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 ====================================== スキーへの旅行! ====================================== 

ちゅんちゅん・・・

未夢「・・・」

雀の鳴き声で目が覚めた。
昨日と同じような起き方だ。外の天気もいいと思う。
ケータイのアラームが鳴る前に起きた。
興奮したつもりはないけど、学校がある日より早く起きたいという気持ちが強かったのかな。
ベッドから降りたってすぐにカーテンを開け放った。
カシャァッ!

未夢「よしよし!」

昨日と同じ風景だったけど、感想は違っていた。

外の様子を確認した後、今日自分が着て行く服を見る。
そして思いだした。
今日の準備やってないー!?
そうだ、何となく満足感で寝ちゃったんだった!
どうしよー!?と言っても、騒ぐほど忙しいことがあるわけでもないと思うけど。
とりあえず自分が持っていく洗面用具などをバッグに詰め込んだ後、着替えて洗面所に向かった。

来る途中、リビングはまだ暗かったように思う。ママたちはまだ起きてないのかな。
冷たい水で顔を洗い、眠気を覚ます。
と言っても今日はそんなに寝起きは悪くない。
一通り、髪をセットした後、リビングに行ってみる。

ママが既にいた。
橙色の小さな電灯をつけて、広告を読んでいた。

未夢「ママ、おはよう。目が悪くなっちゃうよ」

電灯の紐に手をかけながら言った。

未来「あら、おはよう未夢。早いわね。電気はつけなくていいわ。パパが起きちゃうから・・・」

ママは人差し指を縦にして唇にあてながら、小声で言った。

未夢「そっか」

未来「興奮して眠れなかったの?」

未夢「ううん、そんなでもないけど・・・何となくわくわく」

未来「うふふっ。人はそれを、興奮する、というのよ」

ママは笑顔で言った。

未夢「う〜ん、何となく少し違う気が・・・でもそうなのかな?」

未来「きっとそうなのよ。少し早いけど、朝ご飯にする?」

未夢「うん」

優「今日はしっかり食べるんだよ、未夢」

そう言ってくれたパパは、過去の反省を生かしたのか、行きすぎたボリュームはなかった。
パン、野菜、卵・・・その程度だ。

朝の支度をして、家を出る。

準備をしっかりした後は、荷物の確認をしてパパのワゴン車に乗り込んだ。

未夢「どういう順序で行くの?」

優「まず彷徨くんを拾っていくよ。烈くんと零くんっていう子はどこにいるのかな?」

あっ。しまった。その辺の打ち合わせを全くしていない。
とりあえず、学校の正門で待ってもらうことにしよう。

未夢「えーと、学校の正門で待っててもらうように言うよ」

未夢(おはよう。今からパパが迎えに行きます。
     学校の正門で待ってて下さい)

