かれんだー0表示(即更新なし)
1秒待ち
クロスフェード更新
カレンダー6日目表示
クロスフェード通常
CG消去
1秒ウェイト

 ====================================== 雪山遭難!? ====================================== 

声「おい、未夢。起きろ、朝だぞ」

未夢「うーん・・・」

ばっ!

起きた。

彷徨「起きたか。普通逆じゃないのか・・・俺が未夢に、ゆさゆさって起こされたい」

未夢「な、なんであんたがここにいるのよっ!」

彷徨「おい、寝ぼけるなって」

そうだった。みんなでスキーに来てホテルにお泊まりなんだった。

未夢「う〜んっ・・・!」

思いっきり体を伸ばした。ちょっと筋肉痛な気もする。

彷徨「早く顔洗ってこいよ。全くいつまで寝てるんだか・・・」

時計を見たら・・・8時ちょっとすぎ。あれ、でもそんなに寝坊した感はないけど。

未夢「あれっ、ママたちは?」

彷徨「未来さんたちなら、朝風呂に行ったよ。紅瀬たちなら、ゲームコーナーで物色してる」

未夢「そうなんだ」

彷徨「もうすぐ朝食の時間だから、みんな戻ってくるんじゃないかなぁ」

未来「ただいま〜。あら、未夢、もう起きたのかしら」

彷徨「噂をすれば。もう未来さん、もうじゃないですよ」

未来「彷徨くんは厳しいのね」

烈「もうすぐご飯っご飯っ」

烈くんは歌いながら戻ってきた。




烈「わあ〜、食べ物がいっぱい!」

バイキングというものだ。好きなものを選んで食べられる。

烈「ねえ、これ本当にぜんぶ私のものっ?」
零「みんなのものだからな」
烈「よーし!」

聞いてるのかないのか、烈くんはペコちゃん風に舌を巻きながら、目を輝かせて飛び立って行った。

優「僕が場所取っておいてあげるから、行っておいでよ」
未夢「パパはどうするの?」
優「後で取るよ。気にせず行っておいで」
未来「行きましょう、未夢」
未夢「う、うん」
未来「パパの分も私たちが取ってきましょう」
未夢「うんっ!」
彷徨「食い切れないほど持ってくんなよ」
未夢「わかってるわよ!」
隣のママは突っ込みを入れず、ニコニコしながら静かに見守っていた。

未夢「彷徨ったら、ホンっトに一言余計なんだからっ」
ママは相変わらずニコニコしながらこちらを見ている。
未夢「な、なにっ、ママ。気持ち悪いなぁ」
未来「でも、ホンっトは嫌じゃないのよね?」
未夢「えぇっ。その気持ち悪い顔がっ?」
未来「ちーがーうっ、彷徨くんのことよっ。それに、気持ち悪いとはご挨拶ね未夢。ママ傷ついちゃう」

確かに、毎回酷いこと言われてる割には嫌になってないな。
普通、あれだけ言われたら嫌いになっててもおかしくなさそうだ。
それだけ言い合える仲だということだろうか。
それとも、彷徨の裏側の本当の優しさを知っているからか。

未来「未夢、意外とMね」
未夢「はあっ?」
ママが突拍子もないことを。
未来「彷徨くんには何されてもオッケーだったりして」
未夢「ば、ばかのことを言ってないで、行くよママっ」
未来「あ〜待ってよ未夢〜」

優「烈くん、朝からよく食べるね」
未夢「・・・」
烈くんが取ってきたものは、焼きそば、炒り卵、パン、バター、野菜、トマト、・・・ というか量多すぎ。
微妙にバランスが取れてるような気もするけど・・・。
正に取って来たいものを根こそぎ選んで取ってきたという感じだ。

優「もしそれだけ食べられれば、作る僕も作り甲斐があるけどね」
未来「烈くんは太ったりしないの?羨ましいわ」
確かに、それなら羨ましい。
烈「これでも昔は全然食べられなかった方なんでふよ」
烈くんは口をモゴモゴさせながら早く応答した。
そして口中のものを全て飲み込んで口を拭いてから再び話す。

烈「小学生のころはほうれん草と枝豆とコロッケ以外食べられませんでした」
なんか、すごい選択だな。何故と思えるものが多い。
烈くんは箸をおいて話出した。
烈「昔は軽いアトピーで入院してました。それから、早く治れーと思って野菜を・・・」
コロッケはじゃがいもなんで野菜の一種だけど、揚げ物だし・・・
烈「母さんが食べやすく工夫できた野菜しかダメだったんです」
烈「魚は食べにくいし喉に骨がひっかかるし・・・」
行儀悪そうに魚を解体して、食べるももがき苦しむ烈くんの姿が容易に想像できた。
烈「私って歯並び悪いでしょ。肉類は噛み切れないし・・・」
あーっとやって歯を見せた。
烈「穀類は味がないし、乳製品はお腹壊すし・・・卵やプリンとかヨーグルトもアレルギーでした」
彷徨「何も食べられないじゃないかよ・・・」
烈「それに、ゲームばかりして運動しなかったから肉付きもないし」
そこまで来ると心配だ。
未来「それが、どうしてそんなに?」
みんなが一番知りたいところである。

烈「中学生になってから、どうしてかものすごくお腹が減るようになって」
烈「それで、穀類と肉はパス」
未夢「それだけで、かい!」
烈くんはピースした。
烈「そしたら、今度は吹き出物が酷くなったので、野菜を食べるようになりましたとさ」
彷徨「お袋さんも一安心だな」
烈くんは笑顔を向けた。
烈「最後に、魚が恋しくなって」
未来「もう大丈夫だわね」
烈「元々、まずくて嫌いでっていうのじゃなかったからね」
烈「乳酸品系も好きだったけどアレルギーで・・・成長したらそれもなくなりましたし」
彷徨「それにしてもこの反動はすごいな」
事実、お盆に乗り切っていないのである。
烈「まだまだいくよー!」
烈くんが大食いなのを知ったのであった。

未来「さーて、また滑りに行きますか!パパ、どちらが早く行けるか勝負しましょ」
優「いいよ。僕の動きについて来れるかな?」
パパは何故かボクシングの容量で身をかわすように動きだした。
未来「あら。負けないわよ」
ママは消えるように俊足で動いていった!

彷徨「俺たちも行こうぜ」
昨日と同じ様に誘ってくれた。
未夢「彷徨。今日は中級に行きたいな」
彷徨「ん?」
未夢「その・・・滅多に来れないし」
彷徨にも心地よく滑って欲しいのだ。昨日はわたしのレクチャーをしてくれた。
けど彷徨自身はあまり楽しんでいないと思う。
彷徨「調子に乗るなってーの」
未夢「あいたっ」
彷徨はグーから中指の甲を少し突き出して、軽くわたしを小突いた。
彷徨「まあ、でもいいかもな。挑戦してみるか?まだ初心者二日目だが」
未夢「うんっ!」

烈「あれっ、未夢さん!」
烈くんはわたしを見つけるや否や止まって声をかけてくれた。零くんも合わせて止まり、こちらを見た。

烈「もうたくさん滑れるの?」
今にも、一緒に滑ろうよ!と言わんばかりである。
未夢「ま、まぁまぁ、かな」
見え見えの見栄張りである。
彷徨「俺たちは、中級の中でも優しいコースに行くから、気にせず楽しんでくれ」
烈「残念。でも私たちも優しいコースだよ!」
と言いつつ、普通の中級のコースである。
烈「未夢さん早く来てねー!」
烈くんは、いきなりのジャンプ台を超え、颯爽と滑っていった。
零「・・・」
しゃあぁぁっ。
零くんは烈くんの後を追いかけるように滑って行った。
中級だけど、ジャンプ台を越えず静かだった。


