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====================================== 夏希と英一 ======================================
【背景:未夢の部屋】
未夢「・・・」
ん、なんだろう、この眠気の無さ。
まさかっ!?
時計をわしづかみし、微妙に寝ぼけた目をこすって、凝らせて見た。
うわーいつもより30分も遅く起きてしまった!
眠気の無さはその為か!
【背景:黒】
だっだっだっだっ!階段を駆け足で下る。
【背景:リビング】
未夢「ママ―っ、なんで起こしてくれなかったのっ・・・あれ」
リビングも暗い。まさかっ?!
ママの部屋に行く。
【背景:黒】
コンコン
未夢「ママーっ!?入るよっ・・・」
ガチャ・・・
【背景:ママの部屋(黒)】
未来「すーっ・・・すーっ・・・」
優「ぐうぐう・・・」
わーやっぱり寝てるっ。
未夢「ママ、起きてっ。朝ごはんの支度してよっ」
未来「う〜ん未夢・・・?眠いわ・・・てきとーにやっておいてちょうだい・・・」
うわーそんな投げやりな。
優「ぐうぐう・・・」
パパも熟睡してるし!もうこーなったら自分でどーにかするしかないっ。
急いで着替えて髪の毛を整える。時間がないから、もー適当だ。
トーストをやいて、トマトジャムを塗りたくると、咥えてわたしは走り出した。
やばいー、完全寝坊したっ!
彷徨にメールしなきゃ!
あ、メール来てるし。
彷徨(おーい早くしろー)
未夢(ごめーん!寝坊した!>< 今行く)
ぴっ。送信。
咥えたトーストを半ば無理やり喉に押し込む。
未夢「うっ」
つっかえた。飲み物がないとやっぱりちょっとつらいな。
咳したくてもできない。
なんとか無理やり飲み込み、ダッシュする。
食べてすぐ走ったら絶対お腹痛くなりそう。
目的地駅に到着。なんとか間に合いそうだ。
彷徨「・・・おはよう。・・・おせーんだよ、ったく」
未夢「ごめんごめーん」
未夢「走って行こっ」
彷徨「仕方ないな」
【背景:学校への道】
2人そろって、マラソンのように走って行く。
未夢「彷徨、大丈夫?」
彷徨「ていうか、これで全力疾走って辛いんだがっ。ただでさえ不慣れなのにっ」
彷徨は松葉杖で全力疾走?している。階段だったら何段越えっていうぐらい。
早送りしているかのような動きだった。
未夢「・・・でもなんだかんだ待っててくれたんだ?」
彷徨「・・・なんとなく」
未夢「なんとなくって何よ」
彷徨「なんだよっ、遺憾か」
でも不思議と嬉しい気持ちが芽生えるのである。
昔はいがみ合いながらだったけど、結局こうして今も二人で走っている。
【背景:学校への道】
校門前についた。
烈「あれ?未夢さん、西遠寺くん、おはよう」
烈くんは体操着だった。あっ、今日の一時間目は体育だった。やばいっ、着替える時間がっ。
烈「西遠寺くん急がないと遅刻だよ、未夢さんもっ」
彷徨「わかってる」
未夢「うわーちょっとの寝坊がこんなことに〜」
彷徨「ちょっとかよっ。巻き込まれた俺はどうすりゃいいんだっ」
未夢「待っててくれたのがいけないんじゃないっ」
彷徨「それ怒るぞ・・・」
未夢「ああっ、ごめんっ、ひぃ〜ん」
ふんだりけったりである。
彷徨「とにかくっ、とりあえず今は教室まで猛ダッシュだっ」
未夢「うっ、うんっ」
やばい、食べて急に全速力だからお腹がっ・・・。
【廊下】
教室に向かう途中、クラスメイトに会った。
女子「あっ、未夢ちゃん、今日は風邪でも引いてお休みなのかと思ったよ。今日は体育館だよ」
未夢「わかったっ。ありがとうっ」
教室について、カバンを置いたら体操着を持って着替え室にダッシュ。
彷徨「じゃぁまたあとでなっ」
未夢「うんっ」
とりあえず授業には間に合った!助かった!WIN!