ぴっ。メール送信。

未夢「電話でも良かったかな・・・」

まぁいいや。

優「よーし、じゃぁ出発だ!」

未来「パパよろしくねー」

未夢「よろしくお願いします!」

優「じゃ、気をつけて安全運転で行くよー、シートベルト締めてねー」

未来「おー!」

未来、なんか気合いの入れるタイミングが違うよ。

2

未夢「なんか、こうして家族3人で出かけるの久しぶりだね!」

未来「そう?そうだったかもしれないわね。未夢には寂しい思いをさせたわね」

優「そうだなぁ、未夢には日本のいいところに連れていってあげられなかったなぁ」

未来「大丈夫よ、その分はこれから彷徨くんが連れて行ってくれるでしょうから」

優「ママぁ・・・僕が連れていきたいよ」

未夢「あはは」

3

西遠寺に到着した。

優「僕たちはここで待ってるから、彷徨くんを呼んできなさい」

未来「あんまりいちゃついて、私たちを長く待たせたらダメよ」

未夢「わかってるってばっ」

ママはわたしが彷徨と付き合ってる事を知ってから、事あるごとにからかう気がする。

4

ピンポーン。
まるで、我が家を鳴らしているかのような感じだ。
わたしも数年前までは、しばらくここに住んでいたのだ。

彷徨「はい、西遠寺です」

未夢「わたしよー、彷徨、早く出てきなさいよっ」

彷徨「未夢か、ちょっと待っててくれ」

プツッ。

ガララっ。

早っ。

彷徨「待たせたな。さぁ行こうか」

未夢「全然待ってないしっ」



未夢「こ、こういうときは、喜びながら女の子の荷物を持つものよっ」

彷徨「なんでだよ。変態か俺は」

未夢「彷徨はいつも優しくないし、空気読めないんだから!」

彷徨「0から10まで言わないといけないお子ちゃまだもんねっ」

彷徨「わかったよ。出るとこ出てない幼児体型な未夢さんは軽いでしょうから丸ごと持って差し上げます」

未夢「そ、そんなことはっきり言う奴がどこにおるかっ」

胸をペケの字にガードした。

彷徨「悪かったって。荷物持ってやるよ」

未夢「っていうかごめん。荷物を車に置いてきてたの忘れてました」

自分で言うのもなんだけど、なんか色々と思いだけが先行していた。

彷徨「お前自体がお荷物だよ」

未夢「わたしは金魚のフンかっ・・・わっ」

体が宙に浮いたかと思えば、彷徨がわたしのことをおんぶしていた。

未夢「こらー!離しなさーい!」

彷徨「運んでくれと言ったのはどこのどいつだ」


声「・・・ゆったら遅いなぁ」

声「パパは心配性ね。面白いことになってそうだし私も覗きたいわ」

西遠寺の階段を上って来たらしいパパとママに鉢合わせした。

優「・・・」

未夢「・・・」

優「わーっ!」

未夢「わーっ!」

未来「あらあら」

彷徨「うわっ」

わたしは彷徨の胸をぽかぽか叩き、足はばたつかせ反抗した。

優「あうっ・・・彷徨くん・・・!」

未来「なんとも、恨みとも悲しみとも取れぬ感情ね」

未夢「かぁ〜なぁ〜たぁ〜・・・!」

彷徨「悪かったってば。未来さん久しぶりです」

未来「彷徨くん会うのは久しぶりね。それじゃぁ参りましょう〜」

優「うう・・・」

未夢「うう・・・」

親にこんな姿を見られるなんて、超恥ずかしいっ。



車が出発した。

未来「彷徨くんももう高校2年生になるのね」

彷徨「そうですね、もう高校2年生です」

未夢「この前もわたしに言ってたね、それ」

未来「瞳ちゃんにも、仲良くなった未夢と彷徨くんを見せたかったなぁ・・・」

未夢「ちょっ・・・」

彷徨「・・・」

彷徨は苦笑いのような顔だった。

彷徨のお母さん・瞳さんは、ママと同級生で中学時代からの親友だった。
けど、病気で、彷徨が幼稚園ぐらいの時に亡くなってしまったらしい。
宝晶おじさんが男手1人で育てたとは言え、彷徨はしっかりしている。
(もしくは宝晶おじさん1人だからしっかりしているのか)
わたしは彷徨のお母さんとは、例外を除けば実際に会ったことがないから、神秘的なイメージしかなかった。

優「ママ」

未来「ごめんなさいね、しんみりな話をしちゃって」

彷徨「いえ」



優「学校の正門についたよ」

未夢「烈くん見当たらないな。中の方にいるのかもね。呼んでくるね」

5
バンっ。車のドアを閉めた。


6

未夢「え〜と・・・」

烈「あ、未夢さん!」

未夢「いたいた。烈くんおはよう」

烈「おはよう!」

零「おはよう」

零くんも挨拶してくれた。
普段あんまりしゃべらなさそうだから、おじぎだけかなと思っていたけれど。

未夢「パパとママが向こうで待ってるから、車に乗ってね」

零「お世話になります」
烈「なりまーす!」
未夢「ふふっ。さぁ、どうぞこちらへ〜」

ガチャッ

優「君が転校してきたって言う、紅瀬くんかい?」

烈「烈です!よろしくお願いします!」

優「元気な子だね〜。隣は零くん?」

零「零です。よろしくお願いします」

そういや名字のことは結局言ってないな。
零くんも何も言ってないし、特に説明なしでもいいだろう。

優「二人とも、車酔いとかする?」

零「特にしないです」

優「よ〜し、じゃぁ行くよ!」



烈「え〜と、運転してる方は・・・」

未来「ああ、彼は優。私の彼氏よ、あなた♪」

優「夫でしょ!なのに彼氏ってなんか微妙だよ」

烈「貴方様は・・・?」

未来「私は未来。未来って書いて、みきって読むのよ」

烈「へぇ〜。どうでもいいけど、貴方様って略したら貴様になっちゃうよね。丁寧どころかむしろ失礼」

ぼかっ!

烈「いてっ!無言で殴るなよ!いつものことだけど!」

零「いやなんとなく殴るべきかなって」

未来「うっふふ。面白い子ね、未夢」

未夢「うん!」

烈「はぁ・・・」

そんなこんなで、どうでもいい話で楽しんだ。


優「よーし高速道路に入るよ〜。みんな気をつけてね〜」

烈「おーっ!」

未来「気をつけてって言われても、パパに暴走されたら終わりね」

優「大丈夫だよ」

烈「Y字分岐点の真ん中に突っ込んだりしないかなぁ」

零「ないから」



ママとパパが中国へ行った時の話をしていた。
向こうの女の人はどうだとかおみやげはどうだとか
治安はどうだって話をしてた。

烈「愛媛は治安が悪いですもんね」
未来「え?」

なんで中国に愛媛が?

零「烈、もしかして中国地方と思ってるか?」
烈「あ、ああ、中国て海外ですか!」
零「中国行った中国行ったて、日本かよ!」
彷徨「・・・ははっ・・・。今さら中国地方とかあんま言わないだろ?なんで?」
未来「烈くん凄いわ〜」
彷徨「しかも愛媛とか言って中国じゃなくて四国だし」
優「彷徨くん、それダメっ」

パパが彷徨のツッコミに笑った。

烈「うう・・・」
未夢「あっははっ。まぁまぁ」

サービスエリアについた。
ここで一休憩することになった。

烈「トイレトイレ」
零「・・・」

零くんは静かにその後をついていった。

未来「ホントに元気な子ね」

未夢「うん」

わたしも、仕方ない子だなと思いつつ苦笑いした。

未来「零くんと仲良しみたいね。烈くんとは昔からの親友なのかしら?」

未夢「さぁ・・・」

わたしもそこまで深く知らない。

彷徨「俺たちも外の空気を吸いに行こうぜ」

未夢「うん」


お手洗いを済まし、深呼吸した。

未夢「う〜・・・ん・・・、はぁ〜」
烈「未夢さん!ここ、何でもあるんだね!」
未夢「はぁ」
烈「よーし、おみやげ買うぞ〜!
未夢「ちょっと、ここが目的地じゃないよ、烈くん」

未来「みんなでこうしてくるのは本当に久しぶりね」
優「そうだなぁ」

パパとママは食堂でくつろいでいた。
旅行は、目的地で遊ぶことだけが目的じゃない。
途中の、こういった旅が楽しいんだと思う。

優「さて、そろそろ行こうか」

高速道路を下りた。
ここからは下道だ。

優「ちょっと近道しようか」
未来「ええ〜。大丈夫なの?パパ」
優「僕を信じて!」


下道で山の中のトンネルを過ぎた時は、コンビニも何もなさそうな田んぼだらけの野原だった。

烈「田舎って感じだよね!」
烈くんはせっかくだしと言いながら、ケータイで写真を撮っていた。
手ぶれないのかな。

途中、ガソリンスタンドに寄ってガソリンの補給をした。

未来「タイヤにチェーンをつけましょう。これから山道だし、もっと冷えるからね」

ブレーキしても摩擦がなくて滑るからだ。

烈「へぇ〜、こうやってやるんだ」

わたしも同じように感じた。大変そうだ。

彷徨「紅瀬も感心してないで手伝えよ」
烈「は〜い」






優「迷った・・・」

チェーンを付けた後、山道の中、ぐるぐる回っていた。

未来「だから言ったじゃないの」
優「う〜ん、北東に向かってるのは間違いないと思うんだけど・・・」
烈「太陽の位置が南東にある・・・!だから、北東はこっちですよ!」
零「木々に挟まれて確かじゃないけどな。ていうか影を見れば東西南北はわかるだろ」
彷徨「あ・・・旅館の方向なら、そこの看板に書いてありませんか?」

