った布団から手だけを出し、辺りをランダムに掴み始めた。
むにゅっ。

彷徨「んん?」

むにゅむにゅ…。

未夢「…っ!」

彷徨「お、おお、未夢…こんなところで何してんだ…?」

未夢「かっ…!彷徨の、ばかーーーーーー!!!!!!」

そこにある時計を彷徨の頭へ向けて投げた。
ぶんっ!

彷徨「がぁっ!!!」

………。
……。
…。
昨晩の夕食時…。

未夢『ママっ、彷徨がね、無事元気になったのっ』

未来『彷徨くんが?あら、深手だって聞いてたけど、それは本当に良かったわ』
未来『私たちはしばらく日本に戻れそうにないから』
未来『彷徨くんの世話がてら、前と同じように西遠寺に住んだら?』

未夢『うん、そう思って、電話したの…』

未来『学校にも、連絡しておきなさいね』

未夢『うん』

未来『じゃぁ、彷徨くんによろしくね』

未夢『というわけで、明日早起きしなきゃだからわたし今日はここで寝るっ』

彷徨『どういうわけなんだ…』
彷徨『それにお前笑顔で言うけど、そうやって何度寝坊して俺に迷惑かけたか…』

そんなこんなで西遠寺に泊まることになり、今日の今に至るのだ。
さきほど学校には電話しておいた。
色々聞かれるかと思ったけど案外聞かれなかった。
わたしもその後の彷徨を一応看病、見舞いするという名目で休みになったのだ。


未夢「いただきます」

リビングのテーブルで朝ごはんを食べる彷徨。頭には大きなタンコブ。

彷徨「…悪かったって、あれは不可抗力だって」

未夢「…彷徨の、ばか…」

朝から信じられないっ。

彷徨「でも、珍しいな、こんなに早起きするなんて」

未夢「学校に早く連絡しないといけなかったし」
未夢「それに、わたしも早く用意してあげないと」

彷徨「…?何をだ?別にいつもどおり、俺が未夢を起こしに行くだけだと思うが…」

未夢「たまには彷徨を起こしてあげたかったし、それに、朝ごはんの支度しないといけないからっ」

彷徨「ああ、そう言うことか」
彷徨「って言うか、起こしてあげてるのは俺のほうだろ」
彷徨「朝飯もトーストにジャムとか簡単なので良かったじゃん」

今机の上に乗っているのは、ママがいつも用意してくれるものと同じだ。
目玉焼きやベーコン、サラダ、ジャム、コーヒーなどもちゃんと揃えている。

未夢「彷徨と、ゆっくりしたかったんだよ」

彷徨「確かに、いつも朝はお前のせいでバタバタしてるもんな」

未夢「…彷徨と、ゆっくりしたかったんだよ」

わたしは同じ言葉を繰り返した。彷徨と、と言うところを、強調したいのだ。

彷徨「…そうだな」

そう苦笑する。仕方ない。今朝の過ちは許してあげよう。




彷徨「そういえば、あのバターは用意してないのか、未来さんと同じように用意しなきゃ」

昔、彷徨がうちに来た時、ママが用意したバターは、ぶっちゃけていうと物凄く不味かった。
それとは別にバターを自作しようとしたことがあって、失敗作をそのまま西遠寺に置いていた。