彷徨「中級にくるくらいだから、もう一人で充分滑れるよな?」
未夢「え〜待ってよ〜。あんなこと言ったけど、ホントに昨日の今日だし・・・」
彷徨「自業自得だ」
未夢「ふえ〜ん」

そう言って彷徨についていくと大きな下り坂があった。
未夢「なっ、何これっ!バッカ じゃないの?何よこの坂!」
思わず叫んでしまった。周りから見れば大げさだったかもしれない。
だけど昨日の今日のわたしにとっては、たかがの坂が断崖絶壁に見えるのだ。
彷徨「・・・そんなこと言われてもな」
未夢「30度くらいあるんじゃないの?!」
彷徨「・・・10度くらいだよ、馬鹿」
未夢「うっそおぉ!昨日はスキー場、イメージ通りだったけど、ここ違う〜!」
未夢「ちなみに、昨日は何度くらいだったの?」
彷徨「ん〜、5度くらいかな?」
それでも、登るのはちょっと辛い坂道ぐらいに感じた。上級だと15度くらいになるのだろうか?
ここぐらいで、正に山と感じてしまう。
三角定規で、30度ってゆるいなと思っていたけど、リアルで体感すると二倍くらいの差があるように感じた。
リフォームの必要な家は、普段は気付かないからきっと0.何度程度なのだろう。色々考えてしまった。

彷徨「じゃあ、行くぜ」
じゃあああっ。
彷徨はわたしの返事も聞かずに行ってしまった。
未夢「そんなあ!待ってよ〜」
未夢「うわわわっ」
たかが5度程度増えただけなのに。
昨日彷徨に教えてもらったことが、まるでパーだ。
水の泡の様に意味がなくなり、初心者に舞い戻ったかのように、尻餅つきながら止まったりした。
いきなりはやっぱりキツかったか。
反省しなきゃ。

未夢「と、とりあえず彷徨に追いつかなきゃ」
坂に隠れてたまに彷徨が見えなくなる。ぐずぐずしていると、どんどん姿が小さくなっていく。
立ち上がるも、生まれたばかりの赤ちゃんのように、よちよち滑る。
おそらく、中級らしくないかもしれない。
というか、きっとらしくない。
常時内股で恐る恐る滑る。
未夢「待ってってば〜、バカ彷徨ー!」
未夢「あ」
っと言う間にも少し飛び出た坂に乗ってしまっていた。
避けるべきものだったろうか。
直角性のあるところ、いわゆる自然のジャンプ台だ。
登っていてわたしは飛び出した。

多分、こんなに考えてる暇はなかっただろう。
飛んだ瞬間、広く抜けた感じがして気持ちよかった。
が、次の瞬間!落下感に見舞われた。
と、同時に、彷徨が真下のところまで近づいていた。
ショートカットである。

未夢「彷徨っ!避けて!どいて〜!」
彷徨「え?」
空いたコースに突然の上からの人の声は珍しく驚きものだったと思う。

未夢「うわあ」
彷徨「うわっ!」
ドカガシャドシャッ。
わたしは上から絡むように彷徨に乗り倒れてしまっていた。
彷徨「・・・やるようになったじゃん。俺でも滅多にやらないことを」
未夢「で、でしょ〜!」
彷徨「重いから早くどいて下さい」
未夢「む、失礼な」
未夢「んしょ」
絡まっている板とスティックをほどき、わたしはゆっくりと立ち上がった。
未夢「彷徨、大丈夫?怪我はない?」
彷徨「ああ。何とかな。そっちは?」
未夢「うん。大丈夫だよ。その・・・ごめんね」
わたしは両手を合わせた。
彷徨「まあ今ので無事ならもう大丈夫かな」
未夢「ぜんっぜん大丈夫じゃないから!あんなの超まぐれ!もう怖かったんだからー」
思い出したら泣きそうだ。
未夢「彷徨が早く行くから!」
彷徨「はいはい。今度は一緒に仲良く行こうな」

気を取り直して今度は一緒に滑る。
滑り出しの瞬間がまだ怖いので、支えてもらうことに。
未夢「ちょっと!どこ触ってんのよ!彷徨のエッチ!」
腰の辺りをガシッと両手で掴まれていた。
ぱっ。
未夢「ああああ!急に離すやつがあるかあぁ〜・・・」

彷徨「掴まれと言ったり離せと言ったり、わがままだな・・・」
未夢「なんで端から端までぶっ飛んでいくのよ!ま、ん、な、か!を選びなさいよ」
彷徨「わかったわかった」

その後は二人で仲良く滑ることに。彷徨も心地よく滑っている。楽しんでくれているのかな。
未夢「ねえっ!互いに滑ってる最中にクロスしながらタッチしてみようよっ!」
彷徨「おっ、なかなか粋なことを考えるな!でも俺、胸ないし・・・」
未夢「どこタッチしようとしてるのよっ!手よ、手!」
彷徨「ああ、でもお前もないからいっか!」
未夢「クロスの時に、カウンターで殴る」
彷徨「冗談だよ冗談!それぐらいわかれよな!」
未夢「冗談になってませーん!」
彷徨「あっ、ならホントに小さいのか。俺の方が胸筋ででかかったりして」
未夢「むう〜!もう本気で怒った!人が傷つくことを〜!」

そうして離れ、互いに近づく。
わたしは本気で怒っていたので、引っ叩いてやろうと思ってた。
だけどスティックを手堅く持ち、手を開けない。
未夢「あわわわっ」
スティックでバランスを取っていたけど、片方を不慣れに上げたからバランスが崩れた。
自転車の手放し運転のようなものである。
未夢「危ないっ!」
最初は殴ろうとしてたわたしが、である。
がしっ!
彷徨がわたしを受け止める形で、激しくぶつかった、というよりは急に抱きとめた感じ。
彷徨「誰がだよ。クロスするんじゃなかったのか」
未夢「彷徨があんなこというからっ」

さっきまでムカついてた対象の彷徨の顔がこんなにも近くに。
でも彼は優しくわたしを守るかのように包容してくれた。
そのせいで、なんだか変な気分になってしまった。
彷徨「?顔が赤いぞ。ちょっと無理しすぎたか」
未夢「なんでもないっ!ばか彷徨」
色々なことは鋭いのに、こういうことは天然だ。彷徨もわたしのこと言えないじゃないか。
彷徨「でもちょっとは大きくなってきたんじゃないか?」
未夢「な、なんて、ことをっ・・・!まだ成長段階なんです〜っ!」
未夢「は〜な〜せ〜!彷徨のセクハラ〜!」
彷徨「わっ!ばたばた暴れるなって!坂で危ないから」
未夢「う〜」
彷徨「わかったよ、普通にタッチしながら滑ろう」
彷徨はそういいながらすっと離れた。
運動と、坂の危険による緊張と・・・その他の火照りにより体は熱く汗をかいていた。
雪山の風で体が冷える。
温もりがなくなり、寂しく思った。
未夢「うん」
流れ的にそうせざるを得なくなったけど、わたしもまんざらじゃなかった。




彷徨「坂の下に向かって、自分が右にいる時は右手でタッチな」
スティックの取っ手から飛び出した4つの指を、もう片方の手で指しながら説明した。
未夢「?  なんで?ずっと右手でいいんじゃない?」
彷徨「右手だけだと疲れるだろ」
未夢「あ、そっか」
だけど、そんな器用なことがわたしにできるかな。
未夢「うーむ・・・」
彷徨「大丈夫だって。俺の未夢ならできるさ」
他の誰でもない、この彷徨の言葉だ。自分で自分を信じてやってみよう。
未夢「ていうか、誰が『俺の』よ」
彷徨「え、ダメか?」
彷徨は昔よりさらに言葉でのイタズラ好きになったと思う。まるで小学生のようだ。
未夢「あーもう!なんでもいいわよ」
彷徨「いいんじゃないか」
彷徨を押しながら勢いの反動で離れた。
彷徨を相手にしてると、ムカついたり恥ずかしかったり、疲れるっ。