一時間目が終わった。着替えて教室に戻ってきた。
未夢「はぁー遅刻するかと思ったよ」
彷徨「お互い様な」
未夢「男子は体育、何したの?」
彷徨「マラソン。だけど俺は休ませてもらった」
未夢「そっか。早く治るといいね」
彷徨「そうだな」
今日は何事もなく終わった。平和だ。
帰り際・・・
声「未夢ちゃん!」
未夢「えっ?」
突然、声をかけられた。
夏希「良かった!やっぱり来てくれたんだ!約束したもんね」
そういって夏希ちゃんは、小指を上げた。
未夢「あいや・・・」
指切りげんまんまでした覚えはないけど・・・
夏希「今日、見にきてくれるよね?」
【フラグN NOT 2 ならこのシナリオファイルのチェック001に移動】
→見にいく
見にいかない
夏希「やったぁ!未夢ちゃんなら来てくれると信じてたよ!」
わたしの何がそんなに良かったのだろうか・・・わからなかった。
夏希「今日は未夢ちゃんに会わせたいやつがいるんだ」
未夢「わたしに?」
わたしは自分を指差すと、夏希ちゃんは笑顔で頷いた。誰だろう?
夏希「そろそろかな・・・あ、いた!おーい!」
夏希ちゃんが声をかけた先は、思いもよらずグラウンドの外だった。
校庭と外の境にある柵越しに、その先の人と話しかけた。
男の子「ん?なんだ、夏希か」
夏希「なんだとは何よ、連れないわね」
夏希「今日は、あんたに会わせたいやつがいるのよ」
男の子「誰だよ」
夏希「はいっ!」
未夢「えええ」
両肩を掴まれ、ずずずいっと前に押し出された。
夏希「光月未夢ちゃんよ」
未夢「あ、どうも」
とりあえず、挨拶はする。
男の子「ああ」
夏希「で、こっちは鷹見英一。野球がすっごく上手いの」
未夢「へぇぇ〜」
彼は目を瞑って済ましていた。彷徨と似たような反応をするなぁ。
英一「ん?お前、どこかで見たことあるな・・・」
夏希「バスケ部部長の彼女よ」
英一「ああ」
彼は納得したように頷いた。って、わたしはどんな知られ方してるんだ。
英一「で。夏希。こんなん連れてきてなんのつもりだよ」
夏希「えへへ。可愛いでしょ」
英一「・・・意味がわからん。合コンでもするわけじゃあるまいし」
夏希「その手もあったか」
未夢「って、うおい!」
夏希「あはは。冗談よ未夢ちゃん」
英一「でも、他人に出しても恥ずかしくない顔はしてるな」
むかっ!
英一「用がないなら帰るぞ」
夏希「ああ、もう行っちゃうの」
彼は無言で片手を上げ、去っていった。
夏希「ごめんね。未夢ちゃん。あいつも悪気はないんだ。きっと照れ隠しだよ」
夏希「気に触ってたら、この通り私が謝るよ。私に免じて、ここはあいつを許してやって」
夏希ちゃんは申し訳なさそうに両手を合わせながら恐る恐るわたしを見るようにして言った。
何の罪もない夏希ちゃんを責められない。
夏希「あいつとは、小学生の時に出会ったんだ。野球クラブで、敵で、強かった」
夏希「でも、敵とかそういう境を越えて、あいつとは楽しく野球してたよ」
夏希「そしたら、いつの間にか、好きになっちゃってた」
夏希「それで告白したら、振られちゃったよ」
夏希「野球を好きな女は、好きになれないって」
夏希「そしたらさ、なんか野球できなくなっちゃった。スランプっていうのかな」
夏希「野球を取るか、好きな人を取るかで迷い、悩んだよ」
夏希「でも、私は野球を取った。だって、私の体が、土埃を求めていたんだもの!」
夏希「中学になって、あいつのいるチームと試合になって、終わった後、今度は私が告白されちゃった」
夏希「でも、私は断っちゃったよ。その時は野球に夢中で、野球が恋人って感じだったから」
夏希「そしたら、あいつは野球を辞めちゃった。私と同じ、きっと私のせいだよ」
夏希「それでも私は、あいつに野球を続けてほしいと思ってる」
夏希「勝手でわがままで嫌な女だよね。私」
夏希ちゃんは、少し自虐風に言った。
夏希「今度の敵は強い。英一の力がなければ乗り越えられない!」
夏希「だけど、私が今更彼を受け入れたところで、彼は納得しないと思う」
夏希「私じゃ、もうダメなんだ」
夏希「でも、希望は捨てたくないの!」
夏希「私につけられた名前の意味は、きっと希望を追い続けてほしいって意味だと思う」
自分につけられた名前。それはその人の方向性を決めるものでさえある、大切なものだ。
夏希「お願い、未夢ちゃん。あいつを、あいつを野球部に入れるようにしてあげて!」
泣き叫ぶような懇願だった。やっと最初と話が繋がった。
自分が原因なのに、自分ではどうにもできない。
お互いが好きあっているのに、歯車がかみ合わない。
まるで、昔のわたしと彷徨を見ているかのようだった。
きっと彼女は、わたしたちを見て、何かを感じたのだ。
わたしも、よくはわからないけど、感じることができた。
非力で、一人じゃ何もできないわたしだけど、こうして頼ってくれる人がいる。
とてもうれしいことだった。なんとかしてあげたい。
でも、こんなわたしでも、できるんだろうか・・・?