未夢「あれは…。彷徨食べたいの?」

彷徨「いや、遠慮しておく…」

未夢「遠慮しなくても、いいんですよ〜っ」

笑顔で丁寧語で、あのバターを持っていく。

彷徨「そんなところまで同じじゃなくてもいいっ」

未夢「今朝の仕返し〜」

彷徨「笑顔で怖い事言うなっ。あの親にしてこの子あり、かよ」
彷徨「…あっははっ」

未夢「な、何がおかしいの〜」

彷徨「悪い悪い、そのバターを見ると笑い上戸になってしまうようだ」

未夢「そんな効果のバター、初めてだよっ」

そういってバターをじっと見るが、全然笑えてこない。

未夢「彷徨のうそつき、全然笑い上戸にならないじゃない」

彷徨「あははっ」

未夢「う〜…」

未夢「じゃぁ、食べたら笑い上戸になるんでしょ」
未夢「これ食べてみてよ」

彷徨「だーめっ」

彷徨「さて、笑い上戸もそろそろにして、出かけるかな」
彷徨「ゆっくりしすぎるともったいないからな」

未夢「あ、やっぱり、笑い上戸の効果なんて嘘じゃないっ」

拘っていた。

彷徨「行くぞ未夢っ」

未夢「あっ、ま、待ってよっ!てかどこ行くの」

彷徨「適当に散歩だよ」

未夢「歩いて大丈夫なの?」

彷徨「平気だよ。っていうか俺としては、何が起こったかよくわかってないんだよな…」

彷徨「心配なら付いてくるか?」

付いてきてほしいくせに。でも、わたしも付いて行きたい。

未夢「うんっ!」



いつもの道を彷徨と行く。
だが、いつもと違うのは、状況だった。
今日は時間もたっぷりあるので、歩いている。
早くも遅くもなく、周りにも同じ制服の生徒がまばらに登校していた。

彷徨の見た目が治っているとはいえ心配ではある。
リハビリとか、必要なのかな?慎重になることはいいけど。
外歩いてたら、端から見たらサボりにしか見えない。

未夢「もうすぐ3月だね…暖かい」

彷徨「そうかっ?」

冬至も、最低の温度になると言う2月半ばの寒さも過ぎた。

でも確かに、3月になりたてでは桜も咲かず、寒さは去ったとは思えない。

未夢「彷徨、やっぱりまだ寒さには慣れないか」

彷徨「そう簡単に慣れるものか」

未夢「でも、あんまり寒い寒いって言わなくなったと思うよ」

彷徨「今朝言ったばかりだと思ったが…」

未夢「あれは仕方ないよ」

彷徨「未夢の基準がわからん…」



声「おはようっ、2人とも」

後ろから聞き覚えのある声に肩を叩かれて振り返ると、惠ちゃんだった。

未夢「あ、惠ちゃん、おはようっ」

惠「…西遠寺は、なんか私の現れ方を説明したそうな顔してるな」

彷徨「そんなことないぞ、おはよう」

惠「でも、なんだ〜、2人がこんな時間にゆっくり散歩してるなんて」

彷徨「たまには、こう言うゆっくりした時間がないと身が保たない」

惠「そうだろね」

惠ちゃんは笑いながら言う。

未夢「う〜…」

彷徨「なんだか、前より元気そうだな」

惠「え?そうか?」

彷徨「ああ…なんだか、前よりハキハキしている感じだ」

未夢「そうだね。惠ちゃん、なんだか元気になったよ」

惠「何よ、それじゃまるで私が未夢だったみたいじゃない」

彷徨「ああ、そうだったんじゃないか?」

未夢「…なんだかよくわからないけど、わたしの悪口だよね?」

彷徨「いいや、そんなことないぞ」

惠「そうよ、そんなことないわよ」

未夢「…いつも2人でわたしをいじめる…」

惠「そんなことないって」

惠ちゃんが笑顔で宥めようとするけど、不貞腐れたままだった。

思わず勢いで1人早歩きでその場から去ってしまった。

惠「あーあ、未夢すねちゃったわよ西遠寺、追いかけてあげないと」

彷徨「お前のせいだろ…おーい未夢っ、待ってくれっ」

惠「未夢っ、まだ時間あるからっ」

未夢「…ぷーいっ」

不貞腐れたままだったけど、歩みをゆっくりにして結局は彷徨たちと肩を並べた。

未夢「冗談、だよ」

舌を出して笑うのだ。

彷徨「こいつ」

ぽかっ。

未夢「痛い」

彷徨「からかった罰だ」

未夢「そんなこと言ったら、わたしはたくさんからかわれてるよっ」

文句を言いながらも、とても楽しかった。

その様子を見てる惠ちゃんもまた、顔には出さないがとても楽しそうに見えた。

惠「今日は二人とも休みなんだろ?こんなとこほっつき歩いてないで、さっさと休めよ」

未夢「うん。ありがと、惠ちゃん」
未夢「ほら彷徨。帰るよ」

彷徨「ああ」

惠ちゃんはただ黙って手を振って、見送ってくれた。


帰った後は、倒れるように眠ってしまった。
安心を確信したからか。

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彷徨「未夢、もう昼だぞ。まだ寝てるのか…」

未夢「う…ん…」

彷徨が目覚ましとなってわたしを起こしてくれる。
金縛りのように、動けなかった。動きたくなかった。
彷徨の声を子守唄に、いつまでも惰眠を貪っていたい。
ケータイを手に取った。
時刻はまだ12時になっていない。11時58分。
アラームのオーケストラが始まる前に、わたしはその設定を解除した。