みると、道の分かれ道に旅館の方向を示す看板が立てかけてあった。

未来「さっすが彷徨くん!頼りになるわね、未夢」
未夢「なんでわたしにそれを振るのっ」
彷徨「お前の母さんは相変わらずだな・・・」
未夢「あはは・・・」

旅館に着いた。
手続きを済まして部屋に入り、荷物を置く。
早速スキーをしにいこう!


烈「スキー大好き!」
零「わかったから・・・」


彷徨「お前、滑れるのか?」

未夢「だ、大丈夫よっ!彷徨じゃあるまいしっ」
彷徨「それじゃー未夢先生に色々教えていただくとしますか」
未夢「見てなさいよーっ」


とかいいつつ何気に初めて。ロッカーで着替える。
未来「未夢、これを着なさい」
ウェアを服の上にそのまま着るらしい。
初めて知った。
スキー用のブーツに履きかえる・・・

未夢「うわっ」

足首が固定されて、上手にバランスをとれない。

ニット帽とグローブを身につけた。
グローブは厚くて温かいが、グローブ自体の重さで握力が弱い。


外に出た。
辺り一面銀世界。寒いはずなのに、ウェアのおかげか寒くなかった。
ブーツを履いていると、雪がただの地面に思える。

未夢「あわわわっ」
しかし、足首の固定にまだ慣れておらず、普通に歩くことさえ困難だった。


彷徨「大丈夫かっ?」

いつの間にか彷徨も出てきていたらしい。


未夢「大丈夫よっ・・・わぁっ」

盛大にこけそうになり彷徨にしがみついてしまった。

彷徨「未夢せんせーっ」
未夢「あーもう、うるさいっ」



未来「彷徨くん、悪いけど、未夢に色々教えてやってちょうだいね」

彷徨「はい」

未夢「えーっ。ママたちはどうするの?」

未来「ママたちは先に色々と済ませちゃってるから、パパと先に滑ってくるわ」
未来「あとからゆっくり楽しんでらっしゃいねーっ」

未夢「え、ちょー!」

ぽん。
彷徨が手をわたしの肩においた。

彷徨「安心しろ。俺がどうにかしてやろう」

うっ。
不覚にも、少し安心してしまった。

彷徨「まずはレンタル屋で板とスティックを借りよう」
彷徨「サイズとかは、お前の母さんが手配してくれたらしいから」

そう言って彷徨は、店の人とかけあった。

彷徨「光月です」
店員「光月さんね。はい、これとこれ。楽しんできてね」

彷徨「ほら」

ほら、とか言われても。

未夢「何これ、どうやるの?」


彷徨「まずつま先をはめろ。それから重心をかかとにおいて」

がちっ。

お、嵌った。

ずずずず・・・


未夢「ううわあああ」

勝手に足が滑る!

彷徨「俺が支えててやるから、もう一方の足も同じようにはめろ!」

未夢「う、うん」

軸足が勝手に揺れるから、やりづらくて仕方なかった。

がちっ・・・。

未夢「動けない」

彷徨「ちょっと待ってろって」

彷徨が素早く自分の分も済ませると、こっちに来てくれた。

彷徨「ほら」

スティックを、硬直で力強く握っているわたしのグーの手を、彷徨が引っ張ってくれた。

未夢「んしょ、んしょ」

足を前後させる。

が、行ったり来たりするだけで進まない。


彷徨「前途多難だな・・・」


リフトに乗ることに。
結構人が並んでいた。

案内人「はい、ここの線の前で待ってて下さいねー」

前の人がリフトに乗る様子を観察した。
ああやって乗るんだな。
結構危なそう。

案内人「大丈夫ですか?」

未夢「は、はいっ」

右側からこちらに向かってくるリフトがUターンして
左側を向こうへ行く。
その進行方向の前に陣取って、ひざかっくんの要領で
リフトに乗る、という段階だ。

彷徨「俺が先に行くよ」

未夢「え、ええっ。ね、ねぇ・・・これって2人一緒に乗れないの?」

彷徨「何言ってるんだ。未夢せんせー」

未夢「うー、彷徨のケチ!」

彷徨「まぁ、未夢なら大丈夫だって」

そう言って肩をポンと叩いてくれた。

彷徨なりの気づかいと、勇気と気合を入れるためのやり方なんだろうと思った。

未夢「うん」



案内人「来ましたよ。気をつけて下さいね」

未夢「は、はい」


未夢「うしょっ」

変な掛け声が出た。
上手く乗れた!けど予想以上にリフトは不安定!
高所恐怖症じゃないけど、これは怖い!


彷徨「未夢ー、大丈夫かーっ?」

二つ前の席から声が聞こえた。

一つ前の席は、誰もいない。乗る時、余裕を持って見計らって一回様子を見たためだ。

未夢「彷徨、これ狭ーい!」

彷徨「暴れると危ないぞーっ、じっとしてろー」

未夢「ひっ」

小さいしぐらぐらする!これが普通なのだろうか。
スティックを持っているので両手もふさがっていたので、硬直していた。
足もボードでつま先が重いし、ちょっとでもバランスを崩したら色々落下してしまいそうだ。

登り先に着いた。
しかし、降りるタイミングを失うと、そのまままた引き戻ってしまいそうだ。

降り先には、先に降りた彷徨が待ってくれていた。

彷徨「未夢、手を伸ばせっ」

未夢「う、うんっ」

スティックを持ったまま、無我夢中で不器用に彷徨の方へ手を伸ばした。
彷徨は手首を引っ張り、わたしは彷徨の体に抱きつくようにしてリフトを降りる形となった。

彷徨「大丈夫か?」

未夢「う、うん」

未来「あらあら、お昼からお盛んね」

未夢「わぁっ」

後ろから追いかけて来たらしいママが見てたようだ。
先に行ってたのでは。

優「うう・・・彷徨くん」

うらみとも悲しみとも取れぬ表情のパパが現れた。

未来「でも、あんまり甘やかしちゃうと未夢も体で覚えないから、気をつけてね」

彷徨「は、はい、すみません」




未夢「わぁ〜、辺り銀世界!」

無事リフトを上り、見渡す限り白く光る雪だらけの一面に、感情が漏れた。
興奮せずにはいられない!