→できる
できない
何事も信じて行動しなければ何も始まらない!
夏希ちゃんは、わたしを頼っているのだ!
未夢「うん、わたしなんかで良ければ、協力するよ」
そういったら、少し間をおいて、夏希ちゃんは抱きついてきた。
未夢「ちょ、ちょっと、夏希ちゃん!?」
夏希「・・・その気持ちだけで充分だよ。ありがとう・・・」
最後の方は、小声でささやくように言われた。
それだけでも、彼女の感謝の念を感じた。
夏希ちゃんは両手をわたしの肩において、引き離して言った。
夏希「じゃぁまず、未夢ちゃんが入部して、野球をやらなきゃね!」
うええええぇえぇ!?
柄にもない叫び方を心の中でしたと思うがそれ相応だと思う。
何しろ、やったこともないわたしに野球をやれというのだから。
夏希「あ、無理ならマネージャーからでもいいよ。とゆうかそれでいいよ」
夏希「あいつらも、可愛い女の子がやってきたら喜ぶだろうし」
男の子みたいなことを言うなぁ。
未夢「あ、あのっ、夏希ちゃんだって充分可愛いよっ」
夏希「うふふっ。ありがと。でも男子は私のこときっと見飽きてるよ」
未夢「・・・なんかこの下り、昨日も話したね」
夏希「そうだっけ?」
未夢「そうだよっ」
二人して目を見合わせた。
夏希「あはははっ」
未夢「うふふふっ」
二人して笑った。昨日の事なのに、鳥頭だった。
気持ちの良い笑いだ。
夏希「で、私に何かあったときのために、未夢ちゃんは補欠ってことで」
未夢「えー」
強引だなぁ、夏希ちゃんは。
夏希「それじゃ!練習、行くわよー!」
未夢「う、うん」
夏希「返事が違ーう!元気に、おーっ!よ!」
未夢「ぉ、おー」
夏希「声が小さーい」
未夢「お、おーっ!」
やり方がよくわからないけど、なりふり構わず言ってみた。
夏希「宜しいっ」
夏希ちゃんに手を引っ張られ、夏希ちゃんを追いかけた。
最初、こけそうになったが、夏希ちゃんが手を引いてくれているのでこけなかった。
こけそうになる原因のおかげでこけずに済む。複雑だ。
夏希ちゃんと英一くんの関係も複雑そうだ。
これからどうやって夏希ちゃんの元に英一くんを連れてこればいいのか・・・
それが、これからの課題だった。
夏希「と、いうわけで、今日から未夢ちゃんがマネージャー兼控えピッチャーになりましたー。ぱちぱち」
畑中「なっ、なんだよそれ!聞いてないぞ!みんなに相談もしないで、勝手に決めやがって!」
夏希「いいじゃない。私、キャプテンだし」
そ、そうだったんだ。
夏希「あんたも、可愛い女の子が増えて、嬉しいとか思ってるんでしょ」
畑中「思うわけあるか!ピッチャーは夏希一人で充分だ!」
夏希「あらあら、私を信用してくれてるわけ?」
夏希「でもピッチャーが私一人しかいないから、他にもいると精神的に助かるんだけどなーぁ」
畑中「お前にはプライドってもんがないのかっ!こんなひょろひょろのやつ要らね・・・いたっ!」
言い終わる前に夏希ちゃんが無言で畑中くんの頭をグローブで叩いた。
おー怖い。夏希ちゃんは可愛い外見とは裏腹に、鬼キャプテンのようだ。
夏希「未夢ちゃんの悪口は、私が許さないわ!」
夏希「あと密かに、いや思いっきり私の事も侮辱してたわよね」
畑中「おい、お前」
夏希ちゃんに話しても無理だと思ったのか、畑中くんは直接わたしに話しかけてきた。
畑中「帰れ」
ビスッ
畑中「目ぇー!」
夏希「やっだ、メェーだって。羊さんみたい」
鬼だ。
わたしとしては心強いけど、畑中くんにはお気の毒だな。
畑中「ホントは嬉しいくせに、真逆のこと言ってんじゃないわよ、ったく」