未夢「あ、彷徨…おはよう…」

寝過ぎた。まだ頭の中がぼーっとする。寝ぼけてる。

彷徨「ああ、おはよう未夢。早く起きないと遅刻するぞ」

未夢「もうちょっとだけ…」

彷徨「…いや、今日は学校ないんだが。突っ込んでくれよ」
彷徨「未夢ぅ〜起きてよ〜」

未夢「……」

彷徨「お。起きたな」

未夢「…なんか眠気が覚めたよ」

彷徨「効果抜群だな」

未夢「今度から止めてね」

彷徨「なら起きろ」

未夢「はいはい」




リビングに行ったら誰もいなかった。
その前に、自分の家と景色が違った。
当然だ。ここは西遠寺。
平日に学校のある日の昼に、彷徨と西遠寺にいることが違和感だらけだ。
いつものことではなかった。

未夢「なんか、日曜日の気分だよ。今日は平日だし、ママいないの忘れてた」

彷徨「そうか。さっさと昼飯用意しようぜ」

未夢「あの…彷徨…?」

彷徨「ん?なんだ?さっさと昼飯済ましちまおうぜ」

未夢「せっかくだから、今日はのんびりしよう」

彷徨「何言ってるんだ。もう時間がこんなに…」

未夢「…だって…せっかく…彷徨元気になったんだし…」

彷徨「未夢…」

未夢「あ…」

昼から不謹慎ではあるかもしれないが、わたしは自分に素直になった。

未夢「彷徨…」

わたしは手を彷徨の背中に回す。



両想いになってから3年…長かった。
わたしたちは自然に自分の心に素直になれないで居た。
それは…宝晶さんが居るから って言うとあれだけど、別にジャマと言う意味ではない。
やはり…その、面子と言うかなんというか。
直球に言えば恥ずかしいと。
でも、こうして彷徨と居られるだけで充分幸せだったのだ。



未夢「ずっと、ずっと想ってきたんだよ…」

彷徨「お前、3年前からずっと我慢してたのか、そうか」

未夢「ちっ、違うよっ!そういうことじゃなくてっ…!」

彷徨「あっはっは」

未夢「う〜、彷徨酷いよ…」

そう言って、抱き合ったまま顔を離して非難した。
でもその笑顔が暖かくて、愛しくて…
そっとキスした。



未夢「わっ」

わたしは横に持たれた。所謂お姫様抱っこだ。

未夢「ちょっ、彷徨っ、ちょっと…」

彷徨は黙ってリビングを出、廊下を渡りだした。


未夢「ちょっと彷徨っ…」

彷徨が何をしたいのかはわかる。
わたしも心の中ではこれから起こることも嫌ではないと、心に素直になりたいのだ。
先ほど、ずっと我慢していたのかと言う冗談からもわかる。
彷徨はわたしの部屋に入って、わたしを布団に横たえた。

未夢「う〜…」

わたしは仰向けに無防備状態になって、恥ずかしかった。

彷徨「眠り姫は布団の上がお似合いだからな」

未夢「何よそれ」

しばらく布団の上で無邪気に抱き合い、じゃれあった。

彷徨「でも、なんだかせっかく二人で時間あるのにゴロゴロするのはもったいないな」

未夢「そう?わたしはこのままでもじゅーぶんいいよ」

彷徨「いや、なんか俺が退屈だ」

未夢「えーっ」

彷徨「未夢が思いもしない反応をする」

未夢「ナレーター風に言わないでよ。大人しく休んでなさいよ」

彷徨「…わかった…」

でもすぐに、しおれた様子で渋々こちらの意見に賛同した。
別にどっちでも良かったと言うとこれまたあれだが。
どこか素直な彷徨がおかしかった。

未夢「あっははっ。まぁ別にどこか出かけてもいいけど」



それから2人して黙って昼食を取り、黙ってただただ出かける準備をした。
時刻は13時15分。

未夢「行ってきます」

誰も居ない家にそう言って、玄関の鍵を閉め、2人して家を出た。
しばらく何となく黙って歩いていた。

未夢「彷徨、あれっ…」

彷徨「え?おっ、おいっ…」

わたしは公園の方へ彷徨をぐいぐい引っ張っていく。
彷徨にとって突然のことだったみたいで、抗うことが出来ないで居た。
何を思ったか、公園の中にある、鉄で出来た穴がある山。トンネル。