未来「さぁーって、2回目滑るわよーっ!」

2回目だったのか。

優「ママ、一緒に滑ろうよ」

なんかママがこける姿を想像したけど、普通に滑っていった。
はやっ・・・。

彷徨「さぁ、俺たちも滑ろうぜ」

未夢「か、彷徨っ、実はわたし、滑ったことがなくて・・・」

彷徨「まぁ、わかってたけどな。冗談もいつまで続くかと思っていたところだ」

わたしも見栄張るの疲れてたところだった。

未夢「うわわわわああ」

坂のところで立っていたら、勝手に滑り出した!

彷徨「未夢っ」

彷徨に後ろから抱きつかれる形で、滑りは止まった。

未夢「ちょっと、どこ触ってんのよっ」

彷徨「お腹だけど・・・っていうか未夢が勝手に滑り出したんじゃないか」

未夢「それはそうだけど・・・。そういえば烈くんたちはどこへ行ったんだろう?」

彷徨「さぁ?」

興奮しながら踊ってそうな気がしたけど、リフトを振り返ると、烈くんが喜びながらすぐさま滑っていった。

烈「いぇ〜い!」

零「・・・」

零くんもその後を追いかけるかのように滑っていった。
烈くん、何気に上手いじゃん。滑れたんだ。

彷徨「未夢、負けてるぞ」
未夢「い、いいのっ。初心者なんだからっ」

彷徨「じゃぁ、滑る前にまず立つ、進むを覚えよう」
彷徨「まるで赤ちゃんのハイハイだな・・・」

未夢「・・・」

彷徨「・・・」

わたしたちはどこか切なげな表情になった。

彷徨「さ、それじゃ始めようか」
未夢「よ、よろしくお願いします」

周りの人のジャマにならないように、端っこに移動することにした。
ちょびちょび進むんだけど、勝手に滑っていきそうになって、ホントに進んでるのかわからないぐらいだった。
50歩100歩とはこのことかってくらい。

彷徨「・・・早く進んでくれよ」
彷徨が後ろから支えててくれるが、怖くて進めない。
未夢「ちょ、ちょっと待ってよ、すぐ覚えられないし・・・うわああ」

また勝手に滑り出した!

彷徨「あーもうっ!足をカタカナのハの字にしてブレーキしろっ!」

え・・・!?ハの字!

わたしは足を開いた。

彷徨「逆だ逆!」

未夢「ええええ」
彷徨「あーもうっ!」

ずざーっ!

わたしは尻もちをつくようにしてこけながら滑った。
それに彷徨の手が加わって、二人してもつれたような形になった。

未夢「いったーいっ!」

しかも、コースの外側は崖。まさに命がけ!

未夢「ひぃぃぃっ」

彷徨「全く、お前危なっかしすぎるぞ・・・こっちの方が冷や冷やする」

彷徨「ただでさえ寒いのに、これ以上寒くさせるなよ」

未夢「だってーっ」

わたし涙目。


彷徨「いいか、まずブレーキを覚えろ。じゃないと始まらない」

未夢「う、うんっ」

彷徨「もしかしたら今日は滑られないかもな・・・」

ため息をつくように彷徨は言った。
今頃みんなは楽しく滑っていることだろう。

それにしても、なぜわたしは崖側?
彷徨はコースの内側に居て外側を向くように、わたしはコースの外側で内側を向くようにして立っている。
必死で足をハの字にしているが、怖くて足ががくがくする。

未夢「か、彷徨っ・・・場所交代してっ」

彷徨「え?体で覚えないと意味がないだろ?追い詰められた方がより本気になるし」

未夢「彷徨のいじわる〜っ!」

本気で泣きそう。足も疲れてきた。

未夢「ああああ」

言っているうちに後ろに滑り出した!
足が疲れて垂直に向いてしまっていたのだろう。ああああ!
スティックで雪を思いっきり刺しても、重心が移動していくので意味がない!

彷徨「未夢っ」

わたしはうつ伏せになるように転んで、なおかつ彷徨が腕を引っ張ってくれたので滑らずに済んだ。
彼はどんなにふざけていても、肝心な時はちゃんと助けてくれる。

未夢「もう、明日になったら色々筋肉痛だよ・・・」

体に変な力が加わっている個所が多そうだ。




でもそんなこんなで数時間続けて、なんとか立っていることはできるようになった。

未夢「はぁっ・・・はぁっ・・・」

肉体的にも精神的にも疲れました。

彷徨「なんとか癖で立っていられるようになったな」

未夢「はぁ・・・はぁ・・・」

先生ぇ、疲れました。

彷徨「じゃぁ、次は登れるようになろうか」

未夢「登る?」

もう山に登ってきているけれど。

彷徨「ちょっと上の方に戻りたいなって時のためとか」

つまり、下とは逆に上がると言うこと。

未夢「無理無理っ!ただでさえ下に滑って行っちゃうのに、登ることなんかできるわけないでしょっ!」

彷徨「できるよ。ほら」

彷徨は坂の雪道を、ボードをつけながら自由に歩き回って見せた。

未夢「おぉ〜っ」

彷徨「最初は足が固定されて不自由に思えるかもしれないけど、慣れると面白いよ」
彷徨「ほら、未夢もやってみろ」

とはいえ、最初はよくわからないので、彷徨に指導してもらうことにした。

わたしが坂の下で、彷徨が坂の上。

未夢「あわわわわ!?」

足をハの字にしているのに勝手に滑っていく!?
しかも後ろ向きに滑っていくから、ヤバい!?