勢いをつけて滑り出した。わたしが坂の下に向かって左側である。
中級コースでいきなりアクロバティックっぽいことをやるなんて思わなかったけど。
坂を横切るのはやったことがなかったけど、案外怖くないからなんとかなりそう。
そうして彷徨とすれ違い、その指に触れた。
未夢「・・・!」
一瞬だった。大切な人の温もりの一部が、寸刻だけ味わえる、と言ったところ。
気持ちよかった。でもあまりにも一瞬過ぎたのでもっと触れたい。
行った道をUターンするように、互いに8の字に交差する。再び指を差し出して触れ合う。
彷徨「自分で、言っといてなんだが、意外とできるじゃん、未夢!」
未夢「あったりまえよ!あんたの未夢よ!」
彷徨「調子のいいやつめ!」
言いながら触れ合う。
彷徨、彷徨っ。
もっと触れあいたい。大好きな彼に。
未夢「楽しーね、彷徨!」
彷徨「ああ!」
よーし、次はわざと間違えて、彷徨の胸に飛び込んじゃおうかな。大胆なわたしっ。
そう思い、勢いをつけるために少し向こう側へ寄り、Uターンしようとした。
ばさっ!
がくんっ
なにっ?!
ガラガラガラッ
未夢「きゃあああああっ!!」
彷徨「未夢っ!?」
どさっ!
・・・
・・・

未夢「いったた・・・」
一瞬、何が起こったのかよくわからなかった。とにかく、わたしは崖から落ちたらしい。
上を見ると、結構な本当の断崖絶壁で、この辺だけ木々が少なかった。
途中の坂の横は森のようだったのに、ここだけ抜けていた。
怪我がないか全身確かめるも、ウェットでよくわからない。
結構な断崖絶壁の割には怪我はとくにないと思う。あとになってどこか痛むかも。
崖は上の方だけ少し木々があり、クッションになったのだろう。ウェットのおかげでもある。
未夢「どうしよう・・・」
彷徨「未夢ー!聞こえるかー?返事しろー!」
わたしは気を失っていたのだろうか。彷徨の心配そうな声が聞こえる。
未夢「わたしはここだよ、大丈夫だよーっ!」
彷徨「未夢っ!?そこにいるんだな!待ってろ!」
未夢「えっ・・・」
しばらく様子を見ていると、上から小石がコツンコツンと落ちてきた。まさかっ?
ガラガラガラッ
彷徨「未夢っ!?」
未夢「彷徨つ!?」
断崖絶壁の上の木々から彷徨が、滑るように落ちてきた。
どさっ!
彷徨「・・・ってえ〜・・・!」
未夢「彷徨っ!何してんの!?こんなとこまできて!」
彷徨「お互い様だ」
未夢「っていうか、わたしのこと心配してくれるなら助け呼んできなさいよねっ!」
彷徨「仕方ねーだろ、様子わかんなかったし・・・その様子なら元気そうだな」
未夢「だから言ったじゃない!大丈夫だよーって」
彷徨「そう言われても、1分くらい応答がなかったから、まじで青ざめたぞ」
未夢「あれ、そうなの?」
全然気が付かなかった。一瞬のできごとかと思ってたけど。
彷徨「1分長く感じたぞ・・・未夢があんまり無視するから」
未夢「ゴメンゴメン、ってそうじゃないでしょ」
彷徨「あいてっ」
彷徨のあまりの無茶ぶりに、なんだか腹が立って叩いてしまった。
彷徨「でも、無事でよかったよ、未夢」


彷徨が優しく抱きついてきた。
事実、心配させたのだろう。
その証拠がこの行為である。
彷徨の優しさを感じ、暖かくなった。
未夢「・・・ありがとう、彷徨」

未夢「しっかし、これからどうしようねぇ」
彷徨「我ながら、全く策がない」
未夢「ダメじゃんっ!」
彷徨「仕方ねーだろ、想定外なんだから」
確かに。
彷徨「未夢が崖なんかに落ちるから」
未夢「彷徨なんか、しかも自分でじゃないっ」
彷徨「あははははっ」
未夢「・・・うふふっ!」
責めたつもりが、彷徨が笑うのでわたしも笑ってしまった。
笑える状況じゃないのに。
自分で言っておいてだけど、もし彷徨が助けを呼びに行っていたとして。
彷徨が今ここにいなかったら、とても不安になっていたに違いない。
彷徨「どうした」
未夢「ん〜?  彷徨って頼りになるなあと思って」
彷徨「いきなりなんでだよ。やめてくれ。どーにか助けもできてないし」
未夢「そんなことないよ」
わたしは胸を抑えながら言う。
本人がどんなつもりでそんな行動を取ったかは知る由も無い。
けど、そんなわずかな行為が、人を幸せにしてくれるんだと思った。
未夢「・・・あっ!?」
彷徨「どうしたっ?」
彷徨のズボンから血が滲んでいる!
未夢「どうしたのそれっ!?」
ウェットズボンの上から見えるほどだと、よほどの怪我に違いない!
未夢「見せてっ」
彷徨「いてててっ!やめろ!」
無視して下から無理やりズボンの裾をめくりあげた。
未夢「ああっ!?」
彷徨「・・・馬鹿」
彷徨は手を目に当てながら言った。

彷徨の右足のひざに、皮膚が割れたかのような大きな傷があった。
滑ってくるとき?あるいは、着地の時にか?
何にしても、一大事であることは一目瞭然だった。
未夢「馬鹿はどっちよ!なんで黙ってたの!?」
彷徨「うるさいなあ。静かにしろって。助けにきて自分が怪我しちゃ世話ないだろ」
未夢「してるじゃない!」
彷徨「だから黙ってたのに・・・つっ」
彷徨が痛みに顔を歪めた。これを我慢してたなんて、あり得ない。
未夢「痛い?」
彷徨「痛くない」
ちょん。
彷徨「いだっ!」
いだっ。
こだまするほど彷徨が叫んだ。
ボカッ
未夢「いった!」
グーで殴られた。
未夢「何すんのよっ」
彷徨「こっちのセリフだ!いきなり触るやつがあるか!」
彷徨が泣き顔で言う。
未夢「やっぱり痛いんじゃない。なんで見栄張るのよ」
わたしは、指先についた彷徨の血を舐め取りながら言った。
彷徨「は、張るんだよ」
男の子はみんなそうなんだろうか。
未夢「ちょっと待ってっ」
わたしは何かないか探した。ハンカチがある。
彷徨のひざに、傷を覆うようにしてきつくコマ結びした。
応急処置というにはあまりに粗末だけど、何もしないよりはマシなはず。
未夢「これでよし」
彷徨「・・・当分バスケは休みだな」
未夢「皿骨とか割れてないでしょーね」
彷徨「知らねーよ、んなもん」
彷徨が素っ気なく言った。
未夢「全く、彷徨は世話が焼けるんだから」
彷徨「お互い様だろ」
未夢「もう他にないでしょーね!?」
彷徨「ないよ。ここだけだ。お前こそ、怪我ないだろーな?」
未夢「だいじょーぶよ!ほら、この通り・・・いたた」
立ち上がってスクワットの要領で動いたら、腰が。
彷徨「おいおい、大丈夫かよ」
未夢「背中打ったのかな・・・」
座ったままだから気付かなかった。
彷徨「二人して動けねーじゃん」
未夢「どーすんのよ」
彷徨「よーし、誰もいないし、戯れるか!」
手をわきわきさせながら言う。
未夢「ギャっ!?こんなときに何言ってんのよ!彷徨のエッチ!」
彷徨「じょーだんだよ」

まったく、油断もすきもないやつである。

かさっ。
彷徨「んっ?」
未夢「なにっ?」

木々の奥の草が揺れた。
かさがささっ!