未夢「これ懐かしい〜。小さい頃この中に入ってよく遊んだよね〜」

小さい頃はよくここの中の暗闇を楽しんだものだ。かくれんぼにも最適。

体の大きくなった今でもその中には何とか入れそうだ。

未夢「よいしょっ」

頭から入ってみた。

彷徨「やめとけって恥ずかしい。出られなくなったらどうするんだ」

未夢「で、出られない…」

山から下半身が生えたみたいになっていたことだろう。

彷徨「だーっ!もう何やってんだ訳わかんねぇよ!」

アホの子だった。
彷徨は頭を抱えていたと思う。

未夢「か、彷徨。助けて…」

彷徨「だーもー、しょうがねぇな」

足に抱きつかれて引っ張られる。

未夢「あだだだっ!体が擦れていだだだっ!」

叫び声が空間の中でこだましていた。

彷徨「自業自得だ!ちょっとは我慢しろっ」

抜けない。

彷徨「だぁー。もー、一回入りきって向き変えろ」

すぽっ。

モグラが自分の基地に帰るかのような気分を味わった。
そしてその穴から顔を出す。

彷徨「ぷっ…あははは」

未夢「ちょっ、笑わないでよ!」

彷徨「これを笑うなと言う方が拷問だぞ。まるでモグラ叩きの可哀想なモグラだ」

未夢「いいからっ、早く助けなさい!」

彷徨「えーどうしようかなー」

未夢「すみませんわたしが悪うございました。お助け下さい」

彷徨「よしよし。とりあえず手を出せ」

がしっ。

彷徨「引っ張るぞー」

一体わたしたちはなにをやっているんだろうか。
学校休んでこんなところで。

未夢「んーっ…!」

彷徨「力抜けっつの!あだだ、引っ張るな!」

未夢「そんなこと言ったって…わっ」

つかまっていた手が滑って、トンネルの中で尻もちをついていた。

彷徨「…」

未夢「…」

彷徨「よぅ」

未夢「あんたまで入ってどうすんのよ!」

彷徨「お前が急に力抜かすからだろ!」

未夢「力抜けって言ったのあんたじゃない!」

彷徨「いや、まぁそうなんだが」

ずるっ。

未夢「そこは攻めてこないんかい」

彷徨「いやぁ、事実だし」

はぁ。

未夢「全く、二人してこんなとこ入って、どうするのよ…」

彷徨「知らねぇよ…」

未夢「知らねぇよって、他人事みたいに言うけどあんた、他人まきこんだ当事者なんだからね」

彷徨「自業自得は認めるが、当事者はどちらかというとお前だ」

未夢「うっ」

彷徨「しかし、全く何やってるんだか。こんなとこ誰かに見られたら超絶恥ずかしいぞ」

子供「お兄ちゃんたち、何やってるの?」

未夢「えっ」

見ると、子供が入ってきてた。
そうか、昼だから子供が遊びに来てるのか!
わたしたちが入った時は誰もいなかったのに!

彷徨「俺にもわからん」

そういって彷徨は寝っ転び始めた。

未夢「ちょっと、彷徨」

彷徨「疲れた。しばらく寝る」

未夢「ちょっと!子供も来始めたし、放置したら助かるってわけじゃ…」

彷徨「そのうちなんとかなるだろ」

地面は普通に土なんだけど。彷徨の服、砂だらけ。

子供「お姉ちゃんの髪の毛、ながーい」

未夢「あだだあっ!こらっ、やめなさい!」

しばらく子供に弄ばされた…。




外が暗くなってきた。冬の夜は早い。


未夢「おーい彷徨、もうそろそろ出ないと、やばいよ〜」

辺りの子供も帰り始め、人は疎らになっていた。

彷徨「そんなこと言ったって出られないし…」

彷徨は出ようとするも、片腕を出したところでつっかえた。

彷徨「服が擦れて邪魔なんだよな。ん?服?」

未夢「? どうしたの?彷徨」

彷徨「俺脱ぐわ」

未夢「はぁ!?」

彷徨はおもむろに脱ぎ出した!