彷徨「未夢っ!?あーもうっ、足を開けっ」

未夢「やってるってばーっうわあーっ」

彷徨「ちっ」

物凄いスピードで滑り始めた気がする。体感で時速40キロメートルくらい?
尻もちついて止まりたいけど、怖くて止まるに止まれない。

彷徨が追い付いてきて、わたしの後ろに回り、体を張って止めてくれた。
背中と背中がこすれあう形となり、冬なのに必至の状況だったからか、熱い。

未夢「あ、ありがとう・・・死ぬかと思った・・・」

彷徨「俺も最初やったけど、未夢が一番最初にハの字にしようとするとき足を開いただろ」

彷徨「あのようにするんだ」

彷徨「いざという時は俺が後ろから支えてやるから、やってみろって」

未夢「う、うん」

とは言われても。

下りの方向に向けてのブレーキはできるようになったから、その逆の要領?

実際やってみると、不思議なことに下っていかず、雪山を登れた。

未夢「登れるっ!?彷徨、わたし登れてるよっ!なんでっ?」

彷徨「ボードと山の角度が垂直になるからなんだ。そうすると、雪の重みで摩擦ができるだろ」

未夢「なるほど」

彷徨「よーし、じゃぁ一通りできるようになったから、一回滑ってみよう」

こけながら滑り、滑りながらこけたり。

頂上で練習していたはずがかなり途中のところまで来てしまっていた。

未夢「よしっ、じゃぁリフトに・・・」

彷徨「せっかく登る術を会得したんだから、一緒に駆けあがっていこうぜ」

未夢「ええーっ」

この滑り落ちてきた距離を、疲れた体と足で登ると言うのですか彷徨さん・・・。

彷徨「大丈夫だよ、大した距離じゃないって」

未夢「あ、あんたはそうでもっ、わたしとしてはツライってっ」

彷徨「大丈夫だって、疲れたら引っ張っていくよ」

未夢「うーっ・・・」

彷徨「それか、ケツを押していく」

未夢「それはイヤ」

彷徨「よし、それじゃー引っ張っていくか」

未夢「リフトを使うと言う選択肢はないんかい・・・」

【画面ブラックアウト】

再び頂上。
登る前はイヤだったが、登り始めてからは、できることが面白くなり、苦にならなかった。

彷徨「教えているとはいえ、なんだかんだすぐ覚えたな・・・やるじゃん」

未夢「えっへん!」

彷徨「じゃぁ、一回滑るか!」

未夢「うん!」



しかし、なんだかんだ失敗して、練習していた位置はかなり平坦路なところだった。
頂上から見下してみると、最初の坂は急だ。

未夢「ね、ねぇ。もっと緩やかに始まるところないの?」

彷徨「何言ってるんだ、これ初級だぞ。これ以上緩やかなのは知らないな・・・」

未夢「えー」

彷徨「ほら、先に行けって。見ててやるから」

未夢「あ、あとでちゃんと来てよ」

彷徨「わかったわかったから」

とりあえず、滑り始めてみる。

徒歩や走り、自転車さえも越すような、バイクや自動車並みのスピードを感じた。
車に乗っているときは、安定した4輪、さらに四方は壁に囲まれ、安全を感じた。
しかし、肌で感じる風とスピード感に、恐怖を感じた。
この状態で人にぶつかったら、ヤバい。

覚えたてのブレーキをかけるも、なかなか急には止まらない。
強制的に止まろう。こけることにした。
背中をつくも、止まらない。
ウェアがめくれて、背中がつめたい。
ああ、地面、雪だったんだ。
そんなことさえ思った。忘れていたように。
いつの間にか上るリフトのコースの真下のところまで来ていた。
見ている人からは、寝ながら滑っているように見えただろう。
完全に止まるために足を動かしたら、足がボードとブーツに固定されたまま、変に転がった。
ずざざざー。

・・・斜面の途中の、比較的平坦なところで止まった。

未夢「いたたたた」

足が固定されているので、関節が動かせない。
腰とひざの方が、変にひねられる形になる。

未夢「ああっ」

ずざっ。
再びこけた。
立ち上がろうとするも、足が勝手に滑り出す。
比較的平坦路とはいえ、斜面には変わりない。

足も、付け根のあたりから全体的に変な筋肉を使っている。
妙にひねってもいるし、疲れた。ボードからブーツを外すことにした。

彷徨「おーい、大丈夫かー」

ずざざざーっ!

彷徨が来てくれた。

彷徨「ん?どうした?ブーツが外れちゃったのか?」

未夢「足の関節が疲れたから自分で外した」
未夢「立とうとすると、勝手に滑り出すし」
未夢「でもまぁ、少し休んだから、行くよ」

ボードにブーツをはめようとする。
ブーツにこびりついた雪のせいか、滑るせいか、なかなかはめられない。

彷徨「あーもー、俺が足支えててやるから」

未夢「うー」

足をぷるぷる震わせながら、滑りそうなボードにブーツをはめた。

彷徨「よし、もういっちょ!」

反対側も、同じ要領ではめる。

彷徨「よしっ。やればできる子!」

未夢「はぁ〜」

妙な安心感が出た。ボードにブーツをはめなおしただけなのに。

彷徨「ブレーキかけっぱなしだったり、こけたりすると起き上がる時に相当体力使うぞ」

未夢「だって、まっすぐはスピード出過ぎてまだ怖い」

彷徨「まぁ最悪今みたいにこければいい」

未夢「するとまた余計な体力を使い・・・」

彷徨「まぁ、慣れだよ、慣れ」

彷徨はそんなにスキー行ってたんだろうか?知り合ってからは記憶にない。

彷徨「俺だって5年ぶりだけど、滑れたんだから」

未夢「5年ぶりなんだ」

彷徨「そうだよ」

彷徨「さぁ、麓(ふもと)までもうちょっとだから、滑ろうぜ」

それからは、比較的安全に滑れた。
やっと戻ってこれた。複雑骨折とか崖から落ちるとか、怪我なくて良かった。



でも、ブレーキを覚えてからは、比較的滑ることに怖さがなくなった。
怖くなったらブレーキかければいいんだから。最悪こければ。
最初は内股で恐る恐る滑っていた。
途中、横を抜いていく他の人を横目にやりながら。
少しずつ要領を覚えてきてからは、スティックを使って方向転換などしてみた。
楽しい。
スキーってこんなに爽快感が得られるものなんだ。
苦労してかいた汗の後の風は、冬なのに涼しく感じた。
気持ちがいいとはこのことかというくらい。