彷徨「なんだ?」
雪男っ?クマっ?なんにしても、怖いっ」
彷徨「未夢、俺の後ろに隠れろ」
未夢「あんたっ、座ったまま何言ってんのっ、後ろ壁じゃんっ」
彷徨「いいからっ」
わたしは言いつつも、このままでは怖いので彷徨に寄り添うことにした。
とは言っても背中には隠れることはできないので、横にひっついただけだ。
がさがさがさっ!
未夢「クマだだら、どどどどっ、どうしよ〜!」
彷徨「どうしようもないさ。一貫の終わりだ。一緒に食物になるしかないな」
彷徨は妙に諦めのついてる感じだ。
未夢「お肉になるなんて、やだ〜!まだあれもこれもしたいのにっ!」
彷徨「だからさっき言ったのに」
未夢「何の話よっ」
わたしは半泣きで怒りながら言う。
ガサッガサッガサッ!

わたしたちは草むらの向こうを凝視した。冷や汗が服の中を滴る。そして・・・

ぴょこんっ

でてきたのは小さな哺乳類だった。

彷徨「・・・びびらせるなよ、お前。まじで終わりかと思ったぜ」
彷徨は安堵しながらその動物に話しかけた。うさぎ?真っ白い体毛に、小さな体と赤い、くりくりとした目。
未夢「可愛いっ。こっちにおいでっ」
手招きすると、意外にあっけなくやってきた。
未夢「彷徨っ、この子、うさぎじゃないよっ」
何か違うと思った。
彷徨「静かに。びびって逃げちまう」
彷徨「キツネ・・・か?」
キツネのように見えた。雪うさぎならぬ、雪ギツネだ。
未夢「めずらしーね、真っ白。雪山だから?」
彷徨「突然変異か?普通、こんなことない」
雪ギツネはわたしから、座り込んでいる彷徨のお腹に飛び移った。そして匂いを嗅ぎ始めた。
彷徨「どうしたんだ?」
未夢「お腹が空いてるのかな?おーい教えておくれよ〜雪ギツネくん」
わたしは目を瞑りながら両手をかざして言った。
彷徨「魔法かよ・・・」
未夢「まだ冬真っ最中なのに起きてきちゃうってことは、秋に食べ損ねたんだよ」
彷徨「もしくは、実は動物にしかわからないくらい微妙に春が近づいているか」
未夢「あははっ。それだったらこの子、勘違いしすぎだよ」
笑ってしまう。
彷徨「ああ。まるで光月さんちの未夢ちゃんみたいだなっ」
未夢「誰が光月さんちの未夢ちゃんよっ。ってそれわたしよっ!」
彷徨「自分で突っ込んじゃってるじゃん。お前お笑い行けるよ」
未夢「あんたが言わせるからしょっ。無理よっ」
彷徨「俺は言えとは一言も言ってないぞ。あと、ノリノリかっ」
未夢「違うわよっ」
雪ギツネはわたしたちにお構いなく、彷徨の匂いを嗅ぎ続けている。
未夢「彷徨が血を出してるから、おいしそうにしてるんじゃないの〜?」
彷徨「いや、未夢の方が多分おいしい。いや、きっとおいしい」
未夢「なんでよっ」
しかも言い直してるし。
雪ギツネは彷徨の傍から離れたがらない。
未夢「彷徨っ、なんかないのっ?」
彷徨「なんかって言われても・・・あ」
彷徨は思い出したように、座りながらポケットを間探った。
彷徨「これ・・・」
未夢「あ」
雪ギツネはくんくんとそれを嗅いだ。

彷徨「これが欲しいのか?ほーれほーれ」
彷徨は手をあげて回すと、雪ギツネの首と目も追いかけるように回った。
未夢「やめなよ、可哀想だよ。それ見せて」
彷徨「お前も似たようなことするんじゃないだろな・・・あっ」
未夢「しないよ・・・彷徨じゃあるまいし」
彷徨からそれを手に取り確かめた。
カボチャチップス蕎麦。
一口ゼリーぐらいの大きさの中に、ベビースターラーメン状のインスタント食品が固めてある。
カップ焼きそばミニのカボチャ味とか。
未夢「どこで手に入れたのよこんなもんっ」
彷徨「こんなもんとか言うなっ。サービスエリアに立ち寄った時にあったんだよっ」
彷徨が鼻歌交じりに買う様子が想像できた。
未夢「これ、その子にあげたらいいんじゃない?」
彷徨「ええ〜っ」
彷徨は不満そうに言った。雪ギツネはものほしそうにこれを見ている。
彷徨「返せっ。掘り出しもんなんだよっ」
ぱっと取られた。まあ珍しいことは認める。
未夢「少しぐらいいいじゃないっ。彷徨のケチンボっ!」
ぐう〜っ。
叫んだらお腹空いた。そういえばそろそろ昼頃じゃないかな。
彷徨「未夢が欲しいなら仕方がない・・・」
未夢「わたしじゃないわよっ」
珍しそうだから食べたくはあるけどっ。ここは雪ギツネの代弁のしどころだ」
彷徨「ほら。未夢に感謝しろよっ」
ぱきっ。
未夢「あっ」
最初から残り少ない、その小石のような食べ物を彷徨は小さく砕き、欠片を雪ギツネに与えた。
彷徨「美味いだろ。当たり前だ、何と言ってもカボチャだからな」
バカ丸出しの台詞だけど、自分の大切なものを惜しみなく与えていた(少し惜しんでいたけど)。
雪ギツネに食べ物を与えた時の彷徨は、優しい顔だった。まるで、愛おしい子供に向けるように。
そうだ。
わたしはそんな、意外とイタズラ好きでもいざという時は優しい彷徨を好きになったんだ。
改めてそう思った。
彷徨「ほらお前にもやるよ。ちょこっとだけだぞ」
未夢「この期に及んで、まだそんなこというかっ」
といいつつ、大半の欠片である。と言っても、もう最初からちょこっとだけど。
さっき考えてたことを撤回したいくらい、わたしには優しくない台詞とは裏腹な行動だ。矛盾してる。

これは、彷徨なりの照れ隠しなのだ。
たまに、っていうか大体仏頂面だから何を考えてるのかわからない時があるけど。
言葉は酷いのに行動は優しいパターンをいくつか見てきて、慣れた。
だから言う。
未夢「ありがとう、彷徨」
わたしは彷徨をまた少し理解できたような気がして嬉しかった。わたししか知らない、彷徨の裏側だ。
彷徨「ああ」
彷徨はぶっきらぼうに返事をしながら、残りの欠片を口に投げ入れ、含んだ。
彷徨「うん、美味い」
嬉しそうにお菓子を頬張る彷徨。あんなに美味しそうに食べられたら、どんなものかと思う。
わたしも彷徨に習って食べてみた。
パリポリ・・・ごくん。
量が少ないため、味わえなかった。
でも、確かにかぼちゃの味がした。
あと、お菓子として食べやすいように味付けされた塩味。
少量だったし、お腹も空いてるから余計欲しくなった。