未夢「ちょ!やめなさいよ!この変態!」

地面に転がっている小石を投げた。

彷徨「いてえ!生身に石はヤメロ!」

未夢「急に裸になるからでしょ、このバカ!」

彷徨「服のかさばりがなくなれば抜けると思ったんだよ!」

未夢「それを先に言いなさいよ!っていうか先に言っててもいきなり脱ぐな!」

彷徨「お、行けそう」

こっちを無視して脱走しようとする彷徨。

暗闇に慣れた目で、彼のアレが見えそうだ。

わたしは両手で目を隠した。

わたしの彼氏ってあんなんだっけ?

彷徨「おーい、抜けたぞー。お前も来いよー」

気づくと彷徨はもう着替えてこちらを覗いていた。

いらいらいらっ。

彷徨「いや、お前は俺より細いからいけそうか?」

未夢「それって、また彷徨が吸い込まれるパターンじゃん!」

彷徨「あそっか。じゃぁ脱いでこいよ」

ああ、頭がクラクラする。

未夢「ぜっっっっっっっっっっっったいに見ないでよ」

彷徨「はいはい。てか公園の入り口の方向の穴から出ようとするな」
彷徨「真後ろだと直通で誰かに見られるかもしれないから、斜め後ろ辺りの位置な」

未夢「わかってるわよっ」

ホントはわかってなかったけど。

ていうか、すっぽんぽんになる必要なかったんじゃ?

寒いけど、セーター脱ぐくらいで行けるのでは…入る時は入ったんだし。

なんで彷徨が全裸になったのか、まるでわからなかった。

彷徨「なんで全部脱がないんだよ」

当然のように言うな。

未夢「やっぱり見てるじゃん!彷徨のえっち!」

彷徨「いてぇ!石投げる暇があるなら早く抜け出ろ!」

未夢「やってるわよ!」

彷徨「出れねぇじゃん。早く全部脱げって」

未夢「入る時は入ったんだから、これで出られるでしょ!」

彷徨「じゃぁそれで抜けられなかったら脱げな」
彷徨「てかセーター渡せ。出れても服が中じゃ家まで帰れんぞ。寒過ぎて」

未夢「わかってるわよ!」

そこまで頭回ってないけど。
こんなときでも冷静な彷徨が頼りになると言うか恨めしいというか。

未夢「う〜んっ…!」

やっぱり出られない…。
指輪をはめた後に太って、石鹸つけても指輪が取れないみたいな状況になってる。

未夢「なんで?!」

彷徨「よし、早く脱いで出るんだ」

この、超絶デリカシーない男を、あとで必ずぶっころすっ。

未夢「う〜っ…!」

恥ずかしい以前に、凍えるような寒さが身を襲った。

未夢「はい!服!彷徨後ろ向いて!誰か来ないか見張って!」

彷徨「はいはい」

ブラや下着まで脱ぐ必要はない。
公園のトンネルの中から年頃の女の子がすっぽんぽんで出てきたら、それこそ変態だ。
誰かに見られたらもう嫁にいけない…。
ここは、生死をかけた脱出劇なのである!
トンネルから出るだけなんだけど。

彷徨「もういいかー?」

未夢「まーだだよ!」

軽くギャグをキレ目で返すも、寒さで身が凍え、皮膚はトンネルに擦って痛い。
早く出よう!寒さより恥ずかしさが増してきた!
力ずくで一気に出ると、彷徨の背中にぶつかった。
どんっ。