夏希「他に異論のある子は、いないわよね!?」
他の部員たちは静まり返っている。
異存なしらしい。
夏希「じゃあ、各自練習スタート!」
夏希「未夢ちゃん、気を悪くしてたらごめんね。あいつだけは、あまのじゃくなのよ。ツンデレってやつ?」
未夢「あ、うん、大丈夫だよ。つんで・・・?ナントカはわからないけど」
夏希ちゃんは笑顔で応えた。
夏希「今日は色々準備しなきゃね。ただの体操服じゃあれだから、先生にユニフォーム借りに行ってくるわ」
未夢「そ、そういえば、顧問の先生に入部の許可もらいに行ってないけど、大丈夫なの?」
夏希「大丈夫よ。あいつは私にぞっこんだし」
それは、どうなんだ。あと先生なのにあいつって。
夏希ちゃんはこちらの思惑を読み取ったのか、にこっと笑った。
夏希「安心して。小学生の時にスカウトしてきた人だったの」
夏希「断ったらしつこくつきまとってきて、高校に入ったらここの監督でビックリした」
夏希「見た目怪しくてひょろいやつだけど、悪意はなさそうだし、教え方は意外としっかりしてるから」
とにかく、先生とは高校を越えた長い付き合いであるらしい。
夏希「未夢ちゃんは、部員の健康状態を管理してほしいの。無茶なやつばっかりだからね」
夏希「野球が好きなのも元気なのもいいけど、ただでさえ部員が少ないのに怪我されちゃたまんない」
夏希「さすがの私も、自分でやることあるし、一人じゃそこまで目が行き届かないわ」
未夢「夏希ちゃんすごいね。そこまで考えてるんだ。勉強と両立できるの?」
夏希「普段遅刻せずにノート取って提出物出してればいいのよ。後は寝てる」
夏希「テストは徹夜と鉛筆転がしとウで赤点は回避できるし」
聞いた感じ適当ではあるが、実際なんとかなってるようだ。
ウというのは、選択肢が4つの場合、答えを3番目に持ってきたくなるテスト作成者の心理を読んだ作戦である。
夏希「お話はあとあとっ。未夢ちゃんは部費の管理もしてもらったり、好きに使ってね」
未夢「ええっ」
夏希「といっても、西遠寺くんとのデートには、使うなよぉ」
未夢「わかってるよっ」
夏希「うふふっ。男どもはずさんだから、グローブや靴その他諸々がぼろぼろになるから」
夏希「そしたら、買い換え検討を先生に相談してね。あとはあいつが指示してくれる」
夏希「他は、近くに転がってきたボールを拾ってあげて。遠くのは取りに行かなくてもいいわ」
夏希「あと何かあったかな・・・」
夏希ちゃんはキャプテンらしかった。わたしの作業は意外とハードになるかもしれない。
夏希「基本的にみんなを見て、お節介になってればいいのよ。部活の終わりに、みんなに飲み物出してたりね」
彷徨に、わたしはお節介だと評価されたことがある。それなら、普段通りでいいってことなのかな。
未夢「で、でも、わたしじゃなくても、もっといい人がいたかもしれないよ?」
夏希「未夢ちゃんしかできないわ。私の目に狂いはない」
夏希ちゃんは即答し、ペットボトルの中の飲み物を飲んだ。
何を根拠にしているかはわからないけど、信じ込んでいるようだった。
夏希「あと、英一の件も、よろしくね」
夏希ちゃんはウインクしながら少し舌を出して言った。
夏希「あとで少し投球の練習もしよっ。遊びじゃないけど、最初はね」
未夢「う、うん」
夏希「じゃあ、先生にユニフォーム借りに行ってくるよー!」
夏希ちゃんは手を振りながら走って行った。
今まで全部夏希ちゃん一人でやってたのかな。大変だったんだな。がんばらなきゃ。
わたしの力で少しでも夏希ちゃんの負担を和らげられればと思った。