未夢「なんか、前にもこんなことなかった?」
彷徨「ん?」
未夢「ほら、中学生の時、温泉探すとか言って」
彷徨「ああ。その時も確か未夢が崖に落ちたんだっけか」
未夢「彷徨も自分からねっ。彷徨が怪我したのも同じ」
彷徨「野生の動物が現れて、エサやったのもそうだっけか」
未夢「うん」
彷徨「道理でデジャヴ感なわけだ」
彷徨も同じこと考えてたみたいだ。
未夢「あっ・・・」
雪ギツネはもう用なしと踏んだのか、彷徨から飛び降りて、しばらく離れたところでこちらに振り向いた。
未夢「じゃぁね、バイバイっ」
雪ギツネは耳を動かした後、木々中に隠れて行った。
未夢「お礼を言ってたのかもね」
彷徨「ああ。そうかもしれないな」
未夢「あれ。あれは警戒してるだけだ〜とかツッコミが入ると思ったのに」
彷徨「んーなこと言わねーよ。ったく、お前の中で俺はどんなキャラに仕上がってんだ」
未夢「あっはは」

もういつの間にか夕方だった。
彷徨「日が暮れるな・・・」
彷徨がぼそっと言った。正確な時間はわからないが、冬の夜は早い。
未夢「このまま誰も助けに来なかったら、どうしよう・・・」
彷徨がいるから和らいではいたが、さすがに不安になってきた。
彷徨「悪ぃーな。助けにきたつもりが、こんな無様で・・・」
未夢「そんなことないよっ!充分助かってるよっ」
さすがの彷徨も顔色が悪い。応急処置をしたところからは血が滲んでいる。
彷徨も大っぴらには顔や声に出さないが、肩で息をしてきたから、我慢しているのかわかる。
彷徨「・・・未夢、最悪、俺を置いてお前だけでも助かれ」
未夢「ダメっ!嫌だよ!彷徨を置いてくなんてできないっ!なんでそんな残酷なこと言うのっ!?」
彷徨「俺の気持ちがわからないのかっ・・・っ・・・!」
未夢「彷徨っ!?」
彷徨が露骨に苦しみだした。
未夢「どうしたの・・・っ・・・!?ちょっと、傷見せて!」
ばっ!
彷徨「ぐあっ」
未夢「ああっ!?」
わたしのハンカチは意味ないぐらいに血で濡れていた。
未夢「彷徨っ、大丈夫だよ、きっと助けがくるからっ」
彷徨「はぁ、はぁっ・・・」
こんな元気なさそうな彷徨、初めて見たかもしれない。
いつだってからかって、わたしを怒らせたり心配させたりして息をつく暇もなかった。
今までだって彷徨は、不安な時のわたしの気を紛らわせてくれていたのかもしれない。
未夢「彷徨っ、大丈夫だよ。きっと助けがくるからっ」
今度はわたしが彷徨を守らなきゃ。
いざとなったら、わたしが彷徨を担いででもここから脱出しないと。
でも、どうやって?
方向音痴なわたしら、迷子になるのかわオチだ。
そして、冬眠しそこねたか、もう春と激しく勘違いしたクマに見つかって食われると・・・ひー。
彷徨「はぁ、はぁ・・・」
彷徨ももう我慢の限界で、虫の息みたいだ。
どうして彷徨がこんな目に・・・わたしが崖からなんか落ちるからっ。
そんな時、がしっと頭を掴まれた。
彷徨「俺が苦しいのは、お前のせいじゃないぞ・・・」
未夢「・・・え?」
わたしは目に涙を浮かべていた。彷徨が人差し指の甲で拭ってくれた。
彷徨「何も考えるな。きっと助けがくる。お前だけは、せめて笑顔で居ろ」
こんな血だらけになってさえ、彷徨はわたしのことを・・・。
わたしはバカだ。大バカだ。
未夢「う、うん!そうだよね!全く、彷徨はドジなんだから」
彷徨「ああ、そうだな」
わたしのバカっ。言葉が違うっ。
目に浮かべた涙を彷徨が拭ってくれたのに、無理に笑顔になったら涙がこぼれ落ちてしまった。
未夢「あ、あれれ?おかしいな。目にゴミが入ってたまんないよ」
彷徨「バカ・・・」
彷徨が頭を優しく撫でてくれた。
やめてよっ。
声にならない。いつもの意地悪な彷徨でいてよっ。
意地悪されたら優しくして欲しいと思ったり、優しくされたら意地悪でいてほしいと思ったり。
とても不安だった。誰か、助けてっ・・・!ルゥくんっ。
未夢「誰か助けてー!パパー!ママー!」
初めて助けの声を上げた。落ちてからずいぶん時間が経つのに。自分でも驚いた。
落ち着いていられたのは彷徨のおかけだ。
でも、声をあげたから、パニックになりそうだった。精一杯の声をあげた。
未夢「零くんっ・・・烈くーん!!」
烈くーん・・・
思いもよらず、こだました。
今年一番の大声だったと思った。こんな言葉でこだまを願ったりもしなかったけど、今はありがたい。
でも、何も返事はなかった。心が折れそうだ。
力が抜けるように手の平を地面についた。
その時だった。
声「・・・・・・・・・・・・・・・みゅ・・・・・・ーん・・・・・・らなつわ・・・ぎだ・・・」
ん?聞き覚えのある声がした。続いて声がする。
声「西遠寺ー」
声は小さかったが、語呂ははっきり聞こえた。そして上から小石が落ちてきた。
声「未夢さーん!居ますか〜?!」
声「そんなとこに隠れてるわけないだろ・・・」
声「だって・・・」



声「はぁ・・・」
未夢「おーい、烈くーん!わたしたちはここにいるよっ」
烈「未夢さんっ!?ほらやっぱいたじゃないかっ」
上の木々がジャマで姿は見えないが、烈くんが零くんに自慢するような姿が想像できたっ。
烈「未夢さんそんなとこで何やってんのー!?私も行く」
未夢・零「わーっ、ばかばかやめやめっ」
零くんと波長が合ったらしい。
零「おじさんとおばさんを呼んでくるっ」
零くん役に立つなぁ。それっきり零くんの声はしばらく聞こえなくなった。
未夢「ぜーったいこっち来ちゃ、ダメだからねっ」
余計怪我人が増えたり、わたしのせいで面倒なことが起こるのはゴメンだ。
烈「西遠寺くんも居るのっ?」
未夢「うーん」
わたしは大きく答えた。
烈「何してるのー?」
未夢「別に何もしてないわよっ」
烈「あーやしーい!」
何か良からぬことを考えているようだ。
様子自体は見られても一向に構わないけど、そんな好奇心レベルで落ちて来られたら困る。
・・・ばさっ。雪が自然と落ちた。
しかし思惑に反して烈くんが落ちてくる気配はない。まあそれはそれでいいのだが。
烈くんも落ち着いているようだ。
烈「西遠寺くん本当にいるのー?声も何も聞こえないよー」
そういえば。
未夢「彷徨っ、助かったよっ」
未夢「烈くんが見つけてくれて、零くんが今パパとママを呼んできてくれるよっ」
彷徨は、肩で息をしながらもこちらを向いて親指を立てた。
未夢「大丈夫だよー!」