未夢「きゃっ」

彷徨「おぅわっ」

未夢「はぁ、出られたよぉ〜」

彷徨「大丈夫か。未…」

未夢「だから!こっち向くなってーの!」

彷徨の手から服を奪い返し、素早く着替えた。

彷徨「ちぇっ。外で未夢の裸を見られるチャンスだったのに」

頭がクラクラするパート2。
うちの彷徨はこんなにおバカでしたか?
脱出したことによる安堵と下らなさで、どっと疲れが出た。

未夢「今日一日、わたしたちは何をしてたんだろう…」

人生で一番下らない日だったに違いない。

彷徨「でも、興奮しただろ?」

未夢「するかぁっ」

ぱんちで彷徨の頬を狙うも、片目を瞑られながらあごをずらされて避けられる。

彷徨「そんなにハッスルしたかったか」

未夢「そんなわけな…へっくし」

短い間とはいえ、寒さに無防備だったのだ。体が急速に冷えたかも。
そう思っていると、彷徨が自分の上着をわたしにかけてくれた。

彷徨「さっさと帰って飯とするか」

こういう時だけやさしーんだから。

未夢「ええ…」

あまりの疲労に、色々どうでもよくなった。
しかし…
彷徨は、一瞬でもわたしのそういう状況に、こーふんしたのかな?
少し、大人な疑問を思うのだった。






彷徨「風呂入ってこいよー。あんなとこにずっといて体冷えただろうから」

確かに。薄い鉄の鎌倉の中にずっといた感じだ。
風はさえぎってたと思うけど、隙間風邪で冷えた。

未夢「って、あんたは冷えてないの?」

彷徨「いや。冷えた。後で入る」

未夢「そう。じゃぁお先にね」

彷徨「待ってるの暇だな。一緒に入るか?」

ああ、いつの間にか彷徨がヘンタイになっている…。
頭がクラクラするパート3。
わたしはただ黙って着衣室に行き、服を脱いで風呂に入っていった。








未夢「はぁー。あったまった」

からっ。自分の部屋の障子を開ける。

彷徨「よう」

未夢「なんでいるのよ…」

彷徨「いや、もう面倒だから一緒に寝ようぜ」

未夢「なにがどう面倒なのかちゃんと説明しなさい」

彷徨「いや、なんとなく」

未夢「何の説明にもなってないじゃないの」

毎回叫ぶのも疲れてきたので、てきとーにあしらうようになってしまった。
無視して寝ることにした。

未夢「…」

彷徨「…」

未夢「で、なんでいるのよ」

彷徨「いやだから」

未夢「その先は聞いたっ」

彷徨「未夢、好きだ」

未夢「誤魔化すなっ」

振り向いて威圧する。

彷徨「くー…」

未夢「普通に寝るなっつーの、まったく…」

こつん。

おでこを軽くぶつけた。

すると、彷徨が背中に手を回す。

彷徨「くー…」

未夢「全く、彷徨さんはえっちなんだから…」

そういってわたしも彷徨の背中に手を入れた。

暖かかった。

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わたしは彷徨に抱きつき、彷徨はわたしに抱きついて眠っていた。
そして夜、玄関で音がした。

未来「こんばんは〜、っていうかただいま〜。未夢〜いる〜?」

ママが帰ってきた!?
一緒に寝てるところ見られたらさすがに勘違いされる!