未夢「・・・」
夏希「おー、似合う似合う!」
ユニフォームに着替えた。すっかり部員になっている。あと、ユニフォームなんて着たことないから戸惑う。
びしっとした服を着ると心もびしっとなる気がする。
それと同じように、慣れない服を来た場合は、心の落ち着きどころを探していた。
夏希「未夢ちゃん、キャッチボールしよう」
夏希「はいっ、これが未夢ちゃんの帽子とグローブっ」
夏希「大きさは適当に選んでるから、途中でやりにくいことに気付いたら言ってね」
そう言って、グローブと帽子とボールを手渡された。
ああ、これから野球をやるんだ。初めてだ。
男子の体育にはたまにあるらしいけど、女子にはないから新鮮だ。
未夢「えいっ。いたっ」
夏希「え?おわあっ」
夏希ちゃんは右やや斜め後ろへダイビングする。
ぱしっ
そしてキャッチ!
未夢「おおー。ぱちぱち」
夏希「未夢ちゃんいきなり暴投〜」
すっぽぬけたようだ。
夏希「いたっ、って聞こえたけど、どんな投げ方したの?」
夏希ちゃんが近寄って聞いてくる。
未夢「こう・・・」
指先の甲で持って弾き出すような持ち方だ。
夏希「ナックル!?なんでいきなりそんな投げ方したの?」
未夢「いや〜、わたし力ないから、こっちの方が飛ぶかなって」
未夢「全然飛ばなかったけど。てへっ」
夏希「うーむ・・・ある意味異才だよ・・・でもまあ、最初は弱くていいから普通の投げ方しなよ」
未夢「はーい」
未夢「ではでは・・・やあっ」
夏希「おー」
球は弧を描き、夏希ちゃんのミットに収まった。
夏希「うん。未夢ちゃん、才能ないわ」
夏希ちゃんは苦笑いで言った。
未夢「ひどっ」
泣いた。鬼教官!
夏希「手からボールを離すタイミングが早いのよ。もっと遅めに離してみて」
未夢「う、うん」
教官の言うとおりにしてみる。
未夢「でやっ」
ボカっ
未夢「たー!」
自分のスネに当たった。
夏希「・・・前言撤回するわ。未夢ちゃん、あなた別の意味で才能あるわ・・・」
ぼてぼて・・・
球は転がっていった。そして畑中くんのところに。
畑中「ん?こらー?お前ら、遊んでんじゃねーぞー!」
そう言って球は夏希ちゃんに投げられた。
ぱしっ。夏希ちゃんが受け取る。
夏希「うるさーい!こっちだって一生懸命やってんのよー!」
夏希「今度文句言ったら、殴るからねーっ!」
畑中「わ、わかったよ!」
畑中くんは練習相手と向き直していた。
夏希「ふう。未夢ちゃん。気にしないでもう一回、好きなように投げてみて」
未夢「う、うん」
未夢「えいっ」
ほわ〜ん
ぱしっ
夏希ちゃんは左手を右斜め前に出し、少しジャンプした。
夏希「うーん、未夢ちゃん、上投げか横投げかよくわからなくなってるわ」
夏希「それじゃぁ腰を痛めちゃうよ。腕を縦に真っ直ぐ振ってみて」
未夢「え〜。夏希ちゃん、むつかしいよ・・・」
夏希「大丈夫よ、私も最初はそんなんだったから」
未夢「うそだッ」
夏希「修行が足らんっ」
夏希ちゃんは笑顔で肩を叩いた。
夏希ちゃんの言うとおり投げてみた。
ぼかっ
地面をワンバウンドして夏希ちゃんのミットに収まった。
夏希「おー!やればできるじゃん」
思いっきりワンバウンドですが。
夏希「あとは球を離すタイミングだね。これは慣れだから、何回かやってみて」
それから何回かやってみたが、一向にタイミングは掴めなかった。
夏希「うーん、タイミングはよくなってきてる気がするけど、時間が経つと腕が下がってきてるね」
未夢「え?そう?」
気付かなかった。
あと、ぜえぜえ言ってた。