しばらくしてパパとママが来てくれたみたいだ。
未来「未夢っ!?大丈夫なのっ!?」
心底心配そうなママの声が聞こえた。
未夢「ママっ。わたしはだいじょーぶだよー!それより彷徨がっ・・・!」
優「彷徨くんがっ?よーし、待ってなさい!」
パパの頼もしそうな声が聞こえた後、縄がするするとおりてきた。
未夢「彷徨、動けるっ?」
彷徨「ああ・・・あっ・・・!?」
がくんっ
ドシャッ。
未夢「彷徨っ」
彷徨「ダメだ、右足が言うことを利かない・・・」
未夢「パパー!彷徨が怪我をして動けないの!力を貸して!」
優「待ってて!」
未来「ダーメ。パパはここにいなさい。一番の力持ちが、2人を引き上げるんだから」
烈「私が助けにいきたーい」
零「俺がいきます」
姿の見えない、会話が聞こえた。
しばらくして、零くんが降りてきた。
零「これは酷いな・・・」
零くんは早速彷徨を見て、開口一番そう言った。
零「まず、みんなの道具を持っていく。身軽になった後、西遠寺を運ぶ。それでいいか?」
未夢「う、うんっ」
スティックを渡し、ボードも外して渡した。彷徨の分も、わたしが外して渡した。
零くんが道具を上に運びに行った後、戻ってきた。
未夢「ほら、彷徨」
彷徨を促して、零くんの背中に乗っけた。
零「行くぞ、西遠寺」
彷徨「悪ぃな・・・」
わたしは祈るような気持ちでその後を眺めた。
時間はかかったみたいだが、何とか無事に登れたようだ。よかった。
零「あとは光月だー!登ってこれるかー?」
未夢「大丈夫だよーっ」
零「・・・やっぱり行くー!待ってろー」
なんでっ。信頼されてない。
しかし、普段静かな零くんがこんな行動派だったとは。
やがて零くんが身軽に降りてきた。
未夢「俺が下から見ててやるから。万が一落ちても、助けてやるから安心しろ」
ま、まあ、下から見られてても、スカートじゃないしいっか・・・。それにしても、なんて心強いんだ。
わたしは腰を上げた。少し痛みが走ったが、運動に差し支えはなさそう。動かずに休んでいたおかげかな。
綱に力を入れて、10メートル近い断崖絶壁をよじ登った。
途中の木の葉たちを頭でかぎわけ、天空が広がった。
声が聞こえる。
烈「エスオーエス!エスオーエス!」
せーのじゃないんだ。烈くんらしかった。
烈くん、見つけてくれてありがとうね。
最後の崖を、力を振り絞ってよじ登った。
未夢「はぁっ」
未来「未夢っ」
未夢「わっ!ママっ!?」
よじ登り終わるなり、ママが抱きついてきた。落ちちゃうからっ。
ママが引っ張るようにわたしを抱きかかえた。
未来「怪我はない?」
優しそうな顔でママが言う。
未夢「腰をちょっと・・・でも大丈夫だよ」
ママは静かに、そして強く優しくわたしを抱きしめた。ママの、わたしへの愛を感じた。
未夢「えへへ。心配かけてゴメンね、ママ」
烈「良かったね、未夢さん」
未来「さぁ、帰りましょう」
みんな笑顔だ。本当に良かった。
零「・・・おーい、助けてくれー・・・」

未来「ゴメンなさい、すっかり忘れちゃってたわ」
今はもう帰路。ママがワゴン車の助手席から、手を合わせながら振り返った。
零「悪い冗談はよして下さいよ。もういいです」
素っ気ないようにも見えたけど、いつもの零くんなのだろう。そんな気がした。
未来「あら。怒らせちゃったかしら」
ママは舌を軽く出しながら、手をグーにして軽く自分の頭を小突いた。
未来「でも、本当にありがとうね、零くん。いつかこのお礼は未夢がするわ」
未夢「わたしっ!?」
いきなり話を振られて驚いた。
未来「そうよおー未夢。助けてもらってお礼なしはダメよ」
未夢「えっと・・・零くん、ありがとね」
ぺこっ。
頭を垂れるように下げた。感謝してるけど、みんなの前でお礼ちょっと気恥ずかしかった。
未来「零くん、私からも、ありがとうね
烈「私っ。私が未夢さんを見つけた」
烈くんが自分を指してアピールした。
未来「そしたら、烈くんもありがとう。ほら、未夢もお礼」
未夢「わかってるよっ。えっと・・・」
烈「ほっぺにキスがいー」
未夢「ここ、ここ」
自分のほっぺを差してリクエストしてきた。
いっきに体温が上がった気がした。というか、実際に上がったと思う!
未来「わっ。彷徨くんがいる前で、烈くん大胆ねっ」
彷徨がぎりぎりと歯ぎしりをせんばかりに烈くんを睨んでいた。
烈「ひぃっ」
零「・・・」
零くんはあれから押し黙っている。疲れたのか、目を瞑っている。寝息は立ててないようだ。
零くんは本当に必要な時のみにエネルギーを使うんだなと思った。
優「何なにっ、後ろで何しようとしてるのっ?」
パパはバックミラーでこちらをチラチラ見ようとしていた。
未来「パパは、前に集中」
パパ仲間外れ。ママひどいな。
未来「でも、みんなで未夢を助けたのよ。烈くんだけ、未夢のチューはずるいわ」
彷徨「何を言い出すんですか未来さんっ」
彷徨が抗議した。
烈「でも、私が未夢さん見つけなかったら、助けられてなかった!」
優「そんなこと言ったら!僕だってみんなを引っ張り上げたよ!?パワープレイ!」
パパ参戦。
未来「そんなこと言ったら、私だって暴走しかけたパパを止めたわ。頭脳プレイよ」
彷徨「一番動いたあいつへの礼が、お辞儀だけとは、あいつも可哀想だな・・・」
彷徨がわたしの隣で呟くように言った。なにか、わたしに何かもっとしろと?
当の本人は、気にせず今度は本当に眠っていた。
烈「よーし、そしたら、未夢さんのチューを巡って勝負です!」
何時の間にかわたしはチューすること前提になっていた。
優「望むところ!」
未来「こちらこそ!」
パパはともかく、なんでママまでやる気になっているのかわからない。
未来「何で勝負?」
烈「じゃんけん!」
ひどく公平だった。
優「僕、手が塞がってるんだけどっ!?」
いや、パパは不利だった。


未来「大丈夫よ、チョキ!とか声を出せば」
優「ええ〜!?」
未夢「ちょっと待った〜!」
未来「え?」
優「え?」
烈「え?」
三人して!
未夢「わたしもやる!わたしが勝ったら、褒美なし!」
未来「え〜」
優「え〜」
烈「え〜」
烈「ていうか、そしたら西遠寺くんが参戦したらいいんじゃないの?」
ボカッ
烈「えーっ、未夢さんがぶったー!」
未来「ひゅーひゅー」
なんでノリノリなの。
烈「イエ〜っていうか未夢さんのヒストリー!」
未夢「それを言うならヒステリーよ」
叩かれても元気な烈くんだった。
とにかくこの勝負、わたしの意地にかけても負けるわけにはいかないっ。
烈「じゃあじゃんけんに勝ったらその人が未夢さんのチューもらい、未夢さんが勝ったらなし、いい?」
未来「はーい」
優「よーし」
未夢「う、うん」
全然よくないけど、流れ的に逆らえなかった。
零「つか西遠寺、参戦するかやめさせなくていいのかよ・・・」
後で零くんの声が聞こえた。起きてたんだ。
それにしてもそうだ。さっき凄んでたのに、彷徨はこの流れをどう思ってるんだろう。
烈「いっくよー。最初はグー!」
なんだかドキドキする・・・負けるわけにはっ。
烈「じゃーんけーん・・・」