彷徨「未夢!起きろ!おれは奥から部屋に帰る!」

未夢「う、うんっ」

事の事態に2人とも多少あわてたが何とか間に合った。

未来「未夢、寝ているの?」

カラッとママがわたしの部屋の障子を開けてその様子を見にきた。

未夢「う、うん、今起きたとこだよ。おはようママ。しばらく帰らないって言ってたのに」

平常心を装ってわたしは苦笑いでママの帰りに挨拶した。

未来「何言ってるの、おはようとか。もう夜よ。ずっと寝てたのかしら」

未夢「ま、まぁ」

未来「ふーん。忘れもの取りに来たついでだからママはまたすぐ出かけるけどね」
未来「ごめんなさいね、何日も家開けることになっちゃって」

未夢「うん、大丈夫だよ」

未来「彷徨くんが居るから?」

未夢「ママっ!」

未来「うふふ、じゃぁ行ってきます」

そう言ってママはそそくさと出て行った。

未夢「…なんだか色々と力抜けちゃったな」

家事ほったらかしだった。色々やることやらないと。

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未夢「ということで、おはよう彷徨」

彷徨「ああ。ん…?もうこんな時間か…」

起きてみるともう夜12時だった。
ママはアメリカに行ったままだ。

彷徨「未来さん、大変だな」

確かにそうだ。今は本来休暇中のはずなのに。
そんなに頑張らなくても、いいのに。

彷徨「家で2人きりだな」

未夢「う、うん」

大体ほとんどいつも2人だけの時は多かったと思うけど、そうやって変に強調されると意識してしまう。
2人とも年頃の少年少女なのだ。

彷徨「未夢は今までどうしてたんだ?」

未夢「うん?わたしはちょっと休んでから洗濯してたよ」
未夢「今干し終わったから、これからご飯作ろうと思って」
未夢「その前に彷徨の様子見に来たの」

彷徨「そっか」

…今日の昼間はあんなことがあったのに、彷徨は平然として普通のように振舞っている。
それが有難いのだけど…心底はわからない。

未夢「早く起きてきてね。すぐ支度するから」

彷徨「飯なんかなくても、お前が側に居てくれればいいよ」

未夢「そんな事言って。そう言うセリフは彷徨には似合わないし、聞き飽きたよっ」

それでもわたしはちょっと照れながら、満面の笑みで、嫌がってない顔で飽きたと言うのだ。

未夢「じゃ、後でね」

彷徨の部屋を出て行こうとするところを、彷徨に後ろから抱きとめられた。

未夢「わっ」

彷徨「未夢」

未夢「…不謹慎」


そういいながらわたしは、彷徨と向き合ってキスをした。
そして正面でハグし、その手を背中に回してくれる。

未夢「彷徨の体、暖かいね」

彷徨「ああ」

未夢「ずっとこうしていたいよ…彷徨…」

そう言って、わたしたちはまた布団の上で子猫のようにじゃれあった。
お互いの温もりを確かめるように。暖かさが逃げていかないように。
起きたばかりの眠気眼が、再び瞳を落としてくれそうだ。



そうやって、どれくらいの時間が経っただろう。
抱き合うだけの行為。それでも充分だった。
今日何回そうしていただろう。

彷徨「もういいだろ。そろそろ飯にしようぜ」

未夢「…うん…」

返事はするもののなかなか離す気にはならなかった。

彷徨「はぁ…ならこうだ」

未夢「わっ」

向き合って抱いていた手を、背中の下に回され、力を入れて持ち上げられた。

左手は膝の下へ持っていくと、自然とわたしの体は横になる。

彷徨「よっ、よっ」

お姫様抱っこされたまま、リビングまで連れてかれた。

未夢「う〜…」

目を泳がせた。

彷徨「さぁ料理を作ってくれ」

彷徨はわたしを地面に下ろし、さぞ普通に言った。

未夢「こんな気分じゃ、作れないよ…」

彷徨「未夢だってまんざらじゃなかったくせに」

未夢「プリン」

彷徨「うっ」

この一言で負ける彷徨は、わたしに何か弱みでも握られているかのよう。

彷徨「わかったよ…」

未夢「あははっ。なら、ご飯作ってあげるよ」

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夜食した後、また二人で寝てた。
どんだけ二人で寝るんだっていうぐらい。

彷徨「未夢、好きだ」

ぎゅっ。

ちゅっ。

すっ。

抱き合って、キスして、離れて。

暖かい、幸せ、寂しい、それの繰り返しだった。

未夢「今日、一日中ゴロゴロしてただけだったね」

彷徨「いいんだよ」
彷徨「今日一日、未夢と、普通に過ごしたかったんだ」
彷徨「世界一好きな人と、二人で…」

未夢「な、何よ、いきなり恥ずかしいじゃない。そんなセリフ要らないわよ…」


彷徨「未夢…お願いがあるんだ…」

未夢「何よ…」

彷徨「高校を卒業したらさ…結婚してくれ」

未夢「誰と…」

彷徨「俺と、結婚してくれ」

未夢「――――――――」

彷徨「お前と居ると…楽しいから。救われるから。幸せだから」

彷徨「だから、お前を幸せにするよ。そばにいてくれ。おれはどこにもいかない」

彷徨「2人で、幸せになろう」




うれしくて、何も言葉が出なかった。


うん…わたし、彷徨についていくよ、どこまでも。
心の中で思った言葉は、嬉しさのあまり、声にならなかった。

未夢「…はい」



そして何度目かのキス。
キスはレモンの味だなんていうけど、なんてことはない。

幸せの味だった。





暗そうな瞳のままキミは生きてるけど、時代の流れは早い。
もし未来やりたいことがわかったら、それに向けてがむしゃらに頑張れ。
叶わなくても。

今のまま時間が解決し、精神が平和になっても、心はからっぽのままだろう。
もし何かを決心したなら、迷いも捨て恐れるな。

今度こそ二人で歩んで生きたい。
今まで喧嘩もし、離れそうにもなった。
でも、奇跡の確率で出逢ったことを大切にしたい。






季節を走り続ける列車―季節列車。

窓に見える景色は季節。

桜が流れ…
緑の木々が揺れ…
赤い木の葉が舞い…
雪は白く照らす…

列車は止まらず、永遠に走り続ける。



雪は全て、思い出をも白く、白く埋め尽くす…

秋が来て…

冬の到来…

春になり花を咲かせれば…

夏は暑く燃える日を続かせる…

同じことの繰り返し、永遠。

それが何度あっただろうか。



そして10年後…

今わたしはここにいる。


未夢「おきなさい、おきなさい…未宇」


To Be Continued 『新☆だぁ!だぁ!だぁ!』