麓まで滑った後、わたしは大急ぎでリフトに乗る。
もう一回滑りたい。
滑れることの楽しさを知ってからは、リフトの怖さもどこへやら。
前の席にいる彷徨に声をかけた。

未夢「彷徨!」

彷徨「んー!?」

未夢「ありがとねー!」

彷徨は無言で片手を上げた。
あんまり振り向くと危ないだろう。



リフトを降りるときは、やっぱりちょっと怖い。
降りるタイミングを間違えたら危険だからだ。
降りるときは、いつも彷徨が手を貸してくれた。

未夢「大丈夫だってば。今日の彷徨、なんだかやさしーね」

彷徨「そんなことないって」

そういいながら彷徨は先に行ってしまったが、わたしは嬉しかった。
頼りになるじゃん。


彷徨「できるようになったとは言っても結構時間かかったな・・・でもこんなもんか」

陽は傾きかけていた。冬至を過ぎたとはいえ、冬の夜は早い。

未夢「実はわたし、もう足痛い・・・」

ブレーキに神経使っていたせいか、太ももの内側が限界だった。


もう一回滑ろうと思ったら、みんな集合していた。

未来「もう日が暮れるし、今日はこれ滑るの最後にしましょう」
優「続きは明日だね」

烈「あ、未夢さん、今までどこ行ってたのっ」

それはこっちのセリフだよ。

烈「私は、零と中級者のコースにいたよ」

零「・・・」

こくっと頷いた。

未夢「へぇ、そんなコースがあるんだ」

烈「慣れた人用でさ、坂がちょっと急で、小さなジャンプ台とかもあるんだ」

未夢「そうなんだ。明日行ってみようかなぁ」

彷徨「やめとけって。まだ慣れ始めじゃあれはツライから、こっちで練習だ」

未夢「彷徨はやったことあるんだ」

彷徨「ちょっとだけな」

未来「彷徨く〜ん。未夢は上手になった?」

ママは彷徨の両肩に手をかけながら尋ねた。

彷徨「ええ、まぁ。一緒に滑ればわかりますよ」

未来「まぁ。さすが彷徨くんね。一日足らずで未夢を一人前にしちゃった」

未夢「ママ、一緒に滑ろうっ」

未来「了解しましたっ」

優「未夢、僕も・・・」

未夢「わかったわかった、パパもね」

烈「ずるいっ、私も一緒に滑りたいっ」

未夢「みんなでホテルに戻りに行こっ」

彷徨「じゃぁ、誰が一番早く下まで辿りつけるか、勝負だっ」

未来「彷徨くん、危ない真似させちゃダメよ。でも、面白そうね」

結局、みんな同時に滑った。6人同時で所せましだった。
でも楽しかった。


未夢「はー楽しかった!」
彷徨「だいぶ滑れるようになったな」
未夢「うん!これも彷徨のおかげ・・・」
彷徨「だいぶ素直になったな」
未夢「はっ!」
烈「なになに?未夢さん素直?」
未夢「べ、べつにっ、わたしならこのくらい余裕よ!」
彷徨「最初はリフトに乗るのも怖がっていたのに・・・」
烈「そうなの?未夢さん」
未夢「うるさーい!」


未来「未夢、温泉に入りに行こっ」
未夢「あ、うんっ、待ってっ」

未来「彷徨くん、男の子たちを引き連れて覗きに来たりしちゃダメよ」
彷徨「行きませんってばっ」
未来「あら、未夢はそんなに魅力ない?」
彷徨「あいや、そういうわけでは・・・」
未来「キャッ。未夢、彷徨くんが、未夢は魅力あるってっ」
未夢「はぁっ?」
彷徨「うわっ!もう、未来さん何言ってるんですかっ!早く行ってきてくださいっ」
未来「はいはい。彷徨くんは照れ屋さんね」
未夢「来たら、ぶちころすっ」
彷徨「行かねーっつーのっ」

烈「じゃぁ、私が行くよ」
彷徨「俺がぶち殺す」
烈「うわっ!そんな本気にしないでよっ。零、助けてっ」
零「・・・」
烈「うわ!他人事だと思ってほからないで!」
零「実際他人事だが・・・」
烈「薄情者ーっ!」



温泉なんて久しぶり!っていうか初めて?
感覚も忘れているほどだった。

未来「未夢、流しっこしようか?」
未夢「やめてよママ、子供じゃないんだし」
未来「親から見たら、子供はいつまで経っても子供よ」
未夢「そりゃそうかもしんないけど・・・娘と子供は違うよ?」
未来「む・・・言うようになったわね未夢」