→グー
チョキ
パー

烈「ポンっ」
優「パー!」
ぐっ。見るより先に聞こえた。パパはパーらしい。
見ると、ママもパーで、烈くんはわたしと同じグーだった。
烈「えーっ、いきなり〜!?」
烈くん脱落である。
未来「パパ、勝負よ」
未夢「いいよママ、久しぶりだね」
いったい何の話か。
二人は燃えていた。
未来「じゃーんけーん・・・」
未来「ポンっ」
優「チョキ!」
パパは一瞬目を瞑っていた。怖いから前見てて下さい。
見るとママはグーだ。ママの勝ち!
未来「やったぁ!」
優「くっそ〜あともう少しだったのに・・・」
何が!?
烈「な〜んか面白くないなぁ」
未来「いいのっ。私が面白いんだから」
未来「未夢、早くチューして〜」
ママは目を瞑って顔を突き出していた。
未夢「口じゃありませんから!」
烈「あっはは!未夢さん面白い」
烈くんは手を叩きながら喜んでいた。
烈「面白かったからいいや。ちゃっちゃとやっちゃって〜」
ちゃっちゃと、って。できるかい。
だけど、ママならまぁいっかと思うことにした。ママは長い外国生活してたんだし、もらうのも慣れてるかも。
ママの横顔に近づく時、彷徨の顔を横目で見た。
すると彷徨も横目で見ていた。
悪く思わないでよね。
バーロ。何とも思わねーよ。
そう思ってる気がした。
すばやくママのほっぺにキスをした。
未来「きゃっ。未夢、愛してるわ〜!」
未夢「うわっ」
ママが助手席から両手を伸ばしてわたしに抱きつこうとしていた。
優「わっ。ママ、静かにしてて〜!」
烈「う〜、未夢さんのチュー・・・」
零「・・・やれやれだ」

グー
→チョキ
パー
優「チョキ!」
パパはチョキのようだ。
あいこである。残る二人は!?
パーだった。
紙は無残にも切り裂かれた。
烈「うわあああ〜!?」
烈くんは断末魔を上げながら左手を見た。あれ、烈くんって左利きなのかな。
未来「残念・・・」
ママは目に涙を浮かべながら、心底残念そうだった。なんでっ!?
あまりのがっかりさに、可哀想になってしまった。
未夢「ま、また今度してあげるから・・・」
未来「本当に?やったぁ!未夢の保証ゲット!」
何を言ったんだわたしは。
烈「え〜!?ずるーい!不平等〜!私にも〜!」
なんのための勝負だったのか。

優「未夢、いくよ」
未夢「あ、うん」
すっかり忘れてた。
烈「私が審判やるよ」
烈くんがずいずいっと這い出てきた。
烈「最初はグー!じゃーんけーん・・・」
烈「ポンっ」

優「パー!」
わたしはチョキだった。
っていうか、見た目ひとりじゃんけん。ですらない。わたしは誰と勝負しているのか。
未来「未夢はチョキよ。未夢の勝ちね。パパ残念でした」
未夢「ほっ」
優「じゃんけんに弱い僕が、もうすぐだったのに!ねぇママ、嘘じゃないよね!?」
未来「もうパパったら欲張らないの。素直に負けを認めなさい」
優「ええ〜」
ようやく信じたようだった。
烈「なーんかつまらないなあ。ちぇっ」
未夢「いいの、つまらなくてっ」
わたしもちっとも面白くない。何の罰ゲームか。早く終わらせたい。
烈「そしたら、西遠寺くんの代弁だったってことで、西遠寺くんがしてもらえばいいんじゃないかな?」
未来「彷徨くんなら、未夢がオジャマしてもらった時に、もうべろんちょにやってもらってるわよ」
未夢「ちょっと、そこのねつ造さんや」
思わす突っ込んでしまった。全く、いったい全体どういうつもりなのか。
未来「はあ。もういいわよ。冷めちゃった。つまんないわー」
未夢「ええーっ」
なんと自分勝手な。まぁ、慣れたけど。慣れたくなかった。
未来「いいわよ、私にはパパがいるんだから。ねー?パパ」
ママは手をパパの首に回して抱きついていた。ママ、パパ運転中!
優「ママ・・・」
誘惑に引っかからんで下さいよ。いい年して。
そこだけバラ色になるのやめて下さい。心の中で突っ込んだ。

グー
チョキ
→パー

優「パー!」
パパとはあいこのようだ。自分の選択を代弁されてる気がした。
烈「ああ〜っ、最強のパーが・・・」
っていうかみんなパー。この一体感が凄い。何分の一の確率か。
数学のテストに出てた気がする。グーチョキパーの3通りが4人分だから、えーと・・・
忘れた。彷徨に後で教えてもらおう。
困った時の彷徨である。
未来「なんだか余計ドキドキするわね。未夢のチューがかかってるんですものね」
優「はあはあ、早くしてーっ、運転に支障が出ちゃうっ」
なんでっ。
烈「第2回戦!じゃーんけーん・・・」
烈「ポンっ」
優「グー!」
もうわたしはパーしか出さないことにした。面倒くさい。
未来「私と未夢と烈くんはパー。パパだけがグーのようよ」
優「いつもそうなんだ・・・僕はじゃんけんが弱くて・・・」
気の弱そうなパパは、泣きながら自虐を語り出した。
未来「弱いパパは放っておいて、続けましょう」
うわ、ひどっ。
烈「弱肉強食同盟っ」
どんな同盟だ。勝ったわたしも入っていた。
烈「じゃーんけーん・・・ポンっ」
一人だけ声のじゃんけんは終わり、当事者だけの闘いが繰り広げられた。
みんなパーである。
烈「はーっ、はーっ」
未来「ふぅ」
未夢「・・・」
わたしも緊張してしまう。
烈「最初はグー!じゃんけんぽんっ!」
その後、みんなパーが3回も続いた。
烈「ちょっと、たまには違うの出そうよっ」
未夢「烈くんこそっ」
みんな負けるのが怖いのである。
烈「あいこでしょっ」
未夢「あっ?」
初めてみんながパーじゃない手を出したっ。その手は?
わたしはパー、烈くんがチョキ、ママがグー。
きれいに、グーチョキパーに分かれた。こんなことがあるのか。
未来「勝負がついたと思ったのに」
烈「あいーこでー・・・しょっ」
わたしがパー、烈くんがパー、ママがグーだった。
未来「残念・・・」
烈「よしっ、あと一人っ」
未夢「じゃあいくよっ。最初はグーっ、じゃんけん・・・ぽんっ」
わたしは相変わらずパー。烈くんはチョキだった。
烈「やったー!」
烈くんは高々とピースの手を上げた。
未夢「ああ〜」
もう少しで危機回避できたのに。