夢中だったらしい。
夏希「足腰も鍛えてもらうから、走ってもらわなきゃ。やることいっぱいあるわ・・・」
ひーん。部活に入らなければ良かったーっ。
夏希「・・・とか思ってるでしょ」
未夢「え?」
夏希「今、やめたーいとか思ったでしょ」
何故ばれたし。
夏希「大抵そう思うわよ・・・私も似たようなもんだったから」
ということは、わたしでも、たくさん努力したら、夏希ちゃんみたいになれるんだろうか。
夏希「あとは未夢ちゃん次第よ」
未夢「うーん」
自分でも、続けられるかどうかはわからなかった。
部活を終えた。部室で夏希ちゃんと着替える。
真冬なのに、体は暖かかった。でもすぐに冷えてしまうだろう。
夏希「今まで私一人で貸切状態だったのにな」
夏希ちゃんが意味深気に言う。
夏希「・・・自分で誘っといてなんだけど、続けるか決めるのは未夢ちゃんだから」
夏希「強引に入ってもらって、後ろめたいよ。だけど、未夢ちゃんとは親しくなりたかった」
未夢「なんでも相談してね」
未夢「う、うん」
しかし、なんでわたしなんだろうか?他にもいっぱい、いい人がいたはず。
そんなに何か自慢できるものがあるわけでもないし、自分でもよくわからない。
夏希「逆に私も色々相談させてね」
未夢「わたしで答えられることなら」
夏希「胸のこととか」
未夢「ぶっ!」
何を言う。
夏希「ちーとも大きくなんないのよねー」
未夢「わたしだってそんなにないよっ」
夏希「まな板の私よりはあるわよ。計りっこしよっか?」
夏希ちゃんは手をわきわきさせる。エロオヤジか。
未夢「やめなさいっ、はしたないっ」
夏希「ちぇー」
案外、すっと諦めてくれた。
夏希「そっか、西遠寺くんに毎日もみもみされながら毎日計るからええのか」
毎日が二回入ったけど。何回計るんだ。
未夢「そっ、そんなことしてるわけ」
夏希「あるでしょ?」
未夢「ないわよっ、夏希ちゃんの馬鹿ーー!!」
夏希「うーそうそ、ゴメンゴメン」
夏希ちゃんは笑うのだった。
全く、夏希ちゃんにも困ったものだ・・・。
夏希「みんな、お疲れさまー」
みんな散り散りに返っていった。
夏希「未夢ちゃんの練習は基本的なことしかやんないから」
夏希「投球フォームが整ったら主にマネージャーの仕事をやってもらうつもり」
夏希ちゃんは先のことを考えてるみたいだけど、わたしはまだ追いつかなかった。
夏希「それじゃあね」
夏希「あれ、夏希ちゃんは電車じゃないの?」
夏希「私は寮に住んでるのよ。機会があれば、お泊り会でもしよっか」
夏希「未夢ちゃんは電車?」
未夢「うん。だけどこれから彷徨のとこ」
夏希「そっか!ガンバレ」
親指を立てられた。何を!?
夏希「バイバイ、未夢ちゃん」
未夢「うん。また明日」
彷徨「はぁぁ?お前、野球部に入ったのか?」
彷徨が驚いた。大抵のことじゃ動じないのに。
無理もないだろう。予兆すらなかったのだ。あったとすれば昨日だが、それこそ昨日の今日だ。
未夢「な、成り行きで・・・」
彷徨「ふーん。そうか。ガンバレよ」
未夢「あれ、止めないの?」
彷徨「何でだ?」
疑問を疑問で返された。彷徨は手元の茶を飲んで、一息ついてから言う。
彷徨「俺に止める権利はないよ。未夢の判断を尊重するよ」
優しい言葉ではあったが、わたしは少し寂しかった。
夏希ちゃんには悪いけど、彷徨がやめろって言ってたら、やめてたと思う。
わたしは彷徨の彼女なんだよ・・・
確かに、権利はないかもしれないけど、そこについては多少強引に引き止めてくれても良かった。
あるいは望んでいた。何故だろう?