観念したのか、ママは寂しそうに手を下し、隣の席に座った。
悪かったかなと思いつつも、そのままにした。

未来「未夢も、もう高校生だものね」

その台詞には何となく哀愁を感じたのである。
わたしが離れていくと思っちゃったんだろうか。

未夢「あの、ママっ・・・その・・・ごめんね」

ママ「いやだ、そんなに謝ることないわよ」

そういいつつ寂しそうだった。
わたしもすぐ顔に出ちゃう方だから、やっぱり親子なのかなって実感した。


未来「スキーは滑れるようになった?」
未夢「うん、少しは」
未来「彷徨くんのおかげね・・・」
未夢「・・・うん」

わたしは唇までお湯に浸かりながら、頷いた。
恥ずかしかったのだ。

未来「未夢ももう高校生なのね」

未夢「?」

繰り返し言われるその台詞には、なんとなく違和感があった。

未夢「なぁに、ママ。結構その台詞言うけど、わたしが高校生になるとどうなるの?」

未来「あ、ううん。ごめんね心配させて。未夢が小中学生の頃は寂しい思いさせちゃったなって」

まぁ、実は思いっきり騒がしい生活を送っていたので、寂しいとか思う暇はなかったんですが。
逆に、ママの方こそ、わたしと居られなくて寂しかったんじゃないかと思えてきた。

未来「彷徨くんも、もう信頼できる立派な男の子に育ったし・・・」
未夢「な、なんで彷徨が出てくるのっ」
未来「ママはね、パパと大学時代に出会って、学生結婚して、未夢を身ごもったけど・・・」
未来「もしかしたらね、ママは、未夢にも早くそうなって欲しいなって思うのかもしれないの」
未夢「えっ、どうして・・・」
未来「早く幸せになってほしいってことよ」

ママはわたしの頭をなでた。幼子を想うような感じで。
未来「あと、若いママっていいじゃない?」
未夢「え?」
未来「さらに、この年でおばあちゃんって呼ばれたいじゃないっ?」
未夢「えええっ」
なんか話が変な方向に。本気なのか冗談なのかわからなくなってきた。もしくはその両方?

未来「だから未夢、早く彷徨くんとやっちゃいなさいっ」
ママはわたしの肩に手を置いて言う。
未夢「なんでそういう話になるのっ!結局ママはふざけてるのねっ!」
未来「そんなことないわよぉ〜。若いママもおばあちゃんも立派にいいことなのよ」

未来「ひぃおばあちゃんとかあり得ないでしょ?」

未夢「もう、ママっ!」

ざばっ!

わたしは立って怒った。

未来「怒らない怒らない。ほら、のぼせてるわよ」

のぼせさせたのは誰ですかっ。

未来「ほら、そんなこと言ってるうちに、彷徨くんたちの声が聞こえるわ」

未夢「そんな調子のいいこと言ってっ・・・!え?」

烈「・・・男湯はこっちかな?」

彷徨「わ、馬鹿っ、そっちは女湯だってっ」

ガラっ!


彷徨「あ」

未夢「い!?」

未来「う!」

零「・・・え」

烈「おおっ。何も見えないぞ?」

構図は、わたしがちょうどママに対して怒って、入口の方向を向いて立っているところ。
肌を隠していたタオルが湯の中に。

烈くんは零くんに両手で目隠しされてる。
零くんは烈くんの背中に隠れて見えない。
ママは湯に浸かって扉には背を向けている状態。

扉から冷たい空気が流れ、湯気が晴れてきた。

彷徨は烈くんをあわてて止めようとしたのか、こけそうになりながら状態を保ってこちらを見ている。

未来「あらあら、彷徨くんお早う。大胆なのね」

彷徨「あ、いや、その・・・」

烈「なになにっ、どうなってるのっ?」

零「お前はしゃべるな」

未夢「く・・・!」

未夢「くぁなた、ぶちころすーーーーーーーーーーーっっっっっっっ!!!!!!!」





優「夕食は、バイキングだよ〜。みんな好きなものを取ってきてね」

烈「私、バイキング大好き〜!」

零「わかった。わかったから、落ち着いてくれ。頼むから」

彷徨と目があった。

未夢「ふんっ」

彷徨「おいおい待てよ、ここじゃどうしたって一緒だろ。それにさっきのは不可抗力だって」

未夢「それでもあんた、わたしの見たっ」

彷徨「見たって、・・・」

未夢「・・・」

彷徨「・・・成長してた」

未夢「なっ・・・!」

未来「はいはい、さっさと取りたいもの取りに行きましょうね〜」




夕食を終えた。豪華なディナーだったと思う。
プリンも食せて、さっきのいらいらはどこへやら。
満足のわたしなのだった。

彷徨「Kiitos ruuasta」

未来「はい、お粗末さま」

未夢「え?」

彷徨「知らないのか?フィンランド語で、キートス ルーアスタ。日本語ではご馳走様って意味だよ」

未夢「し、知るわけないでしょっ。てゆうかなんでフィンランド語なのよっ」

未来「はいはい、ここでもヒステリーしない」

未夢「とか言いながら、なんでママは嬉しそうなのっ」

彷徨「とりあえず、落ちつけ」

未夢「あんたのせいでしょっ」

彷徨「俺、悪くねぇじゃん・・・」







部屋に戻ったら、机が片付けられ、布団が敷かれていた。
ママとパパは窓際の席に座り、景色を楽しんでいる。
烈くんと零くんは、布団に座ってテレビを見ながら話してる。
烈くんが零くんに一方的にだけど。
彷徨は、小説を読んでいた。

未夢「彷徨は、こんなとこでまで小説なのっ?」

彷徨「なんだよ。いいだろ。俺の勝手だ」

未来「あっ、そうだ未夢。ここには展望台があるのよ。彷徨くんと見てきたら?」

未夢「へぇ〜、そんなのあるんだ」

彷徨「ありがとうございます。気晴らしに行ってきます。行こうぜ未夢」

未夢「だ、誰があんたとなんかっ」

彷徨「わかったから、行くぞ」

未夢「って、行かないって言ってるでしょっ」

言ってないけど。

烈「どっかお出かけ?お気をつけて行ってらっしゃーい」

半ば強制的に彷徨に連れられ、部屋を出る時ドアの向こうでは烈くんが気楽に手を振っていた。


未夢「うわっ、めっちゃ寒っ!」

真冬の夜中であることを忘れていた。凍てつく寒さが身を襲う。
そんなに高くない山とは言え、標高何百メートルもある山だ。
しかも、そこに建っているホテルの屋上。寒くないわけがない。