未来「じゃあ、お待たせの未夢のチューは、烈くんに決定ね〜」
ママがパチパチと拍手をしだす。
烈「あ、どうも」
急に烈くんは固くなった。
烈「じゃあ〜、はいっ」
烈くんはほっぺを突き出した。
未来「・・・」
優「・・・」
零「・・・」
彷徨「・・・」
烈「・・・」
未夢「・・・なっ、なんで急に静かになるのっ!?みんなもっと何か話してていいよっ?」
未来「え〜?だって今から未夢キスするし、みんな集中して見てるのよ」
未来「それに、彷徨くんと零くんは静かだったし、パパは運転中よ」
パパは思いっきり一緒に騒いでましたが。
未夢「集中して見てなくていいよっ」
未来「いいから、早く早く〜」
未夢「うっ・・・」
みんなの視線が身に刺さる。
零くんは片目を瞑って見ていた。
彷徨は目を瞑ったり横目でわたしたちの様子を見ている。少なからず気になるみたい。
パパはバックミラーを見たり、実際にこちらを見ようとして首を動かしている。実際には見えないだろうけど。
ママはニコニコしながら見守るように待っている。
烈くんは・・・いつの間にか正座に座り直して、目を瞑っていた。まぶたは震えていた。
なんでこんなシチュエーションが用意されたんだろう。
意味もないことを考えてしまった。ただの流れだというのに。
未夢「え〜・・・じゃあ・・・」
伸ばしててもどうしようもないので、することにした。ほっぺに口を当てるだけだ。
だけど、その行為の意味は日本では重い。主に、愛する人に挨拶する行為だ。
空の箱に水が流し込まれるように、何らかの考えや思考が、空白の頭の中を埋めた。
未夢「ん・・・」
烈くんのほっぺに口を当てた。
何の事はない。
ただ、冬の空気に触れてか、烈くんの肌は冷たかった。
だけど、どこか熱っぽい雰囲気も感じたのだった。
烈くんの顔は、彷徨のそれよりも小さく感じだ。わたしと同じくらいで、小柄だ。
零「・・・」
彷徨「・・・」
未来「・・・」
優「・・・」
烈「・・・」
未夢「・・・」
歴史的に見たら、ほんの一瞬の出来事だ。なのに、その時間はものすごく長く感じた。
零「・・・ていうか長くないか」
未来「未夢、もういいわよ?彷徨くんから烈くんに乗り換えちゃうの?」
はっ!?
わたしは急いで、烈くんを押すようにして反動で離れた。
ポテっ。
シートに横たわる烈くん。
零「あー、石化してるな。デスキッスだな」
未来「未夢ったら大胆ね」
未夢「みんながさせたんでしょ〜っ」
彷徨「・・・」
彷徨が横目で見ていた。
何よっ。わたしのせいじゃないわよっ。
目でそう言った。彷徨は静かに目を閉じるだけだった。




学校まで戻ってきた。
結局、烈くんはずっとしゃべってた。元気だな。
彷徨や零くんは疲れたのか寝てた。
わたしも疲れてたけど、ずっと烈くんの話を聞いてた。
彼が絶え間なく色々な話をしてくれるので、飽きない。返事してるだけだから、楽でいい。
ママは顔が見えなかったからわからなかったけど、静かだった。多分寝てたと思う。

烈「それじゃ、今回はホントにありがとうございました!」
烈くんは車の外に出て、荷物を持って車の中のわたしたちに挨拶した。
未来「忘れ物はない?お財布、ケータイ」
烈くんは両方のポケットを叩いて確かめた。
烈「問題ありません!」
烈くんは敬礼しながら言う。
未来「そう」
ママはにこっと笑った。
未来「ゴメンなさいね、色々とトラブルがあって」
烈「とんでもない」
烈くんは手の平を見せながら首を横に振って否定した。
烈「未夢さん、無事で良かったね」
未夢「うん。助けてくれてありがとう。迷惑かけてゴメンね」
烈くんは微笑み返した。
烈「西遠寺くんは、お大事にね」
烈くんはひょこっと顔を傾けて、彷徨に言った。
彷徨「ああ。色々と迷惑かけて悪かったな」
未夢「じゃあ、バイバイ。烈くん、零くん。おやすみなさい」
烈「うん。また明日」
がらがらっ・・・どんっ!ワゴン車の横開きドアを閉めた。
走り出した車から彼らを見た。互いに手を振った。わたしは小さく、烈くんは大きく。
零くんは烈くんの隣で、眠たそうに目をこすっていた。
未来「面白い子たちだったわね」
ママが感想のように言った。
未夢「うん。いい子だよ」
未来「そうね・・・どこか不思議な子だったわね」
ママは感慨深げに言った。


西遠寺についた。
未来「ママたちはここで待ってるから、未夢は彷徨くんを上まで送ってらっしゃい」
未夢「えっ・・・う、うん」
未来「彷徨くん、ごめんなさいね、うちの未夢が迷惑かけて」
彷徨「いえいえ、僕の自業自得です」
そう言って彷徨は頭を下げてから、車の中から出た。
未夢「わ、わたしが送るよっ」
わたしも車を出た。

2人で西遠寺の階段を登り始めた。
わたしが彷徨の左に位置し、肩をかけてあげてる。
彷徨「痛ってぇ〜」
未夢「大丈夫?」
彷徨「はあ〜、ちょっと休憩。楽だ」
未夢「げっ、ち、ちょっと!もたれないでよ!重ぃっ・・・」
彷徨「なんだよ。未夢なら馬鹿力で運んでくれるんじゃないのか」
未夢「そんなことありません〜っ、か弱い女の子ですっ・・・」
彷徨「仕方ないな」
再び長い階段を登り始めた。
昔は買い物袋を持ちつつ登り上がったこともあった。
彷徨「・・・」
彷徨は、声にこそ出していないけど、肩で息をしていた。彷徨の少し荒れた息が、わずかにわたしに触れた。
しかし、こんなにここの階段は長かっただろうか?忘れていた。
健康な時には、慣れた階段だとしか思っていなかったけど。
未夢「はあっ、はあっ」
彷徨、重いっ。中学の頃よりもさらに大きくなったんじゃないかな。男の子らしい胸筋だっ。
彷徨の横顔を見上げた。
垂れた前髪で顔は見えなかったが、顔色が悪そうで辛そうなことは雰囲気から読み取れた。
あの見栄張りの彷徨がこんなにも露骨に苦しむなんて・・・。
それとも、わたしだから弱みを見せてくれているのかな。
もしそれだったら嬉しい。
信頼されているということなのだから。

未夢「はあっ、ついたよっ、彷徨っ」
階段を登り切った。
未夢「彷徨っ、家の鍵どこっ」
まだ息が整っていない。
彷徨は無言で右ポケットから鍵を出してわたしに差し出した。




我が家の鍵をあけるようにして、西遠寺の玄関の鍵をあけた。
未夢「ほらっ、彷徨っ・・・ついたよっ・・・」
投げてやろうかとも思ったがそういうわけにもいかず、ただ玄関に立ち尽くした。
彷徨「疲れた。俺の部屋まで運んでくれ」
未夢「なっ」
全く、どこまで甘える気なの!
プンプン怒りつつもどこかわたしは嬉しい気分でいた。
あまり入らない彷徨の部屋の前。
すっ。
障子を開けた。彷徨の部屋は片付いていた。
彷徨を転がすように、彷徨を降ろした。
どたっ。
未夢「ち、ちょっと、大丈夫?」
ぴくりとも動かない。
彷徨「ああ。疲れた」
さっきと同じことを言う。
彷徨「このまま寝る」
未夢「ちゃんとお風呂入るのよっ。傷口も洗って!」
彷徨「わーってるよ」
未夢「それじゃあねっ」
彷徨「未夢」
未夢「な、何よ」
彷徨「サンキュな」
憎まれ口の彷徨が素直になってくれる時は、わたしも素直になろうと思う。
未夢「うん。何かあったら呼んでよね。すぐ駆けつけるから」
すぐ会いたいから。彷徨に。
彷徨「それ俺の台詞のはずだが・・・」
未夢「ふふっ。じゃぁね!」
とんっ。
障子を閉めた。


未夢「お待たせっ」
未来「長かったわね。そんなにちゅっちゅしてたの?」
未夢「してませんから!」
未来「またまた」
何がまたまたなのか。全く。

未夢「やれやれ。ただいまっと」
家に帰ってきた。すっかり日はくれていた。
未来「明日は学校なんだから、早く寝なさいね」
未夢「はーい」
そういえば明日は普通に学校なんだった。というか、昨日今日が土日で・・・。
冬休みが2回くらいあったらいいのに。

風呂で冷えた身体を暖め、パジャマを着た。
スキー楽しかったな。また行きたいな。
今度は彷徨と二人だけで。
また遭難したら助けてくれる人いないから気をつけなきゃだけど。
見つけてくれた烈くんに感謝。
体が疲れているのか、眠気がすぐにきた。
昨日今日は色々あって楽しかった。
明日はもっと楽しくなると・・・いい・・・な。