慣れないことへの挑戦だから?
彷徨といる時間が減るから?
よくわからなかった。
彷徨「前も言ったけど、何かあったら言ってくれよ」
彷徨「お前はその・・・俺の彼女なんだから」
さっきのことが以心伝心した気がした。
そうだ。
わたしは、今の状態で信頼されて放置されるよりも、かっこ悪くても困ったら相談しあって。
そして二人で壁を乗り越えたかったのだ。
未夢「・・・うん」
彷徨「そうだ。俺は明日の朝に部室へ顔を出してくるから、先に登校しててくれ」
未夢「えーっ。そんな足で部活やるの?」
彷徨「やらないよ。色々見たり聞いたり調べたり報告したりしてくるだけだよ」
未夢「わかったよ。無茶はしないでよ」
彷徨「ああ」
未来「ええっ。未夢、野球部に入るの?」
彷徨とほぼ同じリアクションだった。
未来「そう・・・。まぁ、思いっきり頑張んなさいっ」
ママは基本放置するからこれは予想できた。
未来「未夢のことは信用してるわ」
未来「でも、何か困ったり悩んだら、すぐ相談するのよ?」
前言撤回。わたしは親に愛されてると思った。
未夢「うんっ」
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見にいく
→見にいかない
【チェック001 /////////////////////////////////////】
未夢「えっと・・・きょ、今日は用事があって!」
夏希「そっか・・・残念だな。また気が向いたら、来て欲しいな」
見透かされただろうか。
でも、深く興味があるわけでもないのについていくのは、野次馬みたいで失礼だと思った。
未夢「がんばってね。応援してるよ」
夏希「うん。ありがと」
寂しそうな笑顔が、印象的だった。
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できる
→できない
無理だ。できない。
何の保証があってできると言えるのだ。
できると答えてもしできなかったらどうするのだ。
無責任なことはいえない。
未夢「・・・」
夏希「そっか・・・ごめんね。会って間もないのに、何言ってんだろねあたし」
片目を瞑り、苦笑いで舌を出しながら、自分の後頭部を軽く拳骨していた。
夏希「えっと、気にしないで!私が変な事言ってたよ!」
あたふたしながら言う。
夏希「自分ががんばらないで、人に頼りすぎだったよ、私がなんとかしてみる!」
わたしが答えないでいることが答えだと、彼女は受け取ったみたいだった。
夏希「でも、ここには気が向いたらたまにでもいいから来てよね」
未夢「えー。気が向いたらね」
夏希「そしたらマネージャーやってもらおうかな」
未夢「えええ」
夏希「あははっ、冗談よ」
冗談半分であり、半分は本気だったかも。
夏希「話を聞いてくれてありがとね。それだけでも気が楽になったわ」
未夢「いや・・・」
夏希「じゃー私戻るよ。あいつらの世話しに行かなきゃだ」
未夢「う、うん」
夏希「またねーっ!」
勢いよく走って行った。わたしは苦笑いでそれに小さく手を振る。
・・・チャンスを棒に振ってしまったのではないか?
常日頃から、新しい何かを心のどこかで求めていたはずなのだ。
彷徨の傍にいること以外に、何か生き甲斐のような物を・・・。
何も達成することもできず、身近な誰も救えず、どうして生きている価値があるだろうか。
そこまでは言わなくとも、夢中に成れる何かが欲しかった。
今のは、ちょうどそれだったのでは?
今からでもやっぱり彼女の願いを聞いてあげれば間に合うのかもしれない。
でも、それこそ最初にループすることになるだろう。
無責任というものに。
せめて、応援しよう。
未夢「夏希ちゃん、がんばってね」
心の言葉が、そのまま声になった。
誰も聞くことのない。