未夢「寒いって言うか、冷た!」

触角があるわけでもないけど、触覚で肌に触れる空気を直に感じた。

ばさっ。

未夢「!」

頭に何か乗ったかと思ったら、チョッキだった。
彷徨が渡してくれたのだ。

彷徨「何の装備もなしに外に出るなんて、凍りつきたいのか、お前は」
未夢「何よっ、彷徨が無理やり連れてったくせに」
彷徨「悪かったって。ほら、これ着ろ」

彷徨が渡してくれたチョッキは、暖かかった。
チョッキが暖かいだけではない気がした。

彷徨「さっきは悪かったよ、ごめん」

あの彷徨がいきなり謝ってきた。
わたしから見て、プライドの塊のような、あの彷徨が、だ。

未夢「・・・わたしも、ごめん」

わかっていたのだ。何となく自棄になっていた。

彷徨「なんか、中学時代の俺たちに戻っていたような気がするな」

未夢「あはは。そうだね」
未夢「それより彷徨見て!星がきれーっ!都会で見るよりこんなに綺麗なんだね!」
彷徨「ああ。肉眼でもよく見えるな」

夏の星空も綺麗だけど、真冬の星空も綺麗だ。
田舎で見る星は、それ以上に綺麗。

彷徨「今日一日で、お前だいぶ滑れるようになったよな」

未夢「そ、そうなの?」

彷徨「ああ、大したもんだ」

未夢「じゃぁ、このままオリンピックにも出れるかな」

彷徨「・・・がんばってくれ」

未夢「冗談に決まってるでしょ。いつものように突っ込みなさいよ」

彷徨「あっはは」

寒空の下、他愛ない話をした。

彷徨「星の光って、何光年も前の光なんだよな」

未夢「光が一年かかって進む距離のことだっけ?すごいよね」

彷徨「最近物理で習ったぞ。光の速度、覚えてるか?」

未夢「えーと、秒速30万メートルだっけ」

彷徨「よく覚えてるじゃん」

未夢「馬鹿にしてるでしょ」

彷徨「してないって」


未夢「何年も前の光ってことは、今はどうなってるのかな」

彷徨「さぁ。消えちゃってるかもしれないし、もっと光ってるかもしれない」

未夢「じゃぁ、120億光年向こうの光は?」

彷徨「さぁな・・・。元気に、輝いてるかもな」

未夢「・・・そうだね・・・」

彷徨「・・・冷えると体に悪いから、そろそろ戻ろう」



未夢「あ、ごめん、わたしお手洗いに行ってくるよ。彷徨は先に戻ってて」
彷徨「お花を摘みに、ってか」
未夢「はいはい、いいから、早く戻りなさいっ」
彷徨「へーい」



お手洗いから出てきたところで、ママの声がした。
パパとともに、ホールまで散歩しにきたのだろうか。

未来「未夢と彷徨くんは順調のようね」
優「ママ、変なこと言わないでよ」
未来「パパはまだまだ親ばかね。女は成長が早いのよ。子離れしなくちゃ」
未来「瞳ちゃんにも、今の未夢たちを見せたかったわ」
優「君こそ、未夢を生んだのにほとんど未夢に構ってあげられずだったじゃないか」
未来「そうね・・・未夢には寂しい思いをさせたけど、これから幸せになって行って欲しいわ」
優「じゃぁ、未夢が彷徨くんについていった後のママは、僕が幸せにするよ」
未来「ありがとう。あなたは優しいのね。愛してるわ、パパ・・・」



未夢「ただいまー」

烈「おーおかえり。西遠寺くんと一緒に出てったのに何で別々に帰って来たの?ケンカ?」

烈くんはまだ寝てなかった。
零くんは烈くんの相手に疲れたのか、掛け布団の上に倒れたように寝ていた。

未夢「お、お花を摘みに、よ」

烈「お花?こんな時間に何故???」

彷徨「お手洗いってことだよ」

烈「あ、それは失礼しました。オホホ・・・」

烈くんは気まずそうに手を口に当てながら言っていた。





優「それじゃぁ電気を消すよ」

夜も更けた。温泉に入り、ご飯を食べて休憩した後、忘れていた運動の疲れが押し寄せてきた気がした。
明日は筋肉痛になってそうだ。眠い。もう寝よう。

未来「みんな、おやすみなさい」

烈「おやすみなさい〜」

零くんはさっきの状態から行儀よい状態になって寝ていた。烈くんが向きを変えさせて、布団をかけていた。
互いにペットを想うような感じと言うか、幼い兄弟みたいだ。

彷徨「襲っていいか?」

優「!」

パパが、電気が走ったかのように体を跳ねさせていた。

未来「キャッ。彷徨くん、大胆っ」

烈「マジですかマジですか」

彷徨「冗談に決まってるでしょ」

本人のわたしが反応するより先に、周りが反応していた。

未来「残念」

未夢「なんでよママっ」

彷徨「おやすみなさい・・・」

寝静まる前の騒動を起こした張本人は、ちゃっかり眠りに入ろうとしていた。

未夢「全く、油断も隙もないんだから・・・」

未来「好きだなんて、未夢も大胆っ」

烈「のろけだっ」

未夢「だー、もう・・・」

無視して眠ることにした。

未夢「・・・」

烈「・・・」

彷徨「・・・」

未来「・・・」

・・・。

未夢「ママっ、橙色の小さい電気、つけといてっ」

未来「・・・はいはい」

ぱちっぱちっぱちっ。

彷徨「なんだよ。怖いのか・・・」

未夢「暗いの嫌なのっ」

彷徨「未夢はまだまだ子供だな・・・てゆうか自分でつけろよ、親を召使いみたいに」

未来「いいのよ彷徨くん、私がお世話焼きなんだから」

烈「ししししっ。じゃぁまくら投げしようよっ」

じゃぁって何。意味不明。

零「すー・・・すー・・・」

零くんは何事もないように寝息をかいていた。平和な子だ。

しばらく周りは何か話していたようだけど、わたしは心地よい疲れと眠気で、寝入ってしまっていた。